防衛省は、防衛省の職員の給与等に関する法律(昭和27年法律第266号)等に基づき、自衛官等が、公務又は通勤によらないで負傷し、又は疾病にかかり、部外の医療機関等で診療、薬剤等の支給、手術等の治療等(以下「療養」という。)の給付を受けた場合、その療養に要した費用から自衛官等の本人負担分を控除した金額を、当該医療機関等に対して支払うこととなっている。そして、防衛省職員療養及び補償実施規則(昭和30年防衛庁訓令第73号)等により、駐屯地業務隊長、衛生隊長、基地業務担当部隊等の長等(以下、これらの者を「駐屯地業務隊長等」という。)は療養の給付を実施する権限を有する者とされている。また、防衛省は、各医療機関等が請求する診療報酬等の額の審査及び支払に関する事務を審査支払機関である社会保険診療報酬支払基金(以下「基金」という。)に委託して実施しており、これらの手続は、次のとおりとなっている。
〔1〕 部外の医療機関等は、請求書に費用の明細を明らかにした診療報酬明細書等(以下「レセプト」という。)を添付して、これらを基金に提出する。〔2〕 基金は、請求内容を審査点検した後、診療報酬等請求内訳書を作成し、これをレセプト及び払込請求書とともに駐屯地業務隊長等に提出する。〔3〕 駐屯地業務隊長等は、請求を受けた金額を確認した上で、基金を通じて部外の医療機関等に当該費用を支払う。
医療制度改革大綱(平成17年政府・与党医療改革協議会)等によれば、医療保険事務全体の効率化を図るために、従来紙媒体で行われていた医療機関等から審査支払機関へのレセプトの提出及び審査支払機関から保険者へのレセプトの提出は、平成23年度当初から、原則として電子レセプト(注)をオンラインで提出すること(以下「レセプトのオンライン化」という。)とされており、厚生労働省は、18年以降、レセプトのオンライン化に係る通知を関係者に対して発出するなどしている。
そして、防衛省は、内部部局において、22年6月に「防衛省におけるレセプトオンライン化に係る基本方針」(以下「基本方針」という。)を定め、駐屯地業務隊長等が所在する陸上自衛隊182か所、海上自衛隊19か所、航空自衛隊25か所、防衛大学校及び防衛医科大学校において、通信手段として利用する防衛情報通信基盤の換装時期である24年3月に合わせてレセプトのオンライン化を実施するよう、関係する各機関等に周知している。
防衛省は、前記のとおり、基金に対して、審査及び支払に関する事務を委託しており、これらの事務の執行に要する費用(以下「事務費」という。)を基金に支払っている。事務費は、医療機関等が基金に対して提出したレセプトの形態、基金が防衛省に対して提出したレセプトの形態等によって異なっており、医科・歯科及び調剤ごとに設定されている。医科・歯科分の例を示すと、24、25両年度の防衛省における支払分に係るレセプト1件当たりの事務費は、電子レセプトを同省がオンラインで受け取った場合には97.4円から101.4円となっており、電子レセプトを出力した紙媒体を同省が郵送で受け取った場合に比べて12.0円から12.8円割安となっている。そして、電子レセプトをオンラインで受け取るためには、駐屯地業務隊長等が基金に対して申出書等の書類を提出するなどして申請(以下、電子レセプトをオンラインで受け取るための申請を「申請」という。)を行う必要がある。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性、有効性等の観点から、基本方針に基づきレセプトのオンライン化が実施されているか、基金に対する事務費の支払が経済的なものとなっているかなどに着眼して、レセプトのオンライン化に係る経費及び24、25両年度の事務費を対象として、防衛省内部部局、陸上、海上、航空各幕僚監部、防衛大学校、防衛医科大学校及び陸上、航空両自衛隊の22駐屯地等において、診療報酬等請求内訳書、払込請求書等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
25年度末時点の防衛省の各機関等におけるレセプトのオンライン化の実施状況についてみると、海上自衛隊は24年4月から、防衛大学校は同年7月から実施していたが、陸上、航空両自衛隊及び防衛医科大学校は次のとおり実施していなかった。
陸上自衛隊は、183駐屯地等において24年4月から同時にレセプトのオンライン化を実施するために、専用のパソコン、通信機器等(購入価格計1731万余円)を、24年3月までに取得して、各駐屯地等に配置するなどしていた。しかし、陸上幕僚監部は、基金に対する申請等の具体的な指示を各駐屯地等にしていなかったことなどから、全駐屯地等においてレセプトのオンライン化が実施されておらず、取得した全ての機器が24年4月から26年3月までの2年間使用されていなかった。
航空自衛隊は、レセプトのオンライン化を実施するために必要となる機器等の内容を検討するなどしていたが、担当者の人事異動等の際に業務の引継ぎを十分に行っていなかったことなどから、レセプトのオンライン化に向けた具体的な計画を作成しておらず、基金に対する申請も行っていなかった。
防衛医科大学校は、24年4月からレセプトのオンライン化を実施するために、専用のパソコン1台(購入価格8万余円)を24年1月に取得するなどしていた。しかし、担当者の人事異動等の際に業務の引継ぎを十分に行っていなかったことなどから、基金に対する申請を行っておらず、また、取得したパソコンは、レセプトのオンライン化以外の用途に使用されていた。
これらのことから、陸上、航空両自衛隊及び防衛医科大学校は、基金から電子レセプトを印刷された紙媒体によるレセプトとして郵送で受け取るなどしており、レセプトの件数及び基金に対する事務費の支払額は、24年度計730,907件(うち電子レセプト計623,979件)、7085万余円、25年度計711,197件(同636,746件)、6770万余円、合計1,442,104件(同1,260,725件)、1億3855万余円となっていた。
このように、陸上、航空両自衛隊及び防衛医科大学校において、レセプトのオンライン化が実施されず、取得した機器が使用されないままとなっていたり、基金に対して支払う事務費が割高となっていたりしている事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた事務費)
陸上、航空両自衛隊及び防衛医科大学校が、24年4月からレセプトのオンライン化を実施していたものとして、電子レセプト24年度623,979件、25年度636,746件、計1,260,725件について、これらをオンラインで受け取った場合の事務費で支払額を修正計算すると、24年度計6343万余円、25年度計6028万余円、合計1億2372万余円となり、前記の事務費を24年度計741万余円、25年度計741万余円、合計1483万余円節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、陸上、航空両自衛隊及び防衛医科大学校において、基本方針に従い、着実にレセプトのオンライン化を実施することの重要性に対する理解が十分でなかったこと、また、レセプトのオンライン化の実施により事務費の節減が図られることに対する理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、陸上、航空両自衛隊及び防衛医科大学校は、レセプトのオンライン化の実施について内部部局と調整して、基金に対して申請を行い、26年9月までにレセプトのオンライン化を実施して、事務費の節減を図る処置を講じた。