国土交通省は、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号)に基づき、高齢者、障害者等の移動に係る利便性及び安全性の向上の促進等を図ることを目的として各種の施策を行っており、バス車両については、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(平成23年国土交通省等告示第1号)に基づき、平成32年度までにノンステップバス(注1)の普及率を約70%とする目標を設定している。そして、国土交通省は、ワンステップバス(注2)よりも高額なノンステップバスの普及促進のために、ノンステップバスを購入するバス事業者等に対して、地域公共交通確保維持改善事業費補助金交付要綱(平成23年国総計第97号ほか。22年度以前は公共交通移動円滑化設備整備費補助金交付要綱。以下「交付要綱」という。)等に基づき、地域公共交通確保維持改善事業費補助金(22年度以前は公共交通移動円滑化設備整備費補助金。以下「補助金」という。)を交付している。
交付要綱等によれば、補助対象経費はノンステップバスの車両等の購入価格とされており、また、ノンステップバス1両当たりの補助金額は、次の〔1〕 と〔2〕 による算定額のうちいずれか少ない額とされている。
さらに、交付要綱の細目を定めた運用方針等によれば、国土交通省は、補助金の公正かつ効率的な執行を確保するために、補助事業者にコスト削減へのインセンティブを働かせることを目的として、16年度から、市場価格調査に基づくノンステップバスの購入価格の平均値と通常車両価格との差額の2分の1を補助限度額として設定している。そして、19年2月以降のノンステップバス1両当たりの補助限度額は190万円とされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、補助限度額はノンステップバスとワンステップバスの購入価格の実態に即して適切に設定されているかなどに着眼して、22年度から24年度までの間に101補助事業者が実施した補助事業計266件(補助対象事業費計393億1080万余円、国庫補助金計23億6606万円)を対象として、国土交通本省において事業完了実績報告書等を確認するとともに、補助事業者から提出を受けたバス車両の購入状況に関する調書を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
国土交通省は、前記のとおり、市場価格調査に基づきノンステップバスの購入価格の平均値と通常車両価格との差額の2分の1を補助限度額として設定するに当たり、19年2月に、上記の差額を380万円と算出し、その2分の1となる190万円を補助限度額と設定した後見直しを行っていなかった。
そこで、本院が、補助事業者から提出を受けた調書に基づきノンステップバスとワンステップバスの購入価格を調査したところ、比較可能であった15補助事業者において、その差額は、補助限度額の算定根拠としている380万円を下回っていた。さらに、国土交通省は、本院の調査結果を踏まえて、26年3月から4月までの間に全国の41バス事業者に対して市場価格調査を実施したところ、ノンステップバス及びワンステップバスの購入価格の差額は約280万円となっていた。
以上のように、ノンステップバスとワンステップバスの購入価格の価格差は補助限度額の算定根拠としている380万円を大幅に下回っており、購入価格の実態が十分反映されずに補助限度額が設定されている事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた国庫補助金交付額)
前記の市場価格調査に基づき、ノンステップバス1両当たりの補助限度額を、購入価格の価格差280万円の2分の1である140万円として、これにより、検査の対象とした補助事業のうちノンステップバス1両当たりの補助金額が140万円を超えている59補助事業者の補助事業計92件に係る補助金額を算定すると、計6億9209万円となり、国庫補助金交付額計8億5175万余円との差額計1億5966万余円が節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、国土交通省において、ノンステップバスとワンステップバスの購入価格の差額の実態について十分に把握しておらず、適時適切に補助限度額の見直しを行っていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、26年5月に運用方針を改正して補助限度額を140万円とするとともに、今後、市場価格調査を適時適切に実施することにより、ノンステップバス及びワンステップバスの購入価格の実態に即した適切な補助限度額を設定することとする処置を講じた。