独立行政法人農畜産業振興機構(平成8年10月から15年9月までは農畜産業振興事業団(以下「農畜産業事業団」という。)、8年9月以前は畜産振興事業団(以下「畜産事業団」という。)。以下「機構」という。)は、独立行政法人農畜産業振興機構法(平成14年法律第126号)に基づき、主要な畜産物の価格の安定に必要な業務等を行い、もって農畜産業及びその関連産業の健全な発展並びに国民消費生活の安定に寄与することを目的として、各種の業務を行っている。
畜産事業団は、昭和37年から平成15年までの間、畜産物の価格安定等に関する法律(昭和36年法律第183号。平成8年10月以降は農畜産業振興事業団法(平成8年法律第53号))に基づき、畜産の振興に資するための事業に出資を行うことができることとなっていた。そして、畜産事業団が出資を行って取得した株式については、8年10月以降、農畜産業事業団が保有することとなり、更に15年10月以降、機構がこれを承継して保有し、その管理及び処分を行うこととなっている。そして、26年3月31日における当該株式に係る出資額は104億2680万円となっている。
機構が保有している上記株式の中には、よつ葉乳業株式会社の株式(非上場で譲渡制限株式9,000株。出資額9億円)がある。この株式を機構が保有するに至った経緯は、次のとおりである。
北海道農協乳業株式会社(昭和61年10月によつ葉乳業株式会社に社名変更された。以下、社名変更の前後を問わず「よつ葉乳業」という。)は、濃縮乳生産を主体とした乳業工場を建設するための資金が必要であるとして、48年に畜産事業団に対して出資を要請し、畜産事業団は、当該出資要請に基づき、同年、よつ葉乳業の全脂濃縮乳部門の経営に寄与する目的で4億円を出資して、よつ葉乳業の株式4,000株を取得した。また、よつ葉乳業は、ナチュラルチーズ製造施設を整備するための資金が必要であるとして、55年に畜産事業団に対して再度の出資を要請し、畜産事業団は、当該出資要請に基づき、同年、よつ葉乳業の国産ナチュラルチーズ部門の経営に寄与する目的で5億円を出資して、よつ葉乳業の株式5,000株を取得した。そして、前記のとおり、農畜産業事業団による保有を経て、平成15年10月以降現在に至るまで、機構がこれらの株式を保有している。
独立行政法人農畜産業振興機構業務方法書(平成15年農林水産省指令15生産第4153号。以下「業務方法書」という。)によれば、機構からの出資を受けた者が機構の出資金の全部又は一部を回収されてもその事業の遂行に支障がないと認められるに至ったときなどの場合には、機構は、出資金の全部又は一部を回収することができることとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
畜産事業団がよつ葉乳業に2回目の出資を行ってから30年以上の期間が経過していることなどを踏まえて、本院は、効率性、有効性等の観点から、出資目的が達成され、出資金の回収について検討が行われているかなどに着眼して、機構における株式の保有状況及びよつ葉乳業における全脂濃縮乳等の製造等に係る事業の実施状況、経営状況等を対象として、機構本部及びよつ葉乳業において、財務諸表等の関係書類、調書等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
機構が保有するよつ葉乳業の株式9,000株のうち、昭和48年に畜産事業団が取得した4,000株は、普通株式として取得された後、50年3月に全脂濃縮乳部門における損失の状況及び経営に与える影響を勘案し、株主総会での議決を経て配当が他の普通株主に劣後する条件となっている後配株式に転換され、現在に至っている。また、残りの5,000株は、55年に畜産事業団が後配株式として取得した株式であるが、平成23年3月に、今後とも国産ナチュラルチーズ部門の損益の安定化が継続するとの見通しの下で、普通株式に転換されていた。
よつ葉乳業の近年の経営状況についてみたところ、各部門を合わせた会社全体の決算において、18事業年度(以下、事業年度を「年度」という。)から25年度まで継続して当期純利益を計上しており、25年度当期純利益は14億余円、25年度末の利益剰余金は資本金31億円に対して246億余円となっていた。そして、機構が保有する株式9,000株の実質価額(よつ葉乳業の貸借対照表上の純資産額に機構の出資割合を乗じて得た額)をみると、畜産事業団が出資した額の合計9億円に対して、25年度末で81億余円となっていた。また、普通株式に対しては毎年度継続して配当が行われており、機構も、5,000株の普通株式に対して、23年度から25年度までの間にそれぞれ2500万円、計7500万円の配当を受け取っていた。
上記のとおり、よつ葉乳業の経営は近年順調に推移し、会社として多額の利益剰余金を保有するに至っており、全脂濃縮乳部門及び国産ナチュラルチーズ部門については、今後も引き続きその製造を行うこととしている。このうち、全脂濃縮乳部門については、当初、相当額の損失を計上したことなどから、近年は損益がほぼ同程度となっているものの、依然として多額の累積損失が解消されていない状態となっている。一方で、国産ナチュラルチーズ部門については、安定的に利益を計上している状況となっている。したがって、機構による出資は、よつ葉乳業の経営に既に十分に寄与していることなどから、よつ葉乳業の会社全体の経営状況を勘案すると、出資目的が達成されており、また、出資金9億円を回収してもよつ葉乳業の経営に支障がない状況となっていることから、出資金の回収について検討を行う必要があると認められた。
しかし、機構は、よつ葉乳業の経営状況等を毎年度提出を受けている事業報告書等により把握し、また、前記のとおり、業務方法書において、機構の出資金の全部又は一部を回収されてもその事業の遂行に支障がないと認められるに至ったときなどの場合に、出資金の全部又は一部を回収することができることとしているが、出資金を回収するかどうかを判断する具体的な判断基準を定めていないため、よつ葉乳業に対する出資金の回収について具体的な検討を行っていない状況となっていた。
このように、機構において、出資金を回収するかどうかを判断する具体的な判断基準を定めておらず、よつ葉乳業に対する出資金の回収について具体的な検討を行っていない事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、機構において、次のことによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、次のような処置を講じた。