【改善の処置を要求したものの全文】
ダムの維持管理について
(平成26年10月21日付け 国土交通大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、河川法(昭和39年法律第167号)等に基づき、洪水等による災害の発生の防止等を図り河川を総合的に管理することにより、公共の安全を保持することなどのために、河川の水量を一時的に貯留して調節(以下「洪水調節」という。)を行うダムについて、建設等のほか、日常の維持、修繕その他の管理(以下「維持管理」という。)を行っている。また、貴省はダムの建設等を行う道府県に対して補助金又は交付金を交付しており、道府県は自ら建設するなどしたダムの維持管理等を行っている。
河川法等に基づいて定められた操作規則等によれば、ダムの維持管理を行う者(以下「ダム管理者」という。)は、ダムの堤体及び基礎地盤の安全性等を評価する上で必要な漏水量、変形、揚圧力等(以下「漏水量等」という。)の計測及びダムの堤体、貯水池、ダムを操作するために必要な機械等に係る設備(以下「設備」という。)等を良好な状態に保持するために必要な点検を定期的に行うこととされている。そして、点検の結果、不具合等が生じていた場合は、修繕等を行うことになる。
建設省河川砂防技術基準(案)同解説設計編(社団法人日本河川協会編)によれば、ダムの建設に当たっては、あらかじめ計画する年数(一般的には100年。以下「計画年数」という。)の間に貯水池に流入して堆積すると推定される土砂の量(以下「計画堆砂量」という。)を定めることとされている。そして、ダムの計画時に、貯水池の底部に計画堆砂量の土砂を堆積させるための容量(以下「堆砂容量」という。)、必要に応じて設ける水道等の用に供するための容量(以下「利水容量」という。)及び洪水調節を行うための容量(以下「洪水調節容量」といい、利水容量と合わせて「有効貯水容量」という。)が設定され、また、ダム管理者は、貯水量を貯水位により管理しており、平常時最高貯水位を超えた水量を一時的に貯留してゲートから放流することにより洪水調節を行っている(参考図参照)。
貯水池等の概念図
また、国土交通省河川砂防技術基準同解説計画編(社団法人日本河川協会編)によれば、ダムの所期の目的を損なうことなく、ダムを有効に活用するためには、貯水池上流部における貯砂ダムの設置、貯水池における堆砂の除去等といった各種対策の組合せにより、堆砂の対策に関する計画を策定する必要があるとされている。
地震発生後はダムに異状がないか把握する必要があることから、貴省は、「地震発生後のダム臨時点検結果の報告について」(平成24年国水流第4号国土交通省水管理・国土保全局河川環境課長通達)を地方整備局、都道府県等に発して、ダムの基礎地盤又は堤体下部に設置した地震計により観測される地震動の最大加速度が一定規模以上である地震(以下「ダム地点における地震」という。)等が発生したときは速やかに臨時点検を行うことなどを求めている。
ダムは、ゲート操作により洪水調節を行う場合に下流域における影響が大きいことから、その有する設備が常に機能することが要求される施設であるため、常用電源が停電となった場合に備えて、予備発電設備を設置するなどして必要な電源を確保している。そして、予備発電設備の稼動に必要な燃料の貯油量については、「ダム・堰施設技術基準(案)(マニュアル編)」(社団法人ダム・堰施設技術協会編。以下「マニュアル」という。)によれば、燃料補給の難易度等を考慮して決定する必要があるが、原則として、予備発電設備を72時間連続運転することが可能とする量とされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、ダムの維持管理に必要な計測、点検等は適切に行われているか、貯水池における堆砂への対策は適切に行われているか、ダムが緊急時に機能するよう体制が整備されているかなどに着眼して、昭和15年度から平成24年度までに建設された8地方整備局等(注1)管内の15事務所等(注2)が管理する29ダム(建設費計1兆2402億余円)及び21道府県(注3)が管理する182ダム(建設費計2兆6661億余円、国庫補助金等計1兆2487億余円)、計211ダムを対象として、上記の地方整備局等において、26年3月31日現在の貯水池における堆砂等の状況等に関する書類や現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
ダム管理者は、前記のとおり、操作規則等に基づき、漏水量等の計測や設備等の点検を行うこととなっている。しかし、9県が管理する25ダム(建設費計1914億余円、国庫補助金等計1017億余円)については、計測値に大きな変化が認められないことなどを理由として、一部の項目について計測が3年以上にわたり行われていなかった。また、3県が管理する5ダム(建設費計255億余円、国庫補助金等計125億余円)については、点検の結果、地震計等が故障していて使用できない事態が判明したにもかかわらず、修繕等が3年以上にわたり行われていなかった(表参照)。
貯水池に計画堆砂量を上回って土砂が堆積すると、有効貯水容量のうち実際に利用できる貯水容量が減少することに加えて、堆砂の状況によっては、貯水池の上流部に土砂が堆積することにより貯水池上流の河川等に影響を及ぼすおそれがある。そこで、貯水池における堆砂の状況についてみたところ、9府県が管理する20ダム(建設費計939億余円、国庫補助金等計429億余円)において、計画年数が経過していないにもかかわらず、堆砂量が既に計画堆砂量を上回っていた(表参照)。そして、これらのダムのうち、計画堆砂量に対する堆砂量の割合が200%以上300%未満となっているダムが4ダム、300%以上となっているダムが2ダムとなっていた。
貯水池に流入する土砂は、計画堆砂量に達していなくても、洪水調節容量内に土砂が堆積した場合には、洪水調節容量のうち実際に利用できる貯水容量が減少して洪水時に本来貯留できる水量が貯留できなくなるため、堆砂の状況によっては、ダム下流の河川等に影響を及ぼすおそれがある。そこで、洪水調節容量内における堆砂の状況についてみたところ、9事務所等が管理する14ダム(建設費計6047億余円)、16道県が管理する92ダム(建設費計1兆2598億余円、国庫補助金等計5557億余円)において、洪水調節容量内に土砂が堆積していた(表参照)。
また、3事務所等が管理する7ダム(建設費計2632億余円)、11道県が管理する48ダム(建設費計8372億余円、国庫補助金等計4364億余円)については、洪水調節容量内における堆砂量が算出されていないなどのため、洪水調節容量内における堆砂の状況が不明となっていた(表参照)。
ダム管理者は、前記の操作規則等に基づき、貯水池への流入量に応じて放流量を決定するなどしてダムの操作を行うこととなっている。そして、ダム管理者は、ダム管理用制御処理設備(注4)(以下「制御処理設備」という。)に貯水位に対応する貯水量の情報を設定しており、これに基づき、貯水池への流入量がダムからの放流量及び貯水位の時間的変化の数値を基に算出される。このため、制御処理設備に設定されている貯水位に対応する貯水量の情報(以下「設定貯水量」という。)が建設時等のままになっていると、堆砂の状況によっては、貯水位の変化が建設時等よりも速くなるために正確な流入量が算出されないことになる。この場合、制御処理設備では流入量が実際より多く算出されて、本来は放流を開始する流入量には至っていないのに放流を開始することになるなど、ダムの操作に支障が生ずるおそれがある。そこで、設定貯水量についてみたところ、11事務所等が管理する22ダム(建設費計1兆0174億余円)、20道府県が管理する130ダム(建設費計2兆0844億余円、国庫補助金等計9666億余円)において、設定貯水量が建設時のままになっており、堆砂測量の結果が反映されていなかった(表参照)。
ダム管理者は、前記のとおり、ダム地点における地震等が発生したときは速やかに臨時点検を行うことなどが求められている。しかし、7県が管理する33ダム(建設費計3890億余円、国庫補助金等計1827億余円)については、ダムの基礎地盤又は堤体下部に設置された地震計とダム管理者に情報を自動的に通報する自動通報装置とが接続されていないことなどから、ダム地点における地震が発生した際に、ダム管理者にその情報が適時に通報されないため、ダム管理者が速やかに臨時点検を行うことができない状況となっていた(表参照)。
大規模地震等の災害が発生して長時間にわたり停電となった昨今の状況を踏まえて、常用電源の停電に対処するための予備発電設備の重要性がより一層高まっている。また、予備発電設備の稼動に必要な燃料の補給の難易度等について、その燃料の貯油量の決定に際して考慮した近隣の給油取扱所が廃止されるなど、予備発電設備の設置当初と現状が異なっている可能性がある。そこで、予備発電設備の連続運転可能時間についてみたところ、21道府県が管理する152ダム(建設費計2兆0909億余円、国庫補助金等計9845億余円)において、燃料タンクの容量等から算出した連続運転可能時間がマニュアルにおいて示されている72時間を下回っており(表参照)、また、中には所要の連続運転可能時間が確保されているか不明なダムも見受けられた。
以上のとおり、上記各事態の重複分を除くと、11事務所等が管理する23ダム(建設費計1兆0346億余円)、21道府県が管理する178ダム(建設費計2兆6087億余円、国庫補助金等計1兆2210億余円)について、維持管理が適切に行われていないなどの状況となっていた。
検査の結果 | 管理主体数 | ダム数 | ダム名 | |||
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(1) | 漏水量等の計測、設備等の点検等の実施状況 | 一部の項目について計測が3年以上にわたり行われていなかったもの | 9県 | 25 | 遠部、川内、西荒川、我谷、湯川、椿山、鹿森、玉川、山財、日向神、南畑、力丸、ます渕、陣屋、山神、犬鳴、岩屋川内、竜門、伊岐佐、本部、深浦、松尾、祝子、長谷、広渡各ダム | |
修繕等が3年以上にわたり行われていなかったもの | 3県 | 5 | 我谷、湯川、松尾、長谷、広渡各ダム | |||
(2) | ア | 計画堆砂量を上回る堆砂の状況 | 堆砂量が計画堆砂量を上回っていたもの | 9府県 | 20 | 目屋、三面、笠堀、鯖石川、湯川、奥裾花、狭山池、湯原、鹿森、黒瀬、永瀬、鏡、南畑、渡川、松尾、綾南、綾北、岩瀬、立花、祝子各ダム |
イ | 洪水調節容量内における堆砂の状況 | 洪水調節容量内に土砂が堆積していたもの | 9事務所等 | 14 | 四十四田、御所、湯田、藤原、相俣、薗原、大石、横川、大滝、菅沢、温井、耶馬溪、緑川、岩尾内各ダム | |
16道県 | 92 | 有明、様似、矢別、美唄、高見、佐幌、愛別、栗山、浦河、庶路、当別、遠部、三河沢、西荒川、塩原、寺山、東荒川、城山、三保、三面、笠堀、新保川、内の倉、鯖石川、下条川、早出川、大野川、刈谷田川、正善寺、久知川、破間川、大谷、城川、奥三面、柿崎川、我谷、九谷、赤瀬、内川、辰巳、古谷、余地、湯川、内村、横川、松川、片桐、北山、水上、小仁熊、裾花、奥裾花、阿多岐、中野方、大ヶ洞、丹生川、太田川、二川、椿山、河本、高瀬川、楢井、三室川、小瀬川、魚切、野呂川、椋梨、仁賀、御調、野間川、鹿森、黒瀬、永瀬、鏡、桐見、岩屋川内、竜門、伊岐佐、平木場、深浦、矢筈、横竹、狩立・日ノ峯、井手口川、渡川、松尾、田代八重、長谷、日南、広渡、瓜田、沖田各ダム | ||||
洪水調節容量内における堆砂の状況が不明となっていたもの | 3事務所等 | 7 | 松原、下筌、豊平峡、定山渓、金山、滝里、大雪各ダム | |||
11道県 | 48 | 小平、目屋、飯詰、下湯、川内、久吉、小泊、世増、琴川、荒川、大門、塩川、深城、箕輪、豊丘、奥野、青野大師、石田川、宇曽川、青土、姉川、広川、七川、旭川、鳴滝、八塔寺川、津川、竹谷、河平、山田川、四川、日向神、南畑、力丸、油木、ます渕、陣屋、瑞梅寺、山神、牛頸、犬鳴、北谷、猪野、鳴淵、福智山、藤波、亀川、上津浦各ダム | ||||
ウ | 貯水池への流入量の算出 | 設定貯水量に堆砂測量の結果を反映していなかったもの | 11事務所等 | 22 | 四十四田、御所、湯田、藤原、相俣、薗原、横川、大滝、菅沢、温井、耶馬溪、松原、下筌、緑川、豊平峡、定山渓、桂沢、金山、滝里、大雪、忠別、岩尾内各ダム | |
20道府県 | 130 | 有明、様似、矢別、美唄、高見、佐幌、新中野、愛別、小平、朝里、栗山、浦河、上ノ国、庶路、西岡、当別、目屋、飯詰、遠部、下湯、川内、久吉、小泊、世増、三河沢、西荒川、塩原、寺山、東荒川、松田川、城山、三保、新保川、久知川、城川、奥三面、柿崎川、辰巳、広瀬、琴川、荒川、大門、塩川、深城、余地、横川、箕輪、阿多岐、岩村、中野方、大ヶ洞、丹生川、太田川、奥野、青野大師、狭山池、二川、広川、椿山、七川、旭川、湯原、河本、高瀬川、鳴滝、八塔寺川、津川、楢井、千屋、竹谷、河平、三室川、小瀬川、魚切、野呂川、椋梨、福富、仁賀、御調、山田川、四川、玉川、台、山財、坂本、以布利川、日向神、南畑、力丸、油木、ます渕、陣屋、瑞梅寺、山神、牛頸、犬鳴、北谷、猪野、鳴淵、藤波、有田、岩屋川内、竜門、伊岐佐、平木場、本部、深浦、矢筈、横竹、狩立・日ノ峯、中木庭、井手口川、市房、氷川、亀川、石打、上津浦、渡川、松尾、綾南、綾北、田代八重、岩瀬、立花、祝子、長谷、日南、広渡、瓜田、沖田各ダム | ||||
(3) | ア | 地震時における対応状況 | ダム管理者が速やかに臨時点検を行うことができない状況となっていたもの | 7県 | 33 | 正善寺、破間川、広神、我谷、赤瀬、内川、犀川、辰巳、八ヶ川、余地、湯川、北山、水上、小仁熊、豊丘、旭川、鳴滝、楢井、竹谷、河平、小瀬川、魚切、梶毛、野呂川、椋梨、福富、仁賀、御調、山田川、野間川、四川、鎌井谷、本部各ダム |
イ | 常用電源の停電時における対応状況 | 燃料タンクの容量等から算出した予備発電設備の連続運転可能時間が72時間を下回っていたもの | 21道府県 | 152 | 有明、美唄、愛別、小平、朝里、栗山、庶路、西岡、遠部、下湯、川内、久吉、小泊、三河沢、西荒川、塩原、寺山、東荒川、松田川、城山、三保、三面、笠堀、内の倉、鯖石川、下条川、加治川治水、早出川、刈谷田川、正善寺、久知川、破間川、大谷、城川、奥三面、柿崎川、我谷、九谷、辰巳、八ヶ川、広瀬、荒川、大門、余地、湯川、内村、横川、箕輪、松川、片桐、奈良井、北山、水上、小仁熊、豊丘、裾花、阿多岐、岩村、中野方、大ヶ洞、丹生川、太田川、奥野、日野川、石田川、宇曽川、青土、姉川、箕面川、狭山池、二川、広川、椿山、七川、旭川、湯原、河本、鳴滝、八塔寺川、津川、楢井、竹谷、河平、三室川、小瀬川、魚切、梶毛、野呂川、椋梨、福富、仁賀、御調、山田川、野間川、四川、鹿森、黒瀬、玉川、台、須賀川、山財、永瀬、鎌井谷、鏡、桐見、坂本、以布利川、日向神、南畑、力丸、油木、ます渕、陣屋、瑞梅寺、山神、牛頸、犬鳴、北谷、猪野、鳴淵、福智山、藤波、有田、岩屋川内、竜門、伊岐佐、平木場、本部、深浦、矢筈、横竹、狩立・日ノ峯、都川内、中木庭、井手口川、市房、氷川、亀川、石打、渡川、松尾、綾南、綾北、田代八重、岩瀬、立花、祝子、長谷、日南、広渡、瓜田、沖田各ダム |
(改善を必要とする事態)
県が管理するダムにおいて計測、修繕等が3年以上にわたり行われていない事態、事務所等、道府県が管理するダムにおいて堆砂量が計画堆砂量を上回っていたり、洪水調節容量内に堆砂していたり、洪水調節容量内における堆砂の状況が不明となっていたり、設定貯水量について堆砂測量の結果を反映していなかったりする事態、道府県が管理するダムにおいて地震が発生した際にダム管理者にその情報が適時に通報されなかったり、予備発電設備について所要の連続運転可能時間が確保されているか明らかでなかったりする事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、県においてダムの維持管理に必要な計測、修繕等を適切に行うことについての認識が欠けていること、事務所等、道府県において貯水池における堆砂への対策を適切に行うことについての検討が十分でないこと、道府県において緊急時にダムを機能させるための体制が整備されていないことなどによると認められる。
近年、突発的に起こる局地的な豪雨により全国的に洪水が多発しており、下流域における洪水による災害発生の防止を図るダムの維持管理はますます重要となってきている。
ついては、貴省において、ダムの有する機能を長期にわたり有効に発揮させるために、ダムの維持管理が適切に行われるよう、次のとおり改善の処置を要求する。