【意見を表示したものの全文】
国家備蓄施設における業務システムの構築、運用及び保守について
(平成26年10月30日付け 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴機構は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法(平成14年法律第94号)に基づき、国の委託を受けて、石油の備蓄の確保等に関する法律(昭和50年法律第96号)の定める国家備蓄石油及び国家備蓄施設(以下「備蓄施設」という。)を管理している。
国家備蓄石油は、我が国への石油の供給が不足する事態等に備えて国が所有する石油であり、原油と石油ガスに大別される。また、備蓄施設は、国家備蓄石油の備蓄に必要な施設(土地を含む。)であって国が所有するものをいい、原油については全国に10か所設置されている(各備蓄施設は、「石油備蓄基地」に地名を付した名称とされている。また、以下、全国に10か所設置されている備蓄施設を総称して「10備蓄基地」という。)。
貴機構は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構業務方法書(平成16年資第2号)に基づき、10備蓄基地の管理等に係る業務を更に委託することとして、平成21年度から順次、総合評価落札方式による入札を経て苫東石油備蓄株式会社等の石油備蓄株式会社(以下「操業会社」という。)8社に委託している。
国と貴機構との間で毎年度締結されている備蓄施設の管理に関する契約によれば、貴機構における備蓄施設の管理のための支出については、契約書に付属する実施計画書に記載されている支出計画により行うこととされ、その費用は国が負担することとされている。
貴機構と操業会社8社との間で締結されている備蓄施設の操業に係る業務委託契約(以下「操業委託契約」という。)の契約書等によれば、操業会社は、備蓄施設の操業に係る運転業務、施設管理業務等を実施することとされている。このうち、施設管理業務は、備蓄施設等の定期的な点検・検査及び整備工事等の中長期計画の立案、中長期計画に基づく適正な業務・工事等の発注計画の立案、発注工事等の請負者等に対する指導・監督等を行うこととされている。
そして、操業会社が業務を外部の事業者に委託するなどしたことに伴い支払う費用については、操業委託契約に基づく業務委託料に含まれることになり、また、取得することになる不動産の従物等は、国有財産として管理されることとなる。
なお、国が負担することになる費用は、毎年度、業務終了後に貴機構が国に提出する実績報告書に基づき確定することとなっている。
備蓄している原油や備蓄施設の監視、制御等を行う監視制御装置、電子計算機設備である業務システムの設備については、操業会社が構築、運用及び保守を実施することとなっている。操業会社は、請負、委託等により業務システムの構築、運用及び保守を実施しており、業務システムの設備の保全を計画的かつ効率的に実施し、ライフサイクル全体を見通した費用の低減を図るために、前記のとおり中長期計画を立案することとなっている。また、業務システムについては、12年から20年単位で更新を行うものとなっており、22年度以降、苫小牧東部、むつ小川原、福井各石油備蓄基地(以下「3備蓄基地」という。)において主要な業務システムの更新が行われているほか、将来は他の備蓄施設においても主要なものも含めた業務システムの更新が見込まれている。
そして、貴機構は、操業会社に対して、委託業務全般に係る経費の節減に努めること、契約の締結に当たって原則として一般競争入札等の競争性を有する入札方法とすること、契約書、仕様書、業者選定理由書等を作成して貴機構に提出することなどを求めている。
各府省は、電子政府構築計画(平成15年各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)において、業務・システムの一元化・集中化及び最適化により費用対効果を高めることなどの目的が掲げられていることを受けて、業務・システムについて、重複する機器等を集約して構築費用の節減を図ったり、運用及び保守に係る契約を一般競争にするなどしてその費用の節減を図ったりしているところである。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
貴機構は、自らの業務システムの構築、運用及び保守に係る契約の締結に当たって、電子政府構築計画の目的に沿って、各府省や他の独立行政法人と同様に、費用の節減等に努めてきているところである。一方で、備蓄施設における業務システムの構築、運用及び保守に係る契約については、前記のとおり操業会社が締結している。
そこで、本院は、経済性等の観点から、業務システムに係る費用の節減等が図られているかに着眼して、10備蓄基地のうち、22年度以降に主要な業務システムの更新を行っていた3備蓄基地の業務システムに係る契約(22年度から25年度までの構築、運用及び保守に係る費用相当額計44億3968万余円)を対象に、貴機構の本部及び3備蓄基地の事務所において、契約書、仕様書、設計書等の関係書類及び業務システムの運用状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、上記の3備蓄基地の操業会社(注)に行わせた業務システムに係る契約(表参照)について、次のとおり適切ではない事態が見受けられた。
表 3備蓄基地における業務システムに係る契約及び費用相当額(平成22年度~25年度)
基地名 | 業務システム数 | 年度 | 構築又は更新に係る契約 | 運用及び保守に係る契約 | 費用相当額計 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
件数 | 費用相当額(円) | 件数 | 費用相当額(円) | (円) | |||
苫小牧東部 | 1 | 22 | ― | ― | 1 | 17,220,000 | 528,129,000 |
23 | ― | ― | 1 | 6,300,000 | |||
24 | ― | ― | 1 | 6,426,000 | |||
25 | 1 | 492,450,000 | 1 | 5,733,000 | |||
むつ小川原 | 6 | 22 | ― | ― | 6 | 38,178,000 | 1,268,832,600 |
23 | 2 | 964,740,000 | 5 | 37,000,950 | |||
24 | 2 | 202,440,000 | 3 | 10,374,000 | |||
25 | ― | ― | 4 | 16,099,650 | |||
福井 | 4 | 22 | 1 | 1,102,500,000 | 4 | 118,377,000 | 2,642,724,000 |
23 | ― | ― | 3 | 108,307,500 | |||
24 | 1 | 493,500,000 | 4 | 151,200,000 | |||
25 | 1 | 555,418,500 | 3 | 113,421,000 | |||
合計 | 8 | 3,811,048,500 | 36 | 628,637,100 | 4,439,685,600 |
むつ小川原、福井両備蓄基地において、操業会社は22年度以降、複数の業務システムを、自らが立案した中長期計画に基づいて構築している。
そして、各操業会社は、いずれも、システムの信頼性を確保する観点からリスク分散を優先させた結果、それぞれの業務システムを独立して構築したとしている。このため、それぞれの業務システムが予備系システムを持たない個別のネットワークを有する形態となっていて、物理的な配線、通信機能をつかさどるLANスイッチを含めた通信機器等計40台が、業務システムごとに敷設又は設置されている。また、サーバについても、必要とされる性能を確保するなどとして、サーバ計35台がアプリケーションソフトごとに設置されている。
しかし、中長期計画の立案の時点で当該備蓄基地における全業務システムを同時期に予備系の保有、更新時期、費用対効果等を考慮した単一のネットワークで構築することなどとしていれば、同一建物の同一箇所に重複して敷設又は設置されるなどしている通信機器等28台(費用相当額計427万余円)及び上記サーバのうち稼働の負荷が大きくなく、ハードウェアの性能要求が低いアプリケーションソフトごとに設置されるなどしているサーバ15台(費用相当額計1621万余円)については、信頼性に影響を及ぼすことなく通信機器等14台及びサーバ6台に集約することが可能であり、集約に伴い必要となる費用を考慮しても、業務システムの構築に要する費用を相当額節減することができたと認められる。
上記の事態について事例を示すと、次のとおりである。
<事例>
福井備蓄基地において、操業会社は、陸域計算機システムとして、備蓄した石油の管理等に係る帳票を作成、印字する帳票サーバ等を14台(1台当たり金額670,000円~3,250,000円)、及び、海域計装システムとして、同基地周辺の海域の状況を記録するためのITV画像録画サーバ等を4台(同267,000円~2,996,000円)、計18台設置している。しかし、これらのサーバの運用に係るアプリケーションソフトは、常時の稼働が必要なものでなかったり、ハードウェアへの性能要求が低かったりしていることから、両業務システムを一体として構築することにより、サーバを14台に集約することが可能であり、その結果、これらのサーバのうち4台(同670,000円~2,340,000円)については設置する必要がなかった。
3備蓄基地における業務システムの運用及び保守に係る契約36件のうち12件については、各業務システムが一部を除いて一般的なハードウェア及びソフトウェアの組合せで構築されており、必要な情報を提供すれば構築業者以外の業者でも運用及び保守を行うことができると認められるのに、各操業会社は、業務システムの構築業者以外の業者では運用及び保守を行うことが事実上困難であるとして、構築業者と随意契約により契約を締結していた。そして、操業会社は、上記12件の契約(契約金額計3億0791万余円)について、いずれも業者の見積りに基づく月額人件費(2,059,573円~2,750,035円)で予定価格を算定して、その予定価格と同額又はほぼ同額の契約額で締結していた。しかし、上記予定価格の算定に用いられた月額人件費は、本院が23年11月29日に国会及び内閣に対して報告した「情報システムに係る契約における競争性、予定価格の算定、各府省等の調達に関する情報の共有等の状況について」において、25府省等を対象として検査をして判明したシステムエンジニア等の月額人件費(最高額1,982,400円)より高額となっていた。また、上記12件のうち、福井石油備蓄株式会社が契約を締結していた3件の契約については、予定価格の算定に同会社の積算基準によって算定される月額人件費(1,726,593円)より高額な月額人件費も用いられていた。
貴機構は、上記のような状況を把握したことから、25年度に操業会社と新たな操業委託契約を締結した際の仕様書等において、前記のとおり、業務システムの運用及び保守の業務についても、原則として一般競争入札等の競争性を有する入札方法とすることを求めている。その結果、苫小牧東部、福井両備蓄基地の操業会社は、同年度以降の3件の契約(契約金額計7463万余円)について、一般競争入札又は見積合わせにより契約を締結していた。
しかし、上記3件の契約に係る仕様書等を確認したところ、保有している機器の具体的な規格、ソフトウェアの詳細な仕様、成果物である図面、資料等についての明示や具体的な作業内容の記載が見受けられず、このような仕様書等では随意契約を行っていた当時のものと内容に大きな違いがなく、構築業者以外の業者には正確な業務量等を見積もることが困難なものとなっていた。そして、上記3件の契約に当たって、構築業者以外に入札又は見積合わせに参加した業者は皆無となっていた。
(改善を必要とする事態)
上記のとおり、操業会社による業務システムの構築、運用及び保守において、機器等を集約して設置していなかったり、競争の利益を十分に享受できるようになっていなかったりしていて、操業委託契約に基づく業務委託料相当額が経済的なものとなっていない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴機構において、複数の業務システム間における設置機器の集約化等を図るための方策や、業務システムの構築後に複数の業者がその運用及び保守を行うことができるようにして競争の利益を享受するための方策等について、操業会社と協議するなどして具体的に検討していないことなどによると認められる。
備蓄施設に構築された業務システムの構築、運用及び保守に要する費用は、今後も引き続き生ずるものである。また、各備蓄施設の業務システムは将来更新が見込まれている。
ついては、貴機構において、複数の業務システム間における設置機器の集約化等を図ったり、業務システムの運用及び保守に係る契約の締結に際して競争の利益を十分に享受できるようにしたりするための方策等について、操業会社と協議の上、具体的に検討して、備蓄施設における業務システムの構築、運用及び保守をより経済的に実施することが可能となるよう意見を表示する。