国土交通省は、道路交通の安全の確保と円滑化を図るために、国庫補助事業により道路整備事業を実施している都道府県等(以下「事業主体」という。)に対して、道路法(昭和27年法律第180号)等に基づき、事業に要する費用の一部について国庫補助金(交付金を含む。以下同じ。)を交付している。
そして、事業主体は、道路用地の取得に支障となる、建物、工作物等(以下、合わせて「建物等」という。)を移転させるなどの際に、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(昭和37年閣議決定。以下「補償基準」という。)等に基づき、その所有者に対して建物等の損失補償(以下「移転補償」という。)を行っている。
補償基準等によれば、公共用地の取得に係る土地等に建物等があるときは、建物等を通常妥当と認められる移転先に、通常妥当と認められる移転工法によって移転するのに要する費用を補償することとされている。
事業主体は、各々の地区用地対策連絡協議会が定めた木造建物、非木造建物、機械設備、附帯工作物に係る積算又は算定の要領(以下、合わせて「積算要領等」という。)、補償金算定標準書(以下「標準書」という。)等に基づくなどして移転補償費を算定している。
積算要領等によれば、移転補償費は、従前の建物等と同種同等の建物等を建築するのに要する再築工事費に、標準耐用年数や経過年数等から定まる再築補償率を乗ずるなどして算定することとされている。このうち、再築工事費は、標準書等に定められた単価に数量を乗ずるなどしたものを積み上げて算定する直接工事費、共通仮設費、現場管理費、一般管理費等とされている(以下、積算要領等に定められた共通仮設費、現場管理費、一般管理費等を合わせて「要領諸経費等」という。)。また、標準書等に定められた単価には、下請経費等が含まれているとされている。
事業主体は、積算要領等に基づき、標準書又は市販の積算参考資料に記載のない工種等については、専門業者に対して製品名、仕様、数量その他の見積条件を示した見積依頼書を提示して、見積書を徴した上でその価格を用いて移転補償費を算定している。そして、専門業者から徴した見積書には、直接工事費と諸経費(以下、見積書に記載されている諸経費を「見積諸経費」という。)の金額を区分して記載している見積書と、そのような区分をしていない見積書がある。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、国庫補助事業で実施する道路整備事業に伴う移転補償費の算定に当たり、見積書の価格を用いて移転補償費を算定している場合の見積諸経費の取扱いは適切に行われているかなどに着眼して検査した。そして、平成22年度から24年度までの間に、見積書の価格を用いて移転補償費を算定している66事業主体(注1)の258契約で、見積書の価格を参考にした工種等545件、見積書の価格計42億5364万余円(国庫補助金等相当額計25億0863万余円)を対象として、移転補償費の算定内訳書等の書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
一方、上記265件のうち34件(見積書の価格計2億5521万余円(国庫補助金等相当額計1億4420万余円))について、13事業主体(注2)は、見積諸経費が要領諸経費等と同等ではなく、標準書等の直接工事費に含まれる下請経費等に当たると判断して、見積書の直接工事費に見積諸経費を加算した上で、要領諸経費等を加えるなどして移転補償費を算定していた。
一方、上記280件のうち181件(見積書の価格計9億5005万余円(国庫補助金等相当額計5億8818万余円))について、27事業主体(注3)は、見積書に要領諸経費等に相当する価格の記載がなかったことから要領諸経費等に相当する価格が見積書の価格に含まれていないと判断して、見積書の価格に要領諸経費等を加えて移転補償費を算定していた。
(1)アの34件及びイの181件の計31事業主体(重複する事業主体を除く。)の215件に係る見積書の内容を確認したところ、事業主体において見積依頼書及び見積書の内容を検証した資料(以下「見積検証資料」という。)が保存されていないなどのため、見積諸経費が標準書等の直接工事費に含まれる下請経費等に当たるのか、見積書の価格に要領諸経費等に相当する価格が含まれているのかが明確ではなく、見積書の価格の内容が見積条件に適合しているのか検証できる状態となっていなかった。
このように、事業主体において、移転補償費の算定に当たり、直接工事費と諸経費等に区分された見積書を徴していないことなどから要領諸経費等に相当する価格が重複して計上されているおそれを生じさせていたり、見積検証資料を作成及び保存していないことから見積書の価格の内容を検証できなかったりする事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、国土交通省において、事業主体が移転補償費の算定に当たり、直接工事費と諸経費等に相当する価格が区分された見積書を専門業者から徴することや見積書の価格の内容が見積条件に適合しているかを十分に検証できるようにすることを明確にしていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、26年7月に事業主体に対して事務連絡を発して、専門業者に見積書を依頼する際には、積算要領等に準ずるなどして、直接工事費及び諸経費等を区分させるとともに、見積検証資料を作成して保存するなどして、見積書の価格の内容が検証可能になるようにして、移転補償費の算定に適切に反映できるよう周知する処置を講じた。