独立行政法人農業生物資源研究所(以下「生物研」という。)は、生物の農業上の利用に関する技術の向上に寄与することなどを目的とする種々の試験、研究等を行うために、研究用物品を多数購入するなどしている。研究用物品のうちDNA合成製品は遺伝子解析等の目的で分子生物学的実験等に使用するものであり、研究の進捗に応じて発注が行われている。そして、研究用物品の購入、研究用機器の修理等に係る契約については、独立行政法人農業生物資源研究所会計規程(平成13年13農生研第28号)等(以下「会計規程等」という。)の定めるところにより、研究員が契約依頼票を経理責任者等へ提出し、経理責任者等が契約を締結して納品検査を行うことなどとなっている。
また、生物研は、会計規程等において、物品の購入に係る代金の前払を、定期刊行物及び外国から購入するものについては認めているが、DNA合成製品の購入については認めていない。
本院は、合規性等の観点から、DNA合成製品の購入は会計規程等に基づき適正に行われているかなどに着眼して、生物研において、平成21年度から25年度までの間に支払が行われていたDNA合成製品の購入に係る契約を対象として、契約決議書、検収調書等の書類により会計実地検査を行った。そして、検査の過程において不適正な会計経理の事態が判明した場合には、可能な範囲において過去の年度まで遡るとともにDNA合成製品以外の研究用物品等についても検査した。
検査したところ、次のとおり不適正な会計経理を行って、研究用物品の購入等に係る代金を支払っていたものが110,321,334円あった。
生物研の研究員のうち71名は、DNA合成製品の購入に当たり、研究員名等を製造メーカーに登録してDNA合成製品の購入に用いるポイントを保有するための口座を開設し、DNA合成製品の購入代金を販売代理店を通して製造メーカーに前払して、その口座にDNA合成製品の購入可能量に応じたポイントを保有しておき、研究員が研究の進捗に応じて必要なDNA合成製品を製造メーカーに連絡するとDNA合成製品が納入されて口座から納入に応じたポイントが引き落とされる方式(以下「プリペイド方式」という。)を利用していた。そして、これらの研究員は、プリペイド方式のポイントを購入することとなる契約依頼票を経理責任者等に提出していた。
しかし、経理責任者等は、当該プリペイド方式のポイント購入がDNA合成製品の購入には認められない前払となるのに、これをそのまま承認し、販売代理店と契約していた。また、経理責任者等は、納品検査に当たって、DNA合成製品の現物の照合を要求元である研究員等に行わせていた。その結果、実際にはDNA合成製品の納品の事実がないのに、プリペイド方式のポイント購入に係る納品書等を販売代理店から受けたことをもって納品を確認したこととして支払を行っていた事態が、計318件、支払額計89,101,205円について見受けられた。
そして、プリペイド方式により購入されていたポイントのうち、26年3月末現在で計25口座、計8,051,402円相当が研究に使用されず残高となっていたり、研究員時代に貯めた残高を保有したまま退職したり、他の研究員が保有する口座のポイントの融通を受けてDNA合成製品を納入させていたりしている事態が見受けられた。
<事例1>
イネゲノム育種研究ユニットのA研究員は、機能性作物研究開発ユニットのB研究員が保有するプリペイド方式の口座の残高を0ポイントにすることを目的として、平成26年3月27日に72,875ポイント(2,907,712円相当)分のDNA合成製品を発注し、同年4月3日に納品させて、ポイント購入の際の事業目的とは異なる研究に使用していた。
生物研の研究員のうち17名について、DNA合成製品等の研究用物品を購入等した際に、会計規程等に定められている経理責任者等による納品検査が行われていないことを利用して、研究員が販売代理店に架空の取引を指示するなどして、研究用物品を購入等したとする虚偽の内容の関係書類を作成させて、生物研に購入代金等を支払わせ、これを同代理店に預けて別途に経理させるなどしていたものが、表のとおり、計67件、支払額計21,220,129円あった。
研究員 | 年度 | 不適正経理額 | 摘要 | |
---|---|---|---|---|
件数 | 金額 | |||
C研究員、D研究員、E研究員、F研究員 | 平成21~25 | 23 | 7,147,140 | 預け金 |
G研究員 | 21~25 | 17 | 4,907,106 | 預け金 |
H研究員 | 18、19 | 3 | 3,281,040 | 預け金 |
I研究員 | 20~24 | 12 | 2,567,922 | 預け金 |
J研究員 | 21、24 | 2 | 535,322 | 預け金 |
K研究員(退職者)、L研究員、M研究員、N研究員 | 21 | 2 | 609,000 | 一括払 |
O研究員(退職者) | 21 | 3 | 449,759 | 一括払 |
P研究員、Q研究員 | 23 | 1 | 199,500 | 一括払 |
R研究員 | 23 | 1 | 27,090 | 一括払 |
S研究員 | 24、25 | 3 | 1,496,250 | 差替え |
計17名 | 67 | 21,220,129 | / |
これらを態様別に示すと、次のとおりである。
研究員が、契約した研究用物品が納入されていないのに納入されたとする虚偽の内容の関係書類を販売代理店に作成させることなどにより、生物研に代金を支払わせ、当該代金を同代理店に預け金として保有させて、後日、これを利用して契約した研究用物品とは異なる物品を納入させるなどしていたもの
研究員8名、57件、18,438,530円
<事例2>
機能性作物研究開発ユニットのG研究員は、平成21年12月から26年2月までの間に、販売代理店に架空の取引を指示するなどして、DNA合成製品を購入しないのに購入することとしたり、研究用機器の修理を実施しないのに修理を実施することとしたりなどして、架空の契約依頼票を作成して、生物研の経理責任者等に同代理店と16件の契約を締結させていた。そして、同代理店に虚偽の納品書、請求書等を作成させて経理責任者等に4,597,356円を支払わせ、このうち4,397,856円を同代理店に預け金として保有させて、後日、預け金を用いて契約した研究用物品とは異なる物品を納入させるなどしていた。また、同研究員は別の販売代理店に対しても上記と同様に509,250円を預け金として保有させて、後日、預け金を用いて契約した研究用物品とは異なる物品を納入させていた。
研究員が、契約依頼票の提出等の正規の会計経理を行わないまま、随時、販売代理店に物品等を納入させた上で、後日、納入された物品とは異なるDNA合成製品の納品書、請求書等を提出させて、これらのDNA合成製品が納入されたとする虚偽の内容の関係書類を作成させることなどにより、生物研に一括して支払わせていたもの
研究員8名、 7件、 1,285,349円
研究員が、DNAの解析業務の依頼に用いるポイントを購入したとする虚偽の内容の関係書類を販売代理店に作成させることなどにより、生物研に代金を支払わせ、実際にはDNAの解析業務を依頼することなく、異なる物品に差し替えて納入させていたもの
研究員1名、 3件、 1,496,250円
(1)及び(2)の事態は、生物研の会計規程等に違反して、DNA合成製品を前払であるプリペイド方式により購入するなどしていたり、契約した研究用物品が納入されていないのに納入されたこととして虚偽の内容の関係書類を作成させたりするなどして不適正な会計経理を行って、研究用物品の購入代金等計110,321,334円を支払っていたものであり、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、研究員において事実に基づく適正な会計経理を行うという基本的な認識が欠けていたこと、経理責任者等においてDNA合成製品の購入方法に対する確認が十分でなかったこと及び研究用物品の納品検査において現物との照合を行わなかったこと、また、生物研において研究員及び経理責任者等に対し研究用物品の購入等を会計規程等に基づき適正に行うことなどの指導が十分でなかったことなどによると認められる。