独立行政法人農業者年金基金(以下「基金」という。)は、独立行政法人農業者年金基金法(平成14年法律第127号)附則第6条第1項第1号等の規定に基づいて、農業者年金基金法の一部を改正する法律(平成13年法律第39号)が施行される以前に被保険者であった農業者に対して経営移譲年金、農業者老齢年金等を国の負担により給付する事業(以下「旧農業者年金事業」という。)を実施している。
旧農業者年金事業における給付のうち、経営移譲年金は、保険料納付済期間等が原則として20年以上あり、かつ、65歳に達する前に後継者又は第三者に経営移譲を行った農業者に対して、原則として、経営移譲を行った時から支給するものである。
この経営移譲とは、経営移譲を行う者が経営移譲の終了日の1年前の日において有している農地又は採草放牧地(以下「農地等」という。)について、後継者又は第三者に対して、耕作目的で所有権を移転し又は使用収益権を設定するなどの処分を行い、農業経営を廃止又は縮小することである。そして、後継者に経営移譲を行う場合は、単に農地等の権利名義を変えるだけでなく、実体を伴った経営移譲が行われていることを確保するために、農業所得に係る納税申告、米の生産調整に係る助成金の交付申請(以下「助成金申請」という。)等の名義の変更をすることとなっている。
経営移譲年金の給付を受ける権利については、その権利を有する者(以下「受給権者」という。)の請求に基づいて基金が裁定することとなっており、受給権者は農業経営の廃止又は縮小が終了した日等を記載した経営移譲年金裁定請求書(以下「裁定請求書」という。)を提出することとなっている。
基金は、受給権者から提出された裁定請求書の記載内容の事実の確認、受給権者の支給要件に関する審査に必要な資料の整備及び受給権者から提出された農業者年金受給権者現況届(以下「現況届」という。)の点検の各業務を市町村の農業委員会に毎年委託して実施している。
本院は、合規性等の観点から、経営移譲が適正に行われているかなどに着眼して、5府県(注)の6市村の区域内に住所を有する経営移譲年金の受給権者83人を対象として、基金において裁定請求書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
秋田市農業委員会は、受給権者であるAから、平成17年11月に、後継者に経営移譲を行ったとする裁定請求書等の提出を受けて、Aが農業所得に係る納税申告、助成金申請等の名義を後継者に変更することを申し立てていることなどを確認した上で、当該裁定請求書等を基金に送付した。そして、基金は、Aに経営移譲年金の受給権があると裁定して、18年5月から、年額454,500円の経営移譲年金をAに支給していた。
また、同農業委員会は、19年5月までに助成金申請等の名義が後継者に変更されていること、19年以降毎年Aから現況届の提出を受けて、Aが農業経営を再開していないことなどを確認したとしていた。
しかし、Aは、18年産及び19年産に係る助成金申請並びに20年分以降の農業所得に係る納税申告を自らの名義で行うなどしており、支給要件を満たしていなかった。
したがって、18年5月から26年8月までの間にAに支給された経営移譲年金計3,825,375円は支給が適正ではなく、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、Aにおいて、経営移譲年金の適正な受給に関する認識が欠けていたことにもよるが、次のようなことなどによると認められる。
なお、この適正でなかった支給額については、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。