独立行政法人国民生活センター(以下「センター」という。)は、地方自治体が設置している消費生活センター等のうち、土日祝日に消費生活相談を行っていない消費生活センター等の役割を補完するために、国民生活センター土日祝日消費生活相談業務(以下「土日祝日業務」という。)を、平成22年1月から実施している。土日祝日業務は、土日祝日に消費者ホットライン(消費者庁が設置している全国共通の電話番号に電話をかけると最寄りの消費生活センター等につながる仕組みになっている。)からの電話相談の転送を受けてセンターの消費生活相談員(以下「相談員」という。)が相談者に助言等を行う業務である。
センターの契約事務については、独立行政法人国民生活センター組織規程(平成20年3月28日規程第5号)等で定められた分掌によれば、契約の目的に係る業務を分掌する部門(以下「業務部門」という。)が仕様書の作成を行い、契約事務を分掌する部門(以下「契約部門」という。)がその仕様書に基づき予定価格の作成、契約の締結、契約金額の支払等を行うこととされている。
そして、独立行政法人国民生活センター会計規程(平成15年10月1日規程第10号。以下「会計規程」という。)等によれば、予定価格は、契約の目的となる役務等について、取引の実態等を考慮して適正に定めることとされている。
また、会計規程等において、給付完了の確認をするために必要な検査を契約書その他の関係書類によって行い、その検査に合格したときに契約の相手方からの請求書により契約金額を支払うこととし、契約書において、給付完了の確認のために成果物を提出させて、これを検査することとしている。
センターは、土日祝日業務について、業務開始以来、表1のとおり、企画競争による随意契約又は一般競争入札(総合評価方式)により、公益社団法人全国消費生活相談員協会(24年3月31日以前は社団法人全国消費生活相談員協会。以下「全相協」という。)と相談実施日1日当たりの単価契約を締結している(21年度から23年度までは複数年度契約、24、25両年度は単年度契約の計3件)。そして、21年度から25年度までの間に、計3億0500万余円を支払っている。
契約年度 | 契約の方法 | 入札者数 | 契約金額(相談実施日1日当たり) | 相談実施日数 | 支払金額 | |
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(円) | (日) | (円) | ||||
平成21年度 | 随意契約(企画競争) | 1 | 686,008 | 248 | 170,129,984 | |
(内訳) | 21年度 | ― | ― | 686,008 | 23 | 15,778,184 |
22年度 | ― | ― | 686,008 | 111 | 76,146,888 | |
23年度 | ― | ― | 686,008 | 114 | 78,204,912 | |
24年度 | 一般競争(総合評価方式) | 1 | 654,770 | 112 | 73,334,240 | |
25年度 | 一般競争(総合評価方式) | 1 | 549,507 | 112 | 61,544,784 | |
計 | ― | ― | ― | 472 | 305,009,008 |
全相協は、土日祝日業務を実施するに当たり、センターで平日に非常勤の相談員として勤務している者や、過去に相談員として勤務した経験がある者等を、センターに派遣することにしている。
また、センターは、全相協に、土日祝日業務の一環として、受け付けた相談の内容をセンターが定めた様式に従ってカード(以下「相談カード」という。)に整理して、それをシステムに入力させることなどとしている。この相談カードの入力等の作業のため、相談対応した回線については、相談対応終了後30分間は自動的に着信を行わない設定となっており、必要に応じて着信しない時間を延長することなどができるようになっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、土日祝日業務に係る契約について、契約事務等は会計規程等に基づき適切に行われているかなどに着眼して、21年度から25年度までの間に実施された土日祝日業務に係る3件の契約(支払額計3億0500万余円)を対象として、センター及び全相協において、契約関係書類等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のように会計規程等を遵守した契約事務と認められない事態が見受けられた。
センターは、契約部門が作成した土日祝日業務に係る契約の契約条項において、契約の目的を相談窓口の運営業務とし、全相協から提出される運営業務の成果物を検査して代金を支払うこととしていた。
そして、センターは、業務部門が作成した仕様書において、受託者の業務内容について、相談受付専用の回線数(専ら消費者ホットラインから転送される電話の相談に対応する回線数。21年度から24年度までは18回線、25年度は14回線。以下「専用回線数」という。)に応じて相談員が常時対応できる体制を整えることなどとしていた。また、給付完了の確認のための成果物として、相談受付総件数等を記載した報告書を提出させることとしていた。
一方、全相協は、一般競争入札(総合評価方式)等への参加に当たり、提出が求められた業務に関する提案書において、他の相談員が入力した相談カードの点検等の作業と相談に対応する作業とを兼務する相談員(以下「兼務者」という。)及び監督する立場の相談員を含め、21年度から23年度までの契約では計20人、24年度の契約では計22人、25年度の契約では計17人の相談員をそれぞれ配置するとしていた。
これに対して、センターは、提案書の内容が、監督する立場の相談員を除いた相談対応をする相談員の人数が専用回線数に等しかったことなどから提案書を了承して契約を締結していた。
しかし、センターは、上記の提案書における相談員の体制が、専用回線数に応じて相談員が常時対応できるものとなっているのかについて十分な確認を行っていなかった。
また、センターは、仕様書において、相談受付総件数等を記載した報告書を提出させることとしていただけで、専用回線数に応じた相談員の体制となっているかを確認するために必要な相談員の勤務体制、勤務時間等の実績を報告させる仕様とはしていなかったため、会計規程等を遵守した給付完了の確認を行うことができないものとなっていた。
そこで、土日祝日業務における相談対応と相談カードの入力等について、相談員ごとの相談件数等が把握できた23年度から25年度までの間において、実際の相談員の勤務体制について検査したところ、相談に対応するとしていた相談員のうち、兼務者4人(23、24両年度)又は3人(25年度)は、この専用回線について、長時間、着信を行わないなどの設定を行い、主に相談カードの点検等の作業を行っていた。このため、表2のとおり、兼務者が、相談実施日に1件程度しか相談を受け付けていなかった日数が23年度28日、24年度11日、25年度53日、計92日あった。このように、兼務者が担当する専用回線は、常時相談対応できる体制とはいえないものとなっていた。そして、センターは、このような状況を把握していなかった。
年度 | 専用回線数 | 相談実施日1日1人当たりの相談件数 | 兼務者の相談件数が1.0件以下であった日 | (参考)相談実施日1日当たりの人数 | ||||
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監督する立場の相談員 | 兼務者 | その他の相談員(専ら相談対応を行う。) | 監督する立場の相談員 | 兼務者 | その他の相談員(専ら相談対応を行う。) | |||
(回線) | (件) | (件) | (件) | (日) | (人) | (人) | (人) | |
平成23 | 18 | 0.4 | 1.4 | 4.7 | 28 | 3.0 | 4.2 | 13.6 |
24 | 18 | 0.6 | 1.7 | 5.2 | 11 | 3.4 | 4.1 | 13.7 |
25 | 14 | 0.1 | 1.3 | 5.8 | 53 | 3.0 | 3.0 | 10.9 |
センターは、土日祝日業務に係る相談員の人件費について、東京都内の特別区に設置されている消費生活センターの単価を基に定めていたセンターの相談員(非常勤職員)の日額単価(経験年数等に応じて15,000円、16,000円又は17,000円)を準用して、労働基準法(昭和22年法律第49号)等が定める休日労働の割増率35%を参考にしてそれぞれ1.35を乗じて積算していた。
しかし、上記の日額単価そのものが、センターが会計規程等にのっとり他の消費生活センターの相談員の取引の実態を基に定めたものであるのに、その日額単価に更に35%の割増率による加算を行うことについては、取引の実態等を考慮したことによるものではなかった。
センターは、土日祝日業務の外部への委託を26年度限りと予定しているが、今後も全国の消費生活センター等の役割を拡充したり補完したりする各種の業務を外部へ委託することが見込まれる。ついては、(1)及び(2)のとおり、提案書が契約の目的を達成できる内容になっているかなどを十分に確認しないまま了承し、成果物では契約の目的に沿って業務が実施されているか把握できないのにそのまま契約金額の全額を支払っていたり、取引の実態等を考慮せずに予定価格を積算していたりして、会計規程等を遵守した契約事務となっていない事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、センターにおいて、契約の締結、予定価格の積算等の契約事務を行うに当たり、会計規程等を遵守しなければならないことについての認識が欠けていたことによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、センターは、26年9月に通知を発して、契約を締結するに当たっては、会計規程等を遵守して、給付完了の確認に必要な成果物を契約の目的に沿って業務が実施されているか把握できるように業務部門と契約部門との間で検討、調整等を図ること、提出された提案書が契約の目的を達成できる内容になっているかなどについて確認すること及び取引の実態等を考慮して予定価格を積算することを周知徹底する処置を講じた。
また、センターは、26年度の土日祝日業務に係る契約について、全相協に申入れを行い、会計規程等を遵守して、仕様書で成果物を契約の目的に沿って業務が実施されているか把握できるようにするとともに、取引の実態等を考慮した積算に基づいて契約金額を改めるなどの契約変更を行い、26年10月から実施することとした。