阪神高速道路株式会社(以下「会社」という。)は、供用中の高速道路において、土木施設等の維持作業等を行う保全管理工事及び構造物の点検等業務(以下、これらを合わせて「保全管理工事等」という。)を阪神高速技術株式会社に随意契約(単価契約)により委託して実施している。そして、保全管理工事等の実施に当たっては、高速道路の利用者の円滑な交通と路上作業関係者の安全を確保するために、工事用標識車等の保安施設を設置するとともに交通誘導員を配置して一般通行車両の誘導等を行うこととしている(以下、これらの作業を「保安規制作業」という。)。
保安規制作業については、会社制定の「土木工事共通仕様書」(以下「共通仕様書」という。)において、車線数等の作業条件の違いに対応する22の規制種別が設けられ、それぞれの規制種別ごとに標準的な保安施設及び交通誘導員(以下「交通誘導員等」という。)の数量が定められている。そして、大阪、神戸両管理部及び京都管理所(以下、これらを合わせて「管理部等」という。)は、共通仕様書等を基にして、それぞれ管轄の府県の公安委員会と協議し、協議結果に基づき交通誘導員等の数量を変更したものを「保安施設マニュアル」(以下「マニュアル」という。)に取りまとめるなどしている。マニュアルにおける規制種別の数は計65となっており、実際の保安規制作業は、マニュアルに基づいて実施されている。
保全管理工事等の契約に係る積算は、会社制定の「土木工事標準積算基準(保全工事編)」及び「土木工事共通積算資料」(以下、これらを合わせて「積算基準」という。)に基づき、大阪管理部が行っている。
積算基準では、共通仕様書の標準的な交通誘導員等の数量に基づいた保安規制作業費の積算方法が定められており、保安規制作業費の積算に当たっては、マニュアルに基づく実際の保安規制作業における交通誘導員等の数量が、共通仕様書の標準的な数量と異なる場合もあることから、そのような場合には、積算基準の数量をマニュアルの数量に置き換えて積算することとなっている。
積算基準における保安規制作業費の構成は、大別して、〔1〕 工事予告標識等の資材費、〔2〕 保安施設の設置・撤去や一般通行車両等の誘導(以下「交通誘導業務」という。)を行う交通誘導員、工事用標識車や資材運搬車(以下、これらを合わせて「標識車等」という。)を運転する運転工等の労務費、〔3〕 機械損料費及び燃料費となっている。このうち、交通誘導員及び運転工の労務費の計上方法についてみると、交通誘導員の1日当たりの労務費は、作業時間を標準の7時間とし、配置人員1人当たりの費用に交替要員分として0.2人分を見込んで計上することとなっている。また、運転工の1日当たりの労務費は、標識車等の運転時間を標準の7時間よりも長い9時間であるとして、1日当たりの賃金を1.29倍に割増しして計上することなどとなっている。
そして、会社は、保安規制作業に係る労務費の積算に当たり、「公共工事設計労務単価」(農林水産省及び国土交通省決定)に定められている職種及び単価を採用しており、これによれば、〔1〕 交通誘導員は、警備業者の警備員で、交通誘導警備業務等に従事するもの、〔2〕 運転工は、主として路上を運行して作業を行う車両を運転するものなどとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
高速道路の保全管理工事等は、毎年度継続的に実施されており、保全管理工事等の実施に伴う保安規制作業費の積算額も多額に上っている。
そこで、本院は、経済性等の観点から、保安規制作業費について、マニュアルにおける交通誘導員等の数量が積算基準の数量と異なる場合には積算基準の数量をマニュアルの数量に置き換えて積算しているか、積算基準における労務費の算定に使用する職種の適用等は実態に即したものとなっているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、平成24、25両年度に実施した保全管理工事等の契約9件(契約金額計363億4001万余円)を対象として、本社及び管理部等において、契約関係書類を確認するとともに、作業日報等により保安規制作業の実態を把握するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
保安規制作業は、マニュアルに定められた計65の規制種別のうち34の規制種別により実施されており、このうち、交通誘導員の数量についてみると、積算基準より少ない規制種別が11、多い規制種別が3、計14の規制種別で数量が異なっていた。しかし、大阪管理部は、マニュアルにおける交通誘導員等の数量が積算基準の数量と異なる場合であっても、積算基準の数量をマニュアルの数量に置き換えずにそのまま使用して積算していた。
標識車等の運転作業の実態は、運転には特別な技術は要しないことから、運転工と比較して賃金が7割程度と安価な交通誘導員が行っていた。また、当該交通誘導員は、運転時間が主に車両移動時だけで短時間であることから、他の時間は交通誘導業務の交替要員として作業を行っているなどしていた。
このように、交通誘導員等について、積算基準の数量をマニュアルの数量に置き換えずに積算していたり、交通誘導員が標識車等の運転作業と交通誘導業務の交替要員としての作業を行っているのに、積算基準がこれらの作業の実態に即したものとなっていなかったりなどしている事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(低減できた保安規制作業費の積算額)
保全管理工事等に係る契約9件における保安規制作業費の積算額計21億8357万余円について、積算基準における交通誘導員等の数量をマニュアルの数量に置き換えるとともに、標識車等の運転作業等の実態に基づいて修正計算すると、計19億4965万余円となり、積算額を約2億3390万円低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、大阪管理部において、積算基準における交通誘導員等の数量がマニュアルの数量と異なる場合には積算基準の数量をマニュアルの数量に置き換えて積算することについての理解が十分でなかったことにもよるが、本社において、マニュアルにおける交通誘導員等の数量を積算基準に反映させていなかったこと、保安規制作業の実態を十分に把握しておらず、積算基準に作業の実態を反映させていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、会社は、26年4月に、保安規制作業費の積算が適切なものとなるよう、マニュアルにおける交通誘導員等の数量を積算基準に反映させるとともに、交通誘導員が標識車等の運転作業と交通誘導業務の交替要員としての作業を行うことなどとする内容に積算基準を改正して、管理部等に通知し、同月からこれを適用することとするなどの処置を講じた。