独立行政法人農畜産業振興機構(以下「機構」という。)は、国から交付される交付金等を財源として、独立行政法人農畜産業振興機構法(平成14年法律第126号)に基づき、畜産物の生産又は流通の合理化を図るための事業その他の畜産業の振興に資するための事業で、独立行政法人農畜産業振興機構法施行規則(平成15年農林水産省令第103号)で定める畜産業振興事業を実施する農業協同組合等の事業主体に対して、その経費に係る補助金を交付している。
そして、畜産業振興事業の実施に当たり、機構は、「畜産業振興事業の実施について」(平成15年15農畜機第48号。以下「要綱」という。)等において、事業の採択基準や評価に関する手続等を定めている。
要綱によれば、畜産業振興事業は、施設整備事業(注1)とそれ以外の事業に区分され、このうち施設整備事業の採択や評価は、事業ごとの要綱によるもののほか、整備する施設等ごとの費用対効果分析によって行うこととされている。
要綱等によれば、施設整備事業を実施する場合に、事業主体は、事業実施計画において、当該事業を実施することによって整備される施設等がもたらす効果を貨幣換算化し、これと費用が見合っているかどうかを判断することを目的として費用対効果分析を行うこととされており、次の算定式により算定した投資効率が1を上回っていることなどが事業の採択基準とされている。
投資効率={(年総効果額÷還元率(注2))-廃用損失額(注3)}÷総事業費
そして、上記の算定式のうち、総事業費については、費用対効果分析の対象事業のみにより効果の種類ごとの年効果額を合算した年総効果額が算出できる場合には、事業実施計画に示されている事業費を計上し、当該事業以外の事業、施設等の年効果額が含まれる場合には、当該事業実施計画の事業費に、他の事業、他の施設等に係る事業費を加えて、年効果額の発生に係る施設等の総事業費とすることとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
畜産業振興事業として実施される施設整備事業は毎年多数に上っており、今後も継続して実施されることが見込まれることから、予算の効果的な執行を図るために、交付金等整備事業の採択に当たり、費用対効果分析を適切に行うことが重要である。
そこで、本院は、有効性等の観点から、事業主体が行う費用対効果分析において、投資効率の算定が要綱等の趣旨に沿って適切に行われているかなどに着眼して、16道県(注4)管内の計40事業主体において、平成21年度から25年度までの間に費用対効果分析が行われた施設整備事業56事業(注5)(補助対象事業費計42億8629万余円、機構補助金22億1809万余円)を対象として、事業実施計画書、投資効率の算定に係る資料等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、検査の対象とした40事業主体の56事業のうち8県(注6)管内の計14事業主体が実施した22事業(注7)(補助対象事業費相当額計12億5990万余円、機構補助金相当額計7億8365万余円)において、次のような事態が見受けられた。
上記の14事業主体が実施した22事業の事業実施計画における年総効果額には、当該施設整備事業の実施による年効果額に加えて、自己資金等により導入した建物、建物附属設備、農業機械・器具等の年効果額も含まれていたにもかかわらず、14事業主体は、これらの事業費を総事業費に含めていなかった。
これらの自己資金等により導入した施設等に係る事業費について、事業実施計画の事業費に対する割合をみると、22事業のうち半数を超える13事業が10%を超えており、中には50%を超えるものも見受けられた。そして、22事業について、総事業費にこれらの施設等の事業費を含めるなどして投資効率を試算したところ、上記の13事業のうち6事業が1を下回る結果となった(注8)。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
群馬県内のA事業主体は、堆肥調整・保管施設等を整備するために、平成21年度に、堆肥調整・保管施設リース事業を事業費9427万余円(機構補助金2847万余円)で実施するとともに、堆肥の製造に必要な発酵施設等を自己資金(1億1275万余円)により整備していた。そして、この事業に係る費用対効果分析において、年総効果額については製造した堆肥の販売額等とし、総事業費は当該補助事業に係る事業費として、投資効率を1.08と算定していた。しかし、Aは、発酵施設等を介して製造した堆肥の販売額等を年総効果額としていたのに、これに係る事業費を総事業費に含めていなかった。そこで、Aが算出した年総効果額と当該事業費を含めた総事業費とを用いて投資効率を試算すると、投資効率は0.42となる。
このように、多数の事業主体が、費用対効果分析における投資効率の算定において、年総効果額に当該施設整備事業以外の事業で整備した施設等の年効果額を含めていたのに、これらの事業費を総事業費に含めずに投資効率の算定が行われていて、畜産物の生産又は流通の合理化を推進するために重要となる施設整備事業の採択が適正に行われないおそれがある事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、事業主体において費用対効果分析の適切な実施に対する理解が十分でなかったこと、機構において総事業費の範囲や算出方法を具体的に明示していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、26年9月に、施設整備事業として実施される各事業の要綱を改正して、施設整備事業の費用対効果分析における総事業費の範囲等を明示するとともに、事業主体に対して要綱等の内容について周知徹底を図る処置を講じた。