防衛省は、新型インフルエンザ対策を的確かつ迅速に行うために、政府の新型インフルエンザ対策行動計画(平成21年2月改定)等を踏まえて、防衛省新型インフルエンザ対策計画(平成21年3月)(以下「対策計画」という。)を策定している。対策計画には、関係省庁との間で平素から密接な連携及び協力の実施に努めること、陸上、海上、航空各自衛隊(以下「各自衛隊」という。)等の関係部署間で新型インフルエンザ対策に関する情報及び知見の総合的な集約並びに交換を行うこと、抗インフルエンザウイルス薬を含む資器材等を計画的に整備し必要量を確保することなどが定められている。そして、防衛省は、平成20年度から24年度までの間に、対策計画等に基づいて抗インフルエンザウイルス薬リレンザ(以下「リレンザ」という。)を計84,672個(調達額計2億4772万余円)調達しており、各自衛隊の補給処等の薬品庫において備蓄している。
また、リレンザには、診療用として流通しているリレンザのほかに備蓄専用のリレンザがある。
厚生労働省は、都道府県等に対して抗インフルエンザウイルス薬の有効期間の延長に関する通知を適時に発出しており、21年6月に「抗インフルエンザウイルス薬リレンザの有効期間の延長について」(平成21年6月薬食審査発第0601001号。以下「21年通知」という。)を発出している。これによれば、21年6月以降に製造されるリレンザの有効期間が従前の5年間から7年間に延長されるとともに、既に国、都道府県により備蓄されているものについても、室温において適切に保管されているリレンザについては、製造後7年間は承認された規格を逸脱することはないと考えられるとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性、効率性等の観点から、備蓄されているリレンザについて、薬剤に関する最新の情報を反映して適切な管理が行われているかなどに着眼して、20年度に備蓄を目的として調達されて46補給処等において管理されているリレンザ(以下「20年度リレンザ」という。)計24,723個(調達額計8280万余円)を対象として、内部部局、陸上、海上、航空各幕僚監部(以下「各幕僚監部」という。)、陸上自衛隊補給統制本部、海上、航空両自衛隊補給本部、各自衛隊の補給処等において、リレンザの管理状況や契約書、物品管理簿等の書類を確認したり、21年通知に対する認識等について担当者から説明を聴取したりするなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
20年度リレンザの製造は19年9月であり、製造時の有効期間は製造後5年間であったことから、包装には使用期限が24年9月と表示されていた。このため、27補給処等(注1)は、26年3月までに、20年度リレンザ計15,548個(調達額計5207万余円)を廃棄していた。
防衛省によれば、21年通知について、「承認された規格を逸脱することはないと考えられる」期間の延長の対象は国等により備蓄されている備蓄専用のリレンザであると認識し、診療用として流通しているリレンザを調達した20年度リレンザについては21年通知による期間の延長の対象にはならないと判断して、補給処等へ連絡するなど特段の対応を執らなかったとしている。そして、この判断を行う際に、製造販売業者に問い合わせるなどしていたものの、21年通知の発出元である厚生労働省に21年通知の趣旨等の確認を行っていなかった。
しかし、本院が厚生労働省に対して21年通知の趣旨等を確認したところ、次のとおりであった。
したがって、薬品庫で室温において適切に保管されていれば、19年9月製造の20年度リレンザも29年9月(注2)まで承認された規格を逸脱することはないと考えられることから、防衛省において、21年通知が発出されたことにより必要となる対応について十分な検討を行うことなく20年度リレンザ計15,548個(調達額計5207万余円)を廃棄した事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、防衛省において、21年通知が発出されたことにより必要となる対応の検討に当たり、発出元である厚生労働省に対して21年通知の趣旨等を確認すること及び実際に薬剤を管理している補給処等に対して情報を伝達して周知することの必要性に対する理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、防衛省は、リレンザを含む備蓄している抗インフルエンザウイルス薬の適切な管理を行うよう次のような処置を講じた。