【意見を表示したものの全文】
インクカートリッジ等の調達について
(平成26年9月30日付け 防衛省陸上幕僚長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴自衛隊は、自衛隊法(昭和29年法律第165号)及び自衛隊法施行令(昭和29年政令第179号)に基づき、5方面隊等により編成され、各方面隊にはそれぞれ方面総監部や、需品、通信器材等の調達、保管、補給等の事務を実施するために補給処が設置されている。
また、上記の補給処が行う事務の実施の企画、総合調整、統制業務等を実施するために補給統制本部が設置されている。そして、補給統制本部長は、貴自衛隊における補給等の実施に関して、補給処長に対して必要な指示を行い、補給処長から必要な報告を受けることとなっており、補給処長は、補給等を実施するに当たり、補給統制本部長の統制に従うこととなっている。
貴自衛隊は、「陸上自衛隊の補給等に関する訓令」(昭和34年陸上自衛隊訓令第72号)により、装備品、需品等について、その所要量を適切に決定して、決定された所要量に基づき必要な調達を行い、もって需給の均衡を図るための需給統制を行っている。このうち、補給処において調達が可能であり、かつ、補給処において調達することを有利とするなどの品目については、補給処統制品目に区分して、補給処長が当該補給処の所在する方面区内の需給統制を行うこととなっている。
貴自衛隊は、各種の情報システムに接続している各種のプリンタ、複合機、複写機等(以下「プリンタ等」という。)に補充する多種類のインクカートリッジ、トナーカートリッジ(以下「インクカートリッジ等」という。)等を補給処統制品目に区分して、各方面隊の補給処に調達させて、当該方面区内に所在する駐屯地の部隊等に対して原則として四半期ごとに補給を行わせている。
一方、各駐屯地は、上記情報システムのプリンタ等のほか、事務、教育訓練等のための文書の作成に使用する各種のプリンタ等も保有しており、当該プリンタ等に補充するために、補給処統制品目ではない多種類のインクカートリッジ等を調達している。また、補給処統制品目であるインクカートリッジ等についても補給処からの補給が間に合わない場合には、各駐屯地が調達している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
各方面隊の方面総監部が所在する5駐屯地(注1)(以下、各方面隊の方面総監部が所在する駐屯地を「方面総監部駐屯地」という。)は、特に保有する情報システムが多く、また、事務、教育訓練等も多いため、これらに使用するプリンタ等に補充する多種類のインクカートリッジ等を多数必要としている。
そこで、本院は、経済性等の観点から、インクカートリッジ等の調達が適切に行われているかなどに着眼して、平成23、24両年度に5方面総監部駐屯地及び5補給処(注2)が調達したインクカートリッジ等を対象として、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき本院に提出された証拠書類から調達実績等を集計、分析するとともに、5方面総監部駐屯地及び5補給処において、契約担当者から調達状況について説明を聴取したり、陸上幕僚監部及び補給統制本部において、調達等の制度について説明を聴取したりするなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
各方面総監部駐屯地及び各補給処が23、24両年度に調達したインクカートリッジ等は、計約136万個、支払総額27億8940万余円に上っていた。
このうち、各補給処は、駐屯地の部隊等に対して、補給処統制品目である各種類のインクカートリッジ等を取りまとめて調達し、補給していた。
一方、各方面総監部駐屯地は、同一方面区内の各補給処からインクカートリッジ等の補給を受けているものの、補給が間に合わないなどの場合には同一の規格のインクカートリッジ等を使用部隊からの要求の都度調達していた。そして、各方面総監部駐屯地における調達数量が毎回少数であることなどから、大部分のインクカートリッジ等の調達単価(契約金額を調達数量で割り戻した金額又は単価契約の場合の契約単価。以下同じ。)が、同一方面区内の各補給処における調達単価よりも割高になっていたが、各方面総監部駐屯地は、このような事態を把握していなかった。なお、これらのインクカートリッジ等の中には、各方面総監部駐屯地と同一方面区内の各補給処で同一の業者から調達したものもあった。
23、24両年度において、同一方面区内の各補給処で調達した際の平均調達単価により、各方面総監部駐屯地で調達した同一の規格のインクカートリッジ等(支払総額2億6495万余円)を調達できたとして試算すると、支払総額において、23年度2919万余円、24年度1277万余円、計4197万余円低減できたと認められる。
<事例>
札幌駐屯地は、平成24年度に、A規格のインクカートリッジ計532個を20回に分けて支払総額228万余円で調達していた。これらの調達単価は、4,221円から4,378円であり、平均調達単価は4,294円であった。一方、北海道補給処は、同一の規格のインクカートリッジ計774個を3回に分けて調達しており、これらの調達単価は3,465円から3,528円であり、平均調達単価は3,518円であった。札幌駐屯地で調達した上記の532個を北海道補給処の平均調達単価3,518円で調達できたとして試算すると、支払総額は187万余円となり、41万余円低減できたと認められる。
そして、同様に北海道補給処で調達したインクカートリッジ等の平均調達単価により札幌駐屯地の同一の規格の調達分を全て調達できたとして試算すると、24年度に札幌駐屯地で調達したインクカートリッジ等のうち85種類の規格の支払総額2498万余円において、490万余円低減できたと認められる。
予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)によれば、一定期間継続してする売買等の契約の場合においては、単価についてその予定価格を定めることができることとされている。そして、単価について予定価格を定めた場合には、当該単価に基づいて入札を実施して、落札した業者と単価契約を締結することになる。また、予定価格は、契約の目的となる物件等について、数量の多寡等を考慮して適正に定められなければならないこととされている。したがって、単価契約を採用するに当たっては、その予定価格を適正に定めるために、当該契約期間内に調達する予定数量(以下「調達予定数量」という。)を合理的に算出することが必要である。
各補給処は、一定の調達数量を見込むインクカートリッジ等について、単価契約により調達していた。そして、その入札に当たり、業者に対して、インクカートリッジ等の調達に割り当てられた予算の範囲内で算出した調達予定数量を示したとしているが、23、24両年度の調達実績数量をみると、3補給処(注3)におけるインクカートリッジ等の調達(支払総額6億5050万余円)において、業者に示した調達予定数量を大幅に超過した数量(注4)を調達していた。その主な事例を示すと表のとおりである。
表 単価契約により調達したインクカートリッジ等のうち、調達予定数量を大幅に超過した数量を調達していたものの例
補給処名 | 年度 | 規格 | 調達予定数量(a) (個) |
調達実績数量(b) (個) |
b/a (倍) |
---|---|---|---|---|---|
東北 | 平成23 | B | 50 | 1,020 | 20.4 |
C | 580 | 7,110 | 12.3 | ||
24 | D | 15 | 442 | 29.5 | |
E | 260 | 6,279 | 24.2 | ||
関東 | 23 | F | 10 | 4,680 | 468.0 |
G | 12,000 | 52,500 | 4.4 | ||
関西 | 24 | H | 96 | 960 | 10.0 |
I | 720 | 21,240 | 29.5 | ||
J | 5,000 | 20,000 | 4.0 |
しかし、業者は、入札の際に示された調達予定数量を考慮して入札額を決定するものと考えられることから、調達予定数量が多ければ契約単価は安くなる傾向にあると認められる。現に、(1)のとおり、各補給処で大量に調達したインクカートリッジ等の調達単価は、各方面総監部駐屯地における調達単価よりも低額となっている。
そして、3補給処は、調達予定数量が調達実績数量を大幅に下回っていることから、調達数量の増加に応じて契約単価が逓減するという規模の利益を享受できない状況になっていると認められる。
(改善を必要とする事態)
各方面総監部駐屯地におけるインクカートリッジ等の調達単価が、同一方面区内の各補給処における調達単価よりも割高になっている事態、各補給処で単価契約により調達したインクカートリッジ等について、入札の際に示す調達予定数量が調達実績数量を大幅に下回っていて、規模の利益が享受できない状況となっている事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
貴自衛隊においては、今後も大量のインクカートリッジ等が必要になると見込まれる。
ついては、貴自衛隊において、インクカートリッジ等のより経済的な調達に資するよう、次のとおり意見を表示する。