【是正改善の処置を求め及び意見を表示したものの全文】
溶融固化施設の運営及び維持管理並びに溶融スラグの利用について
(平成26年9月30日付け 環境大臣宛て)
標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求め、及び同法第36条の規定により意見を表示する。
記
貴省(平成13年1月5日以前は厚生省。以下同じ。)は、循環型社会形成推進基本法(平成12年法律第110号。以下「循環型基本法」という。)に基づき、天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される社会(以下「循環型社会」という。)を形成するための施策を総合的かつ計画的に推進している。また、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号。以下「廃棄物処理法」という。)等に基づき、廃棄物の排出抑制、再使用及び再生利用に関する施策を進め、廃棄物を適正に処理するとともに、循環型社会の形成を推進するなどのために、ごみ焼却施設等の廃棄物処理施設の整備を実施する市町村、一部事務組合、広域連合等(以下「事業主体」という。)に対して、16年度までは廃棄物処理施設整備費国庫補助金(以下「整備費補助金」という。)を、17年度からは循環型社会形成推進交付金(以下「交付金」といい、整備費補助金と合わせて「交付金等」という。)を交付している。
廃棄物処理法によれば、市町村は、区域内における一般廃棄物の適正な処理に必要な措置を講ずるよう努めることとされ、また、都道府県は、市町村に対して必要な技術的援助を与えることに努めることとされている。そして、国は、廃棄物に関する情報の収集、活用等や、廃棄物の処理に関する技術開発の推進を図り、廃棄物の適正な処理に支障が生じないよう適切な措置を講ずるとともに、市町村及び都道府県に対して必要な技術的及び財政的援助を与えることや、広域的な見地からの調整を行うことに努めなければならないこととされている。
貴省は、ごみ焼却施設から排出されるダイオキシン類が社会問題化し、その排出削減が緊急の課題となったことなどから、9年1月、都道府県知事に対して「ごみ処理に係るダイオキシン類の削減対策について」(厚生省生活衛生局水道環境部長通知。以下「9年通知」という。)を発出し、ごみ処理に係るダイオキシン類の排出を削減するための対策を推進することとし、その一環として、ごみ焼却施設の新設に当たっては、原則としてごみ、焼却灰等を溶融固化する施設(以下「溶融固化施設」という。)等を設置することとしていた。
溶融固化施設は、高温条件の下でごみ、焼却灰等を加熱及び溶融した後に冷却してガラス質の固化物(以下「溶融スラグ」という。)等を生成するもので、ダイオキシン類を分解し、その削減に有効であるとともに、廃棄物の容積を減容すること(以下「減容化」という。)に資するものである。
そして、貴省は、9年通知等に基づき、ダイオキシン類の削減や廃棄物の減容化等を推進してきたが、ごみ焼却施設の性能の向上等によるダイオキシン類削減対策の進捗状況等を踏まえて、17年度以降は、交付金事業によりごみ焼却施設を整備する場合、事業主体が地域の特性等に応じて、溶融固化施設の設置の必要性等を個別に判断することなどとした。
循環型社会形成推進交付金交付要綱(平成17年4月環境事務次官通知)等によれば、事業主体は、循環型基本法及び廃棄物処理法の規定に基づき、地域の循環型社会を形成するための基本的な事項、循環型社会形成推進のための現状と目標、実施する施策の内容等を記載した循環型社会形成推進地域計画(以下「地域計画」という。)を作成し、地域計画等に基づき、溶融固化施設等の廃棄物処理施設の整備を行い、適切な運営を行うなどとされている。そして、循環型社会形成推進交付金交付要綱及び廃棄物処理施設整備費国庫補助金交付要綱(昭和53年5月厚生事務次官通知。以下、両者を合わせて「交付要綱」という。)によれば、交付金等事業により取得等した財産については、適切な維持管理を行うとともに、その効率的な運営を図らなければならないなどとされている。
また、事業主体が溶融固化施設の財産処分を行う場合には、「環境省所管の補助金等に係る財産処分承認基準」(平成20年5月環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部長通知。以下「財産処分承認基準」という。)等に基づき実施することとなっており、財産処分承認基準等によれば、環境大臣等は、補助目的のために事業を実施した年数(以下「経過年数」という。)が10年未満の施設等の取壊し等を行う場合については、財産処分に係る納付金の国庫納付を条件とするなどして承認することとされている。
貴省は、10年3月、都道府県知事等に対して「一般廃棄物の溶融固化物の再生利用の実施の促進について」(厚生省生活衛生局水道環境部長通知。以下「10年通知」という。)を発出している。10年通知等によれば、一般廃棄物の溶融固化はダイオキシン類の削減に有効であるとともに廃棄物の減容化に資するものであるとされている。さらに、溶融スラグは道路の路盤材やコンクリート用骨材等(以下、これらを合わせて「建設資材等」という。)への利用が可能であり、溶融スラグを埋立処分することなく建設資材等として利用を図れば最終処分場の延命化に一層効果的であることから、今後、溶融スラグの有効かつ適正な利用を促進していくことが望まれるとされている。
また、貴省は、18年に一般廃棄物等を溶融固化した道路用溶融スラグ等に係る日本工業規格(以下「JIS」という。)が制定されたことなどを受けて、循環型社会形成の推進に資する溶融スラグの利用を更に促進するために、10年通知を見直し、19年9月に「一般廃棄物の溶融固化物の再生利用の実施の促進について」(環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部長通知。以下「19年通知」という。)を発出している。そして、19年通知において示された「一般廃棄物の溶融固化物の再生利用に関する指針」(以下「指針」という。)によれば、溶融スラグの利用を適切に進めることは最終処分場の延命化を図る上でも極めて重要であることから、その安全性の向上等を図るためにJISに適合する品質を確保するとともに、関係部局と密接に連携して安定的な利用先を確保するなどして、溶融スラグの利用の促進を図ることとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、地域計画や交付要綱等に基づき溶融固化施設の適切な運営及び維持管理が行われているか、生成された溶融スラグの利用が図られ最終処分場の延命化等に資するものとなっているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、貴省本省及び22都道府県(注1)の93事業主体において、9年度から24年度までに交付金等の交付を受けて設置した溶融固化施設102施設(事業費計4412億7788万余円、交付金等相当額計1392億1604万余円)を対象として、地域計画、溶融固化施設の整備等に係る関係書類等の提出を受けて、その内容を分析するとともに、現地において溶融固化施設の使用状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
93事業主体が設置した102溶融固化施設の使用状況等についてみたところ、事業主体が適切な運営及び維持管理を行っていないことにより、溶融固化施設が1年以上の長期にわたって使用されておらず、今後の継続的な使用の見通しが立っていない事態が、16事業主体(注2)、16溶融固化施設(事業費計163億3378万余円、各溶融固化施設の使用停止時点における残存価額計99億1743万余円、これに係る交付金等相当額計31億1672万余円)において見受けられた。
これらを態様別に示すと次のとおりである。
11事業主体(注3)は、9年度から22年度までの間に交付金等の交付を受けて整備した11溶融固化施設(事業費計136億8688万余円、各溶融固化施設の使用停止時点における残存価額計81億0612万余円、これに係る交付金等相当額計25億3335万余円)について、溶融固化施設の使用を継続することによる経費や溶融スラグの利用状況等を考慮した結果、焼却灰等を溶融固化せずに最終処分場へ直接埋め立てる方式に変更するなどしていたため、長期にわたって使用していない状況となっていた。
<事例>
静岡県磐田市は、磐田市クリーンセンターにおいて、平成19年度から22年度までの間に交付金の交付を受けてごみ焼却施設の整備等を実施するに当たり、溶融固化施設を事業費8億3578万余円(溶融固化施設の使用停止時点における残存価額7億9051万余円、これに係る交付金等相当額2億6338万余円)で設置し、23年5月から使用を開始した。そして、同市は、地域計画において、生成した溶融スラグを積極的に利用して資源化を進めることなどとしていた。しかし、溶融固化施設の運転経費が多額に上ること、生成した溶融スラグの利用が進まないことなどから、同施設を約1年1か月間使用した後、焼却灰の処理を最終処分場に直接埋め立てる方式に変更しており、24年6月以降、同施設の使用を停止している。そして、26年2月の会計実地検査時点においても、同施設は継続的な使用の見通しが立っていない状況となっていた。
5事業主体(注4)は、12年度から15年度までの間に整備費補助金の交付を受けて整備した5溶融固化施設(事業費計26億4690万余円、各溶融固化施設の使用停止時点における残存価額計18億1130万余円、これに係る交付金等相当額計5億8336万余円)について、機器の故障等の不具合が生じて適切に溶融固化を行えなくなったにもかかわらず、その補修等を実施しておらず、長期にわたって使用していない状況となっていた。
なお、地域計画等における16溶融固化施設の使用予定年数はおおむね15年以上とされていたが、これらの実際の経過年数は、最長で9年、最短で1年1か月となっていた。
77事業主体における24、25両年度の溶融スラグの利用状況等についてみたところ、JIS等に適合させるために溶融スラグの品質管理に努めていたり、建設資材等を製造する業者との間で溶融スラグを継続的に供給するための契約を締結して売却先を確保したり、市町の土木部局等と密接に連携して公共事業における建設資材等として供給したりするなどの取組によって利用を行っている事業主体が多数見受けられた。一方で、生成した溶融スラグの全部又は大半を利用することなく埋立処分しているなどの事態が、17事業主体(注5)、17溶融固化施設(事業費計445億4915万余円、交付金等相当額計144億5092万余円)において見受けられた。
(是正改善及び改善を必要とする事態)
以上のように、適切な運営及び維持管理を行っておらず長期にわたって溶融固化施設を使用していない事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。また、生成した溶融スラグの全部又は大半を利用することなく埋立処分しているなどの事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、事業主体において、地域計画や交付要綱等に基づく溶融固化施設の適切な運営及び維持管理、指針等に基づく溶融スラグの利用の促進に対する理解等が十分でないことなどにもよるが、貴省において、次のことなどによると認められる。
貴省は、廃棄物の減容化や溶融スラグの利用を促進することによる最終処分場の延命化等のために、今後も引き続き溶融固化施設を整備する事業主体に対して交付金を交付していくこととしている。
ついては、貴省において、交付金等により設置した溶融固化施設の適切な運営及び維持管理並びに溶融スラグの利用の促進を実施し、もって循環型社会形成の推進等に資するよう、次のとおり是正改善の処置を求め及び意見を表示する。