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  • 平成25年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第3節 特定検査対象に関する検査状況

第8 東日本大震災に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質により発生した指定廃棄物の一時保管及び処理の状況等について


検査対象
環境本省、24事業主体
会計名
一般会計、東日本大震災復興特別会計
指定廃棄物の一時保管及び処理に係る事業の概要
指定廃棄物を安全かつ適正に保管するための施設・設備の整備等や、指定廃棄物を安全かつ効率的に減容化して適切に処分するための実証実験、調査等を実施するなどのもの
上記の事業に係る支出額
185億6420万円(平成23年度~25年度)

1 検査の背景

(1) 放射性物質に汚染された廃棄物等の概要

ア 放射性物質に汚染された廃棄物等に対する措置

平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故により、同発電所から放出された放射性物質(以下「事故由来放射性物質」という。)が広域に移動、拡散、降下して、ごみの焼却灰や水道施設の汚泥、稲わらなどに付着し、事故由来放射性物質に汚染された廃棄物が発生するなどの環境汚染が生じた。

このような事故由来放射性物質による環境の汚染(以下「事故由来環境汚染」という。)への対処に関して、国、地方公共団体、原子力事業者等の責務を明らかにするとともに、これら国等が講ずるべき措置について定めることなどにより、事故由来環境汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することを目的として、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下「特措法」という。)が制定された。特措法によれば、国は、これまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み、事故由来環境汚染への対処に関して必要な措置を講ずることとされている。

イ 特措法に基づく指定

特措法第16条第1項及び「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則」(平成23年環境省令第33号。以下「特措法規則」という。)によれば、一定の要件に該当するごみ焼却施設、水道施設等の管理者等(以下「施設管理者」という。)は、これらのごみ焼却施設等から生じた廃棄物について、事故由来放射性物質による汚染の状況を調査して、その結果を環境大臣に報告しなければならないとされている。

そして、特措法第17条第1項等によれば、環境大臣は、上記調査の結果、事故由来放射性物質による汚染の状態が特措法規則で定める基準に適合しない(事故由来放射性物質であるセシウム134及びセシウム137の放射能濃度(以下「放射能濃度」という。)の合計が8,000Bq/kg(注1)(注2)を超える)と認められるときは、当該廃棄物を、特別な管理が必要な程度に汚染されたものとして指定(以下、この指定を受けた廃棄物を「指定廃棄物」という。)することとされている。

また、特措法第18条第1項によれば、施設管理者又は原子力事業者以外の者等で、その者等が占有している廃棄物が上記の特措法で定める基準に適合しないと思料する者は、環境大臣に対して、当該廃棄物を指定廃棄物として指定することを申請できるとされている。

さらに、特措法第19条等によれば、指定廃棄物の収集、運搬、処分等(以下、これらを合わせて「処理」という。)は、国の責任において行うこととされている。そして、最終処分場の確保等を含めた国の処理体制が構築されて指定廃棄物が国に引き渡されるまでの間は、施設管理者及び上記の廃棄物を占有する者(以下「施設管理者等」という。)は、当該施設管理者等が占有している指定廃棄物を、その管理する施設等(以下「施設等」という。)において一時的に保管(以下「一時保管」という。)しなければならないこととされている。

環境省は、26年6月末時点の指定廃棄物の数量について、表1のとおり、12都県で計146,008.8tであるとしている。そして、表1について廃棄物の種類別にみると、ごみの焼却灰が最も多く104,374.3tとなっていて、全体の約7割を占めている。

表1 指定廃棄物の都県別及び種類別数量(平成26年6月末時点)

(単位:t)
都県名 浄水発生土 下水汚泥 焼却灰 農林業系副産物
(稲わら、堆肥等)
その他
岩手県 193.1 275.8 468.9
宮城県 1,011.2 2,238.2 42.3 3,291.7
山形県 2.7 2.7
福島県 2,429.3 8,968.8 95,653.8 1,862.7 12,426.3 121,340.9
茨城県 925.8 2,380.1 226.9 3,532.8
栃木県 727.5 2,200.0 2,447.4 5,117.0 18.4 10,510.3
群馬県 672.8 513.9 1,186.7
千葉県 542.0 2,718.3 403.5 3,663.8
東京都 981.7 981.7
神奈川県 2.9 2.9
新潟県 1,017.9 1,017.9
静岡県 8.6 8.6
5,858.7 13,150.5 104,374.3 9,217.9 13,407.5 146,008.8
注(1)
端数処理を行っているため、各項目の数量を集計しても計欄と一致しないものがある。
注(2)
「浄水発生土」とは、水道施設から生じた汚泥等のことであり、工業用水に係るものを含めている。また、「焼却灰」は、ごみ焼却施設から生じた一般廃棄物及び産業廃棄物の焼却灰のことであるが、下水道施設から生じた下水汚泥の焼却により生じた焼却灰については「下水汚泥」に含めている。
(注1)
Bq(ベクレル)  1秒間に崩壊する原子核の数。放射性物質の量を表す場合に用いられる単位
(注2)
8,000Bq/kg  環境省によれば、原子力安全委員会(原子力の利用に関する安全確保のための規制に係る事項等について審議、決定等を行うために、平成24年9月まで内閣府に設置されていた機関)の答申等を基にして、事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理に伴い、周辺住民や処理を行う作業者が受ける追加被ばく線量を一定量以下とするなどのために設定した基準であるとされている。

ウ 放射能濃度の合計が8,000Bq/kg以下の廃棄物の取扱い

特措法等によれば、事故由来放射性物質によって汚染された廃棄物のうち、放射能濃度の合計が8,000Bq/kg以下であることなどから指定廃棄物に該当しないもの(以下「8,000Bq/kg以下廃棄物」という。)については、原則として、通常の一般廃棄物等と同様に、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(昭和45年法律第137号。以下「廃棄物処理法」という。)の規定等に基づいて市町村等が処分等を行うこととされている。ただし、特措法規則第28条又は第30条で定められた地域で発生した8,000Bq/kg以下廃棄物等については、廃棄物処理法に定められた基準のほか、高度の機能を有する排ガス処理設備を用いるなどの追加的な基準に従って処分等を行わなければならないこととされている。

(2) 指定廃棄物の処理方針等

国は、指定廃棄物について、原則として、当該指定廃棄物が発生した都道府県内で処理することとしている。そして、環境省が24年3月に公表した「指定廃棄物の今後の処理の方針」(以下「処理方針」という。)によれば、国は、指定廃棄物の処理に当たって、既存のごみ焼却施設等の廃棄物処理施設を活用することについて引き続き検討を行うこととされているほか、指定廃棄物等が多量に発生して、施設等における指定廃棄物の保管状況がひっ迫している都道府県においては、新たに最終処分場等の確保を目指すこととされている。そして、最終処分場を確保するまでの間は、廃棄物を焼却、乾燥するなどしてその容積を減少(以下「減容化」という。)することにより、指定廃棄物の一時保管に係る施設管理者等の負担を軽減するように努めることとされている。

また、処理方針等によれば、福島県において、放射能濃度が8,000Bq/kgを超えて10万Bq/kg以下である指定廃棄物については上記のとおり、同県内の最終処分場において処分することとされているが、10万Bq/kgを超える指定廃棄物については別途最終処分を行うこととし、それまでの間は同県内に整備する中間貯蔵施設において安全かつ集中的に貯蔵して管理することとされている。そして、環境省は、中間貯蔵施設の整備については、地域住民等の理解を得ながら段階的に実施して、27年1月を目途として同施設へ指定廃棄物等の搬入を開始する予定であるとしている。

以上の指定廃棄物の処理の工程について、その概略を示すとのとおりである。

図 指定廃棄物の処理の工程

指定廃棄物の処理の工程

(3) 指定廃棄物の保管施設・設備の整備等に係る委託契約

前記のとおり、指定廃棄物は、国の責任において処理を行うこととされているが、国に引き渡されるまでの間は施設管理者等が一時保管することとされている。そこで、環境省は、施設管理者等が指定廃棄物を一時保管するに当たり、施設管理者等となっている地方公共団体等との間で委託契約を締結して、周辺住民等に危害が発生することのないように指定廃棄物を安全かつ適正に保管するための施設・設備の整備等の事業(以下「施設整備事業」という。)を行っている(以下、環境省と委託契約を締結している地方公共団体を「事業主体」という。)。

また、環境省は、民間事業者等との間で委託契約を締結して、指定廃棄物を安全かつ効率的に減容化して適切に処分を実施するための実証実験、調査等の事業(以下「実証事業」という。)を行っている。

そして、これらの施設整備事業及び実証事業に要する費用として、23年度の一般会計及び24、25両年度の東日本大震災復興特別会計(以下「復興特会」という。)において、計862億9382万円が予算措置されている。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

指定廃棄物の処理体制を早期に構築して適切に処理を実施することは、地域住民の生活環境に及ぼす影響を低減するとともに、国民生活の安全・安心を確保するためにも極めて重要である。そして、いまだ国の処理体制が構築されておらず指定廃棄物の最終処分が実施されていない一方で、施設整備事業及び実証事業に係る予算額は多額に上っている。

そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、指定廃棄物の増加状況及び指定廃棄物の処理に関する予算の執行状況はどのようになっているか、各事業主体において施設整備事業により整備等された施設・設備による指定廃棄物の一時保管等が適切に行われているか、また、8,000Bq/kg以下廃棄物の処分は進んでいるか、さらに、実証事業の実施状況はどのようになっているかなどに着眼して検査した。

(2) 検査の対象及び方法

本院は、環境省及び同省から委託を受けて施設整備事業を実施している事業主体を対象に検査した。検査に当たっては、環境省から、23年度から25年度までの間における指定廃棄物の指定状況や、施設整備事業、実証事業等に係る予算の執行状況等に関する調書の提出を受けて、その内容を分析するなどしたほか、6都県(注3)管内の24事業主体(注4)が環境省との間で締結した施設整備事業に係る委託契約(契約金額計16億9316万余円)については、各事業主体から指定廃棄物の保管状況や8,000Bq/kg以下廃棄物の処分状況等に関する調書の提出を受けるとともに、このうち19事業主体において現地に赴き指定廃棄物の一時保管の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注3)
6都県  東京都、茨城、栃木、群馬、千葉、新潟各県
(注4)
24事業主体  茨城、栃木、千葉各県、東京二十三区清掃一部事務組合、日立市、北茨城市、ひたちなか市、阿見町、龍ケ崎地方塵芥処理組合、常総地方広域市町村圏事務組合、新治地方広域事務組合、宇都宮市、日光市、那須塩原市、前橋市、高崎市、松戸市、柏市、流山市、八千代市、印西地区環境整備事業組合、新潟市、阿賀野市、新潟東港地域水道用水供給企業団

3 検査の状況

(1) 指定廃棄物の増加状況

施設管理者等のうち地方公共団体が一時保管している指定廃棄物の24年3月末から26年6月末までの数量の推移は表2のとおりであり、24年9月末時点では、6か月前に比べて1,099.5%(69,825.2t)増加していてその増加傾向は顕著であったが、その後は緩やかな増加幅となり、26年3月末時点では、6か月前に比べて9.0%(10,180.8t)の増加となっていた。なお、26年6月末時点では、3か月前に比べて1.6%(2,023.4t)増と微増にとどまっており、福島県分を除くと0.1%(20.7t)増とほぼ横ばいになっていた。以上のように、24年10月から26年6月末までの傾向をみると、指定廃棄物の新規発生量は全体として減少傾向にある。

表2 指定廃棄物の数量の推移

(単位:t)
都県名 平成24年3月末 24年9月末 25年3月末 25年9月末 26年3月末 26年6月末
数量 数量 対前期増加量 数量 対前期増加量 数量 対前期増加量 数量 対前期増加量 数量 対前期増加量
岩手県 114.3 181.0 66.7 181.0 193.0 12.0 193.0 193.0
宮城県 264.0 835.4 571.4 3,249.4 2,414.0 3,266.5 17.1 3,266.5 3,287.2 20.7
山形県 2.4 2.4 2.4 2.4 2.4 2.4
福島県 2,887.8 64,327.8 61,439.9 85,332.3 21,004.5 94,246.7 8,914.3 104,229.0 9,982.3 106,231.7 2,002.7
茨城県 159.4 2,688.8 2,529.3 3,221.3 532.5 3,305.9 84.6 3,305.9 3,305.9
栃木県 597.4 3,770.4 3,173.0 4,790.8 1,020.3 5,274.8 484.0 5,373.0 98.1 5,373.0
群馬県 140.6 748.7 608.1 748.7 1,186.7 438.0 1,186.7 1,186.7
千葉県 408.2 1,622.3 1,214.1 2,488.1 865.8 3,364.2 876.0 3,461.6 97.4 3,461.6
東京都 980.7 980.7 980.7 980.7 980.7 980.7
神奈川県 2.9 2.9 2.9
新潟県 797.9 1,017.9 220.0 1,017.9 1,017.9 1,017.9 1,017.9
6,350.5 76,175.7 69,825.2 102,012.9 25,837.2 112,839.0 10,826.1 123,019.9 10,180.8 125,043.4 2,023.4
注(1)
端数処理を行っているため、各欄を合計しても計欄と一致しないものがある。
注(2)
地方公共団体が保管している指定廃棄物を集計の対象としており、民間事業者が保管している指定廃棄物は含まない。なお、静岡県の指定廃棄物は全て民間事業者に係るものであるため、本表には記載していない。

(2) 指定廃棄物の処理に関する予算の執行状況

前記のとおり、環境省は、施設整備事業及び実証事業を行っているほか、最終処分場の整備等の事業を行っている。そこで、これらに係る予算の措置状況についてみると、表3のとおりであり、23年度は一般会計で計180億2178万余円(補正後)、24年度は復興特会で計234億2161万余円、25年度は復興特会で計621億8378万余円、合計1036億2718万円が計上されていた。これに対する予算の執行状況をみると、翌年度に繰り越されたものを除き、23年度から25年度までの間の支出済歳出額は計185億6420万余円(このうち、施設整備事業分は計38億6826万余円、実証事業分は計141億5746万余円)で、計389億6667万余円が不用額となっていた。

また、上記の1036億2718万円のうち、25年度復興特会に計上された指定廃棄物の最終処分場の整備等に係る予算計173億3336万円については、26年6月末時点においても新たな最終処分場の候補地を選定している段階で整備工事等は未実施であったことなどから、選定に係る調査等に要した計5億3847万余円を除いた全額が執行されていなかった。以上のことなどから、最終処分場の確保等は進んでおらず、これを含めた国の処理体制が構築されるまでには今後も相当の期間を要することも想定される。

表3 指定廃棄物に係る歳出予算額、支出済歳出額等

(単位:千円)
年度 会計及び科目 歳出予算額 前年度繰越額 支出済歳出額 翌年度繰越額 不用額
平成
23
一般会計          
(項)東日本大震災復旧・復興廃棄物・リサイクル対策推進費 18,021,784 0 1,185,956
(948,131)
15,071,963 1,763,864
(目)放射性物質汚染廃棄物処理業務委託費 14,866,219 0 199,090
(0)
14,667,128 0
(目)放射性物質汚染廃棄物処理業務地方公共団体委託費 3,155,565 0 986,865
(948,131)
404,835 1,763,864
24 一般会計          
(項)東日本大震災復旧・復興廃棄物・リサイクル対策推進費 0 15,071,963 342,624
(342,624)
0 14,729,338
(目)放射性物質汚染廃棄物処理業務委託費 0 14,667,128 0
(0)
0 14,667,128
(目)放射性物質汚染廃棄物処理業務地方公共団体委託費 0 404,835 342,624
(342,624)
0 62,210
復興特会          
(項)環境保全復興政策費 23,421,615 0 6,004,693
(1,651,445)
12,589,582 4,827,339
(目)放射性物質汚染廃棄物処理業務委託費 13,458,501 0 4,206,592
(17,642)
7,830,085 1,421,823
(目)放射性物質汚染廃棄物処理業務地方公共団体委託費 9,963,114 0 1,798,100
(1,633,802)
4,759,497 3,405,516
25 復興特会          
(項)環境保全復興政策費 62,183,781 12,589,582 11,030,929
(926,061)
46,096,298 17,646,134
(目)放射性物質汚染廃棄物処理業務委託費 40,052,395 7,830,085 9,824,611
(258,220)
27,745,555 10,312,312
(目)放射性物質汚染廃棄物処理業務地方公共団体委託費 4,798,026 4,759,497 667,841
(667,841)
2,385,633 6,504,048
(目)環境保全調査費 1,433,250 0 538,476 65,000 829,773
(目)施設施工旅費 24,660 0 0 24,660 0
(目)施設施工庁費 602,700 0 0 602,700 0
(目)施設整備費 14,862,750 0 0 14,862,750 0
(目)不動産購入費 410,000 0 0 410,000 0
23年度から25年度までの計 103,627,180 18,564,203
(3,868,263)
38,966,677
(注)
「支出済歳出額」欄下段の括弧書きの金額は、施設整備事業に係るもので内数である。

(3) 指定廃棄物等の一時保管の状況等

環境省から委託を受けて施設整備事業を実施している24事業主体(32施設等)において、指定廃棄物等の一時保管の状況等について検査したところ、次のような状況が見受けられた。

ア 保管場所における一時保管の状況

施設等で発生した指定廃棄物を一時保管するため、15事業主体の17施設等では、保管倉庫、テント等を新設するなどして建屋内で保管を行っている一方で、12事業主体の16施設等では、各施設の敷地内において、フェンス、柵等による囲いを設けて屋外で保管場所を確保していた(施設等によっては、複数の保管場所を使用している場合がある。)。

そして、指定廃棄物の増加に伴い保管場所がひっ迫したため、駐車場、廃棄物の仮置場、備品保管庫等にも指定廃棄物を保管せざるを得なくなり、これら駐車場等が本来の用途として使用できなくなっていて、各施設等におけるごみ焼却や汚泥処理等の本来の業務の実施に支障を来している事態が、10事業主体の11施設等において見受けられた。さらに、このうち3事業主体の3施設等では、保管場所のひっ迫を受けて、指定廃棄物が更に増加することを抑制するため、比較的高濃度の事故由来放射性物質を含んでいる可能性があるせん定枝等の施設等への受入れを制限したり、事故由来放射性物質の濃縮につながる廃棄物の減容化を停止したりするなど、業務の実施に当たり大きな支障を来している事態も見受けられた。

イ 保管容器の耐用年数等の状況

指定廃棄物の飛散、流出等を防止して安全な一時保管を行うなどのために、特措法規則及び環境省が事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理に関わる者に対して示した「廃棄物関係ガイドライン」(平成23年12月公表、25年3月第2版に改訂)には、指定廃棄物の保管場所の要件、保管容器の種類等が定められている。そして、同ガイドラインでは、保管容器として、柔軟性のある素材を用いて袋状に作られたフレキシブルコンテナや、ドラム缶等が示されている。このうちフレキシブルコンテナは、1回程度の使用を想定しているクロス形フレキシブルコンテナ(以下「クロス形」という。)と、繰り返して使用することを想定し、比較的耐候性、防水性等に優れたランニング形フレキシブルコンテナ(以下「ランニング形」という。)の2種類に大別されている。

また、フレキシブルコンテナの耐用年数については、製造メーカーが、各製品の耐久性等の性能を考慮して、安全に使用できる期間として定めている。そして、その耐用年数は、保管方法や保管場所の状況等によっても異なるが、製造メーカーの製品カタログ等によれば、一般的に、通常のクロス形で1年程度、耐久性を高めるなどしたクロス形で3年程度、ランニング形で3年から5年程度のものが多くなっている。

そこで、施設等において使用されている指定廃棄物の保管容器について確認したところ、全体の6割以上に当たる28施設等がフレキシブルコンテナで保管しており、そのうち約7割がクロス形、約3割がランニング形となっていた。そして、上記の28施設等で使用されているフレキシブルコンテナの耐用年数について確認したところ、2事業主体の2施設等では耐用年数が5年とされているものを、5事業主体の7施設等では同1年超3年以下とされているものを、7事業主体の8施設等では同1年以下とされているものを、それぞれ使用していたほか、9事業主体の11施設等で使用していたフレキシブルコンテナの耐用年数については、製品カタログに記載がないなどのため不明となっていた。これらを各施設等別にまとめると、表4のとおりである。

表4 指定廃棄物の保管容器の耐用年数等(平成26年6月末時点)

保管容器/耐用年数 水道施設 左のうち保管容器の使用年数が耐用年数を超過している施設数 下水道施設 左のうち保管容器の使用年数が耐用年数を超過している施設数 ごみ焼却施設 左のうち保管容器の使用年数が耐用年数を超過している施設数 その他施設 左のうち保管容器の使用年数が耐用年数を超過している施設数 施設数計 左のうち保管容器の使用年数が耐用年数を超過している施設数
クロス形フレキシブルコンテナ 1年以下 3 3 2 1 3 3 0 0 8 7
1年超~3年 1(1) 0 0 0 2(2) 0 0 0 3(3) 0
不明 4(4) 0 4(1) 0 8(5)
ランニング形フレキシブルコンテナ 3年 0 0 0 0 3(2) 0 1 0 4(2) 0
5年 0 0 0 0 1 0 1 0 2 0
不明 0 0 2(1) 1 3(1)
ドラム缶 不明 0 0 3(1) 1(1) 4(2)
コンクリート製容器 2(2) 0 1(1) 0 3(3)
その他 3年 1(1) 0 0 0 0 0 0 0 1(1) 0
不明 1(1) 0 6(3) 0 7(4)
12(9) 3 2 1 25(11) 3 4(1) 0 43(21) 7
注(1)
異なる種類の保管容器を複数使用している施設があるなどのため、本表中の施設数の計と検査対象とした施設数の計は一致しない。
注(2)
施設数については、指定廃棄物を建屋内に保管している施設と屋外に保管している施設を合わせて集計している。なお、施設数欄の括弧書きは、屋外に保管している施設の数で内数である。
注(3)
コンクリート製容器は、長期間の使用が可能であるため耐用年数は記載していない。

さらに、フレキシブルコンテナの使用年数を確認したところ、26年6月末時点において既に耐用年数を経過しているものが6事業主体の7施設等において見受けられた。また、耐用年数が不明であるフレキシブルコンテナを使用していた上記の11施設等についてみると、使用年数が1年以上2年未満となっているものが3事業主体の3施設等、2年以上となっているものが6事業主体の8施設等となっていた。このように、耐用年数等について検査した範囲では、保管容器に必要とされている性能が確保できているかを客観的に確認できない状況となっていた。

一方、事業主体によっては、保管容器の耐用年数を超える長期の保管による劣化等に対応するため、施設整備事業により新たな保管庫を設置したり、保管容器を二重にしたりなどして、安全性の確保に努めているところもあった。

ウ 8,000Bq/kg以下廃棄物の処分の状況等

前記のとおり、8,000Bq/kg以下廃棄物については、廃棄物処理法の規定等に基づくなどして市町村等が処分できるとされている。そこで、前記の24事業主体において、施設等における8,000Bq/kg以下廃棄物の処分の状況等についてみたところ、順調に処分を進めている事業主体がある一方で、地域住民が安全性に不安を抱いているなどの理由により民間事業者等が運営している処分場から受入れを拒否されるなどしていて、処分が進んでいない事業主体も見受けられた。

環境省等は、8,000Bq/kg以下廃棄物の早期の処分に向けて、説明会の開催や説明用パンフレットの配布による情報提供等を行っている。しかし、上記の理由により処分が進んでいないなどのため、8,000Bq/kg以下廃棄物についても、指定廃棄物と同様に駐車場、廃棄物の仮置場等において保管せざるを得なくなっている状況が14事業主体の18施設等で見受けられ、その保管量は26年6月末時点で計14,396.7tに上っていた。そして、このうち3事業主体の3施設等では、8,000Bq/kg以下廃棄物が増加したことにより、指定廃棄物の保管場所が更にひっ迫しており、施設等における本来の業務の実施に支障を来しているなどの事態も見受けられた。

(4) 福島県における最終処分場等の確保に向けた取組及び実証事業の実施状況

ア 福島県における最終処分場及び中間貯蔵施設の確保に向けた取組

前記のとおり、環境省は、福島県内で発生した指定廃棄物のうち、放射能濃度が10万Bq/kg以下のものについては、同県内の最終処分場において処分し、10万Bq/kgを超えるものについては、最終処分を行うまでの間、中間貯蔵施設に貯蔵して管理することとしている。

福島県における26年6月末時点の最終処分場等の確保に向けた取組についてみたところ、環境省は、放射能濃度が10万Bq/kg以下の指定廃棄物の処分については、民間事業者が県内に保有し、13年に産業廃棄物の埋立てを開始した最終処分場であるフクシマエコテッククリーンセンターを活用することを目指して、関係者との協議を進めている状況であった。そして、環境省は、今後、処分計画等を策定し、同センターを独占的に活用して指定廃棄物の埋立処分を行うとともに、埋立て後の管理等を継続的に行っていくことを予定している。

一方、福島県内で発生した放射能濃度が10万Bq/kgを超える指定廃棄物については、最終処分を行うまでの間、中間貯蔵施設において貯蔵して管理する方針であり、26年6月末時点において、同施設の建設候補地となっている町等で住民説明会を開催するとともに、同施設の建設に供する用地の取扱いや地域住民の生活再建策等について検討を重ねている状況であった。

イ 福島県における実証事業の実施状況

環境省は、指定廃棄物の減容化等を今後本格的に実施するに当たっての技術的知見等を得るために、下水道施設から生じた下水汚泥の乾燥及び焼却、ごみの焼却灰に含まれる放射性物質の分離等の実証事業を、民間事業者等に委託して実施している。このうち、調査業務を除く主な事業は、岩手県内で実施されている比較的小規模な2事業のほかは全て福島県内で実施されており、その概要は表5のとおりである。

表5 福島県における主な実証事業の概要

事業名等 事業の概要 事業実施期間 事業費(平成25年度までの計)
(千円)
福島県鮫川村における実証事業 事故由来放射性物質に汚染された農林業系副産物等を仮設焼却施設において処理する。 24年度~27年度 506,520
福島市堀河町終末処理場における下水汚泥減容化事業 下水汚泥の乾燥処理による汚泥性状の安定化を図るなどして、下水汚泥を場外へ搬出しやすい形態とする。 23年度~26年度 3,084,990
福島県県中浄化センター(郡山市)における下水汚泥焼却事業 下水汚泥の焼却処理による汚泥性状の安定化を図るなどして、下水汚泥を場外へ搬出しやすい形態とする。 24年度~25年度 10,166,100
福島県飯舘村蕨平地区における可燃性廃棄物減容化事業(資材化実証事業) 焼却灰及び汚染土壌に含まれる事故由来放射性物質を分離・濃縮し、放射能濃度が低減され工事資材として有効活用することが可能な生成物を得る。 25年度~30年度 31,498
13,789,109

環境省は、これらの実証事業により得られた、下水汚泥の乾燥処理による性状の安定化や、稲わら、堆肥等の農林業系副産物等の焼却処理による減容化等に関する技術的知見を活用していくこととしており、25年度に、実証事業の結果等を踏まえて、飯舘村において下水汚泥等の焼却事業に着手しており、31年度までの間、当該事業により減容化を実施することとしている。

4 本院の所見

26年6月末時点における指定廃棄物の数量は計146,008.8tに上っている。そして、指定廃棄物についての国の処理体制が構築されて国に引き渡されるまでの間は、施設管理者等がこれら指定廃棄物の一時保管を行うこととなっているため、指定廃棄物を安全かつ適正に保管するための施設管理者等に対する委託費の支出は、今後も続くことが予想される。

したがって、環境省においては、指定廃棄物についての国の処理体制が早期に構築されることを目指して、指定廃棄物の処理について地域住民や関係者の理解等を得るための取組を引き続き着実に進める必要がある。

そして、最終処分場の確保等を含めた指定廃棄物の処理体制が構築されるまでの間、地域住民の生活環境に及ぼす影響を低減するとともに、国民生活の安全・安心を確保するために、特に次の点に留意して事業を実施していくことが求められる。

ア 指定廃棄物の一時保管場所がひっ迫している事業主体に対して、処理方針等に基づき、財政的な支援に限らず、必要に応じて適正な一時保管のための技術的助言やその他の支援を実施するなどして、指定廃棄物の一時保管に係る負担を軽減するよう努めること

イ 施設整備事業に係る委託契約を締結している全ての事業主体において指定廃棄物の保管容器に係る安全性が適切に確保されるよう、一時保管の状況について確認するとともに、保管容器の更新等に対する支援・助言を行うなどすること

ウ 8,000Bq/kg以下廃棄物の処分の見通しが立っていない事業主体に対して、法令の基準等に基づきこれらを適切に処分できるよう助言を行うなどすること

また、福島県等における実証事業については、今後も各事業を着実に実施し、これにより得られた技術的知見や成果を活用しつつ、必要に応じて指定廃棄物の減容化や焼却灰に含まれる事故由来放射性物質の分離等を推進していく必要がある。

本院としては、指定廃棄物が施設管理者等において適切に一時保管され、国において可能な限り早期に安全な方法により処理される必要があることなどから、今後の指定廃棄物の処理の状況について引き続き注視していくこととする。