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  • 平成25年度 |
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  • 第85 株式会社商工組合中央金庫 |
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東日本大震災災害復旧資金の貸付けにおける利子補給の実施に当たり、同様の貸付けを実施している他の融資機関との間で協定等を締結することなどにより、利子補給が適正に実施されるよう是正改善の処置を求めたもの


科目
貸出金
部局等
株式会社商工組合中央金庫本店、4支店
貸付けの概要
東日本大震災により事業所又は主要な事業用資産が全壊したり、流失したりするなどの直接被害を受けるなどした中小企業者等に利子補給金を交付することで、実質的に金利を引き下げる貸付け
低利適用限度額を超えて低利貸付が行われた貸付けの件数及び貸付金額(1)
7件 1億9470万円(平成23、24両年度)
(1)の貸付けに係る利子補給金の差額(2)
373万円
(1)及び(2)の計
1億9843万円

【是正改善の処置を求めたものの全文】

東日本大震災災害復旧資金の貸付けにおける利子補給の実施について

(平成26年10月21日付け 株式会社商工組合中央金庫代表取締役社長宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。

1 東日本大震災災害復旧資金の貸付けの概要等

(1)東日本大震災災害復旧資金の貸付けの概要

貴金庫は、株式会社商工組合中央金庫法(平成19年法律第74号)に基づき、中小企業等協同組合、主として中小規模の事業者を構成員とする団体及びこれらの構成員(以下「中小企業者等」という。)に対する金融の円滑化を図るために必要な業務を行っている。

また、株式会社日本政策金融公庫(以下「日本公庫」という。)は、株式会社日本政策金融公庫法(平成19年法律第57号)に基づき、一般の金融機関が通常の条件により貸付けなどを行うことが困難であり、かつ主務大臣が指定する者(以下「指定金融機関」という。)が内外の金融秩序の混乱や大規模な災害等に対処するために必要な資金の貸付けなど(以下「危機対応業務」という。)を行うことが必要である場合に、指定金融機関に対して、必要な資金の貸付け、利子補給金の支給等を行うこととされている。

貴金庫は、平成23年5月から、財務省、経済産業省等が定めた「危機対応認定に係る通知について」(平成23年財政第230号、23経営第470号、平成23・05・20中第1号。以下「通知」という。)等に基づき、指定金融機関が行う危機対応業務の一環として、東日本大震災(23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による災害及びこれに伴う原子力発電所事故による災害をいう。以下同じ。)により被害を受けた中小企業者等に対して、日本公庫から利子補給金の支給を受けて、これを借受者に交付することで、実質的に金利を引き下げる貸付け(以下「東日本大震災災害復旧資金の貸付け」という。)を行っている。そして、国は、日本公庫が上記利子補給金の支給を行うために必要な財政支援等として、23年度は一般会計から、24年度以降は東日本大震災復興特別会計から、それぞれ日本公庫に対して出資を行っている。

東日本大震災災害復旧資金の貸付けには、事業所又は主要な事業用資産が東日本大震災により全壊したり、流失したりするなどの直接被害を受けるなどした中小企業者等に対する貸付け(以下「直接被害貸付」という。)及び直接被害を受けるなどした中小企業者等の事業活動に相当程度依存し、間接的に被害を受けた者に対する貸付け(以下、直接被害貸付と合わせて「直接被害貸付等」という。)がある。

このうち、直接被害貸付は、借受者が貸付要件に合致した場合に、貸付後3年間について貸付金額の1.4%、貸付後4年目以降について0.5%の利子補給を行うなどする貸付けである。そして、1.4%の利子補給を受けることができる貸付金額には限度額(1億円)が設けられており、この金額を超えた貸付金額については、0.5%の利子補給となることとなっている(以下、利子補給等を行うことができる貸付金の限度額を「低利適用限度額」、低利適用限度額が設けられている貸付けを「低利貸付」という。)。

財務省及び中小企業庁によれば、低利適用限度額を設けることとしたのは、より多くの借受者が限りある復興予算を効果的に利用できるようにするためであるとしている。

(2)低利適用限度額の確認等

東日本大震災の被害を受けた者に対する貸付けについては、日本公庫、沖縄振興開発金融公庫(以下「沖縄公庫」という。)及び株式会社日本政策投資銀行(以下、日本公庫及び沖縄公庫と合わせて「他の融資機関」という。)においても、貸付利率を引き下げる方法により、貴金庫が行っている東日本大震災災害復旧資金の貸付けとおおむね同様の貸付けが行われている。これらの貸付けは、借受者がそれぞれの貸付要件に合致すれば、併せて貸付けを受けることができることになっている。

そして、通知等によれば、貴金庫又は他の融資機関が低利貸付を行おうとする場合の低利適用限度額は、貴金庫及び他の融資機関における低利貸付の貸付金元高の合計金額により判断することとされている。

そのため、貴金庫は、東日本大震災災害復旧資金の貸付けを行おうとするときは、「危機対応業務にかかる手続要領(営業店編)」(以下「要領」という。)等に基づき、融資相談等の際に、貴金庫及び他の融資機関における低利貸付の貸付金元高の合計金額が低利適用限度額を超えていない旨の確認を借受者に行い、チェックシートにその結果を記録するとともに、借受者が署名した念証等の提出を受け、これらを保管することとしている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、効率性等の観点から、低利適用限度額の確認が適切に行われ、低利貸付が適正に実施されているかなどに着眼して、25年3月末までに貴金庫が行った直接被害貸付等3,766件(貸付金額計2064億余円)を対象として検査した。

検査に当たっては、貴金庫本店において貸付データ等を確認したり、低利適用限度額の確認方法等について担当者から説明を聴取したりするなどの方法により会計実地検査を行った。また、必要に応じて本店を通じて各支店から貸付関係書類の提出を受けるとともに、他の融資機関からも貸付データ等の提出を受けるなどして検査した。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)低利適用限度額の確認等の状況について

貴金庫は、前記のとおり、低利貸付を行おうとするときは、要領等に基づき、低利貸付の貸付金元高の合計金額が低利適用限度額を超えていない旨の確認を借受者に行い、チェックシートにその結果を記録するとともに、借受者が署名した念証等の提出を受け、これらを保管することとしている。

しかし、貴金庫が保管しているチェックシート、念証等を確認したところ、チェックシート、念証等には、それぞれ借受者が貸付けを受けている他の融資機関ごとに貸付金額を記載することとなっているものの、借受者からこれらの貸付金額を確認できる根拠資料の提出を受けることにはなっていなかった。

また、貴金庫と他の融資機関との間で、低利貸付の貸付金元高の合計金額を把握するために、借受者の承諾を得て貸付金元高に係る証ひょうを相互に提供するような協力体制が執られていなかった。

このように、貴金庫において、借受者が低利適用限度額を超えて貸付けを受けていないかについて実効性のある確認を行うような仕組みにはなっていなかった。

(2)低利適用限度額を超える貸付けについて

貴金庫が低利貸付を行った借受者について、貴金庫及び他の融資機関の貸付データ等を用いるなどして、低利貸付の貸付金元高の合計金額について確認したところ、低利適用限度額を超えて低利貸付が行われている事態が見受けられた。

すなわち、貴金庫が低利貸付を行うに当たり、既に他の融資機関において低利貸付が行われていて、これらの貸付金元高を低利適用限度額から差し引いて低利貸付を行う貸付金額を決定すべきであったのに、これを考慮せずに低利適用限度額を超えて低利貸付を行っているものが、4支店(注)において計7件見受けられた。そして、この7件の貸付けにおいて、低利適用限度額を超えて低利貸付が行われていた貸付金額は計1億9470万円で、当該貸付金額について、低利貸付に係る利子補給金として借受者に支払われた額と、低利適用限度額を超えた貸付金額として支払われる利子補給金の額との差額は計373万余円となっていた。

なお、上記利子補給金の差額については、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。

(注)
4支店  仙台、山形、四日市、和歌山各支店

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

貴金庫仙台支店は、借受者Aから直接被害貸付として1億円の融資相談を受け、平成23年7月に、貸付金額の1.4%の利子補給を行うとして1億円を貸し付けていた。そして、同支店は、当該貸付けを行うに当たって、他の融資機関による低利貸付がないことを確認したとしていた。

しかし、借受者Aは、実際には日本公庫仙台支店から、23年6月に1000万円の低利貸付を受けており、貴金庫の貸付時において低利貸付を9000万円までしか受けられない者であった。
なお、当該貸付けに係る利子補給金の差額30万余円については、本院の指摘により、26年4月に同人から全額が返還されている。

(是正改善を必要とする事態)

貴金庫において、借受者が低利適用限度額を超えて貸付けを受けていないかについて実効性のある確認を行うような仕組みとなっていない事態及び低利適用限度額を超えて低利貸付が行われている事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴金庫及び他の融資機関との間で低利貸付の貸付金元高の合計金額を把握するために、借受者の承諾を得て貸付金元高に係る証ひょうを相互に提供するような協力体制が執られていないことなどによると認められる。

3 本院が求める是正改善の処置

東日本大震災災害復旧資金の貸付けは、26年度以降も引き続き実施することとされており、より多くの借受者が限りある復興予算を効果的に利用できるようにすることが今後とも求められるところである。

ついては、貴金庫において、利子補給が適正に実施されるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。

  • ア 貴金庫と他の融資機関との間で、低利貸付の貸付金元高の合計金額を把握するための協力体制が執られるよう、他の融資機関との間で協定等を締結すること
  • イ 要領等において、アの協定等に基づき、他の融資機関から貸付金元高に係る証ひょうの提供を受けるなどして低利適用限度額の確認を行い、その内容を記録するなどのための具体的な方法を財務省及び中小企業庁と協議した上で定めて、各支店に周知すること