全国健康保険協会(以下「協会」という。)は、船員保険法(昭和14年法律第73号)に基づき、保険者として船員保険事業を管掌している。そして、協会は、船員保険事業に関する業務の一環として福祉事業に関する業務を行うこととなっており、協会が行う福祉事業は、高額療養費の貸付事業、無線医療助言事業、船員保険保養事業(以下「保養事業」という。)等となっている。
このうち、保養事業は、船員保険保養所(以下「保養所」という。)等を活用して、船員保険の被保険者、被保険者であった者及びその家族(以下「加入者等」という。)に対して、疲労回復、静養、家族との団らんの場を提供する事業であり、協会は、一般財団法人船員保険会(平成25年3月31日以前は財団法人船員保険会。以下「船保会」という。)との間で船員保険保養事業委託契約(以下「委託契約」という。)を締結して、保養事業の一部を委託して実施させている。
委託契約書及びこれに基づいて定められた船員保険保養事業実施要領(以下「要領」という。)によれば、船保会が実施する保養事業は、加入者等の優先利用等のために、4保養所(注)において、1日当たり宿泊室を3室ずつ加入者等以外の者からの宿泊予約を受け付けずに空室として確保しておく事業(以下「宿泊室確保事業」という。)等とされている。
また、協会は、要領に基づき、各保養所の各月の営業日数に空室として確保した宿泊室数である3を乗じて延べ宿泊室数を算出し、これに、1室1日当たりの委託費単価を乗ずるなどして算定した宿泊料相当額を宿泊室確保事業に係る委託費として船保会に支払うこととしている。そして、協会は、船保会から毎月提出される請求書等に基づいて委託費を支払っており、その額は、24年度1億0615万余円、25年度1億0630万余円、計2億1246万余円となっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、委託契約における委託費は適切に算定されているかなどに着眼して、24、25両年度の宿泊室確保事業に係る上記の委託費を対象として、協会本部、船保会本部、4保養所において、契約書、請求書等の書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
24、25両年度に、4保養所において実施した宿泊室確保事業により確保した延べ宿泊室数は、表のとおり、24年度4,365室、25年度4,371室、計8,736室となっていた。
しかし、上記の8,736室の利用状況についてみたところ、このうちの1,997室(24年度963室、これらに係る委託費相当額2342万余円、25年度1,034室、これらに係る委託費相当額2513万余円、両年度の委託費相当額計4856万余円)については、加入者等又は当該営業日の前日以降に宿泊予約をした加入者等以外の利用者が実際に宿泊していて、営業日当日に空室とはなっていなかった。そして、4保養所は、これらの1,997室について、利用者から宿泊料を徴収しており、協会が宿泊料相当額として支払った委託費と利用者から徴収した宿泊料が重複していた。
表 委託費と徴収した宿泊料が重複している宿泊室数及びこれらに係る委託費相当額
保養所名 | 年度 | 営業日数 | 確保していた延べ宿泊室数 | 委託費と徴収した宿泊料が重複している延べ宿泊室数 | 左に係る委託費相当額(円) |
---|---|---|---|---|---|
鳴子船員保険保養所 | 平成24 | 363 | 1,089 | 293 | 6,802,139 |
25 | 363 | 1,089 | 342 | 7,939,699 | |
小計 | 726 | 2,178 | 635 | 14,741,838 | |
三崎船員保険保養所 | 24 | 363 | 1,089 | 416 | 10,308,480 |
25 | 365 | 1,095 | 427 | 10,581,060 | |
小計 | 728 | 2,184 | 843 | 20,889,540 | |
箱根船員保険保養所 | 24 | 365 | 1,095 | 205 | 5,130,264 |
25 | 365 | 1,095 | 241 | 6,031,189 | |
小計 | 730 | 2,190 | 446 | 11,161,453 | |
焼津船員保険保養所 | 24 | 364 | 1,092 | 49 | 1,188,495 |
25 | 364 | 1,092 | 24 | 582,120 | |
小計 | 728 | 2,184 | 73 | 1,770,615 | |
計 | 24 | 1,455 | 4,365 | 963 | 23,429,378 |
25 | 1,457 | 4,371 | 1,034 | 25,134,068 | |
小計 | 2,912 | 8,736 | 1,997 | 48,563,446 |
このように、1,997室については、実際には空室となっておらず、船保会はこれらの宿泊室の利用者から直接宿泊料を徴収していることから、協会が宿泊室確保事業の委託費として、これらの宿泊室に係る宿泊料相当額を重複して支払う必要はないと認められた。
したがって、船保会が利用者から宿泊料を徴収している宿泊室について、宿泊料相当額を委託費として支払っている事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた宿泊室確保事業に係る委託費)
協会において、宿泊室確保事業により確保している各保養所の宿泊室のうち、利用者から宿泊料を徴収している宿泊室を委託費の算定対象から除外して委託費を算定したとすれば、24、25両年度の委託費を計4856万円節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、宿泊室確保事業により確保した宿泊室を利用させて、その利用者から宿泊料を船保会が徴収した際には、宿泊室を空室のまま確保するための経費として宿泊料相当額を協会が委託費で負担する必要はないのに、協会において、この点についての理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、協会は、26年度の委託契約から、宿泊室確保事業により確保している宿泊室を加入者等又は加入者等以外の利用者に利用させて宿泊料を徴収する場合について、当該宿泊室を委託費の算定対象から除外するよう要領を改訂し、委託費の節減を図る処置を講じた。