海上保安庁は、海上保安庁法(昭和23年法律第28号)等に基づき、海上の安全及び治安の確保を図ることを任務としており、この任務を遂行するために多数の航空機及び航空用発動機(以下「航空機等」という。)を保有している。そして、航空機等の整備については、海上保安庁航空機等整備規則(昭和61年海上保安庁訓令第15号)等に基づき、航空機等の安全性の確保を図るために、その整備内容に応じて、海上保安庁の職員が行う普通整備又は海上保安庁以外の者に請け負わせて行う特別整備となっている。
このうち、航空機等の特別整備については、毎年度、航空機の機種ごとに航空法(昭和27年法律第231号)等に基づき国土交通大臣から整備能力があると認定を受けた事業所であるなどの条件の下に公募により技術審査を行うなどして請け負わせる契約の相手方を決定している。
そして、上記により締結される航空機等の特別整備業務請負契約(以下「特別整備契約」という。)の実施内容には、航空機等を整備する契約の相手方(以下「航空機等整備業者」という。)が自ら行うことのできない航空機用無線機器の整備、航空機整備上必要となる試験飛行等の業務が含まれている。すなわち、航空機等整備業者は、航空機用無線機器の整備、航空機整備上必要となる試験飛行等を他の業者に実施させており(以下、このように契約の一部を他の業者に実施させることを「再委託」といい、再委託を受ける業者を「再委託業者」という。)、特別整備契約の契約額には再委託に要する費用(以下「再委託費」という。)が含まれている。
海上保安庁は、「海上保安庁予定価格作成要領」(昭和42年保経契第66号。以下「要領」という。)により、予定価格の積算について基本となる事項等を定めている。要領によれば、特別整備契約については原価計算方式により予定価格を算定することとされ、予定価格については製造等原価に諸経費率を乗じて算定した一般管理費等の諸経費を製造等原価に加算して積算することとされている。
そして、要領に基づき海上保安庁が制定した「航空機及び航空用発動機修理積算基準」(平成14年保総主第103号。以下「航空機等積算基準」という。)等によれば、材料費、労務費等及び外注費、専用治工具費等の直接経費を製造等原価とし、製造等原価から諸経費の対象外とされる経費を除いた額(以下「諸経費対象金額」という。)に諸経費率を乗じて算定した諸経費を製造等原価に加算して予定価格を積算することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、予定価格の積算が適切なものとなっているかなどに着眼して、海上保安庁が平成23年度から25年度までの間に締結した特別整備契約計146件(契約金額計44億4937万余円)を対象として、海上保安庁本庁において契約書、仕様書、予定価格調書等の関係書類を確認するとともに、調書の作成及び提出を求めて、これを確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
海上保安庁は、特別整備契約の契約条項等において、航空機等整備業者が再委託を行う場合、あらかじめ再委託の承諾を申請する業務や契約金額等について記載した再委託承諾申請書のほか、根拠となる入札書・見積書等の写し(以下「見積書等」という。)を提出させ、その内容を確認することとしている。しかし、海上保安庁は、航空機等整備業者との間で実施される作業工程に関する協議等の際に確認を行っているなどとして、前記特別整備契約146件の全てにおいて、特別整備契約で定められている再委託承諾申請書及び見積書等を提出させておらず、これらに係る再委託費の額計4億2292万余円について再委託費の内訳を十分確認していなかった。
そして、146件のうち141件(契約金額計42億8718万余円)の予定価格計42億9589万余円については、再委託費の全額計3億6569万余円を諸経費対象金額に含めて特別整備契約の諸経費を計4億1123万余円と算定していた。航空機等積算基準においては、航空機等整備業者の自社製品等を諸経費対象金額に含めないこととしているものの、再委託費の取扱いについて規定していなかった。
一方、海上保安庁は、船舶の整備契約において、契約の相手方である造船所が再委託業者に業務の一部を実施させる場合、当該造船所で発生する一般管理費等の費用は通常よりも少なくなると考えられることなどから、船舶の整備契約に係る積算基準において、再委託費に係る諸経費等その一部を諸経費対象金額から除外する取扱いとしていた。
このように、海上保安庁における特別整備契約の積算に当たり、再委託費の内訳を十分確認していなかったり、航空機等積算基準における再委託費の取扱いが明確でなかったりしていて、諸経費対象金額に再委託費の全額を含めて積算している事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(低減できた諸経費の積算額)
海上保安庁は、本院の指摘を踏まえ、再委託費に係る諸経費の内訳等の調査を実施した。
そして、上記の調査結果により把握された再委託業者の諸経費率を用いて再委託業者の諸経費を算定し、その額を諸経費対象金額から除外することにより、前記の特別整備契約141件に係る特別整備契約の諸経費を修正計算すると計3億9943万余円となり、前記特別整備契約の諸経費の積算額4億1123万余円に比べて約1180万円低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、海上保安庁において、航空機等整備業者との作業工程に関する協議等を実施すれば足りるなどとしていて、特別整備契約に定められた再委託費の内訳を確認することについての理解が十分でなかったこと、特別整備契約の諸経費の算定に当たって再委託費の取扱いについての検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、海上保安庁は、26年9月に関係部署に対して通知等を発して、特別整備契約に定められた手続に従い、再委託承諾申請書及び見積書等を航空機等整備業者から提出させ、その内容の確認を徹底するとともに、航空機等積算基準を改正して再委託業者の諸経費は諸経費対象金額から除くことを明確にして、諸経費の算定を適切なものとする処置を講じた。