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  • 平成25年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
  • 第2節 団体別の検査結果 |
  • 第48 独立行政法人海洋研究開発機構 |
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

海洋の調査・観測を実施するための船舶の建造契約について、詳細な資料を徴するなどして予定価格の算定の基礎となる見積りの妥当性を確認できるようにするとともに、建造に要した工数等に基づく費用を把握できる旨の条項を契約書等に定めるなどして知見を蓄積することにより、予定価格を適切に算定することができるよう改善させたもの


科目
経常費用
部局等
独立行政法人海洋研究開発機構本部
契約名
海洋研究船の建造
契約の概要
東日本大震災の影響に関する総合的な海洋調査を実施するための船舶を建造するもの
契約の相手方
三菱重工業株式会社
契約
平成24年2月 随意契約
契約金額
104億4225万円(平成23年度)
予定価格(1)
104億4225万円
建造に要した費用(2)
88億1317万余円
(1)と(2)の開差額
16億2907万円

1 研究船の建造契約に係る予定価格の算定の概要

独立行政法人海洋研究開発機構(以下「機構」という。)は、独立行政法人海洋研究開発機構法(平成15年法律第95号)に基づき、海洋科学技術の水準の向上を図るとともに、学術研究の発展に資することを目的として、海洋に関する基盤的研究開発、海洋に関する学術研究に関する協力等の業務を行っており、その一環として、海洋の調査・観測を実施するための船舶(以下「研究船」という。)を保有している。

機構は、研究船について機構が求める性能等を有するための仕様が一様ではないことから、機構と民間企業の知恵を結集することにより高性能の研究船を建造するために、調達内容の概要を提示して公募を行い、契約締結を希望する者から技術提案書を提出させ、これを審査して契約の相手方を選定し、当該相手方と契約を締結する技術提案公募を実施することとしており、この技術提案公募は随意契約の一形態とされている。

そして、機構は、東日本大震災の地震・津波の影響で海洋生物が生息する環境が激変した東北三陸沖を中心とする日本の沿岸・近海を主たる対象として総合的な海洋調査を実施するために、東北海洋生態系調査研究船(以下「生態系調査船」という。)を建造する契約(以下「生態系調査船建造契約」という。)に係る技術提案公募を実施し、その結果に基づいて三菱重工業株式会社(以下「三菱重工」という。)を契約の相手方として選定している。そして、三菱重工との間で仕様を確定した上で、三菱重工が当該仕様に基づいて人工費、設計費、材料費、一般管理費等を積み上げるなどして作成した見積りを基に予定価格を104億4225万円と算定して、平成24年2月に、三菱重工との間で確定契約(契約締結時に契約金額が確定している契約)により、予定価格と同額で生態系調査船建造契約を締結している。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

機構が研究船の建造に当たって実施している技術提案公募は、参考となる市場価格が形成されておらず詳細な仕様を作成することが困難な場合に、民間企業が有している技術力等を活用することにより機構が求める性能等を有する研究船を建造することが期待できる一つの方法であると考えられる。他方、技術提案公募は随意契約の一形態であり、契約の相手方を選定した後は価格面での競争が働かないことになる。したがって、契約金額の妥当性の前提となる予定価格の適正性を確保することが重要である。

そこで、本院は、経済性等の観点から、研究船の建造に係る予定価格は適切に算定されているかなどに着眼して、生態系調査船建造契約(契約金額104億4225万円)を対象として、機構本部において、見積書、予定価格調書、契約書等の関係書類を確認するとともに、三菱重工に赴いて建造に要した費用を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

機構は、前記のとおり、技術提案公募により三菱重工を契約の相手方として選定した後に両者間で仕様を確定し、これに基づいて作成された建造に要する費用の見積りを三菱重工から提出させていた。そして、機構は、当該見積りのうち人工費及び設計費について見積りの工数と同じ工数を用いるなどして、見積りの総額と同額で予定価格を算定していた。しかし、機構は、予定価格の算定の基礎となる見積りの妥当性を確認するための人工費及び設計費に係る工数、材料費に係る数量等に関する詳細な資料を徴していなかった。また、生態系調査船の建造に要した工数等に基づく費用を把握することは、今後の研究船の建造に係る予定価格の算定に資することとなるのに、建造に要した工数等に基づく費用を把握できる旨の条項を契約書等に定めていなかった。

そこで、生態系調査船建造契約について、三菱重工の原価元帳等の会計帳簿や作業実態等により建造に要した人工費及び設計費に係る工数、材料費等を確認したところ、人工費及び設計費に係る工数が、予定価格の内訳となっている工数(見積工数)よりそれぞれ48.0%及び52.2%下回っているなどしていた。そして、これらの工数に係る人工費、設計費、材料費等の額を基に、本院が三菱重工の財務諸表に基づいて算出した一般管理費率等を用いて生態系調査船の建造に要した費用を算定すると88億1317万余円となり、予定価格(契約金額と同額)104億4225万円との間で16億2907万余円(予定価格の15.6%)と大きな開差が生じていた。

このように、機構において、生態系調査船の建造について技術提案書の審査後に契約を締結するに当たり、予定価格を適切に算定するための詳細な資料を徴したり、建造に要した工数等に基づく費用を把握できる旨の条項を契約書等に定めたりしておらず、予定価格と建造に要した費用との間に大きな開差が生じていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、機構において、研究船の建造に係る予定価格の算定に当たり、算定の基礎となる見積りの妥当性を確認するための詳細な資料を徴したり、建造に要した工数等に基づく費用を把握することにより今後の予定価格の算定に資する知見を蓄積したりすることの重要性について理解が十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、機構は、26年1月に契約担当部署に指示して、研究船の建造に係る予定価格を適切に算定することができるよう、詳細な資料を徴するなどして予定価格の算定の基礎となる見積りの妥当性を確認できるようにすることとしたり、建造に要した工数等に基づく費用を把握できる旨の条項を契約書等に定めるなどして、今後の予定価格の算定に資する知見を蓄積することとしたりする処置を講じた。