【意見を表示したものの全文】
鉄道施設の維持管理について
(平成26年10月28日付け 北海道旅客鉄道株式会社代表取締役社長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴会社は、鉄道営業法(明治33年法律第65号)に従って鉄道事業を行っており、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」(平成13年国土交通省令第151号)及び「施設及び車両の定期検査に関する告示」(平成13年国土交通省告示第1786号。以下、これらを合わせて「技術基準」という。)に基づき、軌道、橋りょう、トンネル等の鉄道の輸送の用に供する施設(以下「鉄道施設」という。)の維持管理を行うこととしている。
そして、貴会社は、技術基準に基づき、貴会社が所有する鉄道施設の維持管理を行うための基準として「心得(実施基準)管理規程」(平成14年社達第94号。以下「実施基準」という。)等を、国土交通省北海道運輸局長に届け出た上で定めている。
貴会社は、実施基準等を補完するために、軌道の維持管理の具体的な方法について定めた「線路検査規程」(平成8年工達第7号)及び「軌道整備規程」(平成8年工達第7号。以下、これらを実施基準等と合わせて「軌道実施基準」という。)に基づいて、次のとおり、軌道の検査及び補修工事を実施することとしている。
技術基準によれば、鉄道事業者は、年に1回の検査基準日を定めて、検査基準日の属する月及びその前後1か月の許容期間内に、軌道の性能を把握するための軌道変位検査を行うこととされていることから、貴会社は、軌道の重要度に応じて軌道変位検査を年2回又は4回実施することを軌道実施基準に規定している。
そして、軌道変位検査については、検査の対象箇所、検査基準日等を記載した管理台帳を基に、高低、通り、軌間、水準、平面性等の軌道変位(図参照)を検査項目として実施しており、測定結果を検査記録簿に記録することとしている。なお、平面性は、軌道の重要度に応じて測定しないことがある。
貴会社は、軌道実施基準に基づき実施した軌道変位検査において測定した軌道の変位量が、軌道変位の評価指標である整備基準値以上となるなどしていた箇所(以下「整備基準値超過箇所」という。)については、軌道の種別に応じて、軌道実施基準に定めた補修期限までに補修工事を実施して、その結果を補修記録として記録することとしている。
また、貴会社は、管内の軌道を区間ごとに管轄する保線管理室等と、保線管理室等を統括する保線所等を設置しており、保線管理室等が軌道変位検査及び補修工事を行い、保線所等が保線管理室等の行う軌道変位検査及び補修工事の実施状況を把握、管理することとしている。
貴会社は、コンクリート製の擁壁及び擁壁上に設置された柵からなる防護工(以下「柵付擁壁」といい、このうち軌道に近接した法面や斜面からの落石の進入を防止するための機能を有するものを「落石止擁壁」という。)を軌道と法面等との間に多数設置している。
貴会社は、実施基準等を補完するために、土木構造物の維持管理の具体的な方法について「土木施設管理マニュアル」(平成8年工管第646号。以下、実施基準等と合わせて「土木実施基準」という。)を定めている。土木実施基準によれば、落石止擁壁の変状の有無及びその進行性等を把握するための通常全般検査を2年に1回実施することとされ、検査の結果、構造物の機能を低下させるおそれのある変状等が認められた場合は、更に詳細な検査である個別検査を実施した上で補修等の必要な措置を執ることとされている。なお、土木実施基準に定めていない事項については、鉄道施設の適切な維持管理を行うための技術的な標準を定めた「鉄道構造物等維持管理標準・同解説(構造物編)」(公益財団法人鉄道総合技術研究所刊行。以下「維持管理標準」という。)等によることとなっている。
そして、維持管理標準によれば、落石止擁壁の背面に土砂や岩塊等の落石等が堆積していると、捕獲できる容量が減少し、次に土砂崩壊や落石が発生した場合、それらが落石止擁壁を乗り越える可能性があるとされている。
平成25年9月19日に発生した貴会社函館支社管内の函館線大沼駅構内における貨物列車脱線事故を受けて、国土交通省が発した指示に基づき、貴会社が実施した軌道の緊急点検の結果、貴会社管内において270か所の補修漏れが判明した。
そして、国土交通省は、貴会社に対して実施した保安監査を踏まえて、補修漏れを防止するための体制の構築等を内容とする当面の改善指示(以下「改善指示」という。)を10月4日に行った。
改善指示を受けて、貴会社は、10月30日に整備基準値超過箇所における補修工事漏れを防止するために、整備基準値超過箇所ごとに補修工事の具体的な実施状況を管理する管理表(以下「補修箇所管理表」という。)を定めて、これを保線管理室等に作成させるとともに保線所等に確認させることとした。
また、国土交通省は、貴会社に対して、26年1月に、軌道変位検査及び補修工事に係る記録の方法、記録内容の明確化、記録を重視するルールの策定及びその徹底、安全管理体制の再構築等の安全確保に向けた措置を講ずるよう、鉄道事業法に基づく「輸送の安全に関する事業改善命令」及び「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」(昭和61年法律第88号)に基づく「事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」(以下、これらを合わせて「改善命令」という。)を発出している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、鉄道の安全な輸送及び安定的な輸送の確保の重要性に鑑み、合規性、有効性等の観点から、鉄道施設の維持管理は適切に実施されているか、特に、列車等が走行する軌道についてその維持管理が技術基準等に基づき適切に実施されているか、落石止擁壁の維持管理が適切に実施されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、25年度における軌道の維持管理の状況及び24、25両年度における落石止擁壁の維持管理の状況について、貴会社本社管内及び釧路、旭川、函館各支社管内において、軌道(延長3,322,438m(分岐器2,420組を含む。)、帳簿価額計221億4929万余円(25年度末現在。以下同じ。))に係る軌道変位検査の対象箇所3,863か所(注1)、柵付擁壁1,400基(帳簿価額計34億0441万余円)を対象として、検査記録簿等の関係書類の確認及び現場の状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
25年度の軌道変位検査の実施状況について、表1のとおり、軌道変位検査を適切に行っていなかった事態が主に側線(注2)において計239か所(軌道延長17,788m、分岐器35組、これらの帳簿価額計1億3092万余円)見受けられた。
事態 | 箇所数 (か所) |
軌道延長 (m) |
分岐器 (組) |
|
---|---|---|---|---|
(ア) | 25年度中に軌道変位検査を行っていなかった事態 | 136 | 11,345 | ― |
軌道変位検査を年2回行うこととしている箇所について、1回しか行っていなかった事態 | 13 | 232 | ― | |
(イ) | 検査項目のうち2項目を測定していなかった事態 | 30 | ― | 30 |
検査項目のうち1項目を測定していなかった事態 | 2 | ― | 2 | |
(ウ) 許容期間内に軌道変位検査を行っておらず、検査の実施時期が適切なものとなっていなかった事態 | 27 | 4,107 | ― | |
(エ) 管理台帳に検査基準日を記録しておらず、軌道変位検査を許容期間内に行っていたかどうかの確認ができなかった事態 | 18 | 556 | 3 | |
(オ) 検査記録簿が保存されておらず、具体的な実施内容が確認できなかった事態 | 13 | 1,548 | ― | |
計 | 239 | 17,788 | 35 |
25年度の軌道変位検査における整備基準値超過箇所の補修工事の実施状況について、表2のとおり、補修工事の実施が適切でなかった事態が主に側線において計269か所(1,369測点(注3)、軌道延長50,548m、分岐器2組、これらの帳簿価額計3億1749万余円)見受けられた。
事態 | 箇所数 (か所(測点)) |
軌道延長 (m) |
分岐器 (組) |
---|---|---|---|
(ア) 補修工事を25年度中に行っておらず、かつ所定の補修期限内にも行っていなかった事態 | 164 | 27,114 | 1 |
(676) | |||
(イ) 所定の補修期限内に補修工事を行っていなかった事態 | 124 | 22,142 | ― |
(581) | |||
(ウ) 補修記録が保存されておらず、補修工事の実施状況や仕上がり状態が確認できなかった事態 | 9 | 1,292 | 1 |
(112) | |||
計 | 269 | 50,548 | 2 |
(1,369) |
貴会社は、ア(オ)及びイ(ウ)の事態については、改善命令を受けた改善措置として、26年3月に軌道実施基準等を改正して、軌道変位検査及び補修工事に係る記録の方法、記録内容等について明確化を図っているとしている。また、イ(イ)の事態については、改善指示を受けた改善措置として、25年10月に補修箇所管理表を導入したとしている。
軌道等と法面等との間に設置されている落石止擁壁には、設置後相当程度年数が経過しているものもあり、これらの落石止擁壁に係る維持、補修等の効率的、計画的管理は重要なものとなっている。
貴会社は、柵付擁壁の検査については、土木構造物の通常全般検査の一環として、検査担当部署である保線管理室等が、遠望及び近接目視により行っている。しかし、通常全般検査における落石止擁壁背面の落石等の堆積量についての判断基準を土木実施基準に定めていないことなどから、管理する柵付擁壁1,400基(帳簿価額計34億0441万余円)について、擁壁背面の落石等の堆積状況を把握していなかった。このため、これらのうち落石止擁壁については、今後堆積が進行した場合、落石等がこれを乗り越える可能性がある。
(改善を必要とする事態)
したがって、軌道の維持管理について、軌道変位検査を適切に行っていなかったり、補修工事の実施が適切でなかったりしている事態及び落石止擁壁の維持管理について、擁壁背面の落石等の堆積状況を適切に把握していない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴会社において、次のことなどによると認められる。
通常全般検査における落石止擁壁の背面の落石等の堆積量についての具体的な判断基準を定めていないこと
貴会社が管理する鉄道施設を適切に維持管理していくことは、鉄道輸送の信頼性を確保する上で重要であり、軌道等を適切に管理して、鉄道の安全な輸送及び安定的な輸送を確保することが必要である。
貴会社は、改善命令による更なる安全確保へ向けた措置の計画を取りまとめているところであるが、今回の検査の結果を踏まえて、貴会社において、これまでに講じた改善措置の内容について、より確実に実施することが必要である。そして、鉄道施設の維持管理が適切に実施されるよう、次のとおり意見を表示する。
落石止擁壁の背面に係る落石等の堆積量を適切に把握、記録して通常全般検査が適切に実施されるよう、通常全般検査における適切な判断基準を検討すること