【改善の処置を要求したものの全文】
住宅防音事業における契約手続等の公正性等の確保について
(平成26年10月30日付け 防衛大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」(昭和49年法律第101号)、「防衛施設周辺における住宅防音事業及び空気調和機器稼働事業に関する補助金交付要綱」(平成22年防衛省訓令第10号。以下「交付要綱」という。)等に基づき、自衛隊等の航空機の離着陸等の頻繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しいと認め、防衛大臣が指定する飛行場等の周辺の区域において住宅防音事業を実施している。この事業は、上記の区域に指定される以前から所在する住宅の所有者等が、上記の障害を防止し、又は軽減するために、住宅に遮音、吸音等の機能を付加する住宅防音工事や同工事の完了後に劣化した防音建具の機能を復旧する機能復旧工事(以下、これらを合わせて「防音工事」という。)等を実施する場合に、その費用を補助するものである。
防音工事における補助金の交付対象とする経費は、交付要綱によれば、設計監理費(防音工事の設計図書の作成等に必要な経費)及び防音工事に必要な工事費(防音工事に必要な本工事費等)とされ、これらの合算額に10分の10を乗じて得た額が補助の額とされている。
住宅防音事業の事務手続は、交付要綱等に基づきおおむね次のとおり行われる。
そして、貴省は、補助事業者に対して、交付決定書等において、次のような補助金の交付条件を遵守することを求めて、住宅防音事業における契約手続等の公正性、透明性、競争性等を確保するとしている。
貴省は、上記の事務手続に不慣れな工事希望者を支援することで住宅防音事業を円滑に実施することを目的として、内部部局において、「住宅防音事業に係る業務委託について」(平成23年8月地防第10396号)、「住宅防音事業業務委託仕様書案について(通知)」(平成24年3月地防第2886号)(以下、これらを合わせて「委託要領」という。)等を定めて、防衛局等において、委託要領に基づき、管内で実施される住宅防音事業を対象として、補助金交付申請書の作成等の事務手続を支援する業務(以下「支援業務」という。)を外部業者に委託している。
そして、委託要領において、住宅防音事業における契約手続等の公正性、透明性、中立性等を確保することを目的として、支援業務に係る委託の契約(以下「支援契約」という。)の入札参加資格として、「防衛省が行う住宅防音事業に係る設計業務又は工事の請負者(本件委託業務期間中に請負を予定している者を含む。)でないこと及び当該請負者と資本又は人事面において関連がある者でないこと」を定めて、これを誓約した自己申告の中立性等証明書を入札参加時に入札参加者から提出させることとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、防音工事及び支援契約に係る契約手続等が適切に実施されているかなどに着眼して、23、24両年度に9防衛局等(注2)において実施された防音工事のうち計494件、国庫補助金計84億6941万余円を対象として、9防衛局等において、補助金関係手続書類を確認したり、補助事業者から設計契約及び工事契約の契約方式等を聴取したりして会計実地検査を行った。また、23、24両年度に北関東、南関東両防衛局が締結した支援契約計34件、契約金額計1億9009万余円を対象として、支援契約書等の書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴省は、前記のとおり、設計契約及び工事契約を締結するに当たり、それぞれ別の者と締結しなければならないとして、契約締結予定者から口頭又は書面で確認することを求めている。また、工事業者等に交付決定額及び予定価格を提示せずに見積書を徴取した上で、契約を締結することを求めている。
しかし、9防衛局等は、補助事業者に対して、口頭又は書面で確認したかどうかを報告させていなかったり、補助事業者が徴取した見積書を提出させるなどしていなかったりしていて、契約金額等が公正に決定されているかを確認しないまま補助金を交付していた。そして、本院が補助事業者から聴取した範囲においても、口頭又は書面で確認したことなどの事実を確認できなかった。
また、前記494件の補助事業について、交付決定額又は予定価格と契約金額をそれぞれ突合して確認したところ、494件の約90%である445件(国庫補助金計37億0967万余円)において、両者はそれぞれ同額となっていた。
貴省は、前記のとおり、補助金の交付条件として、共同住宅の複数世帯に係る防音工事を同一時期に発注する補助事業者に対して、原則として複数見積徴取等を実施した上で工事業者と工事契約を締結することなどを求めている。
しかし、上記の補助事業者が実施した110件の補助事業のうち、80件(国庫補助金計16億9285万余円)において、複数見積徴取等が実施されておらず、交付決定額又は予定価格のうちの工事費相当分と工事契約金額が、それぞれ同額となっていた。他方で、残りの30件において、競争性の確保に対応した複数見積徴取等が実施されており、このうち18件の補助事業の予定価格に対する工事契約の金額の割合は、2件が85%未満、10件が85%から95%未満までとなっていた。
494件の補助事業のうち、3防衛局(注3)に係る13件(国庫補助金計34億6942万余円)は、地方公共団体等が補助事業者となって実施されていた。そして、13件の工事契約に係る入札実施要綱、入札結果調書等によれば、事前に経営状況等を確認するなどして契約の内容に適合した履行が期待できる工事業者を入札の参加者として指名する希望制指名競争入札等の契約方式が採用されていた。
前記のとおり、9防衛局等は工事契約の金額等の決定過程を十分に確認していなかったことから、上記補助事業13件の工事契約の入札についてみたところ、地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)等に基づき、契約の履行を確保するために特に必要がある場合において例外的に認められている最低制限価格が設定されていた。このため、最低制限価格を下回って入札した者が無条件に失格となり当該入札から排除されることとなっていて、13件のうち9件(国庫補助金計32億6548万余円)において、入札の参加者が契約の履行が期待できる工事業者であることが確認されているにもかかわらず、予定価格の90%の最低制限価格が設定されるなどしていた。そして、この結果、最も低い価格で入札した者が排除されていたり、中には最低制限価格と落札額との差が約5100万円となっていたりする契約も見受けられた。
上記について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
平成24年度に、南関東防衛局においてAが補助事業者となって実施した防音工事(国庫補助金2億2999万余円)の工事契約について、Aの入札結果調書等を徴収して確認したところ、事前に経営状況等を確認するなどして契約の内容に適合した履行が期待できる工事業者を入札の参加者とする条件付一般競争入札が採用されていた。そして、最低制限価格の割合を予定価格の90.0%と定めて入札を実施した結果、最低制限価格を上回る業者を落札者とし、最低制限価格を下回る価格(予定価格の83.7%)で入札した業者が失格となり排除されていて、2者の価格差は約1600万円となっていた。
貴省は、支援契約に係る入札参加資格について、前記のとおり、委託要領において、設計業者及び工事業者と資本又は人事面において関連がある者でないことを求めているが、委託要領においては、上記関連がある者の範囲等の具体的な入札参加資格の内容まで定められていない。
そこで、支援契約に係る入札参加資格の確認の状況についてみたところ、9防衛局等は委託要領に基づき入札参加者から自己申告の中立性等証明書を提出させた上で入札を実施していたが、法人登記簿等の提出等を求めておらず、支援契約に係る入札参加者としての適格性を確認できていない状況となっていた。そして、9防衛局等のうち南関東防衛局が24年度に締結した支援契約計9件(契約金額計1388万余円)について、契約の相手方が過去に人事面において関連があると疑われる者である状況となっていた。
(改善を必要とする事態)
防音工事について、工事契約の金額等が公正に決定されているかを確認等していない事態、共同住宅の複数世帯に係る防音工事を同一時期に発注する場合において複数見積徴取等の実施が徹底されていない事態及び最低制限価格の設定状況等を具体的に確認していない事態並びに支援契約について、具体的な入札参加資格を定めていなかったため人事面において関連があると疑われる者と支援契約を締結して防音工事等の支援業務を実施させていた事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。
住宅防音事業における契約手続等については、公正性、透明性、競争性、中立性等の確保が求められており、今後も引き続き住宅防音事業の実施が見込まれる一方、多くの場合は事務手続に不慣れな住民が補助事業者となっている。
ついては、貴省において、補助事業者が補助事業の執行を適正に行うことが可能となるよう、次のとおり改善の処置を要求する。