【意見を表示したものの全文】
防衛装備品等の調達に関する契約における資料の信頼性確保について
(平成26年9月18日付け 防衛大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する
記
貴省は、防衛装備品及びその修理等の役務(以下、これらを「防衛装備品等」という。)の調達を民間企業等と契約を締結することにより実施している。
防衛装備品等の調達に当たり、貴省は、その仕様が特殊で市場価格が形成されていないなどの場合には、「調達物品等の予定価格の算定基準に関する訓令」(昭和37年防衛庁訓令第35号)に基づき、製造原価を直接材料費、加工費(直接労務費に間接労務費、間接材料費及び間接経費である製造間接費を加えたもの)、直接経費等の構成要素ごとに積み上げるなどして算定し、これに一定の適正利益等を付加する原価計算方式により予定価格を算定するなどしている。このうち加工費は、工数(製造等に直接従事した作業時間)に加工費率(期間加工費を期間工数で除して算定した1作業時間当たりの加工費)を乗ずることなどにより計算することとなっている。
そして、原価計算方式により予定価格を算定した契約には、契約の履行に要するなどした費用が原価として妥当であるか否かを審査するための原価監査を行い、契約代金を確定する原価監査付条項を付した監査付契約がある。
貴省は、防衛装備品等の調達に当たり、原価計算方式で予定価格を算定して契約を締結している民間企業(以下「防衛関連企業」という。)に対して、その原価計算システムの適正性を確認するために、会計制度の信頼性、原価発生部門から原価元帳又はこれに相当する帳票類への集計システムの適正性、社内不正防止及び法令遵守に関する体制等を確認する制度調査を行っている。
この制度調査では、貴省が締結した防衛装備品等の調達契約において、工数を過大に申告するなどした過大請求事案が、平成5年以降相次ぎ発覚したことなどを踏まえて、貴省が、11年6月に「契約の相手方の提出資料の信頼性確保のための施策について(通達)」(平成11年装管第3550号。以下「11年通達」という。)を発し、制度調査への協力を契約の相手方に義務付ける見直しが行われている。
また、15年5月に発覚した過大請求事案においては、防衛装備品等以外の工数が防衛装備品等の工数として付け替えられて、付替え後のデータに基づき帳票類が作成されていて正規の帳票類が存在しなかったことなどから、貴省は、その後の制度調査において、単に会計記録である帳票類を審査するだけではなく、その背景となる生産管理情報等との比較検証や内部統制システムの調査を加えるなどして、契約の相手方の原価計算システムの適正性を確認することとしている。
24年1月以降、防衛関連企業7社(注1)による過大請求事案(以下、これを「24年の過大請求事案」という。)が相次いで発覚し、これに対して、本院は、過大請求を行った防衛関連企業7社を対象として検査を行い、24年10月に、貴省に対して制度調査、原価監査等の実施状況等について会計検査院法第36条の規定により意見を表示するとともに、24年10月及び25年9月に、参議院に対して要請を受けた事項に関する検査の結果を報告した。
24年の過大請求事案についてみると、防衛関連企業7社は、実際の直接作業時間に基づき申告する実績工数が、契約の損益管理等を行うための指標として設定した目標工数を下回った場合に、契約代金の減額を回避するために、実績工数が目標工数を上回った他の契約から実績工数の一部を付け替えて、付け替えた工数を加算した工数を当該契約の実績工数として貴省に申告するなどして過大請求を行っていた。また、防衛関連企業7社は上記の工数を付け替えたデータに基づいて帳票類を作成していて、実際の作業時間に基づく工数データは大半が廃棄されているなどしており、正規の帳票類が存在していなかった。
なお、24年の過大請求事案が発覚した以降も、貴省に対して、25年1月に株式会社島津製作所、同年2月に株式会社鶴見精機、同年3月に株式会社ネットコムセック、同年10月に日本航空電子工業株式会社、26年3月に古野電気株式会社が、過大請求を行ったことを認めた旨報告している。
24年の過大請求事案を受けて、本院は、貴省における制度調査等の方法等を見直すとともに、契約の相手方に対して制度調査等の受入体制を整備するよう求めたり、法令遵守活動等の実態を把握するなど過大請求事案を踏まえた貴省の諸施策について契約の相手方に対する周知等の効果を確認したりなどするよう、24年10月に、防衛大臣に対して会計検査院法第36条の規定により意見を表示している。
貴省は、上記の意見表示を踏まえ、契約の相手方が提出等する資料について、一層の信頼性を確保するために、11年通達を廃止し、新たに「契約の相手方が提出等する資料の信頼性確保のための施策について(通達)」(平成25年防経装第4627号。以下「25年通達」という。)を発するなどして、次のような再発防止策を講じている。
また、貴省は、25年通達において、制度調査として、年度計画に基づく定期調査及び当該計画外で行う臨時調査を実施することとしており、継続的に経費率(加工費率、一般管理費及び販売費率並びに利益率)を算定している防衛関連企業に対して、少なくとも5年に1回は定期調査を実施することとしている。
そして、貴省装備施設本部、各自衛隊の制度調査対象箇所数及び25年度制度調査実施箇所数は表のとおりとなっている。
制度調査実施機関 | 装備施設本部 | 陸上自衛隊 | 海上自衛隊 | 航空自衛隊 |
---|---|---|---|---|
制度調査対象箇所数 | 112 | 8 | 27 | 13 |
(会社数) | (88) | (6) | (22) | (12) |
平成25年度 | ||||
定期調査実施箇所数 | 25 | 1 | 5 | 4 |
(会社数) | (23) | (1) | (5) | (4) |
臨時調査実施箇所数 | 10 | 0 | 0 | 0 |
(会社数) | (10) | (0) | (0) | (0) |
箇所数計 | 35 | 1 | 5 | 4 |
(会社数計) | (32) | (1) | (5) | (4) |
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
貴省は、前記のとおり、24年の過大請求事案に対する再発防止策として、防衛関連企業に対して25年通達に基づく制度調査を実施しているが、その実施頻度を考慮すると、多くの防衛関連企業に対して制度調査を完了するまでには、なお、長期間を要すると思料される。
そこで、本院は、合規性、経済性、有効性等の観点から、防衛関連企業において、原価計算等に関する規程類が整備されているか、実際の原価計算等が当該規程類に基づき適切に行われているか、計上された工数が適正となっていることを確認することができる体制が整備されているかなどに着眼して検査した。
そして、貴省と会計実地検査時点において25年通達に基づく制度調査が実施されていないなどの防衛関連企業12社(注2)とで締結した原価計算方式により予定価格を算定した契約のうち、契約の履行が完了し、23年度から25年度までの間に契約代金を支払った契約金額1000万円以上の契約計3,208件(支払金額計7223億3038万余円)を対象として検査した。検査に当たっては、上記の防衛関連企業12社において、原価計算等に関する規程類や作業に係る帳票類を確認したり、作業現場に赴いて作業実態、工数計上の手続等を実地に確認したりするとともに、貴省内部部局、装備施設本部等において、関係者から見解を聴取するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
24年の過大請求事案をみると、原価計算等に関する規程類の整備が十分でなかったなどのため、工数修正専用端末や工数修正プログラムを使用して工数を書き換えるなどの事態が生じていた。したがって、防衛関連企業において原価計算等に関する規程類を整備し、これに基づいて工数集計等の経理処理を適正に行うことは、防衛関連企業が提出等する資料の信頼性を確保する上で重要なものである。
しかし、防衛関連企業3社(注3)は、原価計算等に関する親会社の規程類をそのまま準用するなどしていて、当該企業の作業実態に即した規程類を整備していなかったり、工数集計や実際に運用しているシステムに関する規程類を整備していなかったりしていた。
また、防衛関連企業4社(注4)は、原価計算等に関する規程類を整備しているものの、その規程類には、実際に運用しているシステムによる経理処理手続等が定められていないものとなっていた。
上記の工数集計等の原価計算に関する規程類を十分に整備していなかった事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
函館どつく株式会社は、経理業務に関する基準となる経理規程を定めて、これに基づき会計処理を行うこととしている。
そして、同社函館造船所の修繕部門は、工数集計に関する管理手順を定め、これに基づき作業時間の管理、計上を行っていたが、同造船所の設計部門は、工数集計に関する手順を整備しないまま、設計に要したとする作業時間の管理、計上を行っていた。
前記のとおり、24年の過大請求事案においては、契約代金の減額を回避するために、実績工数が目標工数を上回った他の契約からその実績工数の一部を当該契約の実績工数に付け替えるなどの事態が生じており、付替え前の工数データは、大半が廃棄されているなどしていて、修正した記録も保存されていなかった。
以上を踏まえると、工数が集計されるまでの過程を記録及び保存することは、貴省が契約に際して求めている資料の信頼性を確保する上で重要であるが、検査したところ、次のような事態が見受けられた。
原価計算に係る工数は、作業指示を受けた作業員が実際に作業に従事した時間を実績として、工数集計システムに入力することなどにより集計される。したがって、システムに入力された工数が実際に作業に従事した時間であるという根拠資料を保存することは、実績工数の客観性を検証するために重要である。
しかし、防衛関連企業10社(注5)は、作業指示や作業実績の報告を口頭で行い、一定期間を経過した後に実績工数の承認等を行うなどしているが、計上した根拠資料を記録及び保存していないため、計上された工数が、指示と一致しているか、作業時間の計上が妥当であるかについて客観的な証拠がなく検証できない状況となっていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
三井造船株式会社玉野事業所は、部門ごとに工数を管理する規程類を定めており、作業時間の計上に当たっては、作業者が作業指示に基づき、作業時間を直接作業時間及び間接作業時間に区分して工数集計システムにより計上し、その後、システムに計上された作業時間を照査、承認している。
しかし、一部の部署を除いて作業指示が口頭で行われ、作業指示を行ったとする証拠が保存されていないのに、作業時間の照査、承認を1か月分を取りまとめて行っていたため、作業内容が指示されたものと一致しているか、作業時間の計上が妥当であるかについて検証できない状況となっていた。
過大請求事案における工数の付替え等を防止するには、工数集計システムに入力した工数を修正する際に、修正した証拠をシステムに記録するとともに、修正理由を記録及び保存することなどが重要である。
しかし、防衛関連企業7社(注6)は、作業員が工数集計システムに入力した工数を修正しても、修正した証拠や理由を記録していないなどのため、計上された工数データが、正当な理由により修正されたものであるか確認できないなどの状況となっていた。
ア及びイのとおり、防衛関連企業は、原価計算に係る工数の計上が適正に行われているかを確認するために必要となる資料を保存していなかったり、工数の修正の証拠を記録及び保存していなかったりなどしていた。そして、今回検査した防衛関連企業3社(注7)においては、作業時間が記録されている作業日誌や出張旅費の精算書類とは異なる工数を計上しているなどしていて、作業時間と計上された工数とが一致していない状況となっていた。
(改善を必要とする事態)
防衛関連企業12社において、(1)のとおり、原価計算等に関する規程類が十分整備されていなかったり、(2)のとおり、原価計算に係る工数の計上に当たり、工数が適正に計上されているか検証するための作業指示や作業実績に関する資料を保存していなかったり、不正な工数の付替えを防止するための工数修正の証拠を記録及び保存していなかったりなどしていて、実績工数の客観性を検証することができないなどの事態は、貴省が契約に際して求めている資料の信頼性確保が十分に図られているとは認められず、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、防衛関連企業において、貴省に対して提出等する資料の信頼性確保の重要性に対する認識が欠けていることにもよるが、貴省において、これまでに相次いで発覚してきた過大請求事案を踏まえた資料の信頼性確保に関する事項について、防衛関連企業の取組状況等の確認を早急に行うことの必要性についての認識が欠けていることなどによると認められる。
今後も防衛装備品等の調達に当たっては、防衛関連企業と原価計算方式により予定価格を算定するなどして契約を締結することが見込まれており、貴省においては、24年の過大請求事案発覚以降、様々な再発防止策を実施しているが、その後も防衛関連企業による過大請求事案が発覚しており、防衛関連企業が提出等する資料の信頼性を確保することが重要となっている。
ついては、防衛装備品等の調達に関する国民の信頼を回復し、予算の執行のより一層の適正化を図り、防衛関連企業が提出等する資料の信頼性を確保して、防衛装備品等の調達価格の透明性を確保するため、貴省において、防衛関連企業に対し、25年通達の一層の徹底を図るために原価監査等の機会も活用するなどして、原価計算等に関する規程類の整備が十分なものとなっているか、当該規程類に基づく適正な会計処理を行っているか、原価計算に係る適正な工数の計上を行う体制が整っているかなどについて早急に調査を行い、必要に応じて防衛関連企業に対して改善を求めるなどの方策を検討するよう意見を表示する。