【意見を表示したものの全文】
電線共同溝における無電柱化の効果について
(平成26年10月28日付け 国土交通大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴省は、電線共同溝の整備等に関する特別措置法(平成7年法律第39号。以下「電共法」という。)に基づき、安全かつ円滑な交通の確保と景観の整備を図ることを目的として、電線共同溝を整備し地上にある電線及び電柱を撤去して電線を電線共同溝内に入溝させる無電柱化の推進を図っている。無電柱化の効果は、上記の交通及び景観面のほかに、災害時に電柱が倒れることなどの危険性がなくなり消防及び救急活動における空間を確保することが可能になること、情報通信ネットワークの信頼性が向上することなども挙げられている。
電線共同溝整備事業は、電線の設置及び管理を行う2者以上の電気事業者、電気通信事業者等(以下、これらを合わせて「電線管理者」という。)の電線を入溝する管路等を道路の地下に整備するものであり、国が管理する道路については国道事務所等の道路管理者が事業主体となって直轄事業として実施し、その他の道路については都道府県等の道路管理者が事業主体となって交付金等事業として実施しており、これらに要する事業費も多額に上っている。
道路管理者は、電共法に基づき、電線共同溝の整備完了後の占用の許可を申請した電線管理者(以下「占用予定者」という。)の意見を聴いて、占用予定者が占用する電線共同溝の管路の敷設区間及び敷設位置、占用予定者が管路に入溝する将来の需要分を含む電線の数量や入溝予定時期等を明示した敷設計画の概要、占用予定者の建設負担金、工事完了予定時期等の各事項を定めた電線共同溝整備計画(以下「整備計画」という。)を策定することができることとなっている。そして、道路管理者は、整備計画を策定した場合に、整備計画に基づき電線共同溝の整備を行わなければならないこととなっている。
また、道路管理者は、電線共同溝の整備に当たり、占用予定者から提出された電線の必要条数等を記載した配線計画等を基に電線共同溝の管路等の設計を行っており、地元関係者の事業に対する理解を得ながら、沿道の民地へ引き込む電線を保護するための管路の敷設位置等の諸条件を整理することにしている(図参照)。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、電線共同溝の整備により無電柱化は進捗しているか、無電柱化が完了している箇所における電線共同溝への電線の入溝状況は適切なものとなっているかなどに着眼して、平成16年度から25年度までの間に、10地方整備局等(注1)管内の20国道事務所等(注2)、19都県(注3)及び管内68市区町村、計107事業主体が電線共同溝整備事業を実施して整備が完了した計807か所(直轄事業119か所、交付金等事業688か所)、延長計434.1㎞(直轄事業128.5㎞、交付金等事業305.6㎞)、事業費計1636億4199万余円(直轄事業633億4857万余円、交付金等事業1002億9341万余円(交付金等交付額531億4403万余円))を対象として、整備計画書、無電柱化の進捗状況及び電線の入溝状況に関する関係書類並びに現地の状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
電線共同溝の整備が完了した807か所における無電柱化の進捗状況についてみたところ、表1のとおり、25年度末現在で、571か所の延長計268.9㎞において地上の電線及び電柱が撤去されていて無電柱化が完了しているものの、270か所の延長計165.1㎞において無電柱化が完了していなかった。無電柱化が完了していない箇所のうち、電線共同溝の整備完了後5年以上経過した箇所は、54か所の延長計29.9㎞、事業費計99億5264万余円(直轄事業64億8891万余円、交付金等事業34億6372万余円(交付金等交付額20億9698万余円))となっており、電線共同溝を整備した効果が長期間発現していない状況となっていた。
事業 | 電線共同溝の整備が完了した箇所 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
無電柱化が完了している箇所 | 無電柱化が完了していない箇所 | |||||||||
整備完了後5年以上経過した箇所 | ||||||||||
緊急輸送道路 | ||||||||||
箇所数 | 延長 | 箇所数 | 延長 | 箇所数 | 延長 | 箇所数 | 延長 | 箇所数 | 延長 | |
箇所 | km | 箇所 | km | 箇所 | km | 箇所 | km | 箇所 | km | |
直轄事業計 | 119 | 128.5 | 79 | 71.3 | 50 | 57.1 | 20 | 19.1 | 20 | 19.1 |
交付金等事業計 | 688 | 305.6 | 492 | 197.5 | 220 | 108.0 | 34 | 10.8 | 27 | 9.5 |
合計 | 807 | 434.1 | 571 | 268.9 | 270 | 165.1 | 54 | 29.9 | 47 | 28.7 |
また、上記54か所のうち、47か所の延長計28.7㎞については、都道府県地域防災計画等において緊急輸送道路に位置付けられている極めて重要な道路であり、地震時等に撤去されていない電柱が倒壊した場合には、緊急輸送道路としての機能が十分に発揮できなくなるおそれがあり、無電柱化の目的の一つである都市防災対策等の点からも早期に無電柱化を図る必要があると認められる。
前記の事態について事例を示すと次のとおりである。
<事例>
京都国道事務所は、緊急輸送道路に位置付けられている国道1号の西九条その2整備箇所において、平成17年度に電線共同溝整備事業の整備計画を策定して、翌年度に電線共同溝の延長704.0mの整備を完了していた。
しかし、整備計画の策定の際に、占用予定者に電柱の撤去予定時期を提示させるなどして、その時期を明確にしていなかったことなどから、占用予定者において当該箇所での信号機及び関連する電線の移設調整に時間を要しているなどしていて、25年度末現在、全ての区間において無電柱化が完了していない状況となっていた。
整備計画における整備箇所の全ての区間の無電柱化が完了した537か所における電線の入溝状況についてみたところ、表2のとおり、25年度末現在で、占用予定の管路延べ延長計3,509.8㎞のうち、計1,884.9㎞については地上の電線及び電柱が全て撤去されて入溝されるなどしているものの、計1,624.8㎞については将来の需要分として入溝されていない状態となっており、その多くは具体的な入溝時期が定まっていなかった。
そして、占用予定の管路延べ延長に対する電線が入溝されていない管路延べ延長の割合を整備箇所別にみると、当該割合が50%以上となっている箇所は239か所、事業費計455億8074万余円(直轄事業248億0266万余円、交付金等事業207億7808万余円(交付金等交付額116億2380万余円))となっていた。
事業 | 整備計画における整備箇所の全ての区間の無電柱化が完了した箇所 | 占用予定の管路延べ延長 | 入溝されている管路延べ延長 | 入溝されていない管路延べ延長 | 割合 (C/A) |
||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
割合別箇所数 | |||||||||||
30%未満 | 30%以上 50%未満 |
50%以上の箇所数 | |||||||||
A | B | C | D | 50%以上 70%未満 |
70%以上 100%未満 |
計 | |||||
箇所 | km | km | km | % | 箇所 | 箇所 | 箇所 | 箇所 | 箇所 | 箇所 | |
直轄事業計 | 69 | 866.1 | 364.8 | 501.3 | 57.9 | 5 | 20 | 44 | 30 | 14 | 69 |
交付金等事業計 | 468 | 2,643.6 | 1,520.0 | 1,123.5 | 42.5 | 140 | 133 | 195 | 128 | 67 | 468 |
合計 | 537 | 3,509.8 | 1,884.9 | 1,624.8 | 46.3 | 145 | 153 | 239 | 158 | 81 | 537 |
(改善を必要とする事態)
前記のとおり、電線共同溝の整備が完了してから長期間経過しているのに無電柱化が完了していなかったり、占用予定の管路延べ延長に対する電線が入溝されていない管路延べ延長の割合が高かったりしていて電線共同溝を整備した効果が発現していない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、事業主体において次のア及びイについての認識が欠けていること、貴省においてア及びイについての事業主体に対しての周知徹底や円滑な実施を図るための具体的な方策の検討が十分でないことなどによると認められる。
電共法の施行から20年が経過しようとしており、この間、電線共同溝整備事業により多くの電線共同溝の整備が行われてきたところであり、今後も引き続き電線共同溝の整備が推進されることが見込まれている。そして、特に緊急輸送道路については、都市防災対策等の点からも早期に無電柱化を図る必要がある。
ついては、貴省において、今後の電線共同溝整備事業が適切に実施され、無電柱化の効果を早期に発現させるよう、次のとおり意見を表示する。