【意見を表示したものの全文】
役務に関する有償援助調達に係る引合書の請求及び確認について
(平成26年10月21日付け 防衛大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴省は、日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定(昭和29年条約第6号)に基づき、アメリカ合衆国政府(以下「合衆国政府」という。)から有償援助(Foreign Military Sales)により防衛装備品及び役務(以下「防衛装備品等」という。)の調達(以下「FMS調達」という。)を行っている。
FMS調達は、「有償援助による調達の実施に関する訓令」(昭和52年防衛庁訓令第18号。以下「訓令」という。)等によれば、その調達源が合衆国政府に限られるもの又はその価格、取得時期等を考慮して有償援助による調達が妥当であると認められ、かつ、合衆国政府が有償援助による販売を認めるものについて行うものとされていて、装備施設本部(以下「装本」という。)が実施機関として行う調達(以下「中央調達」という。)が原則となっている。
そして、FMS調達における取引については、国産品等の調達契約とは異なり、合衆国の法令等に従って行われ、調達する防衛装備品等の価格は合衆国政府の見積り、支払は原則として前払、納期は確定年月日ではなく予定年月日となっているなど、合衆国政府から示された条件によるものとなっている。
中央調達における役務の調達の要求から前払金の支払までの手続は、訓令等によれば次のとおり行うこととされている。
合衆国政府は、引合受諾書に基づき、我が国に対して役務を給付する。役務の給付については、調達要求元に属する役務の給付を受ける部隊等(以下「受領部隊等」という。)に給付されることにより行われる。そして、役務の受領のための検査(以下「受領検査」という。)から前払金の精算までの手続は、訓令等によれば次のとおり行うこととされている。
貴省は、陸上、海上、航空各自衛隊(以下「各自衛隊」という。)の戦術技量の向上に資するために、各自衛隊が、合衆国等において実施される米軍との共同訓練に参加したり、国内では実施することができない射撃訓練等を合衆国において実施したりなどしている。そして、上記のような訓練等を行うに当たり必要となる現地における訓練に関する支援(以下「訓練支援」という。)の役務について、FMS調達により給付を受けている。
また、貴省は、FMS調達等において必要な連絡調整等、米軍各機関との連絡調整及び訓練等の公務を目的として、内部部局、装本等の職員並びに統合幕僚監部及び各自衛隊の自衛官を、連絡官等として毎年度多数合衆国に派遣しており、連絡官等が現地において行う業務に関する支援(以下「連絡官支援」という。)の役務について、FMS調達により給付を受けている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、平成14年度決算検査報告において、FMS調達における価格等の透明性は確保されているかなどに着眼して検査したところ、引合受諾書の記載内容について、防衛装備品等の価格が明確に示されていなかったり、役務の内容が明確に示されていなかったりしている事態について、「特に掲記を要すると認めた事項」として掲記し問題を提起した。
しかし、中央調達における未精算額は、平成24年度末現在で、2282億7366万余円となお多額に上っている状況であったことから、25年次の検査においては、役務に係る前払金の精算が遅延している状況に着目して検査したところ、役務の給付が完了しているにもかかわらず、適時に受領検査の指令が行われていなかったり、受領検査が適切に行われていなかったりしている事態が見受けられたことから、適時適切に受領検査を行い、前払金の精算の促進を図ることができるよう、25年10月に、防衛大臣に対して、会計検査院法第36条の規定により、改善の処置を要求したところである。
本院は、以上のことを踏まえて、26年次の検査においては、更に受領検査指令書の作成の根拠となる引合受諾書等に着目し、合規性、経済性等の観点から、中央調達により給付を受ける役務のうち、訓練支援及び連絡官支援の役務について、引合受諾書等に記載された役務の内容が具体的なものとなっているか、引合受諾書に記載された価格が役務の内容を反映した妥当なものとなっているかなどに着眼して検査を行った。
検査に当たっては、内部部局、陸上、海上、航空各幕僚監部及び装本において、21年度から25年度までの間の中央調達のケースのうち、訓練支援及び連絡官支援の役務が含まれる90ケース(契約額計234億6770万余円(契約額は引合受諾書に記載されたドル建ての契約額を契約時の支出官レートにより邦貨に換算したもの。以下同じ。))を対象として、これらに係る引合受諾書等の関係書類を確認したり、給付された役務の内容について連絡官等から直接説明を聴取したりするなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴省が合衆国政府から給付を受ける訓練支援の役務73ケース(契約額計166億8442万余円)の引合受諾書等の記載状況をみたところ、次のとおりとなっていた。
また、73ケースのうち3ケースは、給付される役務が項目別に区分されておらず、価格は総額のみが記載されていた。
一方、5ケースについては、給付を要求する役務の内容と引合受諾書の項目に相当する価格が記載されており、引合受諾書に記載される役務の内容と項目ごとの価格をLORと比較するなどすれば、給付を要求した役務の内容を反映したものであるかについて検証できる状況となっていた。
このため、73ケースのうち68ケース(契約額のうち訓練支援の役務に対する価格計157億1823万余円(注))は、引合受諾書に記載された役務の内容や価格が、LORにおいて給付を要求した役務の内容等を反映した妥当なものであるか検証することができない状況となっていた。
貴省が合衆国政府から給付を受ける連絡官支援の役務21ケース(契約額計78億5727万余円)について、引合受諾書等の記載状況をみたところ、次のとおりとなっていた。
このため、21ケース(契約額のうち連絡官支援の役務に対する価格計11億0077万余円)の全てにおいて、引合受諾書に記載された役務の内容や価格が、LORにおいて給付を要求した役務の内容等を反映した妥当なものであるか検証することができない状況となっていた。
<事例>
航空自衛隊は、毎年度、テキサス州サンアントニオにあるラックランド米空軍基地に所在する国防省語学研修所ほか1か所に、合衆国派遣学生の管理、指導等を実施するなどのため、計3名の連絡官等を派遣しており、その際に、連絡官支援の役務の給付を合衆国政府から受けることとしている。
航空自衛隊は、この役務の要求内容を、3名分の事務所、家具、コンピュータシステム等とするLORを作成して、装本に引合書の請求を依頼している。
そして、合衆国政府から上記に係る引合書の送付を受けて、航空自衛隊は、引合書の記載内容のとおり調達を要求する旨を装本に通知し、装本は当該引合書に署名して引合受諾書としている。
このうち、平成21年度から25年度までの間に、引合受諾書に記載された連絡官支援の役務内容をみると、項目が訓練やその他サービス、その細目が事務所、家具等とされていたが、対象となる事務所数等の具体的な役務内容や価格は記載されていなかったことから、給付される役務が給付を要求した役務の内容を満たしているか確認することができなかった。
そこで、現地において給付状況を確認するなどしたところ、表のとおり、21年度から24年度までの間については、LORにおいて連絡官支援の対象としていた3名のうち1名は、別途に事務所を借り上げるなどして必要となる費用を前渡資金により支払っており、実際に連絡官支援の給付を受けていたのは2名のみであった。一方で、引合受諾書に記載された価格は、表のとおり、23年度以前の価格は、3名分の役務の給付を受けていた25年度と比較して大幅に高額となっていたり、給付を受けた連絡官等の人数が異なっているにもかかわらず、24年度と25年度の価格がほぼ同額となっていたりしていて、妥当なものであるか検証できなかった。
区分 | 平成21年度 | 22年度 | 23年度 | 24年度 | 25年度 |
---|---|---|---|---|---|
LORにおいて連絡官支援の対象となっている連絡官等の人数 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 |
実際に連絡官支援の役務の給付を受けた連絡官等の人数 | 2 | 2 | 2 | 2 | 3 |
引合受諾書に記載された連絡官支援の価格 | 29,130 | 30,000 | 37,500 | 7,968 | 8,000 |
なお、(1)及び(2)の事態には、(2)の事態の4ケースが重複しており、これに係る重複分を除くと85ケース(訓練支援及び連絡官支援の役務に係る価格計157億4502万余円)となる。
(改善を必要とする事態)
前記のとおり、訓練支援及び連絡官支援の役務について、引合受諾書に細目ごとの役務の内容や価格が記載されていなかったり、LORに具体的な役務の内容や価格が記載されていなかったりなどしていて、合衆国政府から給付される役務の内容や価格が、給付を要求した役務の内容等を反映した妥当なものであるか十分に検証できない事態は、FMS調達における価格等の透明性を確保できないことから適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省において、訓練支援及び連絡官支援の役務に関するFMS調達について、調達要求元におけるLORの作成や合衆国政府から送付された引合書の確認に当たり、給付される具体的な役務の内容や価格を把握することの重要性に関する理解が十分でなく、そのための方策に関する検討が十分でないことなどによると認められる。
上記の事態は、FMS調達の制度上の制約による面もあるが、貴省は、FMS調達により、今後も引き続き多数の防衛装備品等を調達するため、合衆国政府との間で引合受諾書を取り交わし、多額の前払金を合衆国政府に対し支払うことが見込まれていることから、できる限り価格等の透明性を確保する必要がある。
ついては、貴省において、FMS調達による役務の調達について、調達要求元におけるLORの作成や合衆国政府から送付された引合書の確認に当たり、必要に応じて価格や調達条件等を合衆国政府に照会等を行うなどして、LORに給付を要求する役務のより具体的な内容や価格を記載するなど、給付される役務の内容や価格の妥当性について十分な検証を行うための方策を検討するよう意見を表示する。