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  • 平成25年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
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  • 第2 株式会社日本政策金融公庫 |
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

東日本大震災復興特別貸付における低利貸付の実施に当たり、低利適用限度額を超えて低利貸付が行われている貸付けに係る差額利息を徴求するよう適宜の処置を要求し、同様の貸付けを実施している他の融資機関との間で協定等を締結することなどにより、低利貸付が適正に実施されるよう是正改善の処置を求めたもの


科目
貸出金
部局等
株式会社日本政策金融公庫本店、12支店
貸付けの概要
東日本大震災により事業所又は主要な事業用資産が全壊したり、流失したりするなどの直接被害を受けるなどした中小企業者等に資金を低利で貸し付けるもの
低利適用限度額を超えて低利貸付が行われた貸付けの件数及び貸付金額(1)
32件 8億9701万円(平成23、24両年度)
(1)の貸付けに係る差額利息(2)
1344万円
(1)及び(2)の計
9億1045万円

【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】

東日本大震災復興特別貸付における低利貸付の実施について

(平成26年10月21日付け 株式会社日本政策金融公庫代表取締役総裁宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

1 東日本大震災復興特別貸付の概要等

(1)東日本大震災復興特別貸付の概要

貴公庫は、株式会社日本政策金融公庫法(平成19年法律第57号)に基づき、一般の金融機関が行う金融を補完することを旨としつつ、国民一般、中小企業者及び農林水産業者の資金調達を支援するための金融の機能を担うなどし、もって国民生活の向上に寄与することを目的としている。

そして、この目的を達成するために、貴公庫は、国民一般向けの業務(以下「国民生活事業」という。)として、小規模事業者に対する小口の事業資金の貸付け(以下「国民生活貸付」という。)を行ったり、中小企業者向けの業務(以下「中小企業事業」という。)として、中小企業者に対する事業資金の貸付け(以下「中小企業貸付」という。)を行ったりなどしている。

貴公庫は、平成23年5月から、財務省が定めた「東日本大震災復興特別貸付制度要綱」(平成23年財政第251号)、財務省及び中小企業庁が定めた「東日本大震災復興特別貸付制度要綱」(平成23年平成23・05・19中庁第3号・財政第251号)等に基づき、国民生活貸付及び中小企業貸付の一環として、東日本大震災復興特別貸付を実施している。そして、国は、貴公庫が東日本大震災復興特別貸付を実施するために必要な財政支援等として、23年度は一般会計から、24年度以降は東日本大震災復興特別会計から、それぞれ貴公庫に対して出資を行っている。

東日本大震災復興特別貸付には、東日本大震災(23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による災害及びこれに伴う原子力発電所事故による災害をいう。以下同じ。)により事業所又は主要な事業用資産が全壊したり、流失したりするなどの直接被害を受けるなどした小規模事業者又は中小企業者に対する貸付け(以下「直接被害貸付」という。)及び直接被害を受けた者の事業活動に依存し、間接的に被害を受けた者に対する貸付け(以下、直接被害貸付とを合わせて「直接被害貸付等」という。)がある。

このうち、直接被害貸付は、借受者が貸付要件に合致した場合に、貸付後3年間の貸付利率を基準利率から1.4%引き下げ、貸付後4年目以降の貸付利率を基準利率から0.5%引き下げるなどする貸付けである。そして、利率を1.4%引き下げることができる貸付金額には限度額が設けられており、この金額を超えた貸付金額については、引き下げられる利率が0.5%となることとなっている。そして、この限度額は、国民生活貸付においては3000万円、中小企業貸付においては1億円となっている(以下、貸付利率の引下げなどを行うことができる貸付金額の限度額を「低利適用限度額」、低利適用限度額が設けられている貸付けを「低利貸付」という。)。

財務省及び中小企業庁によれば、低利適用限度額を設けることとしたのは、より多くの借受者が限りある復興予算を効果的に利用できるようにするためであるとしている。

(2)低利適用限度額の確認等

東日本大震災の被害を受けた者に対する貸付けについては、株式会社商工組合中央金庫(以下「商工中金」という。)、沖縄振興開発金融公庫(以下「沖縄公庫」という。)及び株式会社日本政策投資銀行(以下、商工中金及び沖縄公庫と合わせて「他の融資機関」という。)においても、貸付利率を引き下げるなどの方法により、貴公庫が実施している直接被害貸付等とおおむね同様の貸付けを行っている。これらの貸付けは、借受者が、それぞれの貸付要件に合致すれば、併せて貸付けを受けることができることになっている。

そして、財務省及び中小企業庁が定めた東日本大震災復興特別貸付制度要領等によれば、貴公庫又は他の融資機関が低利貸付を行おうとする場合の低利適用限度額は、貴公庫及び他の融資機関における低利貸付の貸付金元高の合計金額により判断することとされている。

そのため、貴公庫は、低利貸付を行おうとするときは、本店において作成した内規に基づき、融資相談等の際に、貴公庫及び他の融資機関における低利貸付の貸付金元高の合計金額が低利適用限度額を超えていない旨の確認を借受者に行い、貸付契約時にこの旨を記載した書面に借受者が署名した念書等の提出を受け、これを保管することとしている。

また、貴公庫は、借受者が条件違反等により低利貸付の要件に該当しなくなったなどの場合には、低利貸付に適用される貸付利率の基準利率からの引下げ率(直接被害貸付においては1.4%)と低利適用限度額を超えた貸付金額に適用される貸付利率の基準利率からの引下げ率(同0.5%)との差(0.9%)により算出した利息相当額(以下「差額利息」という。)を借受者から徴求することとしている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、効率性等の観点から、低利適用限度額の確認が適切に行われ、低利貸付が適正に実施されているかなどに着眼して、25年3月末までに貴公庫が行った直接被害貸付等34,936件(貸付金額計5080億6720万円)を対象として検査した。

検査に当たっては、貴公庫本店において貸付データ等を確認したり、13支店(注1)において低利適用限度額の確認方法等について担当者から説明を聴取したりするなどの方法により会計実地検査を行った。また、必要に応じて本店を通じて上記支店以外の支店から貸付関係書類の提出を受けるとともに、他の融資機関からも貸付データ等の提出を受けるなどして検査した。

(注1)
13支店  旭川、釧路、帯広、北見、盛岡、一関、仙台、千葉、船橋、立川、福井、名古屋、米子各支店

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)低利適用限度額の確認等の状況について

貴公庫は、前記のとおり、低利貸付を行おうとするときは、内規に基づき、低利貸付の貸付金元高の合計金額が低利適用限度額を超えていない旨の確認を借受者に行い、借受者が署名した念書等の提出を受けることとしている。

しかし、貴公庫が借受者から提出を受けた念書等を確認したところ、低利適用限度額を超えて低利貸付を受けないことについて確約する旨の文言が記載されているのみで、借受者が貸付けを受けている他の融資機関の名称や貸付金額等といった、低利貸付の貸付金元高の合計金額を把握するための情報が記載されないものとなっていた。そして、各支店においては、低利貸付の貸付金元高の合計金額が低利適用限度額を超えていない旨の確認を借受者に行うなどしたとしているが、記録等が残されていないため、その内容が確認できない状況となっていた。

また、貴公庫と他の融資機関との間及び貴公庫の国民生活事業と中小企業事業との間において、低利貸付の貸付金元高の合計金額を把握するために、借受者の承諾を得て貸付金元高に係る証ひょうを相互に提供するような協力体制が執られていなかった。

このように、貴公庫において、借受者が低利適用限度額を超えて貸付けを受けていないかについて、実効性のある確認を行うような仕組みとなっていなかった。

(2)低利適用限度額を超える貸付けについて

貴公庫が低利貸付を行った借受者について、貴公庫及び他の融資機関の貸付データ等を用いるなどして、低利貸付の貸付金元高の合計金額について確認したところ、低利適用限度額を超えて低利貸付が行われている事態が見受けられた。

すなわち、貴公庫が低利貸付を行うに当たり、既に他の融資機関又は貴公庫の他の事業において低利貸付が行われていて、これらの貸付金元高を低利適用限度額から差し引いて低利貸付を行う貸付金額を決定すべきであったのに、これを考慮せずに低利適用限度額を超えて低利貸付を行っているものが、12支店(注2)において計32件(国民生活貸付16件、中小企業貸付16件)見受けられた。そして、この32件の貸付けにおいて、低利適用限度額を超えて低利貸付が行われている貸付金額は計8億9701万円(国民生活貸付3億1351万円、中小企業貸付5億8350万円)、差額利息は計1344万余円(国民生活貸付434万余円、中小企業貸付910万余円)となっていた。

(注2)
12支店  盛岡、一関、仙台、山形、福島、水戸、宇都宮、船橋、東京中央、大阪、奈良、津各支店

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

貴公庫大阪支店は、宮城県の工場等が被災した借受者Aから直接被害貸付として1億円の融資相談を受け、平成24年7月に、基準利率から1.4%引き下げた貸付利率で1億円を貸し付けていた。そして、同支店は、当該貸付けを行うに当たって、他の融資機関による低利貸付がないことを確認したとしていた。

しかし、借受者Aは、実際には商工中金船場支店から、23年5月に、1億円の低利貸付を受けており、貴公庫の貸付時において低利貸付の利率を適用できない者であった。

なお、貴公庫は、本院の指摘に基づき、当該貸付けに係る差額利息114万余円を借受者Aに徴求し、26年4月に同人から全額が納付されている。

(是正及び是正改善を必要とする事態)

貴公庫において、借受者が低利適用限度額を超えて貸付けを受けていないかについて、実効性のある確認を行うような仕組みとなっていない事態及び低利適用限度額を超えて低利貸付が行われている事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴公庫と他の融資機関との間及び貴公庫の国民生活事業と中小企業事業との間において、低利貸付の貸付金元高の合計金額を把握するために、借受者の承諾を得て貸付金元高に係る証ひょうを相互に提供するような協力体制が執られていないことなどによると認められる。

3 本院が要求する是正の処置及び求める是正改善の処置

東日本大震災復興特別貸付は、26年度以降も引き続き実施することとされており、より多くの借受者が限りある復興予算を効果的に利用できるようにすることが今後とも求められるところである。

ついては、貴公庫において、低利適用限度額を超えて低利貸付が行われている前記の貸付けについて、差額利息のうち、まだ徴求していないものを徴求するよう適宜の処置を要求するとともに、低利貸付が適正に実施されるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。

  • ア 貴公庫と他の融資機関との間で、低利貸付の貸付金元高の合計金額を把握するための協力体制が執られるよう、他の融資機関との間で協定等を締結すること
  • イ 内規において、アの協定等に基づくなどして、他の融資機関や貴公庫の他の事業から貸付金元高に係る証ひょうの提供を受けるなどの低利適用限度額の確認を行い、その内容を記録するなどのための具体的な方法を財務省及び中小企業庁と協議した上で定めて、各支店に周知すること