独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構」という。)は、農業及び食品産業に関する技術の向上に寄与することなどを目的とする種々の試験、研究等を行うために、研究用物品を多数購入するなどしている。研究用物品のうちDNA合成製品は遺伝子解析等の目的で分子生物学的実験等に使用するものであり、研究の進捗に応じて発注が行われている。そして、研究用物品の購入に係る契約については、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構会計規程(平成13年13規程第26号)等(以下「会計規程等」という。)の定めるところにより、研究員が契約依頼票を経理責任者等へ提出し、経理責任者等が契約を締結して納品検査を行うことなどとなっている。
また、農研機構は、会計規程等において、物品の購入に係る代金の前払を、定期刊行物及び外国から購入するものについては認めているが、DNA合成製品の購入については認めていない。
農研機構は、平成26年3月に内部組織である北海道農業研究センターにおいて、契約したDNA合成製品とは異なる物品が納入されていたとの調査結果を公表した。
そこで、本院は、合規性等の観点から、DNA合成製品の購入は会計規程等に基づき適正に行われているかなどに着眼して、経理責任者等が設置されている中央農業総合研究センター等の11か所(注)において、21年度から25年度までの間に支払が行われていたDNA合成製品の購入に係る契約を対象として、契約決議書、検収調書等の書類により会計実地検査を行った。そして、検査の過程において不適正な会計経理の事態が判明した場合には、可能な範囲において過去の年度まで遡るとともにDNA合成製品以外の研究用物品についても検査した。
検査したところ、次のとおり不適正な会計経理を行って、研究用物品の購入に係る代金を支払うなどしていたものが94,304,654円あった。
農研機構の研究員のうち135名は、DNA合成製品の購入に当たり、研究員名等を製造メーカーに登録してDNA合成製品の購入に用いるポイントを保有するための口座を開設し、DNA合成製品の購入代金を販売代理店を通して製造メーカーに前払して、その口座にDNA合成製品の購入可能量に応じたポイントを保有しておき、研究員が研究の進捗に応じて必要なDNA合成製品を製造メーカーに連絡するとDNA合成製品が納入されて口座から納入に応じたポイントが引き落とされる方式(以下「プリペイド方式」という。)を利用していた。そして、これらの研究員は、プリペイド方式のポイントを購入することとなる契約依頼票を経理責任者等に提出していた。
しかし、経理責任者等は、当該プリペイド方式のポイント購入がDNA合成製品には認められない前払となるのに、これをそのまま承認し、販売代理店と契約していた。また、経理責任者等は、納品検査に当たって、DNA合成製品の現物の照合を要求元である研究員等に行わせていた。その結果、実際にはDNA合成製品の納品の事実がないのに、プリペイド方式のポイント購入に係る納品書等を販売代理店から受けたことをもって納品を確認したこととして支払を行っていた事態が、計386件、支払額計85,022,004円について見受けられた。
そして、プリペイド方式により購入されていたポイントのうち、26年3月末現在で計108口座、計29,995,780円相当が研究に使用されず残高となっていたり、研究員時代に貯めた残高を保有したまま退職したり、他の研究員が保有する口座のポイントの融通を受けてDNA合成製品を納入させていたりしている事態が見受けられた。
<事例1>
動物衛生研究所のA元研究員は、平成21年9月から24年2月までの間に、DNA合成製品のプリペイド方式により、計4回、計36,400ポイントを支払額計1,764,000円で同研究所に購入させていた。
そして、同元研究員は、24年3月31日に保有していたDNA合成製品のプリペイド方式のポイント残高22,980ポイント(1,113,646円相当)を農研機構に返還せずに退職し、その後、私立大学に教授として勤務している。同元研究員は、退職後も農研機構の研究員時代に貯めたプリペイド方式の残高17,785ポイント(861,888円相当)を農研機構の研究とは無関係に26年5月末までの間に使い続けていた。
農研機構の研究員のうち12名について、DNA合成製品等の研究用物品を購入した際に、会計規程等に定められている経理責任者等による納品検査が行われていないことを利用して、研究員が販売代理店に架空の取引を指示するなどして、研究用物品を購入したとする虚偽の内容の関係書類を作成させて、農研機構に購入代金を支払わせ、これを同代理店に預けて別途に経理させていたものなどが、表1のとおり、計30件、支払額計9,282,650円あった。
<事例2>
中央農業総合研究センターのB元研究員は、平成22年10月に販売代理店に架空の取引を指示するなどして、DNA合成製品を購入しないのに購入することとして、架空の契約依頼票を作成して、同センターの経理責任者等に同代理店と1件の契約を締結させていた。
そして、同代理店に虚偽の納品書、請求書を作成させて経理責任者等に630,000円を支払わせ、全額を同代理店に預け金として保有させて、後日、預け金を用いて契約したDNA合成製品とは異なる物品を納入させていた。
表 1 不適正な会計経理により支払われた研究用物品の購入代金等の内訳
部局等 | 研究員名 | 年度 | 不適正経理額 | 摘要 | |
---|---|---|---|---|---|
件数 (平成18年度以降) |
金額 | ||||
中央農業総合研究センター | B研究員(退職者) | 平成 22 |
1 | 630,000 | 預け金 |
畜産草地研究所 | C研究員 | 18 | 2 | 708,750 | 預け金 |
畜産草地研究所 | D研究員(退職者) | 18、19 | 3 | 1,496,250 | 預け金 |
畜産草地研究所 | E研究員 | 18 | 1 | 299,250 | 預け金 |
畜産草地研究所 | F研究員 | 18 | 1 | 299,250 | 預け金 |
畜産草地研究所 | G研究員 | 18 | 1 | 630,000 | 預け金 |
北海道農業研究センター | H研究員 | ~18 | 1 | 530,664 | 預け金 |
北海道農業研究センター | I研究員 | 17以前 | 0 | 490,812 | 預け金 |
北海道農業研究センター | J研究員 | ~21 | 5 | 1,585,543 | 預け金 |
北海道農業研究センター | K研究員 | ~21 | 8 | 1,561,249 | 預け金 |
北海道農業研究センター | L研究員、M研究員 | 18~22 | 7 | 1,050,882 | 預け金 |
計12名 | 30 | 9,282,650 | / |
(1)及び(2)の事態は、農研機構の会計規程等に違反して、DNA合成製品を前払であるプリペイド方式により購入するなどしていたり、契約した研究用物品が納入されていないのに納入されたこととして虚偽の内容の関係書類を作成させたりするなどして不適正な会計経理を行って、研究用物品の購入代金等計94,304,654円を支払っていたものであり、不当と認められる(表2参照)。
表2 不適正な会計経理により支払われた経費の部局等別・態様別内訳
部局等 | 年度 | 前払【(1)の事態】 | 預け金【(2)の事態】 | 計 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | |||
(386) | 中央農業総合研究センター | 平成 21~25 |
170 | 41,021,728 | 1 | 630,000 | 171 | 41,651,728 |
(387) | 果樹研究所 | 21~25 | 32 | 8,486,100 | 0 | 0 | 32 | 8,486,100 |
(388) | 野菜茶業研究所 | 21~24 | 19 | 2,993,865 | 0 | 0 | 19 | 2,993,865 |
(389) | 畜産草地研究所 | 18、19、21~24 | 31 | 3,989,298 | 8 | 3,433,500 | 39 | 7,422,798 |
(390) | 動物衛生研究所 | 21~25 | 49 | 15,183,730 | 0 | 0 | 49 | 15,183,730 |
(391) | 農村工学研究所 | 22~24 | 8 | 664,767 | 0 | 0 | 8 | 664,767 |
(392) | 食品総合研究所 | 21 | 1 | 456,750 | 0 | 0 | 1 | 456,750 |
(393) | 北海道農業研究センター | ~25 | 17 | 3,031,885 | 21 | 5,219,150 | 38 | 8,251,035 |
(394) | 東北農業研究センター | 21~25 | 33 | 5,430,536 | 0 | 0 | 33 | 5,430,536 |
(395) | 近畿中国四国農業研究センター | 21~24 | 14 | 1,690,645 | 0 | 0 | 14 | 1,690,645 |
(396) | 九州沖縄農業研究センター | 21~24 | 12 | 2,072,700 | 0 | 0 | 12 | 2,072,700 |
(386)-(396)の計 | 計 | 386 | 85,022,004 | 30 | 9,282,650 | 416 | 94,304,654 |
このような事態が生じていたのは、研究員において事実に基づく適正な会計経理を行うという基本的な認識が欠けていたこと、経理責任者等においてDNA合成製品の購入方法に対する確認が十分でなかったこと及び研究用物品の納品検査において現物との照合を行わなかったこと、また、農研機構において研究員及び経理責任者等に対し研究用物品の購入を会計規程等に基づき適正に行うことなどの指導が十分でなかったことなどによると認められる。