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  • 第3章 個別の検査結果|第2節 団体別の検査結果|第3 日本私立学校振興・共済事業団|意見を表示し又は処置を要求した事項

日本私立学校振興・共済事業団が実施している宿泊事業について、事業の意義や採算性を踏まえて宿泊施設の運営の見直しが十分に行われるよう意見を表示したもの


科目
(福祉勘定)宿泊経理
部局等
日本私立学校振興・共済事業団
宿泊事業の概要
私立学校教職員共済制度の加入者の保養若しくは宿泊又は教養のための宿泊施設の運営管理を行うもの
検査の対象とした宿泊施設数
会館8、宿泊所4、保養所4、計16施設
宿泊経理の繰越欠損金の額
121億5722万円(背景金額)(平成24年度末)

【意見を表示したものの全文】

日本私立学校振興・共済事業団の宿泊施設の運営について

(平成26年7月8日付け 日本私立学校振興・共済事業団理事長宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 宿泊事業の概要等

(1)貴事業団の概要

貴事業団は、私立学校の教育の充実及び向上等並びに私立学校教職員の福利厚生を図るため、補助金の交付、資金の貸付けその他私立学校教育に対する援助に必要な業務を総合的かつ効率的に行うとともに、私立学校教職員共済法(昭和28年法律第245号。以下「私学共済法」という。)の規定による私立学校教職員共済制度(以下「私学共済」という。)を運営し、もって私立学校教育の振興に資することを目的としており、私学共済の運営において、短期給付事業、長期給付事業及び福祉事業を実施している。

貴事業団の経理は、日本私立学校振興・共済事業団法(平成9年法律第48号。以下「事業団法」という。)等により、助成勘定、短期勘定、長期勘定、福祉勘定及び共済業務勘定に区分されており、福祉勘定は、更に保健経理、医療経理、宿泊経理、貯金経理及び貸付経理に区分されている。

(2)宿泊事業の概要

ア 貴事業団が運営管理する宿泊施設の概要等

貴事業団は、福祉事業の一環として、私学共済の加入者の保養若しくは宿泊又は教養のための施設(以下「宿泊施設」という。)の運営管理を行っている(以下、この事業を「宿泊事業」という。)。宿泊事業については、平成13年12月に閣議決定された「特殊法人等整理合理化計画」(以下「整理合理化計画」という。)等を受けて、15年4月から19年3月までに8施設が廃止されており、24年度末における宿泊施設数は、表1のとおり、都市型多目的施設としての会館が8施設、名所旧跡観光施設としての宿泊所が4施設、リゾート健康増進施設としての保養所が4施設、計16施設となっている。

表1 宿泊施設の概要(平成24年度)

項目
宿泊施設
開所年月 所在地 客室数等
客室数(室) 定員(人)
都市型多目的施設
  北海道会館 平成4年6月 北海道札幌市 163 268
宮城会館 昭和62年11月 宮城県仙台市 66 88
湯島会館 昭和59年1月 東京都文京区 213 305
愛知会館 平成8年2月 愛知県名古屋市 178 213
京都会館 平成8年6月 京都府京都市 99 140
大阪会館 昭和57年9月 大阪府大阪市 290 415
広島会館 昭和61年6月 広島県広島市 107 145
九州会館 昭和53年3月 福岡県福岡市 73 101
名所旧跡観光施設
  湯河原宿泊所 昭和53年9月 神奈川県足柄下郡湯河原町 29 117
箱根宿泊所 昭和56年4月 神奈川県足柄下郡箱根町 24 80
金沢宿泊所 昭和54年4月 石川県金沢市 62 92
京都宿泊所 昭和59年3月 京都府京都市 17 50
リゾート健康増進施設
  鎌倉保養所 昭和59年6月 神奈川県鎌倉市 10 36
葉山保養所 昭和49年5月 神奈川県三浦郡葉山町 13 42
志賀高原保養所 平成7年12月 長野県下高井郡山ノ内町 12 48
軽井沢保養所 昭和62年7月 長野県北佐久郡軽井沢町 15 48

そして、貴事業団は、宿泊事業の実施に当たり、毎年度、各宿泊施設の収支状況等に係る経営分析を行っている。

イ 宿泊事業に係る経理

宿泊事業に係る経理は、事業団法等の規定により、福祉勘定の宿泊経理において経理されている。宿泊施設の運営費用は、利用料金等の宿泊施設の運営に伴う収入のほか、私学共済の加入者、学校法人等が負担する福祉事業分掛金の一部を財源とする福祉勘定の保健経理からの繰入金、宿泊施設の建設資金等に充てるための長期勘定からの長期借入金等によって賄われている。

そして、宿泊経理に係る損益及び繰越欠損金の状況をみると、近年では、20年度から23年度までは損失(20年度6億6466万余円、21年度3億7972万余円、22年度4億5755万余円、23年度1971万余円)を、24年度は利益(3億5346万余円)を計上しているが、24年度末における宿泊経理の繰越欠損金は121億5722万余円に上っている。

ウ 宿泊施設の利用料金

宿泊施設は私学共済の加入者のための施設として運営されていることから、貴事業団は、加入者、元加入者及びそれらの被扶養者等(以下「加入者等」という。)に適用する宿泊料金を基本料金として設定し、一般利用者に適用する宿泊料金については、基本料金に一定額を上乗せするなどして設定している。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

宿泊事業については、整理合理化計画において、「組合員のニーズ若しくは事業の意義が低下し、又は著しい不採算に陥っている施設は、整理する」とされていた。一方、宿泊経理においては、保健経理から近年、毎年度20億円程度の繰入れを受けるなどしているが、宿泊経理の繰越欠損金は、前記のとおり、24年度末で121億5722万余円と依然として多額に上っている。

そこで、本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、宿泊施設の設置目的は十分に達成されているか、宿泊施設の運営は経済的、効率的に行われているかなどに着眼して、貴事業団本部及び16施設を対象に、貴事業団から主に22年度から24年度までの収支状況等に関する資料を徴するなどして分析するとともに、貴事業団本部及び9施設において貴事業団による経営分析の結果や総勘定元帳等の関係資料を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)利用状況

貴事業団の宿泊施設には、宿泊(会館、宿泊所及び保養所)、婚礼(会館)、宴会(会館)、集会(会館)及び食堂(各会館が直営で運営する食堂に係るもの。以下同じ。)の五つの営業部門がある。

各営業部門の24年度の利用状況についてみたところ、16施設の利用数の合計は、宿泊部門は437,463人、婚礼部門は1,336組、宴会部門は7,754件、集会部門は8,995件、食堂部門は609,423人となっていた。そして、15年度から24年度までの利用数の推移については、一部の宿泊施設において食堂の運営を委託により行っていた期間があるなど条件が異なり経年比較になじまないことから、食堂部門を除く4部門についてみたところ、宿泊、集会両部門は22年度まで減少傾向にあったものの23、24両年度は2年続けて増加しており(両部門とも18年度が最多で、それぞれ477,941人、10,033件)、宴会部門は増加傾向(16年度が最少で6,356件)、婚礼部門は減少傾向(15年度が最多で2,053組)にある。

さらに、加入者等又は一般利用者といった利用者種別による利用数の集計を行っていない食堂部門を除く4部門における全利用数に占める加入者等数の割合についてみたところ、22年度から24年度までの状況は次のとおりとなっていた(表2参照)。宿泊部門は、会館が60%台(会館別では40%台半ば~70%台半ば)で、宿泊所及び保養所が90%台(宿泊所別又は保養所別では、宿泊所がおおむね90%台、保養所が80%台後半~100%)で、婚礼部門は10%台(会館別では、60%台後半より高い率で推移している会館もあれば各年度10%に満たない会館もあり)で、宴会部門及び集会部門は30%台(会館別では、両部門とも60%台前半より高い率で推移している会館もあれば各年度30%に満たない会館もあり)で、それぞれ推移していた。

表2 利用者種別(加入者等及び一般利用者)利用状況(平成22年度~24年度)

項目
部門・宿泊施設
平成22年度 23年度 24年度
加入者等
(A)
一般利用者
(B)
加入者等の利用率(%)
(A)/(B)
加入者等
(A)
一般利用者
(B)
加入者等の利用率(%)
(A)/(B)
加入者等
(A)
一般利用者
(B)
加入者等の利用率(%)
(A)/(B)
宿泊部門 京都会館 人数 24,973 9,037 34,010 73.4 26,271 8,429 34,700 75.7 27,036 9,278 36,314 74.5
愛知会館 19,896 19,301 39,197 50.8 18,238 22,350 40,588 44.9 24,235 28,734 52,969 45.8
会館(8施設)計 212,441 124,813 337,254 63.0 213,957 126,783 340,740 62.8 224,115 149,641 373,756 60.0
箱根宿泊所 12,234 390 12,624 96.9 12,571 503 13,074 96.2 12,486 496 12,982 96.2
金沢宿泊所 7,633 667 8,300 92.0 7,646 498 8,144 93.9 8,275 1,283 9,558 86.6
宿泊所(4施設)計 39,643 2,769 42,412 93.5 40,066 2,868 42,934 93.3 39,610 4,182 43,792 90.5
志賀高原保養所 2,785 0 2,785 100.0 2,956 0 2,956 100.0 2,742 0 2,742 100.0
鎌倉保養所 5,902 676 6,578 89.7 5,519 607 6,126 90.1 5,872 757 6,629 88.6
保養所(4施設)計 18,484 1,725 20,209 91.5 17,664 1,429 19,093 92.5 18,440 1,475 19,915 92.6
婚礼部門 宮城会館 組数 50 13 63 79.4 40 8 48 83.3 53 26 79 67.1
人数 2,673 729 3,402 78.6 1,546 542 2,088 74.0 2,682 1,246 3,928 68.3
愛知会館 組数 26 342 368 7.1 19 322 341 5.6 10 279 289 3.5
人数 1,340 13,445 14,785 9.1 903 12,706 13,609 6.6 484 11,589 12,073 4.0
会館(8施設)計 組数 251 1,359 1,610 15.6 241 1,239 1,480 16.3 234 1,102 1,336 17.5
人数 15,284 73,333 88,617 17.2 12,454 66,582 79,036 15.8 12,080 61,909 73,989 16.3
宴会部門 宮城会館 件数 522 182 704 74.1 548 326 874 62.7 637 300 937 68.0
人数 19,770 5,728 25,498 77.5 21,539 11,559 33,098 65.1 23,759 11,433 35,192 67.5
愛知会館 件数 284 668 952 29.8 326 924 1,250 26.1 309 1,049 1,358 22.8
人数 16,504 36,590 53,094 31.1 16,597 44,209 60,806 27.3 17,209 49,904 67,113 25.6
会館(8施設)計 件数 2,426 4,343 6,769 35.8 2,407 5,004 7,411 32.5 2,504 5,250 7,754 32.3
人数 112,155 200,817 312,972 35.8 110,174 222,593 332,767 33.1 113,592 241,758 355,350 32.0
集会部門 宮城会館 件数 638 231 869 73.4 624 374 998 62.5 729 358 1,087 67.1
人数 25,474 8,619 34,093 74.7 24,461 14,884 39,345 62.2 27,523 14,132 41,655 66.1
京都会館 件数 83 372 455 18.2 100 343 443 22.6 119 408 527 22.6
人数 4,272 16,681 20,953 20.4 4,902 14,884 19,786 24.8 5,049 17,910 22,959 22.0
会館(8施設)計 件数 3,057 5,210 8,267 37.0 3,071 5,440 8,511 36.1 3,183 5,812 8,995 35.4
人数 137,160 244,751 381,911 35.9 144,785 253,446 398,231 36.4 146,853 262,898 409,751 35.8
(注)
本表は、部門ごとに平成24年度の加入者等の利用率が最も高い宿泊施設及び最も低い宿泊施設を示したものである。

一方、貴事業団は、全利用数に係る目標を設定しているものの、加入者等の利用に係る目標を設定してその達成状況を評価するなどの取組を行っていない。しかし、宿泊施設は私学共済の加入者のための施設として運営されるものであり、加入者等の利用状況は事業の有効性を評価する重要な指標であることから、貴事業団において、全利用数だけでなく加入者等の利用に係る目標も設定した上で、それらの目標の達成に向けて取り組み、宿泊施設の利用の向上を図る必要があると認められる。

(2)営業部門別の収支状況

宿泊施設のうち、複数の営業部門を有する会館における営業部門別の収支状況についてみたところ、貴事業団は、収益について行っている営業部門別の管理を、費用については行っていない。

貴事業団は、この理由について、光熱給水費等の各営業部門に共通する経費や複数の営業部門の業務を兼務する職員の人件費等(以下「共通経費等」という。)をどのように営業部門別に配賦するかについて困難な問題があり、共通経費等に係る配賦基準を設定していないためであるなどとしている。

しかし、各営業部門における収益性を踏まえた最適な資源配分を行ったり、収益だけでなく費用に対する現場の意識を高めることなどにより収益性向上のための創意工夫が生まれやすい環境を整備したり、各営業部門の費用を把握した上で経営分析を行ったりするためには、共通経費等に係る配賦基準を設定するなど営業部門別の収支状況を管理することについて検討する必要があると認められる。

(3)貴事業団における経営分析

ア 経営分析の結果

貴事業団における経営分析の結果は、次のとおりである。

(ア)損益分岐点比率等

24年度における各宿泊施設の損益分岐点比率(注1)についてみたところ、経営が良好とされる80%以下の宿泊施設は1施設のみで(当該施設は79.5%)、採算性の確保に向けて抜本的な対策が必要とされる100%以上の宿泊施設が9施設見受けられた(最高251.3%)。また、3会館は、全ての営業部門において、損益分岐点売上高を達成するのに必要な宿泊客数、婚礼組数等を確保できていなかった。

(注1)
損益分岐点比率  実際の売上高に対する損益分岐点売上高の割合
(イ)償却前営業利益率、営業総経費率等

24年度における各宿泊施設の償却前営業利益率についてみたところ、貴事業団が経営分析のためにホテル関係諸刊行物の資料を基に設定した標準的な指標(以下「標準指標」という。)(14%~18%)を満たす宿泊施設は1施設のみで、総じて収益性が低い状況となっていた。

また、営業総経費率(注2)については、11施設において標準指標(82%~86%)を上回っており(最高119.3%)、売上高に比べて営業活動に多くの費用を要している状況となっていた。そして、人件費率(注3)については、全ての宿泊施設において標準指標(30%)を上回っていた(最高69.9%、最低37.6%)。

(注2)
営業総経費率  売上高に対する営業活動に係る費用の割合
(注3)
人件費率  売上高に対する人件費の割合
(ウ)Rev PAR

貴事業団は、宿泊所及び保養所の宿泊料金については、一泊二食付きの料金を原則としていて、Rev PAR(注4)による経営管理の対象にはなじまないとして、会館についてのみ24年度からRev PARによる経営管理を行っている。

同年度における各会館のRev PARは、3,225円から6,969円までとなっていた。

そして、各会館における基本料金の定価のうち最低価格に対するRev PARの割合は49.9%から104.1%までとなっていて、このうち2施設においては、Rev PARがそれぞれ49.9%及び50.6%と定価の半分程度で、客室の収益性が低い状況となっていた。したがって、客室の利用状況を改善させるなどの方策を検討するとともに、費用の回収を十分に考慮して宿泊料金を設定する必要があると認められる。

(注4)
Rev PAR(Revenue Per Available Room)  実際に利用された客室の売上高を利用可能な客室数(全客室数)で除して算出した1日1室当たりの客室売上高で、利用されなかった客室の損失分も考慮できることから、宿泊施設の収益性を測る最適な指標とされ、Rev PARの最大化を図ることにより効率的な経営が可能となるとされている。

イ 経営分析の結果の活用状況

各宿泊施設は、経営分析の結果を過年度と比較したり他の施設と比較したりして、経営状況を把握するとともに、収益性の向上に向けた方策の検討に活用している。そして、各宿泊施設は、営業収益及び営業費用について、それぞれ目標値を定めた上で、目標値に対する現況を職員に周知して情報共有を図っている。

しかし、営業費用の目標値については、収益性の向上に向けた取組の実施により収益が伸びることを前提にして、当年度の決算推計額に伸び率を乗ずることなどにより前年度よりも高い値を設定していることから、収益の伸びに伴う費用の増加を見込むだけでなく、経営分析の結果等を活用して節減すべき費用項目等を具体的に定めた上で目標値を設定する必要があると認められる。

(4)運営の改善に向けた取組状況

貴事業団は、19年度に宿泊施設合理化計画検討委員会(以下「合理化計画検討委員会」という。)を設置して、年度ごとに加入者等へのサービスの向上及び運営改善等に向けた取組事項を定めるなどして、宿泊施設の経営改善策を検討している。24年度の取組事項は、経費削減の観点から物品の購入及びその効率的使用等について検証すること、附帯設備を生かした宿泊プランの企画を行うことなどとなっている。

そこで、物品の調達方法等についてみたところ、婚礼衣装に係る業務を行う業者に会館内で営業を行わせて、売上金の一部を収受するなどする業務委託契約を締結することにより当該業務に要する経費を節減する取組を行っている会館が見受けられた。したがって、婚礼利用組数が減少傾向にある中で、自ら婚礼衣装を購入している会館においては、当該業務に要する経費の削減等について十分に検証する必要があると認められる。

また、各宿泊施設の附帯設備の活用状況についてみたところ、近年婚礼を行う神殿の年間の利用組数が一桁台であるなど利用が低調な状況が続いたことなどから、神殿を改修して宴会場及び集会場として活用することにより収益の向上に努めている会館や、庭園の鑑賞及び数寄屋造りの旧館での食事を組み合わせた観光バスツアーのプランを企画して、附帯設備の有効活用を図るとともにサービスの向上に努めている宿泊所が見受けられた。したがって、附帯設備の具体的な活用策を検討するなどの取組を行っていない他の宿泊施設においては、附帯設備の利用状況を踏まえて、様々な媒体を活用して顧客のニーズを把握して、ニーズに合った附帯設備の活用方法を検討するなど、運営の改善を図る必要があると認められる。

(5)宿泊施設の存続等に係る検討状況

貴事業団は、整理合理化計画等を受けて8施設を廃止した理由について、外部委員で構成する宿泊施設経営改善委員会が17年4月に策定した「宿泊施設の経営改善及び統廃合に係る検討基準」(以下「検討基準」という。)で定められた宿泊施設の統廃合を検討するための目安となる指標(会館については償却前営業利益がマイナスとなっていること又は営業収益に対する業務委託費等を除く人件費の割合が50%以上となっていること、宿泊所については償却前営業利益がマイナスとなっていること、保養所については収支率(注5)が130%以上となっていること)に該当し、経営改善策を実施したにもかかわらず3年連続して経営状況が改善されなかったことなどから、同委員会において廃止することが適当であると判断されたためとしている。そして、貴事業団は、同委員会については8施設の廃止を決定したことなどでその使命を終えたとして、20年度以降は同委員会を開催しておらず、統廃合に係る検討を行っていない。

そこで、本院において、現存する宿泊施設における22年度から24年度までの状況を上記の指標と比較したところ、表3のとおり、6施設が3か年とも指標に該当していた。

表3 検討基準において設定されている指標との比較(平成22年度~24年度)

(単位:千円、%)
項目
宿泊施設
償却前営業利益 営業収益に対する業務委託費等を除く人件費の割合 収支率
平成22年度 23年度 24年度 22年度 23年度 24年度 22年度 23年度 24年度
北海道会館 38,086 20,099 71,847 38.8 39.7 37.5
宮城会館 △99,720 △144,138 8,001 57.3 53.0 45.2
湯島会館 187,433 187,043 297,668 40.4 41.5 39.2
愛知会館 41,148 26,313 51,163 40.0 41.2 40.3
京都会館 16,089 △55,705 △41,237 40.1 44.5 45.4
大阪会館 △35,223 13,299 △163,827 46.2 44.3 51.1
広島会館 15,324 △1,986 12,658 41.3 44.1 43.5
九州会館 △68,700 △60,335 △90,182 52.6 56.8 69.7
会館計 94,437 △15,410 146,090 42.6 43.8 43.6
湯河原宿泊所 △27,270 △691 △17,200
箱根宿泊所 776 2,671 8,959
金沢宿泊所 △4,832 △3,066 △653
京都宿泊所 9,026 11,680 12,244
宿泊所計 △22,301 10,595 3,350
鎌倉保養所 118.8 129.6 125.7
葉山保養所 168.4 162.9 161.2
志賀高原保養所 228.3 198.9 203.1
軽井沢保養所 148.1 146.3 140.8
保養所計 153.5 152.3 148.7
(注)
  は、3か年とも指標に該当していた宿泊施設を示している。

貴事業団は、現在、合理化計画検討委員会において経営改善策を検討して、その検討結果を私学共済法に基づき設置している共済運営委員会に諮問した上で経営改善策を実施しており、検討基準は事実上廃止状態にあるとしている。しかし、表3のように採算性が確保できていない宿泊施設もあることなどから、今後は整理合理化計画の趣旨を踏まえて、宿泊施設の統廃合を具体的に検討できるよう新たに基準を策定するなどした上で、宿泊事業の見直しについて継続的に検討する必要があると認められる。

(注5)
収支率  営業収益に対する営業外費用を除く支出の割合

(改善を必要とする事態)

以上のように、宿泊施設の運営において、宿泊施設の利用の向上を図るに当たって全利用数に係る目標は定められているものの加入者等の利用に係る目標は定められていなかったり、営業部門別の収支状況が管理されていなかったり、経営分析の結果の活用が十分なものとなっていなかったり、運営改善に向けた取組が十分なものとなっていなかったり、整理合理化計画の趣旨を踏まえた宿泊施設の統廃合に係る検討が継続的に行われていなかったりしている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴事業団において、宿泊施設の設置目的の達成状況、収支状況等に応じた宿泊事業の見直しなどについての検討が十分でないことなどによると認められる。

3 本院が表示する意見

貴事業団は、私学共済の加入者等の福利厚生を図るため、福祉事業の一環として宿泊事業を実施していることから、加入者等の利用の向上を図ることは重要である。そして、加入者等の利用の向上を図るとともに、一般利用者の利用を向上させて収益を得ることで宿泊事業の採算性を確保することが重要であり、これにより宿泊施設の利用料金を適切に設定して、加入者等の福利厚生に資する宿泊施設を提供することができる。貴事業団は、これらのことを念頭に置いた上で、多額に上っている宿泊経理の繰越欠損金の削減に努める必要がある。

ついては、貴事業団において、宿泊事業の意義や採算性を踏まえて宿泊施設の運営の見直しが十分に行われるよう、次のとおり意見を表示する。

  • ア 宿泊施設の利用の向上を図るため全利用数に係る目標だけでなく宿泊施設の設置目的を踏まえて加入者等の利用に係る目標も設定した上で、それらの目標の達成に向けて取り組むこと
  • イ 共通経費等に係る配賦基準を設定するなどの営業部門別の収支状況の管理方法及び当該収支状況に関する情報の活用方法について検討すること
  • ウ 経営分析の結果のより有効な活用方法について検討すること
  • エ 各宿泊施設の附帯設備の活用を図るなどして運営の改善に向けた取組を更に推進すること
  • オ 整理合理化計画の趣旨を踏まえて、宿泊事業の見直しについて継続的に検討すること