東日本電信電話株式会社(以下「NTT東日本」という。)のビジネス&オフィス営業推進本部(平成25年6月30日以前はビジネス&オフィス事業推進本部。以下「本部」という。)は、23年度から新たに中小事業所に対するフレッツ光等の販売業務の委託を開始するために、23年度にブリッジ・モーション・トゥモロー株式会社(以下「BMT社」という。)及びA社と、24年度にA社及びB社と、25年度にA社、B社及びC社(以下、これらの4会社を合わせて「委託会社」という。)と販売業務を委託する契約をそれぞれ締結している(以下、これらの契約を「委託契約」という。)。そして、本部は、委託契約に基づき委託費を支払っており、その支払金額は23年度計16億6799万円、24年度計4億9176万余円、25年度計2億5665万余円、合計24億1641万余円となっている。
NTT東日本が定めた契約規程(平成11年社長達東第71号)等によれば、契約責任者は、不正行為防止等の観点から契約を締結する場合において、審査を行い、契約締結後において契約の適正な履行を確保するために、契約相手が契約期間中も契約内容に基づいて履行しているか監督を行うこととされている。さらに、契約責任者は、契約書、請求書等により自らが支出内容を審査して支払決定を行うとともに、契約相手との交渉等の施策運用(以下「施策運用」という。)、給付完了の確認及び支払額の確定の権限を同一の社員に集中させた場合、恣意的な契約代金の支払等が可能となることから、その妥当性について十分に検討することとされている。
また、社印規程(平成11年社長達東第61号)によれば、社印の保管責任者は、使用上の不正、紛失の事故がないよう厳重に注意し、押印に当たっては決裁文書と照合することとされている。
そして、契約事務担当(以下「契約担当」という。)は、契約書、覚書等の締結に当たって、契約責任者の審査及びその決裁(以下「決裁等」という。)を受け、契約期間中において給付完了の確認、支払額の確定等を行うこと、支払事務担当(以下「支払担当」という。)は、委託費の支払に当たって、決裁文書、契約書、請求書等により、金額の正当性等を確認すること、また、社印を扱う担当(以下「社印担当」という。)は、決裁文書を確認し社印を押印することになっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本部は、前記のとおり、委託会社に23年度から多額の委託費を支払っている。しかし、本部の契約担当が、BMT社元社長から金銭を収受したとして、25年12月に「日本電信電話株式会社等に関する法律」(昭和59年法律第85号)に定める収賄の容疑で逮捕、起訴された。
そこで、本院は、合規性等の観点から、契約を締結する場合の事務手続は適切に行われているか、委託費の支払金額は契約書等に基づき適正なものとなっているかなどに着眼して、NTT東日本本社において、委託契約(支払金額計24億1641万余円)を対象として、契約関係書類の提出を受けるなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
契約責任者は、新たに中小事業所に対するフレッツ光等の販売の拡大に向け、意思決定の迅速化を図るために、委託契約において、施策運用、給付完了の確認及び支払額の確定の権限を契約担当に集中させていた。
そして、契約担当は、BMT社及び24年度のA社との契約において、契約責任者の決裁等を受けた当初の契約内容を変更する覚書を作成し、契約責任者の決裁等を受けることなく、覚書を締結していた。また、支払担当は、契約書、覚書及びこれらの決裁文書で適正な支払金額であるか確認せずに請求書等により委託費を支払っていた。さらに、社印担当は、契約責任者の決裁文書を確認せずに覚書に社印を押印していた。
また、23年度から25年度までのフレッツ光の契約目標数に対する契約数の割合は、委託会社から毎月提出される作業完了報告書等によれば、12%から26%にとどまっていた。そして、契約責任者は、契約期間中も委託会社のフレッツ光の契約数を適時に把握して、契約目標数より少なければ契約数の増数を求めるなどの監督を行うべきであるのに十分に行っていなかった。
さらに、契約責任者は、契約担当がBMT社との委託契約の積算において、物件・設備費用の算出対象期間や事務室1か所当たりで使用する電話設備の月額レンタル料等を誤って適用し算定していたにもかかわらず、審査を十分に行っていなかった。
このように、本部が23年度から25年度までの間に委託会社に支払った委託費計24億1641万余円において、契約責任者の決裁等を受けることなく覚書を締結していたり、契約責任者の決裁文書を確認せずに覚書に社印を押印していたり、決裁文書、契約書等で適正な金額か確認せずに委託費を支払っていたり、委託会社に対する監督を十分に行っていなかったりなどしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、本部において、契約規程、社印規程等に基づく適切な契約事務の実施を確保するための取組が十分に行われていなかったり、委託費の支払に当たり、決裁文書、契約書等により金額の正当性を十分確認していなかったことによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、NTT東日本は、次のような処置を講じた。