独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」という。)は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法(平成14年法律第94号)に基づき、石油及び可燃性天然ガス資源、石炭資源、地熱資源並びに金属鉱物資源の開発を促進するために必要な業務等を、自ら又は請負、委託等の契約を締結して実施している。
機構は、会計規程(2004年(財経)規程第6号)に基づき、上記の契約を締結する場合、原則として競争入札を実施することとしている。そして、入札参加者の有する専門的知識、創意、技術等(以下「技術等」という。)によって事業の成果に相当程度の差異が生ずるものについては、「総合評価落札方式の入札に係る標準ガイドライン」(平成19年8月策定。以下「ガイドライン」という。)に基づき、競争入札の一つとして、技術等と価格を総合的に評価して落札者を決定する総合評価落札方式による入札を実施している。
機構は、ガイドラインにおいて、技術等と価格の総合評価により得られた数値の最も高い者を落札者とすることとしている。そして、技術等と価格の総合評価は、技術等に対する得点(以下「技術点」という。)と価格に対する得点(以下「価格点」という。)をそれぞれ次の(2)及び(3)のように算出して行うこととしている。
技術点は、調達の目的及び内容を考慮した複数の評価項目及び提案内容を評価する基準(以下「評価基準」という。)を設定した上で、複数の評価者が、評価基準に基づき公平、公正に評価して算出することとなっている。
上記の評価項目は、必須の評価項目とそれ以外の評価項目に区分されており、このうち必須の評価項目については、最低限の要求要件を示した上で、当該要求要件を満たさない場合は不合格とすることとなっている。また、評価項目は、可能な限り評価する内容を詳細かつ具体的に示すこととなっており、定性的な評価項目については、十分に合理的な理由をもって評価を行うこととなっている。
各評価項目に対する得点配分は、その重要度に応じて定めることとなっている。また、原則として事業の実施体制、業務実績等に係る評価項目と提案内容の創造性、新規性等に係る評価項目とを区分して、前者については、入札価格に対する得点配分と等しい得点配分とすることとなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、総合評価落札方式による入札において評価が適切に行われ、同方式による入札が有効に機能しているかなどに着眼して、平成23年度から25年度までの間に、同方式による入札を実施している調査、広報等に関する契約のうち、複数の者が応札した契約48件(契約金額計6億1895万余円。ただし、単価契約については支払額による。以下同じ。)を対象として、機構本部等において、契約書、評価基準書、評価結果書等の関係書類を確認するとともに、評価項目、評価基準の設定、技術等と価格の評価方法等について契約担当部署から説明を徴するなどして、会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、48件の契約のうち44件の契約(契約金額計5億6220万余円)において、次のような事態が見受けられた(下記の事態の間には重複しているものがある。)。
前記のとおり、必須の評価項目については、最低限の要求要件を示した上で、当該要求要件を満たさない場合は不合格とすることとなっている。
しかし、37件の契約(契約金額計4億7443万余円)においては、必須の評価項目がいずれも6割以上の得点となった場合は最低限の要求要件を満たすとみなすなどとしているのみで、最低限の要求要件を明確に示さないまま評価を行っており、必須の評価項目について実質的な評価が行われていない状況となっていた。
また、前記のとおり、定性的な評価項目については、十分に合理的な理由をもって評価を行うこととなっている。
しかし、22件の契約(契約金額計2億5295万余円)においては、具体的な採点基準を定めていなかったり、評価者の主観的な要素をできる限り排除して客観的な評価を行ったことを示すための証跡を残していなかったりしていて、評価結果を事後的に検証することができない状況となっていた。
上記の事態について事例を示すと、次のとおりである。
<事例1>
機構は、平成25年度に、総合評価落札方式による入札を実施して、石炭地質構造調査の総合的な地質構造解析等に資することを目的とする調査を行う事業者を選定している。
この入札においては、調査実施方法の実現性等や業務監理者の管理能力等を必須の評価項目に設定し、〔1〕 実施手法及び評価方法は必要十分な技術レベルにあり適切か、〔2〕 業務監理者は業務の遂行に十分な専門能力、経験及びプロジェクト管理能力を有しているかなどを評価基準としている。しかし、最低限の要求要件を明確に示しておらず、これらを含む複数の必須の評価項目でいずれも6割以上の得点となった場合は最低限の要求要件を満たすとみなしていた。
また、上記のように定性的な評価項目としているのに、例えば同様のプロジェクトを管理した経験回数等による具体的な採点基準を定めておらず、客観的な評価を行ったことを示すための証跡も残していなかった。
このほか、前記のとおり、各評価項目に対する得点配分は、その重要度に応じて定めることとなっているのに、12件の契約(契約金額計9434万余円)においては、調査計画や調査方法のように、その優劣で費用対効果に大きな差異が生ずるような重要な評価項目に対する得点配分が、他の評価項目に対する得点配分と一律に同じものとなっていた。また、前記のとおり、事業の実施体制、業務実績等に係る評価項目に対する得点配分は、原則として入札価格に対する得点配分と等しくすることとなっているのに、16件の契約(契約金額計1億5215万余円)においては、特段の理由もなく入札価格に対する得点配分よりも多い得点配分となっていた。
機構は、前記44件の契約のうち、基準額を下回る価格による入札が行われていた6件(契約金額計1億4554万余円)に係る価格の評価に当たって、前記のとおり、基準額を下回る入札者について価格点の上限として設定した得点を与えていた。
しかし、基準額の設定は、入札の結果最も高い評価を得た者の入札価格が相当程度低額であった場合に、その者の履行能力を調査し、履行能力があると認められた場合に限り契約を締結することとして、契約の確実な履行を確保することを目的とするものである。このため、基準額を下回る入札者について一律に価格点の上限として設定した得点を与える場合は、その目的を超えて、入札価格を適切に評価しないことになり、機構が競争の利益を十分に享受することができないことになるおそれがある。
そして、前記6件の契約の中には、基準額を設けない場合の方法により価格点を算出して総合評価を行うと、最も低い価格の入札者に係る価格点と技術点の合計点が、落札者に係る合計点を上回ることになるものも見受けられた。
上記の事態について事例を示すと、次のとおりである。
<事例2>
機構は、平成23年度に、総合評価落札方式による入札を実施して、広報用の映像媒体を作成する事業者を選定している。
この入札においては、入札に参加した3者のうち1者は、その入札価格が基準額を下回っていたことから、価格点として、その上限として設定した得点が与えられており、価格点と技術点の合計点は、落札者に次ぐ順位となっていた。
しかし、基準額を設けない場合の方法により価格点を算出すると、上記の者に係る合計点は、落札者に係る合計点を上回ることになった。
したがって、機構において、総合評価落札方式による入札を実施するに当たり、必須の評価項目について実質的な評価が行われていなかったり、基準額を下回る入札者について一律に価格点の上限として設定した得点を与えたりなどしていて、落札者の決定において同方式による入札が有効に機能しないまま技術等と価格の評価が行われている事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、機構において、総合評価落札方式による入札の実施に当たり、適切に評価項目、評価基準、得点配分等を設定したり、競争の利益を享受することができるよう価格の評価を行ったりすることの重要性についての理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、26年8月に、ガイドラインを改定し、その遵守について改めて周知徹底を図るなどして、技術等と価格の評価を適切に行って落札者を決定して、総合評価落札方式による入札が有効に機能するよう次のような処置を講じた。