【意見を表示したものの全文】
賃貸住宅事業の保全工事に係る会計処理について
(平成26年10月30日付け 独立行政法人都市再生機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴機構は、独立行政法人都市再生機構法(平成15年法律第100号)に基づき、前身である都市基盤整備公団(以下、その前身である住宅・都市整備公団及び更にその前身である日本住宅公団と合わせて「公団」という。)等から資産等を承継し、賃貸住宅等の管理等に関する業務を行うことにより、良好な居住環境を備えた賃貸住宅の安定的な確保を図ることなどを目的として、平成16年7月に設立された。
そして、公団から承継された資産については、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)等に基づき、独立行政法人都市再生機構資産評価委員会により、貴機構設立日における時価を基準とした資産評価が行われた。これにより、貴機構設立時の賃貸住宅事業に係る資産として、土地8兆0157億余円、建物(建物附属設備等を含む。以下同じ。)3兆0260億余円、構築物2759億余円、機械装置5億余円(以下、建物、構築物、機械装置を合わせて「償却資産」という。)等計11兆3183億余円が計上された。
独立行政法人の会計については、「独立行政法人会計基準」(平成12年2月独立行政法人会計基準研究会策定。平成23年6月改訂)に従うこととなっており、また、独立行政法人会計基準に定められていない事項については、一般に公正妥当と認められる企業会計原則に従うこととなっている(以下、これらを合わせて「会計基準等」という。)。
そして、貴機構は、会計基準等に基づく適切な会計処理を行うために、独立行政法人都市再生機構会計規程(平成16年7月1日規程第4号)等(以下「会計規程等」という。)を定め、これに基づき会計処理を行っている。
独立行政法人が設定する償却資産の耐用年数については、会計基準等において、各法人が自主的に決定することを基本としており、貴機構は、償却資産について、〔1〕 賃貸住宅の主体部分の仕様が70年以上の耐久性を有しており、適切な修繕により70年にわたる居住性能を確保できること、〔2〕 主体部分以外の償却資産についても一体として家賃収入により投資原価の回収を図るべく経営管理を行っていることなどから、原則として、70年の耐用年数を適用して減価償却を行っている。
建物附属設備等、構築物及び機械装置(以下、これらを「設備等」という。)について建物の主体部分と同じ耐用年数を適用するためには、70年にわたって、設備等の機能を維持するための更新を行っていくことが前提となっている。このため、貴機構は、会計規程等において、既存賃貸住宅団地の修繕又は改良のために実施している保全工事のうち、耐用年数期間中従来と同一の機能を維持するために通常必要と認められる工事費を費用処理することとしている。また、設備等については、除却しても賃貸住宅建物全体を用途廃止しない限り資産計上し続ける一方、保全工事により更新する場合は、除却した設備等の機能を増大させる部分の工事費に限り資産計上することとしている。
貴機構は、表のとおり、賃貸住宅団地において、給水管の補修のような軽微な修繕等である経常修繕から大規模間取り改善のようなリニューアル等工事まで、様々な保全工事を実施しており、会計規程等に基づき、これらの保全工事のうち、経常修繕を除く改良整備及びリニューアル等工事並びに計画修繕の一部について、当該工事費を償却資産として資産計上している。
保全工事の主な区分 | 工事内容 | 主な工事項目 |
---|---|---|
経常修繕 | 日常的に生ずる軽微な修繕等 | 給水管の補修 |
計画修繕 | 一定の修繕周期に基づいて、計画的に実施する修繕工事 | 外壁修繕 |
給水管の改修 | ||
改良整備 | 賃貸住宅団地の管理開始後、その建設時に予期されなかった社会環境の変化、居住水準の向上、設置基準の強化を伴う法改正等に対処するために施す工事 | 窓枠アルミ化 |
給水施設の改良 | ||
浴槽大型化 | ||
キッチンの改良 | ||
リニューアル等工事 | 既存賃貸住宅における住戸内の間取り改善等の総合的な改良を行う工事 | 大規模間取り改善 |
貴機構は、22年度より、一部の賃貸住宅を対象に、賃貸住宅団地ごとの経営管理を行うため、各支社等に団地マネージャー等を配置している。そして、団地マネージャー等は、入居促進のための宣伝広告等の募集販売活動に加えて住戸内のリニューアル等工事や改良整備等の保全工事の実施により、損益等が5年間でどのように推移するかなどを検討した事業計画(以下「団地別事業計画」という。)を策定しており、貴機構は、これを踏まえて、保全工事により取得する設備等に係る投資判断等を行っている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、正確性、有効性等の観点から、保全工事の資産計上及び費用処理は設備等の機能を考慮して適切に行われているか、また、このような会計処理は賃貸住宅の保全工事により取得する設備等に係る投資判断等にどのような影響を与えているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、7支社等(注)が管理している賃貸住宅団地において、20年度から25年度までに実施した保全工事により資産計上した償却資産1433億余円を対象として、貴機構本社及び7支社等において、資産台帳、工事発注登録書、経理システム等への入力データ等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴機構は、前記のとおり、会計規程等により、設備等を更新する場合、除却した設備等の機能を増大させる部分の工事費に限って、資産計上することとしている。
そして、保全工事の改良整備のうち浴槽の大型化工事等については、本社の事務連絡等によれば、撤去費等の工事費及び既設の浴槽等の見積価額相当額のうち、従来と同一の機能を維持するため必要となる工事費を費用処理し、当該費用処理を行った額を全体工事費から控除して資産計上することとしている。
しかし、保全工事の改良整備のうち、上記の浴槽の大型化工事等以外の改良整備については、工事費が少額となると想定したことなどから、貴機構設立時から工事費の全額を資産計上することとしている。このため、7支社等において20年度から25年度までに実施した保全工事の改良整備に係る工事費1156億余円のうち、浴槽の大型化工事等を除く改良整備に係る工事費512億0235万余円については、除却した設備等の機能を考慮することなく、その全額を既設の設備等に加算して資産計上されている。
なお、上記の資産計上されている工事費512億0235万余円について、本院において、過大に計上されている額を試算すると、365億6060万余円となる。
西日本支社は、平成24年度に、A団地(昭和48年管理開始)において、アルミ製窓建具改修工事を工事費5033万余円で実施している。
この工事は、建物附属設備等である既設のアルミ製の建具等を撤去し、住戸の気密性等が向上する新たな建具等を設置するものであり、当該工事費の全額が資産計上されている。しかし、当該工事には、従来と同一の機能を維持するための工事が含まれており、資産計上されている工事費5033万余円について、本院において、従来と同一の機能を維持するため必要となる工事費を試算すると、既設の建具の撤去費等2013万余円、既設の建具等の価額1294万余円、計3307万余円となり、同額が過大に資産計上されている。
貴機構は、前記のとおり、耐用年数期間中同一の機能を維持するため必要となる工事費を費用処理することとしているが、計画修繕の一部については、工事費に一定の割合を乗ずるなどして資産計上している。
そして、7支社等において20年度から25年度までに計画修繕として実施した給水管の改修工事等の工事費の一部である58億3759万余円については、給水管の物理的な耐用年数が25年から30年に延びるとの理由により、資産計上されている。しかし、これらの工事は、賃貸住宅団地を70年の耐用年数期間にわたって機能維持するために実施したものであり、当該団地の償却資産全体の耐用年数が延伸されるものではないことから、資産計上せずに費用処理を行うことが適切であると認められる。
ア及びイのとおり、保全工事のうち改良整備及び計画修繕において除却した設備等の機能を考慮することなく資産計上及び費用処理がなされており、改良整備に係る工事費512億0235万余円、計画修繕に係る工事費58億3759万余円、計570億3994万余円の保全工事に係る工事費については、適切な資産計上及び費用処理とは認められない状況となっている。
貴機構が25年度末において管理している1,711団地のうち、貴機構設立以降に新規供給している団地等を除いた1,290団地の賃貸住宅団地については、多くの団地で家賃収入が低下傾向となっている状況においても、17年度から25年度までの間の減価償却費は598億余円から700億余円に増加している。
貴機構は、前記のとおり、賃貸住宅団地ごとの経営管理を行うために、住戸内のリニューアル等工事や改良整備等の保全工事の実施等により、損益等が5年間でどのように推移するかなどを検討した団地別事業計画を策定しており、これを踏まえて、保全工事により取得する設備等に係る投資判断等を行っている。
そして、(1)のように、保全工事に係る資産計上及び費用処理が適切に実施されない場合には、当該保全工事に係る費用処理が先送りされることとなり、短期的な費用が抑えられる反面、長期的な賃貸住宅の経営からみると、将来的な損益の悪化につながることとなる。
したがって、長期的な賃貸住宅の経営からみても、保全工事に係る適切な会計処理に基づく損益等を反映した団地別事業計画とすることにより、これを踏まえた投資判断等を行っていくことが重要であると認められる。
(改善を必要とする事態)
保全工事に係る会計処理に当たり、貴機構において、除却した設備等の機能を考慮しないまま工事費の資産計上及び費用処理を実施している事態、また、このような資産計上及び費用処理により算定された損益等に基づく団地別事業計画を踏まえて保全工事により取得する設備等に係る投資判断等を行っている事態は、長期的な賃貸住宅の経営からみて収益悪化のリスクを生じさせることなどから適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴機構において、次のことなどによると認められる。
貴機構は、現在、経営改善計画や中期計画に沿い30年度までの繰越欠損金の解消に向けて取り組むとともに、長期的な戦略に基づく持続的・安定的な経営基盤の確立に向けて、経営の改善に取り組んでいる。
ついては、貴機構において、長期的な賃貸住宅の経営が適切に行われるよう、次のとおり意見を表示する。