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  • 平成25年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(9)調節池整備事業等により整備された調節池等において、管理マニュアルを整備することなどにより適切な維持管理を行うよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
社会資本整備事業特別会計(治水勘定)(平成19年度以前は、治水特別会計)
(項)河川整備事業費 等
部局等
15都道府県
補助の根拠
河川法(昭和39年法律第167号)、予算補助
補助事業者
(事業主体)
都、道、府1、県9、市20、区4、町2、計38事業主体
補助事業
調節池整備事業等
補助事業の概要
総合的な治水対策の一環として、洪水を一時的に貯める調節池や、校庭、公園等を活用して雨水をその敷地内に一時的に貯留または浸透させる流域貯留浸透施設を整備する事業
検査の対象とした調節池等の施設数及び事業費
501施設 6069億1633万余円(平成5年度~24年度)
上記に対する国庫補助金等交付額
2501億9985万余円
適切な維持管理が実施されていない調節池等に係る施設数及び事業費
224施設 3841億7344万円(平成5年度~24年度)
上記に対する国庫補助金等交付額
1785億1444万円(背景金額)

【改善の処置を要求したものの全文】

調節池等の維持管理について

(平成26年10月21日付け 国土交通大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 調節池等の概要

(1)調節池等の概要

貴省は、河川法(昭和39年法律第167号)等に基づき、河川について、洪水等による災害の発生が防止されるよう総合的に維持管理することにより、公共の安全を保持することなどを目的として河川整備を行っている。

そして、都市化の進展と流域の開発に伴う舗装、排水施設等の整備により、雨水が土壌に浸透せず、流域から河川への流出量が増大して、著しく治水安全度が低下している都市部の河川については、治水施設の整備を積極的に進めるとともに、流域の持つ保水及び遊水機能を適正に確保するなどの総合的な治水対策を行っている。

河川管理者である都道府県及び政令市並びに流域の市区町村(以下「都道府県等」という。)は、上記の総合的な治水対策の一環として、保水及び遊水機能の確保のために洪水等の量から貯留する必要のある計画貯留量を定めて、その計画貯留量が確保されるように、調節池や流域貯留浸透施設(以下、これらの施設を合わせて「調節池等」という。)を整備している。

調節池については、集中豪雨等の出水による河川の流下能力を超える洪水を、川面より低い越流堤部分から流入させて築堤等により築造された池に一時的に貯留する施設であり、その点検等の維持管理は整備した都道府県等により実施されている。

また、流域貯留浸透施設については、学校のグラウンドや公園の窪地等の低地を活用して、周囲堤を設置することなどにより、学校や公園の敷地に降る雨水をその低地内に一時的に貯留又は浸透させる施設であり、一般的にその点検等の維持管理は、整備した都道府県等と学校等の管理者(以下「公共施設等の管理者」という。)との間で管理協定を結ぶなどして、公共施設等の管理者により実施されている。
貴省は、当初は都市部において、調節池等の整備を、調節池整備事業や流域貯留浸透事業(以下、これらの事業を合わせて「調節池整備事業等」という。)として国庫補助事業等により実施してきたが、このうち流域貯留浸透事業については、地球温暖化に伴う水災害リスクが増大していることを踏まえて、平成21年度以降、都市部から全国に制度を拡充してきている。

(2)調節池等の維持管理

貴省は、都道府県等が国庫補助事業で整備した調節池等について、維持管理が不適切であったために計画貯留量が確保されていないなどの事態が見受けられたことから、20年9月に、北海道開発局、地方整備局及び沖縄総合事務局(以下「地方整備局等」という。)に対して、調節池等について、都道府県等が管理マニュアルを整備し、これを各施設に適用して、適切な維持管理を行うよう「調節池、流域貯留浸透施設の適切な管理について」(平成20年国河域第9号。以下「20年通達」という。)を発している。そして、貴省は、都道府県等が管理マニュアルを整備する際の参考として、〔1〕 調節池等の堤防高等の諸元を記載した施設台帳を整備すること、〔2〕 出水期前に調節池等の破損、陥没や土砂の堆積等の状況を点検すること、〔3〕 点検結果を記録した点検表を作成することなどが記載されている標準的な管理マニュアル(案)を作成し、21年1月に、地方整備局等に対して、都道府県等に周知するようこれを提示している。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、調節池等について、20年通達が発せられて以降、都道府県等において管理マニュアルが整備されているか、管理マニュアルに基づき施設台帳を整備したり、定期的な点検に基づき点検表を作成したりするなど適切な維持管理が実施されているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、14都道府県(注1)及び40市区町(注2)が調節池整備事業等により5年度から24年度までの間に整備を完了して、維持管理を行っている調節池94施設、事業費計5471億2046万余円(国庫補助金等交付額計2415億3529万余円)、流域貯留浸透施設407施設、事業費計597億9586万余円(国庫補助金等交付額計86億6456万余円)、計501施設、事業費計6069億1633万余円(国庫補助金等交付額計2501億9985万余円)を対象として、管理マニュアル、施設台帳、管理協定書等の関係書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注1)
14都道府県  東京都、北海道、大阪府、青森、栃木、神奈川、新潟、長野、岐阜、静岡、広島、高知、福岡、熊本各県
(注2)
40市区町  札幌、青森、弘前、三鷹、東大和、西東京、横浜、川崎、相模原、金沢、上田、岐阜、大垣、各務原、静岡、三島、大阪、堺、豊中、八尾、寝屋川、大東、柏原、高石、東大阪、四條畷、福山、北九州、熊本各市、目黒、世田谷、渋谷、中野、北、足立、江戸川各区、瑞穂、岐南、笠松、熊取各町

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)調節池等に係る管理マニュアルを整備していないため、同マニュアルに基づく適切な維持管理が行われていないなどの事態

前記のとおり、20年通達等によれば、都道府県等は調節池等に係る管理マニュアルを整備することとされているが、検査した14都道府県及び40市区町のうち、12都道府県及び14市区(注3)は同マニュアルを整備しておらず、これらが維持管理を行っている調節池等129施設(事業費計3742億0493万余円、国庫補助金等交付額計1749億6078万余円)については、同マニュアルに基づく点検表がないため、施設の破損、陥没等の変状や損傷に係る点検の有無が不明となっているなどしていた。

そして、これらの調節池等の中には、施設台帳も整備されていないことなどから、施設整備後に施設がどのように変状したのかなどの状況が不明となっていた事態も見受けられた。

<事例1>

高知県は、一級河川仁淀川水系日下川の河道への流量負担を軽減させることを目的として、調節池として岡花調整池(計画貯留量52万m3)を事業費9億0710万円(国庫補助金額4億5355万円)で整備している。

しかし、同県は、岡花調整池に係る管理マニュアルを整備しておらず、施設台帳も整備していなかった。このため、貴省と同県が作成した「仁淀川水系河川整備計画」(平成25年12月)によれば、同調整池は平成10年度に完成したとされているが、同県は、整備後の堤防高等を把握していなかった。

そこで、現地において堤防高等を確認したところ、26年1月の実地検査時点における堤防高は計画堤防高よりも最大で1.59m低くなっており、約39万m3しか貯留できない状況となっていたが、堤防高がいつからどのように変状したのかなどについては不明となっていた。

また、2府県及び13市町(注4)は、管理マニュアルを整備しているものの、維持管理を行っている調節池等95施設(事業費計99億6850万余円、国庫補助金等交付額計35億5366万余円)について、同マニュアルに基づく点検表を作成しておらず、同マニュアルに基づく点検の有無が不明となるなどしていた。

(注3)
12都道府県及び14市区  東京都、北海道、大阪府、青森、栃木、神奈川、新潟、長野、静岡、高知、福岡、熊本各県、青森、弘前、西東京、横浜、川崎、相模原、静岡、三島、堺、熊本各市、世田谷、中野、北、足立各区
(注4)
2府県及び13市町  大阪府、青森県、札幌、横浜、金沢、岐阜、大阪、八尾、寝屋川、大東、東大阪、四条畷、福山各市、笠松、熊取両町

(2)流域貯留浸透施設を整備した都道府県等と協議を行うことなく公共施設を増築するなど適切な維持管理が行われていない事態

都道府県等が、校庭等を利用して流域貯留浸透施設を整備した場合には、前記のとおり、一般的に都道府県等と公共施設等の管理者との間で管理協定を結ぶなどして、公共施設等の管理者が、流域貯留浸透施設の点検、清掃等の日常的な維持管理を行っている。そして、管理協定によれば、公共施設等の管理者は、流域貯留浸透施設に変更を加えるときには、流域貯留浸透施設を整備した都道府県等とあらかじめ協議を行うこととされている。

しかし、2市1町(注5)が維持管理を行っている流域貯留浸透施設4施設(事業費計1億2410万余円、国庫補助金交付額計4136万余円)については、公共施設等の管理者が、都道府県等と協議を行わないまま敷地内に校舎等を増築するなどしていて、増築した校舎等に係る雨水を貯留させずにそのまま流出させることにしたため、増築した校舎等に係る雨水が貯留できないなどの状況となっていた。

上記の事態について事例を示すと次のとおりである。

<事例2>

札幌市は、平成6年度に、伏籠川流域貯留浸透事業として、元町中学校において、テニスコートや体育館を含む学校敷地内の雨水を貯留して、河川への雨水の流出を抑制する流域貯留浸透施設(計画貯留量1,165m3)を事業費3424万余円(国庫補助金額1141万余円)で整備している。そして、同市は元町中学校の管理者である同市教育委員会との管理協定により、同市教育委員会が流域貯留浸透施設に変更を加えるときは、あらかじめ協議することとしていた。

しかし、同市教育委員会は、流域貯留浸透施設を整備した同市と協議することなく、25年度にテニスコートを取り壊して、当該場所に格技場を設置していて、格技場に係る雨水を直接下水道に放流していたため、格技場部分の雨水を貯留できず、25.5m3を確保できない状況となっていた。

(注5)
2市1町  札幌、川崎両市、笠松町

したがって、(1)及び(2)について、事態の重複する府県及び市を除いた12都道府県及び26市区町が維持管理を行っている調節池等224施設(事業費計3841億7344万余円、国庫補助金等交付額計1785億1444万余円)については、適切な維持管理が行われていない状況となっていた。

(改善を必要とする事態)

都道府県等が調節池等に係る管理マニュアルを整備していないため、同マニュアルに基づく適切な維持管理が行われていないなどの事態、また、公共施設等の管理者が、流域貯留浸透施設を整備した都道府県等と協議を行うことなく公共施設等を増築するなど適切な維持管理が行われていない事態はいずれも適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、都道府県等が、調節池等に係る管理マニュアルを整備し、これに基づく点検等の維持管理を実施することの重要性を十分理解していないことや、公共施設等の管理者が流域貯留浸透施設の設置目的や事前協議の必要性を十分理解していないことなどによると認められる。

3 本院が要求する改善の処置

近年、突発的に起こる局地的な豪雨の頻発により全国的に浸水被害が多発していて、従来よりも水災害リスクが増大していることなどから、流域での治水安全度を確保して国民の生命、財産等を守るために、調節池整備事業等は、今後とも多数実施されることが見込まれる。

ついては、貴省において、総合的な治水対策の一環である調節池整備事業等により整備された調節池等の維持管理が適切に行われるよう、次のとおり改善の処置を要求する。

  • ア 都道府県等に対して、調節池等に係る管理マニュアルを整備して、これに基づく適切な維持管理を行うことを周知徹底するとともに、地方整備局等において、都道府県等の維持管理状況を把握すること
  • イ 都道府県等に対して、公共施設等の管理者が流域貯留浸透施設となっている公共施設等の増築等を行う場合には、事前に十分協議を行うなど適切な維持管理を行うことを周知徹底すること