本院は、国立大学法人が導入した国立大学病院管理会計システム(以下「HOMAS」という。)の利用状況について、平成26年10月28日に、国立大学法人東北大学、国立大学法人秋田大学、国立大学法人山形大学、国立大学法人筑波大学、国立大学法人金沢大学、国立大学法人山梨大学、国立大学法人信州大学、国立大学法人岐阜大学、国立大学法人浜松医科大学、国立大学法人三重大学、国立大学法人滋賀医科大学、国立大学法人京都大学、国立大学法人神戸大学、国立大学法人鳥取大学、国立大学法人島根大学、国立大学法人岡山大学、国立大学法人山口大学、国立大学法人徳島大学、国立大学法人愛媛大学、国立大学法人高知大学、国立大学法人佐賀大学、国立大学法人長崎大学、国立大学法人大分大学及び国立大学法人富山大学(平成17年9月30日以前は国立大学法人富山医科薬科大学。以下、これら24の国立大学法人を合わせて「24国立大学法人」という。)の各学長に対して、「国立大学病院管理会計システムの利用状況について」として、会計検査院法第36条の規定により意見を表示した。
これらの意見表示の内容は、24国立大学法人それぞれの検査結果に応じたものとなっているが、これらを総括的に示すと以下のとおりである。
86国立大学法人のうち42国立大学法人は、診療、教育、研究等を担う附属施設として、大学病院、大学附属病院、医学部附属病院等(以下、これらを合わせて「附属病院」という。)を設置し、運営している。附属病院は、診療、教育、研究等という公的使命を果たすとともに、その病院収入は国立大学法人の自己収入の中で重要な位置を占めており、附属病院の経営状況が国立大学法人の運営に与える影響は大きいものとなっている。
そして、16年4月の国立大学法人化以前の各国立大学の附属病院を取り巻く経営環境は、医療費の抑制や規制緩和等が積極的に進められるなど厳しい状況となっていた。このような状況下で、国立大学附属病院長会議(注1)は、国立大学法人化に向けて、病院財務会計についてのシステムの構築や経営者等の意思決定や組織内部の業績測定・業績評価に役立つ情報を提供するなどの附属病院の運営・経営状況を把握するための管理会計の必要性等の検討を進めていた。その結果、14年12月に「国立大学法人における附属病院の財務・管理会計について(提言)」がまとめられ、この中で、従来の経営管理分析に加えて、新たに原価計算の手法を取り入れることなどにより、附属病院の経営状況を的確に把握できる管理会計システムの確立が求められた。
HOMASは、この提言を受けて国立大学附属病院長会議の開発部会を開発主体とし、15、16両年度に国立大学法人東京医科歯科大学(16年3月31日以前は東京医科歯科大学)を、16、17両年度に国立大学法人東京大学をそれぞれ契約事務の担当部局として、15年度から17年度までの間に、少なくとも1億3107万余円(国立大学法人東京大学の資産台帳に計上されている17年度の取得価格)の経費をかけて開発された。そして、附属病院を設置している42国立大学法人のうち41国立大学法人がHOMASを導入している。
HOMASは、診療科別や検査部門といった部門ごとの原価計算(以下「部門別原価計算」という。)を行うことを可能としたものであり、さらに、その結果を基に、患者ごとの原価計算を行ったり、部門ごとの損益分岐点等を明確にしたり、損益についての具体的な要因分析を行ったりすることも可能となっていて、部門別原価計算は、HOMASの他の機能を使用する上で不可欠な要素となっている。
HOMASのユーザマニュアル等によれば、HOMASから部門別原価計算等の結果を出力するために必要な作業は、主に次のとおりとされている。
そして、〔1〕 のデータの内容等については専門性が高いことなどから、HOMASの担当部門である附属病院の経営管理部門だけではその取込作業に対応することが困難であり、同部門においては、HOMASを利用するために、財務会計、医事会計、人事、給与等のシステムを担当する部門の協力を得ることが必須であるとされている。
また、部門別原価計算を行うに当たり、附属病院の各診療科で固有に発生する材料費のように、費用の発生源が明らかな費目については、各診療科等へ直接費用を計上(以下「直課」という。)することが可能であるが、職員人件費のように、附属病院の職員の業務が診療とそれ以外の教育・研究にわたるなどの理由で、直課することが困難な費目については、配賦基準を設定して費用を案分する必要がある。このような場合には、診療に携わる時間の実態調査や費用の配賦基準の設定の仕方及び内容について、経営管理部門は診療科等と調整を図る必要があるとされている。
さらに、HOMASを安定的に利用するためには、組織全体における多岐にわたる理解や協力の下、出力した計算結果を分析する要員の確保及び充実を図る必要があるなどとされている。
HOMASは、導入から約10年経過していることもあり、利用しているハードウェアやソフトウェアが陳腐化してきていることなどから、HOMASの操作性の向上を図りつつ、経営分析に有効な各附属病院の原価計算に係る各種データの比較分析機能を追加することを主な目的とした次期システムの開発が望まれることとなった。これらの事情から、現状のHOMASの機能、HOMASを利用するための仕組みなどを継承しつつ、他の附属病院との間で原価計算結果等を比較することにより、自らの附属病院における診療内容や患者特性を分析できる新たな機能(共通ルール原価計算機能)を追加するなどした国立大学病院向け管理会計サービス(以下「HOMAS2」という。)の開発が、国立大学法人東京大学を契約事務の担当部局として26年4月に開始(契約額計4億6097万余円)され、28年3月を目途に終了する予定となっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、28年4月以降にHOMAS2の導入が予定されていることを踏まえて、HOMASが十分に利用されているか、HOMASを利用するための体制が整備されているかなどに着眼して、HOMASを導入した41国立大学法人を対象として、37国立大学法人(注2)については、関係書類の提出を受けて、その内容を分析するとともに、HOMASの利用状況等を確認するなどの方法により会計実地検査を行い、残りの4国立大学法人(注3)については、関係書類の提出を受けて、その内容を分析し確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
41国立大学法人のうち24国立大学法人は、HOMASを導入して以降、基本情報や配賦基準を設定するなどして、HOMASを利用するための準備を進めていたが、このうち11国立大学法人においては、その後、HOMASの利用開始に至っておらず、また、13国立大学法人においては、一定期間利用後に利用を停止しており、25年度末現在においても全く利用していない状況となっていた。
そして、HOMASの利用開始に至らなかったり、一定期間利用後に利用を停止したりしていた24国立大学法人においては、次のとおり、利用する上での体制上の問題が発生していた。
24国立大学法人ごとに、16年度から25年度までの間にHOMASの導入に要した経費等(以下「導入経費等」という。)及び該当する上記の問題点を示すと、表のとおりであり、24国立大学法人における導入経費等の額は、計1億8411万円となっている。
〔1〕 利用開始に至らなかった11国立大学法人 | |||||
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大学名 | 導入経費等 | 体制上の問題点 | |||
ア | イ | ウ | エ | ||
筑波大学 | 834万円 | 〇 | 〇 | ||
山梨大学 | 298万円 | 〇 | 〇 | 〇 | |
信州大学 | 1429万円 | 〇 | 〇 | 〇 | |
岐阜大学 | 201万円 | 〇 | 〇 | ||
浜松医科大学 | 1020万円 | 〇 | 〇 | ||
滋賀医科大学 | 178万円 | 〇 | 〇 | ||
京都大学 | 894万円 | 〇 | 〇 | 〇 | |
神戸大学 | 1643万円 | 〇 | 〇 | ||
鳥取大学 | 518万円 | 〇 | 〇 | ||
大分大学 | 1826万円 | 〇 | 〇 | 〇 | |
富山大学 | 708万円 | 〇 | 〇 | ||
計 | 9549万円 | / |
〔2〕 一定期間利用後、利用を停止した13国立大学法人 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
大学名 | 導入経費等 | 体制上の問題点 | 利用開始から利用停止 | |||
ア | イ | ウ | エ | |||
東北大学 | 1264万円 | 〇 | 〇 | 平成18年4月~22年4月 | ||
秋田大学 | 不明(注) | 〇 | 〇 | 〇 | 17年1月~21年5月 | |
山形大学 | 722万円 | 〇 | 〇 | 18年3月~20年3月 | ||
金沢大学 | 619万円 | 〇 | 〇 | 17年8月~23年1月 | ||
三重大学 | 529万円 | 〇 | 〇 | 〇 | 17年2月~22年度頃 | |
島根大学 | 652万円 | 〇 | 20年4月~23年3月 | |||
岡山大学 | 635万円 | 〇 | 17年度~22年度 | |||
山口大学 | 558万円 | 〇 | 18年4月~19年5月 | |||
徳島大学 | 732万円 | 〇 | 〇 | 〇 | 18年5月~22年度 | |
愛媛大学 | 1264万円 | 〇 | 〇 | 17年5月~19年12月 | ||
高知大学 | 688万円 | 〇 | 〇 | 16年4月~23年11月 | ||
佐賀大学 | 412万円 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 20年4月~22年度 |
長崎大学 | 787万円 | 〇 | 〇 | 19年9月~22年4月 | ||
計 | 8862万円 | / |
24国立大学法人における導入経費等の合計 | 1億8411万円 |
また、24国立大学法人は、HOMAS2については操作性の向上が見込まれたり、新たな原価計算の機能が追加される予定であったりすることなどから、いずれもその導入を検討している。そして、HOMASを利用するために必要な各システムからのデータの取り込みや配賦基準の設定等の仕組みや考え方、部門間の協力の必要性等については、HOMAS2にも継承されることから、HOMASを利用する上での現状の問題点に対して十分な対策を講じないままHOMAS2を導入した場合、これまでと同様の問題が発生してその有効利用を図れないおそれがあると認められる。
(改善を必要とする事態)
24国立大学法人において、HOMASを利用する上での体制上の問題点に対して十分な対策が講じられていないことから、25年度末現在においてHOMASが全く利用されていない事態は適切ではなく、28年4月以降に導入が予定されているHOMAS2の利用に当たっても同様の事態が生じないよう、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、24国立大学法人において、次のことなどによると認められる。
24国立大学法人は、経営管理上の意思決定等を行う際に役立つ情報を提供するために、今後、HOMAS2の導入を検討している。
ついては、24国立大学法人において、HOMAS2の導入に当たり、HOMASが利用開始に至らなかったり利用停止となったりした現状の問題点について十分検討し、28年4月以降に導入が予定されているHOMAS2を効果的かつ継続的に利用するために、HOMAS2の開発や各国立大学法人間の意見調整を行う国立大学附属病院長会議等と連携しながら、次のとおり措置を講ずることにより、その利用に必要な体制の整備を図るよう意見を表示する。