【改善の処置を要求したものの全文】
農業協同組合連合会等に対する肉用牛等の販売に係る補填金の交付について
(平成26年10月28日付け 独立行政法人農畜産業振興機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴機構は、国から交付される交付金等を財源として、独立行政法人農畜産業振興機構法(平成14年法律第126号)に基づき、畜産物の生産又は流通の合理化を図るための事業その他の畜産業の振興に資するための事業で農林水産省令で定めるものについてその経費を補助している。
貴機構が経費を補助するもののうち、肉用牛の販売に係る補填の事業は平成13年度から行われており、24、25両年度については、肉用牛肥育経営安定特別対策事業として、肉用牛肥育経営を対象とした畜産経営の安定を図るために、肉用牛肥育経営安定特別対策事業実施要綱(平成22年22農畜機第333号)等に基づき、都道府県の畜産協会等が肥育牛生産者に対して、肉用牛を販売した日が属する四半期ごとの市場取引価格等により算定された1頭当たりの粗収益が同四半期における生産費を下回った場合に、その差額の8割を上限として補填金(以下「肉用牛補填金」という。)を交付するものとなってる。肉用牛補填金は貴機構と肥育牛生産者等とが原則として3対1の割合で造成した基金を取り崩して交付され、両年度における肥育牛生産者への肉用牛補填金の交付額は計677億2153万余円(貴機構の補助金相当額508億2489万余円)となっている。
また、肉豚の販売に係る補填の事業は7年度から21年度までは地域単位で、22年度からは全国一律で行われており、24年度については、養豚経営安定対策事業として、養豚経営を対象とした畜産経営の安定を図るために、養豚経営安定対策事業実施要綱(平成22年22農畜機第762号)等に基づき、貴機構が、養豚事業者に対して、豚枝肉価格が生産費に相当する保証基準価格を下回った場合に、その差額の8割について補填金(以下「養豚補填金」という。)を交付するものとなってる。養豚補填金は養豚事業者等が造成した基金を取り崩した額にこれと同額の貴機構からの補助金を加えて交付され、同年度における養豚事業者への養豚補填金の交付額は計347億1033万余円(貴機構の補助金相当額173億5516万余円)である。なお、25年度においては肉豚1頭当たりの粗収益が生産費を下回らなかったことから、養豚補填金は交付されていない。
肉用牛肥育経営安定特別対策事業及び養豚経営安定対策事業(以下、これらの事業を合わせて「両事業」という。)の実施要綱等によれば、肥育牛生産者又は養豚事業者の補填金の交付対象となる要件は、肉用牛肥育経営安定特別対策事業については販売することを目的として牛の肥育を行う肥育牛生産者、養豚経営安定対策事業については販売することを目的として豚を飼養する畜産業を営む養豚事業者とされており、いずれも販売を目的として肉用牛又は肉豚(以下「肉用牛等」という。)を飼養していることが要件となっている。また、肉用牛等を飼養して販売しているものの、販売を目的としていない試験研究機関、学校法人等は、両事業の補填金の交付対象にならないことから、補填金の交付を受けていない。一方、農業協同組合連合会(以下「農協連」という。)及び農業協同組合(以下「農協」といい、これらを合わせて「農協連等」という。)については、明確な定めはないが、貴機構が定めた「肉用牛肥育経営安定特別対策事業Q&A」等において、農協連等の直営の牧場等は両事業の補填金の交付対象となっている。
農協連は、農業協同組合法(昭和22年法律第132号。以下「農協法」という。)により、農協等の法人が会員となっており、都道府県の区域を超える区域又は都道府県の区域を事業区域としている。また、農協は、農業者、当該農協の地区内に住所を有する個人等が組合員となっている。そして、農協連等は、営利を目的としてその事業を行ってはならないこととなっている。
また、農協連等が行うことができる事業については農協法により限定されており、農協法第10条に組合員等のためにする農業の経営及び技術の向上に関する指導(以下「指導事業」という。)、組合員等への資金の貸付け、組合員等の事業に必要な物資の供給等の事業が具体的に列挙されているほか、農協法第11条の31に例外的な事業として一定の農業の経営及びこれに附帯する事業(以下「農業経営事業」という。)が挙げられている。
農協連等が行うことができる事業について、農業経営事業が認められるまでの経緯は次のとおりとなっている。
農協法が施行された昭和22年においては農協連等が農業の経営を行うことは認められていなかったが、農協については、45年の農協法の改正により、農業者の営農と競合しないと認められる範囲において農業経営の受託事業を行うことが可能になった。また、農協連については、畜産の分野等において、農業者の営農が専門化、大規模化し、農協より農協連が対応した方が円滑に指導等を行うことができる場合もあることから、平成4年の農協法の改正により、農業者の営農と競合しないと認められる範囲において農業経営の受託事業を行うことが可能になった。そして、担い手が不足する農地等が増加する中で、21年に農協法が改正され、農協連等が組合員等の必要に応じて組合員等の営農と競合しない範囲で、担い手が不足する農地等において、自ら農業経営事業を行うことができることになった。
そして、農協連等が自ら農業経営事業を行う場合は、農協法に基づき、総組合員等の3分の2以上の書面による同意を得た上で、農業経営規程を定めて農林水産大臣又は都道府県知事の承認を受けることとなっている。また、農業経営事業は、上記のとおり組合員等の必要に応じてその営農と競合しない範囲で行われることとなっているため、当該事業の開始に当たっては、農協が事業を行う場合には、組合員にその趣旨、事業を行う地区、作目等の内容を十分周知するなどし、農協連が事業を行う場合には、更に農協の機能を補完する観点から行われることを基本として、農協連と関係する農協との間で十分調整することとなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、農協連等に対する両事業の補填金の交付が畜産経営の安定を図るとする事業の目的に沿うものとなっているかに着眼して、24、25両年度に貴機構から直接又は28道県畜産協会等(注1)を通じて両事業の補填金の交付を受けている64農協連等を対象として、農林水産本省、貴機構本部及び16道県(注2)において、実績報告書等の関係書類により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
64農協連等は、直営の牧場等において肉用牛等を飼養し、24、25両年度に肉用牛及び肉豚計447,485頭を販売しており、24年度に61農協連等において肉用牛補填金計19億5460万余円、12農協連等において養豚補填金計9億7742万余円、25年度に29農協連等において肉用牛補填金計8億2350万余円、合計37億5553万余円(貴機構の補助金相当額計25億7251万余円)の補填金の交付を受けていた。
そして、その飼養する目的について、13農協は、農業経営規程を定めて、農業経営事業として組合員等の必要に応じて、新たな担い手が確保できるまでのつなぎや産地形成に資するなどのために販売することとしている。一方、残りの51農協連等は、指導事業として、肉用牛等を販売してと畜した後の肉質の格付等のデータを分析して、その結果を組合員等に提供したり、肉用牛等の疾病対策等のための実証試験を行い、その結果を組合員等に提供したりするためとしている。しかし、肉質の格付等のデータを分析してその結果を組合員等に提供することなどは、組合員等への指導を目的とする事業であって、販売を目的として肉用牛等を飼養していることにはならない。したがって、指導事業の一環として肉用牛等を飼養及び販売している51農協連等に対して24、25両年度に交付された肉用牛補填金計26億4398万余円及び養豚補填金計8億8067万余円の合計35億2466万余円(貴機構の補助金相当額計24億2354万余円)は、販売を目的として肉用牛等を飼養する畜産経営の安定を図るという事業の目的に沿うものとなっていない。
上記について事例を示すと次のとおりである。
<事例>
全国農業協同組合連合会(以下「全農」という。)は、東京都千代田区に本所を置き、35都府県を事業区域とする農協連であり、このうち14県に所在する直営の牧場等において、肉用牛等を飼養し、これらを販売したことにより平成24、25両年度に肉用牛補填金計3億4504万余円、24年度に養豚補填金7233万余円、合計4億1737万余円(貴機構の補助金相当額計2億9516万余円)の交付を受けていた。
全農が肉用牛等を飼養する目的をみると、畜産事業者の肥育管理技術の向上やウィルス性疾病対策等のために実証試験を行い、その結果を農協等に提供して指導したり、県の農業技術センター等の行政機関に実証試験のデータを提供するなどして連携を図ったりすることにより畜産の振興に資するためとしている。これらの肉用牛等の飼養について、全農は農業技術の向上についての農協等への指導を目的とする指導事業であるとしていることから、全農の指導事業に対する両事業の補填金の交付は販売を目的として肉用牛等を飼養する畜産経営の安定を図るという事業の目的に沿うものとなっていない。
(改善を必要とする事態)
両事業の補填金が、農業経営事業を実施していない農協連等に対して交付されていて、販売を目的として肉用牛等を飼養する畜産経営の安定を図るという事業の目的に沿うものとなっていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴機構において、農業経営事業を実施していない農協連等に対して両事業の補填金を交付することについての適否についての検討が十分でなく、両事業の実施要綱等において補填金の交付対象を明確にしていないことなどによると認められる。
両事業の補填金は畜産経営の安定を図るために交付されるものであり、その財源となる国の資金は当該目的のために適切かつ効果的に活用される必要がある。
ついては、農協連等に対する両事業の補填金について、両事業の実施要綱等を改正して、指導事業の一環として肉用牛等を飼養及び販売する場合には両事業の補填金の交付対象としないこととして、その交付対象を明確にするなどにより、補填金の交付が販売を目的として肉用牛等を飼養する畜産経営の安定を図るとする目的に沿うものとなるよう改善の処置を要求する。