日本年金機構(以下「機構」という。)は、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(以下「NTTデータ」という。)が所有する建物内に電子計算機等を設置してデータセンタとして使用するために、機構が発足した平成22年1月から、毎年度、NTTデータとの間で随意契約により賃貸借契約を締結して、同建物の一部を継続して賃借している。
本件賃貸借契約において、機構が支払う賃借料は、賃借面積に1m2当たりの単価(賃料、設備使用料及び共益費を含む。)を乗じて得た金額とされており、機構は、毎年度、多額の賃借料をNTTデータに対して支払っている。
日本年金機構会計規程(平成22年規程第50号。以下「規程」という。)によれば、契約責任者は、契約を締結しようとするときは、契約の目的、契約金額、履行期限、その他必要な事項等を記載した契約書を作成しなければならないとされている。
また、規程等によれば、契約責任者又は検査職員は、給付の内容や数量を確認するために、契約書、仕様書等の関係書類に基づいて必要な検査(以下「完了検査」という。)を行うとされており、また、完了検査を終了した場合には、検査調書を作成しなければならないとされている。そして、機構は、この検査調書に基づかなければ支払をすることができないとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、本件賃貸借契約の賃借料は適切なものとなっているかなどに着眼して、24年4月分から25年9月分までの賃借料計13億8438万余円を対象として、機構本部において、契約書、検査調書等の内容を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、本件賃貸借契約における賃借面積は、24年4月から25年3月までの間は12,758m2から13,279m2、25年4月から9月までの間は12,186m2となっていた。そして、この賃借面積は、機構が電子計算機等を設置してデータセンタとして使用している場所(以下「専用部分」という。)の面積と、機構の電子計算機等を含む建物内に設置されている全ての電子計算機等に電力を供給するためにNTTデータが設置している電力設備、非常用無停電電源装置等を収容した場所(4,556.6m2)のうち、機構の負担分とされている面積(以下「共用部分」という。)とを合算したものとなっていた。
上記の専用部分及び共用部分についてみたところ、次のような事態が見受けられた。
機構は、専用部分の賃借面積を24年度は10,758m2から11,279m2、25年度は10,758m2として、これに係る24年4月分から25年9月分までの賃借料として計11億8604万余円を支払っていた。
しかし、24、25両年度の賃貸借契約書には、共用部分を含む機構の総賃借面積が記載されているだけで、専用部分となっている賃借場所及びその面積を特定する図面等は契約書の関係書類として添付されておらず、機構が賃借した専用部分の賃借面積等を特定することが困難な状況となっていた。そして、このような状況であるにもかかわらず、機構の検査職員は、完了検査に際して、専用部分となっている賃借場所、賃借面積等を実地に確認することなく検査調書を作成して、機構は、これらの賃貸借契約書及び検査調書に基づいて専用部分に係る賃借料を支払っていた。
したがって、専用部分に係る賃借料として支払われた前記の計11億8604万余円については、その妥当性を確認することができない状況となっていると認められた。
現に、25年5月に本院が行った会計実地検査において、NTTデータから機構に任意に提出されていた専用部分となっている賃借場所を示した簡易な図面等を参考にして、25年度の賃貸借契約における専用部分の賃借場所、賃借面積等を実地に確認するなどしたところ、図面上では機構が使用しているとされていた場所が実際には使用されていないなどの状況が見受けられた。なお、この会計実地検査の際に確認した状況に基づいて専用部分に係る賃借料を修正計算すると、25年4月分から9月分までの賃借料について548万余円が過大に支払われていた。
機構は、共用部分の賃借面積を24年度は2,000m2、25年度は1,428m2として、これに係る24年4月分から25年9月分までの賃借料として計1億9833万余円を支払っていた。そして、この面積は、前記の4,556.6m2に、前年の4月から12月までの建物の総電力使用量に対する機構の電力使用量の割合によりNTTデータが算定した案分率(24年度43.89%、25年度31.34%)を乗じたものであった。
しかし、24、25両年度の賃貸借契約書には、専用部分を含む機構の総賃借面積が記載されているだけで、共用部分の面積の算定方法は定められていなかった。また、機構は、24、25両年度の案分率の算定においてNTTデータが使用したとする4月から12月までの上記の電力使用量について、本件賃貸借契約の締結時にNTTデータから根拠資料の提出を受けるなどして確認していなかった。さらに、NTTデータにおいて機構の電力使用量等に関する根拠資料を有していないなどのため、機構が事後に電力使用量を確認することもできない状況となっていた。そして、このような状況であるにもかかわらず、機構の検査職員は、完了検査に際して、案分率の妥当性等について確認することなく検査調書を作成して、機構は、これらの賃貸借契約書及び検査調書に基づいて、共用部分に係る賃借料を支払っていた。
したがって、共用部分に係る賃借料として支払われた前記の計1億9833万余円については、その妥当性を確認できない状況となっていると認められた。
現に、本院の会計実地検査において、電力会社からNTTデータに送付された明細により総電力使用量を確認したところ、NTTデータが23年4月から12月までの建物の総電力使用量を誤って実際の使用量よりも多く算定していたため、24年度の案分率が誤っている状況であった。なお、この会計実地検査の際に確認した正しい総電力使用量に基づいて共用部分に係る賃借料を修正計算すると、24年4月分から25年3月分までの賃借料について116万余円が過大に支払われていた。
(1)及び(2)のとおり、本件賃貸借契約に係る賃借料について、その妥当性を確認することができない事態及び規程等に基づいて適正に完了検査を行わないまま支払が行われている事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、機構において、契約書、関係書類等により賃借場所、賃借場所ごとの賃借面積、賃借料の算定方法等を明確にしておく必要があることについての認識が欠けていたこと、規程等に基づいて完了検査を行い、その結果に基づいて検査調書を作成して、これにより支払を行わなければならないことについての理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、前記の過大となっていた賃借料についてNTTデータから返金を受けた上で、契約書等において賃借料の算定方法等を明確にするとともに、賃借料の妥当性を適正に確認した上で支払を行うよう、次のような処置を講じた。