【是正改善の処置を求めたものの全文】
奨学金貸与事業における振込超過金の取扱い等について
(平成26年10月30日付け 独立行政法人日本学生支援機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴機構は、独立行政法人日本学生支援機構法(平成15年法律第94号)に基づき、教育の機会均等に寄与するために学資の貸与その他学生等(大学及び高等専門学校の学生並びに専修学校の専門課程の生徒をいう。以下同じ。)の修学の援助を行うことなどにより、我が国の大学等(大学、高等専門学校及び専門課程を置く専修学校をいう。以下同じ。)において学ぶ学生等に対する適切な修学の環境を整備し、もって次代の社会を担う豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成に資することなどを目的として設置されている。そして、貴機構は、その目的を達成するための業務の一環として、経済的理由により修学に困難がある優れた学生等に対して、学資を貸与する事業(以下、この貸与する学資を「奨学金」といい、この事業を「奨学金貸与事業」という。)を実施しており、その原資は、奨学金の回収金、国の一般会計等からの無利子の借入金、国の財政融資資金等からの借入金及び貴機構が発行する財投機関債となっている。
貴機構は、奨学金の貸与を受ける者(以下「奨学生」という。)の資格について、独立行政法人日本学生支援機構業務方法書(平成16年文部科学大臣認可。以下「業務方法書」という。)により、大学等に在学する優れた学生等であって経済的理由により修学に困難があると認められたものと定めている。そして、奨学生が退学等により上記の資格を失うなどした場合には、奨学金の貸与を取りやめることとなっている。
貴機構は、奨学金の貸与を毎月、口座振込により行っているが、奨学生の資格を失った者(以下「資格喪失者」という。)に奨学金が振り込まれることがないよう、大学等に対して、「奨学生に係る学籍管理の徹底について(依頼)」(平成22年学支学貸第1379号)を発出して、奨学生の退学等の事実を把握した時点で奨学金の振込を停止(以下、奨学金の振込を停止することを「振込保留」という。)する手続をとるよう依頼している。
他方、貴機構は、大学等において振込保留の手続の遅延が発生した場合、当該手続がとられるまでの間、資格喪失者に奨学金が振り込まれることとなる(以下、資格喪失者に振り込まれた奨学金を「振込超過金」という。)ことから、振込超過金が発生した場合の取扱いについて、貴機構内部の事務処理の定めである「異動事務処理要項」(平成17年奨学部長決裁)及び大学等に対する依頼文書である「適正な異動処理の実施について(依頼)」(平成22年学支学貸第1393号)により、次のとおり定めている。
また、大学等は、組入れ処理の対象となる期間が3か月以上となる場合に、〔2〕 の申請書に加えて、学校長作成の「組入願及び再発防止策」(組入れ処理の申請及び振込超過金の再発防止策を記載した文書)及び学校長又は大学等の担当課長作成の「事情経過書」(振込超過金が発生した事情を記載した文書)を貴機構に提出することとなっている。
貴機構は、奨学規程(平成16年規程第16号)に基づき、年1回、2月末までに奨学生から奨学金継続願を提出させるとともに、これを基に、大学等に対して、「奨学生の適格認定に関する施行細則」(平成16年細則第12号)の適格基準の細目の区分に応じて、奨学生としての資格の有無の確認等(以下「適格認定」という。)を行わせている。そして、貴機構は、その結果に基づいて、奨学生に対して執るべき処置を決定し、「廃止」に係る処置を執る場合には4月分から振込を停止することとなっている(表参照)。
区分 | 適格基準の細目 | 奨学生に対して執るべき処置 |
---|---|---|
廃止 | 原級にとどまった者又は卒業延期のおそれがある者等 | 奨学生の資格を失わせる |
停止 | 学業成績は廃止者と同じであるが、成績不振の理由が真にやむを得ないと認められ、かつ、成業の見込みがある者等 | 奨学金の交付を停止する |
警告 | 卒業延期のおそれはないが、修得単位が標準の1/3程度以下の者等 | 奨学金の交付を継続するが、場合によっては、奨学生の資格を失わせることがあることを警告する |
激励 | 警告該当者ほどではないが他の学生に比べて劣っている者 | 奨学金の交付を継続するが、学業成績の向上に努力するように激励し指導する |
継続 | 上記の区分に該当しない者 | 奨学金の交付を継続する |
また、貴機構は、平成23年11月の財政制度等審議会財政投融資分科会において適格認定の厳格化が論点となったことを受けて、24年7月、適格認定の実態を把握するために、23年度の適格認定において「警告」に認定された奨学生12,329人を対象に、大学等に調査票を送付するなどして適格認定に係る実態調査を行った(以下、この調査を「23年度実態調査」という。)。そして、貴機構は、23年度実態調査の結果、上記の「警告」に認定された奨学生12,329人のうち586人が本来は表に示す「廃止」と認定すべき「原級にとどまった者」であったとし、認定が適切でなかったとしていた。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、奨学金貸与事業において振込超過金の発生を防止する方策が適切に講じられているか、23年度実態調査において判明した586人の不適切な認定について適切な処置を執っているかなどに着眼して、23、24両年度に大学等を退学(大学等により除籍された場合を含む。)した者、自ら奨学金を辞退した者及び適格認定の結果「廃止」に係る処置が執られた者(以下、これらを合わせて「退学者等」という。)に対する退学等した年度に係る奨学金計162,846件、貸与額2489億8839万余円並びに23年度実態調査において「警告」の認定が適切でなかったとした者586人に対する24年度に係る奨学金の貸与額5億0412万円を対象として、貴機構において、奨学金貸与に関する資料や23年度実態調査に係る資料を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
23、24両年度における振込超過金の発生状況についてみたところ、その件数及び金額は、23年度1,696件、2億5219万円、24年度1,639件、2億3460万余円、計3,335件、4億8679万余円に上っており、奨学生が退学等することにより資格喪失者となった後においても貸与を継続していた期間は、1か月から最長で15か月までとなっていた。また、上記の振込超過金のうち資格喪失者から返戻されず貴機構が組入れ処理を行った振込超過金は、23年度540件、1億1098万余円、24年度596件、1億0509万余円、計1,136件、2億1608万余円となっており、件数比で34.0%、金額比で44.3%を占めていた。
そこで、振込超過金のうち組入れ処理の対象となる期間が3か月以上となっていたため、「組入願及び再発防止策」及び「事情経過書」が貴機構に提出された299件、1億2710万余円について振込超過金の発生原因をみたところ、奨学生が学費を支払わなかったため退学日を遡及したことなど、奨学金の振込後に生じた事情に起因するものが90件、3560万余円(件数比30.1%、金額比28.0%)ある一方で、大学等の事務処理の遅延に起因するものが209件、9149万余円(件数比69.8%、金額比71.9%)と大半を占めていた。そして、大学等における事務処理の遅延に起因して発生する振込超過金は、大学等の学籍事務を担当する職員(以下「学籍事務担当者」という。)が奨学生の退学等の事実を把握した際に、直ちに当該大学等の奨学金事務を担当する職員(以下「奨学金事務担当者」という。)に連絡して振込保留の手続をとるなどすれば、振込超過金の発生を防止することが可能なものであったことから、前記の振込超過金3,335件、4億8679万余円の中には、大学等の事務処理の遅延に起因して発生している振込超過金が相当額含まれていると思料される。
また、貴機構は、上記のような事態によって多額の振込超過金が発生しているのに、その件数及び金額を把握しておらず、さらに、「組入願及び再発防止策」に記載された振込超過金の再発防止策の実施状況についても確認していなかった。
上記について事例を示すと、次のとおりである。
<事例>
A大学において、学籍事務担当者は、在学していた奨学生Bが平成23年7月12日に退学していたことを把握していたにもかかわらず、奨学金事務担当者へ連絡していなかったことなどから、奨学金事務担当者は、24年2月1日まで、奨学生Bに対する振込保留を行っていなかった。その結果、振込超過金72万円が奨学生Bに対して振り込まれていた。その後、A大学は、奨学生Bとの連絡を試みたが、奨学生Bと連絡が取れなかったため、24年3月30日に貴機構に対して「組入願及び再発防止策」及び「事情経過書」を提出し、貴機構は、24年4月13日に組入れ処理を行った。なお、A大学は、「組入願及び再発防止策」に、今後は学籍事務担当者と奨学金事務担当者との連絡を速やかに行う旨を記載していた。
しかし、翌年再び、学籍事務担当者は、在学していた奨学生Cが24年7月31日に退学していたことを把握していたにもかかわらず、奨学生Bの場合と同様に、奨学金事務担当者へ連絡していなかったことなどから、奨学金事務担当者は、24年12月27日まで、奨学生Cに対する振込保留を行っていなかった。その結果、振込超過金60万円が奨学生Cに振り込まれていた。
このように、A大学は、24年3月30日に貴機構に対して「組入願及び再発防止策」を提出していたにもかかわらず、再発防止策を徹底していなかった。
また、貴機構は、「組入願及び再発防止策」に記載された再発防止策が確実に実施されているか確認していなかった。
前記のとおり、23年度実態調査の結果、奨学生586人が本来は「廃止」と認定すべきであったにもかかわらず、「警告」と認定されており、大学等において不適切な適格認定が行われていた。
そして、貴機構は、上記の586人全員について、24年4月に遡及して奨学生に対する認定を「警告」から「廃止」に修正すべきであるとしていたのに、年度途中に学資の貸与を止めることによる奨学生への経済的な影響を考慮したとして24年度中の貸与を継続しており、その金額は5億0412万円となっていた。さらに、貴機構は24年度の適格認定に係る実態調査の結果についても、23年度実態調査の結果と同様に取り扱っており、25年度中の貸与を継続していた。
しかし、業務方法書によれば、奨学生としての資格を失うなどした場合は奨学金の貸与を取りやめることとされていることから、実態調査の結果、適格認定が適切でなかったことが判明した奨学生について、当該奨学生が在学する大学等に本来「廃止」と認定すべき時点まで遡って適格認定の修正を行わせ、適正な適格認定の結果「廃止」と認定された者と同様に、奨学生の資格を失わせるべきであったと認められる。
現に、24年度の適格認定に係る実態調査等の過程において、一部の大学等は、適格認定が適切でなかったことが判明した奨学生について振込保留の手続をとるとともに、「廃止」と認定すべきであった時点に遡って適格認定を修正し、その結果に基づいて、貴機構において、奨学生の資格を失わせていたものが112件2341万余円見受けられた。
(是正改善を必要とする事態)
貴機構において、大学等の事務処理の遅延により多額の振込超過金が発生していたり、振込超過金の件数及び金額の把握並びに大学等における再発防止策の実施状況の確認を行っていなかったりしている事態、適格認定が適切でなかったことが判明した奨学生について、当該奨学生が在学する大学等に本来「廃止」と認定すべきであった時点まで遡って適格認定の修正を行わせないまま、奨学金の貸与を継続していた事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴機構において、次のようなことなどによると認められる。
大学等への進学率が上昇したことなどにより奨学金の貸与を受ける者の割合は増加する傾向にあり、貴機構の奨学金貸与残高は25年度末時点で約8兆円に上っている。そして、奨学金貸与事業は、国の一般会計等からの無利子の借入金や国の財政融資資金を原資とした国費等により実施されていることから、貸与に関する経理処理を適正に行うことが求められている。
ついては、貴機構において、振込超過金の発生及び適格認定が適切でなかったことが判明した奨学生に対する奨学金の貸与を防止する処置が講じられるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。