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  • 平成25年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第3節 特定検査対象に関する検査状況

第5 社会資本の長寿命化計画における維持管理・更新について


検査対象
国土交通本省、5地方整備局、12都県等
長寿命化計画の策定や補修等に係る事業の概要
社会資本の予防保全的な管理に資する長寿命化計画を策定し、これに基づいて施設の補修等を行うもの
上記に係る事業費
直轄事業      246億円(平成22年度~25年度)
交付金等事業   4588億円(平成22年度~25年度)
(交付金等交付額 1941億円)

1 検査の背景

(1) 社会資本の老朽化

我が国の国民生活、経済社会及び産業活動の基盤を形成する社会資本は、高度経済成長期以降に集中的に整備され、今後20年間で建設から50年以上経過する施設の割合が加速度的に高くなる状況となり、平成24年度と20年後の44年度とでその施設の割合を比較すると、道路橋は16%から65%に、河川管理施設は6%から47%に増大し、その他の施設についても同様の状況となると見込まれている。

(2) 社会資本整備重点計画の概要

国は、社会資本整備重点計画法(平成15年法律第20号)に基づき、社会資本整備事業を重点的かつ効率的に推進するために道路、鉄道、空港、港湾、公園、下水道、河川、海岸各事業等について社会資本整備重点計画を策定している。同計画において、社会資本の維持管理については、損傷等に対して個別、事後的に対処する手法から、施設の状態を定期的に点検して診断を行い、異常が認められる際には致命的欠陥が発現する前に速やかに対策を講じ、社会資本の計画、設計から建設、維持管理、解体撤去、廃棄に至る過程で必要となる費用の総額であるライフサイクルコスト(以下「LCC」という。)の縮減を図る予防保全の考え方に立った、戦略的な維持管理・更新を実施していくことが必要であるとしている。そして、道路橋等の施設について、予防保全的な管理が必要な施設の補修対策の時期、内容等を記載した長寿命化計画の策定率等の指標を設定している。

(3) 国土交通省等における取組

国土交通省は、25年3月に、社会資本の維持管理・更新に関し当面講ずべき措置として、今後3か年にトータルコスト(「LCC」と同義。以下同じ。)の縮減や予算の平準化に寄与する長寿命化計画策定の推進等を図り、また、将来的に施設ごとの損傷状況等を踏まえた維持管理費の推計等に活用するために維持管理・更新に係る情報の整備を行うなどとしている。

また、国土交通省を含むインフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議は、25年11月に、国民の安全及び安心を確保し、中長期的な維持管理、更新等に係るトータルコストの縮減や予算の平準化等のために国や地方公共団体等が管理する社会資本を対象にインフラ長寿命化基本計画を策定しており、その中で、施設諸元、修繕及び更新の履歴、維持管理等に係る情報について、収集して蓄積し、更にそれらを分析し利活用するとともに、国民に発信し共有することに取り組むこととしている。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

長寿命化計画の策定事業が先行して導入されている道路、港湾両事業においては、LCCの縮減に寄与することなどを目的とする長寿命化計画の策定が進捗してきており、また、これらの事業以外の各事業においても、国は直轄事業により、地方公共団体は社会資本整備総合交付金等の交付を受けるなどして、長寿命化計画を策定し補修等を実施し始めている。

近年、安全、安心な社会資本の構築や維持管理に対する国民の関心は高まっており、社会資本の維持管理・更新の必要性や重要性に対する国民の理解を促進するとともに老朽化が進む社会資本の安全性に対する不安を払拭するために、国及び地方公共団体は、その維持管理・更新に着実に取り組むとともに必要な情報について広く発信する必要がある。

そこで、本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、社会資本整備重点計画で長寿命化計画の策定率等が指標として掲げられている道路橋、港湾施設、公園施設、下水道施設(管渠(きょ)を含む。)、河川構造物の各施設について、次の点に着眼して検査した。

ア 各事業主体における長寿命化計画の策定及び公表の状況はどのようになっているか。

イ 各事業主体はLCC及びLCCの縮減額(注1)をどのような方法で算定しているか。

ウ 各事業主体は補修等を長寿命化計画に沿って実施しているか、また、計画に沿って実施していなかった場合、LCCの縮減額や予算の平準化にどのように影響するか。

エ 各事業主体において、LCC及びLCCの縮減額の算定に資する情報が蓄積されているか。

(注1)
LCCの縮減額  施設の損傷に対し個別、事後的に対処する補修等に係る費用(以下「事後保全的費用」という。)から、損傷が軽微である早期段階に実施する予防的な補修等に係る費用(以下「予防保全的費用」という。)を差し引くなどして算定される額

(2) 検査の対象及び方法

本院は、5地方整備局(注2)及び管内12事務所(注3)、12都県(注4)及び管内435市町村(特別区等を含む。以下同じ。)並びに10政令指定都市(注5)において、上記の各施設について、長寿命化計画の策定、施設の点検及び補修等に係る事業で22年度から25年度までの間に支出された直轄事業費計246億余円(うち道路事業190億余円、港湾事業14億余円、公園事業12億余円、河川事業28億余円)を、同じく交付金等事業費計4588億余円に係る社会資本整備総合交付金等の交付額計1941億余円(うち道路事業554億余円、港湾事業12億余円、公園事業51億余円、下水道事業1274億余円、河川事業49億余円)を対象として検査した。

検査に当たっては、上記の5地方整備局等において、調書等を徴してその内容を確認するとともに、国土交通本省において、長寿命化計画の策定の推進等の取組状況を聴取するなどして会計実地検査を行った。

(注2)
5地方整備局  関東、北陸、中部、近畿、四国各地方整備局
(注3)
12事務所  荒川下流河川、東京国道、東京港湾、金沢河川国道、金沢港湾・空港整備、豊橋河川、名古屋国道、名古屋港湾、神戸港湾、姫路河川国道、香川河川国道、高松港湾・空港整備各事務所
(注4)
12都県  東京都、山形、神奈川、石川、静岡、愛知、三重、兵庫、広島、高知、福岡、長崎各県
(注5)
10政令指定都市  横浜、川崎、相模原、静岡、浜松、名古屋、神戸、広島、北九州、福岡各市

3 検査の状況

(1) 長寿命化計画の策定、公表等の状況

ア 長寿命化計画の策定状況

事業主体は、長寿命化計画の策定に当たって、施設を点検し、劣化具合等を踏まえた上でどのような補修等が必要かなどの診断を行うことにより健全度を把握し、更に施設の重要度を考慮するなどして補修等の優先度を決定している。そして、今後の補修等の実施予定等を示した修繕工程表を作成し、それに従って補修等を実施するとともに、点検、補修等の結果により、修繕工程表を適宜見直すこととしている。

長寿命化計画の策定状況についてみると、表1のとおり、同計画を策定した延べ873事業主体が管理する236,894施設のうち同計画の策定の対象としている施設数は162,459施設で、そのうち25年度末時点で同計画が策定されていた施設数は139,113施設となっていた。なお、港湾事業においては419施設のうち416施設で同計画が策定されていて、計画の策定が進んでいる状況であった。

表1 長寿命化計画の策定状況

事業種別 事業主体 注(1) 検査対象となる事業主体数   長寿命化計画策定済の事業主体数  
管理施設数 注(2) 管理施設数  
長寿命化計画策定対象施設数  
平成25年度末時点での長寿命化計画策定済施設数 注(3)
道路事業 地方整備局 5 14,486 5 14,486 14,486 14,486
地方公共団体 454 194,605 437 193,428 126,627 107,813
459 209,091 442 207,914 141,113 122,299
港湾事業
注(4)
事務所 5 98 5 98 98 98
地方公共団体 19 322 18 321 321 318
24 420 23 419 419 416
公園事業 地方整備局 5 11 3 9 9 5
地方公共団体 390 43,687 149 23,430 18,468 14,652
395 43,698 152 23,439 18,477 14,657
下水道事業 施設 地方公共団体 282 2,128 166 1,819 1,451 876
管渠(km) 地方公共団体 366 173,350 70 89,927 9,828 2,704
河川事業 事務所 5 183 5 183 98 78
地方公共団体 16 3,218 15 3,120 901 787
21 3,401 20 3,303 999 865
合計
注(5)
地方整備局・事務所 20 14,778 18 14,776 14,691 14,667
地方公共団体 1,527 243,960 855 222,118 147,768 124,446
1,547 258,738 873 236,894 162,459 139,113
注(1)
直轄事業の地方整備局、事務所の区分は、長寿命化計画を策定等した機関に対応している(以下の表について同じ。)。
注(2)
各事業における策定対象施設は次のとおりである。
  • ・道路事業:橋長が15m以上等の橋りょう
  • ・港湾事業:重要港湾等における7.5m以深の岸壁
  • ・公園事業:都市公園
  • ・下水道事業(施設):処理場及びポンプ場のうち、長寿命化対策及び更新を行う設備のある施設等
  • ・下水道事業(管渠):管路施設のうち、長寿命化計画策定対象地区内の管路の延長
  • ・河川事業:堰(せき)、水門、樋(ひ)門・樋管、閘(こう)門、陸閘、揚排水機、浄化施設
注(3)
下下水道(管渠)の策定済施設数の中には、策定対象施設数のうち、点検等を実施した結果、長寿命化計画を策定する必要のない施設も含んでいる。
注(4)
港湾事業の事務所については、地方公共団体に施設管理を委託しており、その施設数を計上している。
注(5)
各事業の事業主体数を単純合計した延べ数である。下水道(管渠)の施設数は合計から除いている。

イ LCC等の算定、公表等の状況

長寿命化計画のうちLCC及びLCCの縮減額の算定の状況、点検の実施状況、修繕工程表の作成状況及びこれらの公表の状況についてみたところ次のとおりとなっていた。

(ア) LCC及びLCCの縮減額の算定並びにこれらの公表の状況

LCC及びLCCの縮減額の算定状況についてみると、表2のとおり、長寿命化計画を策定していた873事業主体のうち、801事業主体でLCCを、784事業主体でLCCの縮減額をそれぞれ試算していた。そのうち、地方公共団体においては、それぞれ798事業主体及び782事業主体で算定していた。一方、地方整備局及び事務所においては、公園事業を除き、補修費用等に関して十分な知見が集積されていないなどとして、いずれも算定していなかった。また、港湾事業においては、事務所及び地方公共団体共に、LCCのうち補修費用等の一部について可能な限り算定している事業主体が多く見受けられたり、下水道事業においては、長寿命化計画の策定対象となっていても、劣化が著しい施設等についてはLCCを算定せずに更新することとなっているため、LCC及びLCCの縮減額を算定していない事業主体も見受けられたりした。

LCC及びLCCの縮減額の算定結果の公表についてみると、道路事業において公表している事業主体が多くなっている一方で、その他の事業についてはほとんど公表されていない状況となっていた。

(イ) 点検の実施及び修繕工程表の作成並びにこれらの公表の状況

各事業主体における施設の点検の実施状況及び修繕工程表の作成状況についてみると、表2のとおり、ほとんどの事業主体において点検が実施され、修繕工程表が作成されていた。次に、これらの公表の状況についてみると、道路事業においては、地方整備局は、道路橋に対する住民等の信頼を確保することなどを目的としていずれも公表していたが、地方公共団体は、点検結果については46.0%、修繕工程表については31.4%の事業主体が公表しているにとどまっていた。また、その他の事業においては、ほとんど公表されていない状況となっていた。

表2 LCC等の算定、公表等の状況

事業種別 事業主体 長寿命化計画策定済の事業主体数 LCC算定済の事業主体数   LCCの縮減額算定済の事業主体数   点検実施済の事業主体数   修繕工程表作成済の事業主体数  
公表している事業主体数 公表している事業主体数 公表している事業主体数 公表している事業主体数
道路事業 地方整備局 5 0 0 0 0 5 5 5 5
地方公共団体 437 435 321 435 343 437 201
(46.0%)
437 137
(31.4%)
442 435 321 435 343 442 206 442 142
港湾事業 事務所 5 0 0 0 0 5 0 5 0
地方公共団体 18 2 0 1 0 18 1 15 1
23 2 0 1 0 23 1 20 1
公園事業 地方整備局 3 3 0 2 0 3 0 3 0
地方公共団体 149 147 8 146 8 149 10 149 6
152 150 8 148 8 152 10 152 6
下水道事業 施設 地方公共団体 166 136 5 125 6 165 7 164 12
管渠 地方公共団体 70 63 9 61 5 67 6 66 9
河川事業 事務所 5 0 0 0 0 5 0 0 0
地方公共団体 15 15 0 14 0 15 1 15 1
20 15 0 14 0 20 1 15 1
合計 地方整備局・事務所 18 3 0 2 0 18 5 13 5
地方公共団体 855 798 343 782 362 851 226 846 166
873 801 343 784 362 869 231 859 171
注(1)
道路事業の地方公共団体における括弧内の数字は、それぞれ公表している事業主体の割合を示している。
注(2)
下水道事業のLCC算定済の事業主体数欄については、LCCを算定する必要のある施設を有する事業主体数を計上している。

以上のとおり、直轄事業を中心にLCC及びLCCの縮減額を算定していない事業主体が見受けられ、また、港湾、公園、下水道、河川各事業において、LCC、LCCの縮減額、点検結果及び修繕工程表を公表していない事業主体が多く見受けられた。

(2) LCC及びLCCの縮減額の算定方法等

ア LCC及びLCCの縮減額の算定方法及び算定の状況

国土交通省は、表3のとおり、港湾、公園、下水道各事業において、LCCの算定方法について手引等を作成して基本的な考え方を示しているが、道路、河川両事業については、上記のような手引等を作成していないことから、各事業主体はLCC及びLCCの縮減額の算定方法を独自に定めている。そして、同省は、両事業については、道路橋及び河川構造物を取り巻く環境や使用状況が多様なことなどから、当面地方整備局及び事務所における点検結果等のデータを収集し分析するなどして研究を進めていくとしている。

LCC及びLCCの縮減額の算定に当たり、将来の価値を現在の価値に換算するための社会的割引率の適用状況についてみると、港湾事業においては、手引等に社会的割引率の基本的な考え方は示しているが、具体的な取扱いについては示しておらず、公園事業においては、算出方法の複雑化を回避し長寿命化計画の策定を促進するために社会的割引率を適用しないとしていることなどから、各事業主体は、道路、河川両事業も含め、LCC及びLCCの縮減額の算定に社会的割引率を適用していなかった。一方、下水道事業においては、手引等により、LCCの算定については社会的割引率を用いることとしていないが、LCCの縮減額の算定については、社会的割引率(4%)を適用することとしていて、各事業主体は、当該手引等に基づき、社会的割引率を適用してLCCの縮減額を減額して算定していた。

表3 事業種別ごとのLCC及びLCCの縮減額の算定方法

事業種別 LCC及びLCCの縮減額の算定方法についての手引等の有無 LCC及びLCCの縮減額の算定方法
(① 事後保全的費用
② 予防保全的費用
③ LCCの縮減額)
LCCの縮減額の算定対象
道路事業 手引等が未策定のため、主な算定方法を示すと以下のとおりである。
(社会的割引率を適用しているものはなかった)

【パターン1】

  • ① 架け替え費+点検費等
  • ② 補修費+点検費等
  • ③ ①-②

【パターン2】

  • ① 事後保全的維持管理による補修費+点検費等
  • ② 予防保全的維持管理による補修費+点検費等
  • ③ ①-②
長寿命化計画対象施設全て
港湾事業
  • ① 運用・維持管理費用(事後保全的)
  • ② 運用・維持管理費用(予防保全的)
  • ③ ①-②
(社会的割引率の基本的な考え方は示している)
長寿命化計画対象のうち、水域施設、外郭施設、係留施設、臨港交通施設
公園事業
  • ① (維持保全費+更新費)÷長寿命化対策をしない場合の使用見込み期間=事後保全型管理の単年度当たりのLCC
  • ② (維持保全費+長寿命化対策費(健全度調査費+補修費)+更新費)÷長寿命化対策をした場合の使用見込み期間=予防保全型管理の単年度当たりのLCC
  • ③ ①-②(単年度当たり)
(社会的割引率は適用しない)
長寿命化計画対象施設のうち、予防保全型管理を行う候補とした施設
下水道事業 【施設】
  • ① (更新費+維持管理費×評価期間)÷評価期間=年平均費用
  • ② (更新費+長寿命化対策費+維持管理費×評価期間)÷評価期間=年平均費用
  • ③ ①-②=毎年度の改善額(名目値)を算出し、評価時点に社会的割引率(4%)で割り戻した上で評価期間分を累計
長寿命化計画対象設備のうち、主要部品単位で長寿命化対策の検討が可能な設備
【管渠】
  • ① (布設替え費+維持管理費×評価期間)÷評価期間=年平均費用
  • ② (布設替え費+更生工法費+維持管理費×評価期間)÷評価期間=年平均費用
  • ③ ①-②=毎年度の改善額(名目値)を算出し、評価時点に社会的割引率(4%)で割り戻した上で評価期間分を累計
診断結果により、スパン単位の対策が必要とされた管路
河川事業 手引等が未策定のため、主な算定方法を示すと以下のとおりである。
(社会的割引率を適用しているものはなかった)

【パターン1】

  • ① 新設費+点検費等
  • ② 補修費+点検費等
  • ③ ①-②

【パターン2】

  • ① 事後保全的維持管理による補修費+点検費等
  • ② 予防保全的維持管理による補修費+点検費等
  • ③ ①-②
長寿命化計画対象施設全て

さらに、LCCの縮減額を算定している784事業主体について、事業ごとの事後保全的費用に対するLCCの縮減額の割合(以下「縮減率」という。)をみると、複数の事業主体でLCCの縮減額を算定していた道路、公園、下水道、河川各事業で、それぞれ53.5%、17.6%、19.7%及び29.3%となっていた。そして、道路事業については、施設の更新費用を事後保全的費用に含めて予防保全的費用には含めずにLCCの縮減額を算定していたものも一部あるため、縮減率が高くなっていた一方、公園、下水道両事業については、施設の更新費用を事後保全的費用及び予防保全的費用いずれにも含めるなどしてLCCの縮減額を算定しているため、縮減率が低くなっていた。

イ 道路事業及び河川事業におけるLCCの縮減額の算定状況

国土交通省は、前記のとおり道路、河川両事業におけるLCC及びLCCの縮減額の算定方法について、手引等により明確に示していない。そこで、これらの事業において、LCCの縮減額を算定している地方公共団体におけるその算定状況についてみたところ次のとおりとなっていた。

道路事業については435事業主体がLCCの縮減額を算定しているが、事後保全的費用を算出する際に、橋りょうが耐用年数に達する時期に架け替え費用を計上している事業主体がある一方で、耐用年数にかかわらず補修等により橋りょうを維持できるとして架け替え費用を計上していない事業主体が見受けられた。このため、事後保全的費用に架け替え費用を計上していて予防保全的費用に架け替え費用を計上していない事業主体と事後保全的費用と予防保全的費用のいずれにも架け替え費用を計上していない事業主体について縮減率を比較すると、前者の152事業主体の縮減率の平均は65.8%であるのに対して、後者の134事業主体の縮減率の平均は40.2%となっており、両者に大きな開差が生じていた。

また、河川事業については、事後保全的費用を、原則として施設の全面改築を行わないとして算定する場合と、耐用年数に達したら施設の全面改築を行うとして算定する場合があり、前者より後者の方が縮減率が大きくなっていた。

以上のとおり、道路、河川両事業では手引等によりLCC算定の基本的な考え方が示されておらず、また、手引等において社会的割引率の適用についての取扱いが明確になっていないことなどから、事業主体によってLCC及びLCCの縮減額の算定方法が区々となっている状況が見受けられた。

(3) 長寿命化計画と補修等の実施状況等

社会資本の維持管理・更新を的確に行い、長寿命化計画を実効性のあるものとするには、補修等を計画的に実施する必要があることから、その実施状況等についてみたところ次のとおりとなっていた。

ア 修繕工程表に沿った補修等の実施状況等

(ア) 修繕工程表と補修等の実施状況

25年度までに修繕工程表により補修等が計画されていた施設を対象として、計画した施設数に対する補修等が着手された施設数の割合(以下「実施率」という。)についてみると、表4のとおり、地方公共団体については、32.9%の事業主体において実施率が50%未満となっていた。そして、その理由についてみると、補修等のために確保できた予算額が計画額を下回ったためとする事業主体が大半を占めており、この中には国庫補助制度があったとしても事業主体が負担する予算額が不足しているためとする事業主体が多く見受けられた。

表4 事業ごとの実施率

事業種別 事業主体 平成25年度までに修繕工程表により補修等を計画した事業主体数(A)  
実施率
100% 100%未満
80%以上
80%未満
50%以上
50%未満
(B)
(構成比)
(B/A)
 
うち0%
道路事業 事務所 5 3 1 1 0 0
地方公共団体 244 97 18 41 88 34
249 100 19 42 88(35.3%) 34
港湾事業 事務所
地方公共団体 7 5 0 1 1 1
7 5 0 1 1(14.3%) 1
公園事業 地方整備局 1 0 0 0 1 0
地方公共団体 69 18 9 11 31 11
70 18 9 11 32(45.7%) 11
下水道事業 施設 地方公共団体 128 56 20 19 33(25.8%) 6
管渠 地方公共団体 53 21 14 8 10(18.9%) 7
河川事業 事務所 0
地方公共団体 12 3 2 1 6 0
12 3 2 1 6(50.0%) 0
合計 地方整備局・事務所 6 3 1 1 1(16.7%) 0
地方公共団体 513 200 63 81 169(32.9%) 59
519 203 64 82 170(32.8%) 59
(イ) 修繕工程表に沿った補修等が実施できなかった場合のLCCへの影響

道路事業については、橋りょうが劣化し健全度が低下した場合に、健全度を一定の水準に引き上げるための補修等を行うことになるが、その際に劣化状況に応じた補修等の単価を事業主体が設定している場合があり、この単価は健全度が低くなるほど高くなる傾向がみられた。そのため、補修等が計画されていた時期よりも後に実施されることとなった場合には、経年劣化により健全度が低下して、補修等の費用が増大し、その結果、LCCも増大する可能性がある。

また、下水道事業の管渠については、管の劣化が著しい場合等には布設替えを実施するが、それ以外の場合には、布設替えの場合のLCCと更生工法(注6)により長寿命化させる場合のLCCを単年度当たりの額で比較し、より経済的な方法で実施することになる。しかし、修繕工程表に沿った補修等が進捗せず、補修等が遅れ劣化が進行して、更生工法による場合の方が経済的であるにもかかわらず布設替えを実施せざるを得なくなる場合は、LCCの単年度当たりの額が増大する可能性がある。

(注6)
更生工法  地面を開削せずに下水道管の内部に樹脂等を被覆することなどにより下水道管を長寿命化する工法

イ 予算の平準化と今後の補修等の実施

長寿命化計画により補修等を実施する際には、LCCを算定するなどして、将来必要となる費用の全体を見通しながら、特定の年度に補修等が集中しないよう予算の平準化を図り計画に沿って着実に実施することが重要である。しかし、道路事業において検査を実施した事業主体のうち、予算を平準化し、将来の予算制約条件も考慮していて、かつ、長寿命化計画策定後既に3年以上経過しているのに実施率が50%未満となっているなどの事業主体が、表5のとおり、8事業主体見受けられた。そこで、これらの8事業主体について、26年度以降の修繕工程表の計画額と25年度までの実績額を基に、今後、実績額と同水準で補修等の費用が推移すると想定し、計画額に対して不足する額を本院で推計したところ、その累計額は計29億余円となった。

表5 実施率が50%未満となっている事業主体の計画額と実績額の比較等

事業主体 対策初年度 (平成) 対策末年度  期間全体計画額
(千円)
  25年度末までの実績額
(千円)
  計画額に対する実績額の比率の年平均値
(B/A)
単年度の不足額
(B-A=C)
(千円)
25年度末時点における修繕工程表の残期間
(D)
(年)
計画額に対して不足する推計額
(C×D)
(千円)
左のうち単年度平均計画額
(A)
(千円)
左のうち単年度平均実績額
(B)
(千円)
a村 23 72 929,053 18,581 29,925 9,975 53.7% △8,606 47 △404,484
b市 23 82 2,202,013 36,700 27,562 9,187 25.0% △27,512 57 △1,568,234
c町 22 26 514,600 102,920 263,823 65,955 64.1% △36,964 1 △36,964
d市 23 32 1,096,878 109,687 295,208 98,402 89.7% △11,285 7 △78,995
e市 23 32 1,840,172 184,017 459,847 153,282 83.3% △30,734 7 △215,144
f市 21 30 1,584,099 158,409 282,081 56,416 35.6% △101,993 5 △509,968
g村 22 31 94,686 9,468 17,106 4,276 45.2% △5,192 6 △31,152
h町 22 31 154,000 15,400 5,057 1,264 8.2% △14,135 6 △84,814
8,415,501 △2,929,759

ウ 長寿命化計画の見直しの状況等

(ア) 点検結果の長寿命化計画の見直しへの反映状況

25年度までに、修繕工程表で補修等の優先順位や箇所等を見直したことがある127事業主体のうち、事業主体数が他事業に比べて多い道路事業において、同一の橋りょうに係る初回の定期点検から5年を経過して以降、2回目を実施して修繕工程表を見直した地方整備局及び地方公共団体における管理橋りょう数計6,226橋について、前回より健全度が低下しているかみたところ、点検した1,873橋のうち235橋の健全度が経年劣化、疲労等によって低下等していて、速やかに補修等を行うことが必要と判定されていた。

そして、修繕工程表を見直したことのある127事業主体の中には、上記の管理橋りょう数計6,226橋を含め、点検結果を速やかに反映させるために、毎年度、補修等実施予定の橋りょう及び実施予定年度を見直している事業主体も見受けられた。

(イ) 補修等の実施が遅れた場合の修繕工程表の見直しの状況

修繕工程表に沿った補修等が実施できなかった場合には、前記のとおり、施設の健全度は経年劣化、疲労等により変化していることから、適時適切な修繕工程表の見直しが必要となる。そこで、表4の実施率が50%未満の170事業主体のうち、修繕工程表の対策初年度が23年度以前であり、かつ、24、25両年度に修繕工程表の見直しを実施していない38事業主体の今後の見直し方針についてみたところ、随時見直したいとする事業主体が15事業主体見受けられたが、点検サイクル等の一定期間終了後に見直したいとする事業主体も18事業主体見受けられた。

以上のとおり、主に地方公共団体で、施設の補修等が修繕工程表に沿って実施されていなかったり、補修等の実績額が計画額を大幅に下回って今後も計画的に補修等が実施できなくなるおそれが生じていたり、修繕工程表が見直されていなかったりしている事業主体が見受けられた。

(4) 今後のLCCの算定等に資する補修等の履歴の記録状況

LCCを算定するに当たっては、健全度により施設の劣化予測をするとともに、劣化の程度に応じて健全度を上げるために必要となる費用を算定することとなる。

補修等の費用については、劣化の進行が地域環境、利用頻度等及び個々の施設の特性に影響されると考えられることから、各事業主体において、施設ごとの補修等の内容及び費用の履歴を記録することが重要となってくる。

そこで、これらの情報の記録状況についてみたところ、868事業主体(注7)のうち、補修等の内容及び費用の履歴を維持管理のためのシステムや維持管理の状況を記した台帳等を用いて記録していたのは344事業主体となっており、残りの524事業主体は契約書等で確認できるとして記録していない状況となっていた。

また、LCCの算定や算定したLCCの検証のためには、施設の補修等を実施した場合に、部材単位等で、どのような補修等に対して幾ら費用がかかったかという情報が重要となってくる。そこで、補修等の内容及び費用の履歴を記録している上記の344事業主体において、補修等の内容に応じた費用の記録を行っているか、記録内容から当該費用が把握可能かなどについてみると、複数の事業主体が補修履歴を入力し保存するシステムを共同で運用して、部材単位等で、実施した補修等ごとに費用の履歴を記録して、LCCの見直しや検証に資するための取組を行っている事業主体が見受けられた一方、記録内容から、部材単位等で健全度ごとの単価を算出するのは困難であるとしている事業主体が大半であった。

以上のとおり、直轄事業、交付金等事業共に、LCCの算定や算定したLCCの検証に資することができるように、施設の補修等の内容及び費用の履歴の記録についての情報の蓄積が十分に行われていない状況が見受けられた。

(注7)
868事業主体  長寿命化計画を策定している873事業主体のうち、地方公共団体に施設管理を委託している港湾事業の5事務所を除いた事業主体数

4 本院の所見

高度経済成長期以降に集中的に整備された橋りょうや下水道管渠等の社会資本の老朽化が今後加速度的に進行していくため、社会資本の維持管理・更新に係る費用が増大していくことが想定される状況の下で、予防保全的な維持管理が社会資本の安全の確保に有用であり、かつ、LCCを縮減するとして、各事業主体は長寿命化計画を策定し、これに基づいて施設の補修等を行っている。一方、近年、国民の社会資本の安全性に対する関心はますます高まっているが、社会資本の健全度や今後の補修予定及びそれに要する費用等については、国民の知る機会が少ない状況である。

ついては、国土交通省において、引き続き次の点について留意しながら、社会資本の的確な維持管理・更新に取り組んでいく必要がある。

ア 各事業主体が、可能な限り、LCC及びLCCの縮減額の算定に取り組むとともに、施設の健全度や今後の修繕工程表と併せて公表するよう支援、助言等を行う。

イ 補修費用等に関する知見の集積を踏まえ、LCC及びLCCの縮減額の算定方法等についての基本的な考え方が明確になっていない事業についてはその明確化に取り組むとともに、各事業においてより精度の高い算定方法の検討に引き続き取り組む。

ウ 各事業主体が、実効性のある計画を策定して修繕工程表に沿った補修等を実施したり、予算の制約に応じて、補修等の内容、優先順位等の見直しを適時適切に実施したりするよう支援、助言等を行う。

エ 各事業主体が、LCC及びLCCの縮減額の算定の精度を向上させるために、補修等の内容や費用の履歴についての情報の蓄積を適切に行うよう支援、助言等を行う。

本院としては、社会資本のうち老朽化する施設の割合が今後加速度的に高くなっていくことから、長寿命化計画の策定及び見直しの状況やこれに基づく補修等が適時適切に実施されているかなどについて引き続き注視していくこととする。