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  • 平成25年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第3節 特定検査対象に関する検査状況

第9 日本銀行の財務の状況及びその推移について


検査対象
日本銀行、財務省
業務の根拠
日本銀行法(平成9年法律第89号)等
日本銀行の業務の概要
日本銀行券の発行、国庫金の取扱い、国債に関する国の事務、通貨及び金融の調節、金融機関の間における資金決済の円滑に資する業務、信用秩序の維持に資するための業務等
平成25年度の当期剰余金の額
7242億円
平成25年度の法定準備金への積立額
1448億円
平成25年度の国庫納付金の額
5793億円

1 検査の背景

(1) 日本銀行の概要

ア 日本銀行の目的等

日本銀行は、日本銀行法(平成9年法律第89号。以下「法」という。)に基づき、我が国の中央銀行として銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うこと並びに銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資することを目的とする認可法人であり、その資本金1億円のうち政府が5500万円を出資している。そして、日本銀行は、法等に基づき、①日本銀行券の発行、②国庫金の取扱い及び国債に関する国の事務等、③通貨及び金融の調節、④金融機関の間における資金決済の円滑に資する業務、⑤信用秩序の維持に資するための業務等を行っている。

法によれば、日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とすることとされている。また、日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならないとされており、さらに、法の運用に当たっては、日本銀行の業務運営における自主性は、十分配慮されなければならないとされている。

イ 日本銀行の剰余金の処分等

法によれば、日本銀行は、経費の予算について財務大臣の認可を受けなければならないとされているほか、財務諸表について財務大臣の承認を受けて一般の閲覧に供しなければならないとされている。そして、各事業年度(4月1日から翌年3月31日まで。以下「年度」という。)において剰余金(以下、各年度の剰余金を「当期剰余金」という。)を生じたときは、原則として当該当期剰余金の額の5%に相当する金額を準備金(以下「法定準備金」という。)として積み立てるなどした後、その残額を国庫に納付しなければならないとされている。

ウ 日本銀行の金融調節

日本銀行は、通貨及び金融の調節として、国債等の買入れを行うなどして金融機関等に資金を供給したり、日本銀行が振り出す手形等の売却を行って金融機関等から資金を吸収したりして、金融機関等が相互の資金決済等のために日本銀行に保有している当座預金(以下「日銀当座預金」という。)の残高を増減させることにより、短期金融市場における資金量の調整(以下「金融調節」という。)を行っている。

日本銀行は、上記の通貨及び金融の調節に当たり、政策委員会の金融政策決定会合において、金融調節の方針(以下「金融市場調節方針」という。)を決定している。そして、金融市場調節方針についてみると、平成18年3月からは、「無担保コールレート(オーバーナイト物)」(以下「短期金利」という。)を一定の水準に誘導することとしていたが、25年4月に、金融調節の操作目標を短期金利からマネタリーベース(注1)に変更して、同月以降は、マネタリーベースを年間約60兆円から70兆円に相当するペースで増加させることとしている。

(注1)
マネタリーベース  日本銀行が供給する通貨の総量。日本銀行券発行高、貨幣流通高及び日銀当座預金の合計額で構成される。平成26年3月末のマネタリーベースの残高は219兆円である。

(2) 物価安定の目標及び量的・質的金融緩和の導入

日本銀行は、25年1月に、日本経済のデフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向けて、消費者物価の前年比上昇率で2%とする物価安定の目標を導入した。そして、同年4月に、物価安定の目標を2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に実現するため、マネタリーベース及び長期国債等の保有額を2年間で2倍に拡大するとともに、買い入れる長期国債の平均残存期間を2倍以上に延長するなどとする金融緩和(以下「量的・質的金融緩和」という。)を導入した。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

本院は、平成20年度決算検査報告において「日本銀行の財務の状況及びその推移について」を掲記し、日本銀行の資産構成及び規模は金融市場調節方針に大きく影響を受けていると考えられること、日本銀行の利益は金融調節の結果保有している国債等の金融資産から生ずる利益が中核となっていることなどを記述した。

そして、日本銀行は、物価安定の目標をできるだけ早期に実現するために、量的・質的金融緩和を導入して、長期国債等の保有額を大幅に拡大するなどしてマネタリーベースの増加を図っている。

そこで、本院は、26年次の検査においては、上記の状況を踏まえて、平成20年度決算検査報告に掲記した以降の日本銀行の財務の状況及びその推移に着目し、正確性、合規性、経済性等の観点から、日本銀行の金融調節は同行の資産及び負債の規模並びに損益等にどのような影響を与えているか、日本銀行の当期剰余金の処分及び国庫納付金の納付の状況はどのようになっているかなどに着眼して検査した。

(2) 検査の対象及び方法

本院は、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき日本銀行から本院に提出された財務諸表等について書面検査を行うとともに、日本銀行及び財務省において、日本銀行の財務の状況、国庫納付金の納付状況等に関する各種資料等の提出を受けるなどして会計実地検査を行った。

3 検査の状況

(1) 日本銀行の金融調節及び資産、負債等の状況

ア 金融市場調節方針等の推移

日本銀行は、20年9月に発生したいわゆるリーマン・ショックを契機として、金融市場の安定化や民間企業の資金調達の円滑化等が重要な問題となったため、表1のとおり、20年10月以降、短期金利の誘導目標水準を段階的に引き下げたほか、コマーシャル・ペーパー等(以下「CP等」という。)及び社債の買入れなどといった新しい金融調節手段を時限的に導入するなどして資金供給を行った。

また、日本銀行は、22年10月に、短期金利の低下余地が限られている状況の下で金融緩和を一段と強力に推進するための臨時の措置として「資産買入等の基金」を創設して、通常の金融調節手段とは別に、国債、CP等、社債、株価指数連動型上場投資信託(以下「ETF」という。)及び不動産投資信託(以下「J―REIT」という。)といった多様な金融資産の買入れなどによる資金供給を行った。そして、同基金の規模(資産残高の上限額)については、創設時の総額35兆円程度からその後段階的に増額して総額101兆円程度とすることなどとなっていた。

前記のとおり、日本銀行は、25年4月に量的・質的金融緩和を導入して、金融調節の操作目標を短期金利からマネタリーベースに変更した。その上で、マネタリーベースを増加させるための資産の買入れ方針として、①長期国債について、保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加するように買入れを行い、同時に買入れの平均残存期間を量的・質的金融緩和導入前の3年弱から7年程度に延長する、②ETF及びJ―REITについて、保有残高がそれぞれ年間約1兆円及び年間約300億円に相当するペースで増加するように買入れを行うなどとしている。そして、日本銀行は、この量的・質的金融緩和について、前記物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続するとしている。

表1 金融市場調節方針等の推移

年月 事項
平成
20年10月
・短期金利の誘導目標水準の引下げ(「0.5%前後」→「0.3%前後」)
20年12月
  • ・短期金利の誘導目標水準の引下げ(「0.3%前後」→「0.1%前後」)
  • ・企業金融支援特別オペレーションの導入(22年3月終了)
  • ・CP等買入れの導入(21年12月終了)
21年2月 ・社債買入れの導入(21年12月終了)
22年10月
  • ・短期金利の誘導目標水準の引下げ(「0.1%前後」→「0~0.1%程度」)
  • ・資産買入等の基金の創設(量的・質的金融緩和の導入に伴い廃止)
25年4月
  • ・量的・質的金融緩和の導入
  • ・金融調整の操作目標を短期金利からマネタリーベースに変更(マネタリーベースが年間約60兆円から70兆円に相当するペースで増加するように金融調節を実施)
(注)
企業金融支援特別オペレーションは、社債等の民間企業債務の担保価額の範囲内で金額に制限を設けずに短期金利の誘導目標水準と同水準で資金を貸し付けるものである。

イ 日本銀行の資産、負債等の推移

日本銀行の20年度末から25年度末までの資産、負債等の推移は表2のとおりであり、総資産残高は、20年度末に123兆8886億円であったものが、25年度末にその約2倍弱の241兆5798億円になっている。資産の主なものは、金融調節等を通じて取得した金融資産である長期国債(発行から償還までの期間が2年以上の国債をいう。以下同じ。)、短期国債(政府短期証券、割引短期国債及び21年2月に両者を統合した国庫短期証券をいう。以下同じ。)及び貸出金等(国債及びCP等の売戻条件付買入れに伴って発生する金銭債権を含む。以下同じ。)であるが、これらのうち、長期国債の残高は、20年度末に42兆6612億円(総資産残高に占める割合34.4%)であったものが、25年度末にその約3.6倍の154兆1536億円(同63.8%)にまで増加している。これは、日本銀行が、「資産買入等の基金」の規模の増額及びこれに続く量的・質的金融緩和の導入に伴い、既に保有していた長期国債の償還額を大幅に上回る金額の買入れを行ったことによるものである。

一方、総負債残高は、20年度末には120兆9732億円であったものが、25年度末にはその約2倍の238兆1140億円になっている。負債の主なものをみると、20年度末には、日本銀行券の発行残高である発行銀行券が76兆8977億円(総負債残高に占める割合63.6%)、日銀当座預金が22兆1489億円(同18.3%)であったが、25年度末には、それぞれ86兆6308億円(同36.4%)、128兆6678億円(同54.0%)になり、日銀当座預金が発行銀行券を上回って負債の過半を占めるようになっている。これは、主に日本銀行の金融調節を通じて金融機関等に供給された資金が、日銀当座預金の残高の増加となって現れていることによると考えられる。

表2 日本銀行の資産、負債等の推移

<資産の部>(単位:億円、%)
区分 平成20年度末 21年度末 22年度末 23年度末 24年度末 25年度末
長期国債 42兆6612
(34.4)
50兆2129
(41.2)
59兆1229
(41.5)
70兆6866
(50.7)
91兆3492
(55.4)
154兆1536
(63.8)
短期国債 21兆6043 22兆8532 18兆1762 16兆5605 34兆0063 44兆1833
貸出金等 44兆6835 40兆7672 56兆7645 38兆9954 25兆4870 26兆3138
CP等 1兆5569 2742 1兆5948 1兆2457 1兆8749
社債 434 1722 2035 1兆9906 2兆8872 3兆2041
ETF 1851 8478 1兆5440 2兆8511
J―REIT 178 736 1189 1488
外貨建資産 10兆8647 5兆0227 4兆6902 5兆8723 5兆5264 6兆1582
その他の資産 2兆4743 2兆7957 2兆9283 2兆8348 2兆6475 2兆6916
(資産計) 123兆8886 121兆8241 142兆3631 139兆4569 164兆8127 241兆5798
  うち資産買入等の基金の残高 31兆7606 48兆8777 72兆0769
<負債及び純資産の部>(単位:億円、%)
区分 平成20年度末 21年度末 22年度末 23年度末 24年度末 25年度末
発行銀行券 76兆8977
(63.6)
77兆3527
(65.1)
80兆9230
(58.0)
80兆8428
(59.3)
83兆3782
(51.6)
86兆6308
(36.4)
日銀当座預金 22兆1489
(18.3)
23兆4553
(19.7)
40兆7556
(29.2)
34兆4323
(25.3)
58兆1289
(36.0)
128兆6678
(54.0)
その他の負債 21兆9265 17兆9888 17兆9538 20兆9664 20兆0167 22兆8153
(負債計) 120兆9732 118兆7969 139兆6325 136兆2415 161兆5239 238兆1140
資本金 1 1 1 1 1 1
法定準備金等 2兆6149 2兆6600 2兆6783 2兆6861 2兆7126 2兆7414
当期剰余金 3002 3671 521 5290 5760 7242
(純資産計) 2兆9153 3兆0272 2兆7306 3兆2153 3兆2887 3兆4657
(負債及び純資産合計) 123兆8886 121兆8241 142兆3631 139兆4569 164兆8127 241兆5798
注(1)
日本銀行の貸借対照表及び附属明細書から作成した。
注(2)
資産買入等の基金の運営として買い入れるなどした金融資産の残高は、同基金の廃止後も引き続き各資産の残高に含まれている。
注(3)
外貨建資産は、国際金融協力の実施等に備える目的で保有している外貨債券、外貨貸付金、外貨預け金、外貨投資信託及び外貨金銭の信託である。なお、外貨金銭の信託の平成24、25両年度末残高はない。
注(4)
( )書きは、資産計又は負債計に対する割合である。
注(5)
法定準備金等の各年度末の残高は、特別準備金の残高(1319万円)を含む。

ウ 日本銀行が保有する長期国債

(ア) 長期国債の評価方法等

日本銀行は、会計規程(平成10年制定)に基づき、中央銀行としての財務の健全性を踏まえつつ、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準を尊重して会計処理を行うこととしている。この企業会計の基準においては、有価証券の評価について、時価評価を基本としつつ、当該有価証券の保有目的に応じて、時価法、償却原価法等の評価方法により行うこととなっている。

そして、日本銀行は、同規程において、有価証券の種類ごとに各年度末における評価方法を定めており、長期国債については、原則として償還期限まで保有している実態を勘案して、償却原価法により評価を行うこととしている。このため、長期国債の貸借対照表価額は、取得原価と額面金額との差額を償還期限に至るまで毎期均等に取得原価に加減して算定した金額が計上されており、時価の変動による影響を受けないことになっている。

なお、日本銀行が保有する長期国債の時価については、同行が毎年度作成している行政コスト計算書の添付書類において公表されている。そして、当該長期国債の20年度末から25年度末までの貸借対照表価額、時価及び含み損益をみると、この間の市場金利の低下傾向を反映して、表3のとおり、各年度末とも、時価が貸借対照表価額を上回っていて、含み益が生じている。

表3 日本銀行が保有する長期国債の貸借対照表価額、時価及び含み損益の推移

(単位:億円)
区分 平成20年度末 21年度末 22年度末 23年度末 24年度末 25年度末
貸借対照表価額 42兆6612 50兆2129 59兆1229 70兆6866 91兆3492 154兆1536
時価 43兆4984 51兆1699 60兆2707 72兆3913 93兆8741 156兆8774
含み損益 8371 9569 1兆1477 1兆7047 2兆5248 2兆7238
(注)
日本銀行の貸借対照表及び行政コスト計算書の添付書類から作成した。
(イ) 長期国債の平均残存期間等

日本銀行は、金融調節を通じて買い入れた長期国債の残存期間が極端に短期化又は長期化することを避けるため、20年12月に残存期間別の買入れ方式を導入して、翌年2月から、一部を除く長期国債について、残存期間を「1年以下」、「1年超10年以下」及び「10年超30年以下」の三つに区分して買入れを行っていた。そして、25年4月の量的・質的金融緩和の導入以降は、これらの区分を原則として「1年以下」、「1年超5年以下」、「5年超10年以下」及び「10年超」の四つに区分している。

そこで、20年度末から25年度末までに日本銀行が保有していた長期国債の残存期間別の残高及び平均残存期間について、日本銀行の統計資料「日本銀行が保有する国債の銘柄別残高」等から算出したところ、表4のとおり、平均残存期間が22年度末から24年度末にかけて4.9年から3.9年に短期化していた。これは、上記の残存期間別の買入れ方式とは別に、前記の「資産買入等の基金」において、残存期間が1年以上2年以下(24年4月以降は1年以上3年以下)の長期国債を買い入れていて、これに係る長期国債保有残高の割合が増加したことによると考えられる。そして、25年度末に平均残存期間が再び長期化して5.6年になっているのは、量的・質的金融緩和の導入以降は、買い入れる長期国債の平均残存期間が7年程度となるように運営していることなどによると考えられる。

表4 日本銀行が保有する長期国債の残存期間別の残高及び平均残存期間の推移

(単位:億円、%、年)
残存期間 平成20年度末 21年度末 22年度末 23年度末 24年度末 25年度末
1年以下 9兆6761 9兆2752 12兆8646
(―)
18兆5444
(1兆0362)
22兆9670
(11兆5537)
27兆8276
1年超3年以下 9兆8659 14兆6984 15兆6697
(9005)
21兆4564
(5兆2700)
32兆7683
(16兆4816)
33兆8937
3年超5年以下 6兆5914 6兆6381 8兆5435 7兆9886 9兆3225 29兆7662
5年超10年以下 8兆8827 10兆8162 12兆8063 12兆8655 16兆5795 41兆9441
10年超 6兆9402 8兆0129 8兆4329 8兆9642 8兆5450 18兆1807
長期国債保有残高計 41兆9563 49兆4408 58兆3170
(9005)
<1.5>
69兆8191
(6兆3062)
<9.0>
90兆1823
(28兆0353)
<31.1>
151兆6123
平均残存期間 5.2 5.2 4.9
(1.7)
4.3
(1.5)
3.9
(1.3)
5.6
注(1)
( )書きは、資産買入等の基金により買い入れられた長期国債に係る計数である。また、< >書きは、長期国債保有残高計に占める資産買入等の基金に係るものの割合である。
注(2)
残存期間別残高及び長期国債保有残高計は、額面金額ベースであり、貸借対照表価額とは異なる。
(ウ) 日本銀行による長期国債の保有割合

日本銀行は、25年度末において、政府が発行した長期国債の発行残高840兆8435億円(時価ベース)に対し、その18.7%に当たる156兆8771億円(同)の長期国債を保有しており、20年度末の保有割合8.2%(短期国債のうち割引短期国債を含む数値)に比べて10.5ポイント上昇している(日本銀行の資金循環統計による。なお、日本銀行の保有残高は、算出方法の相違により、表3の時価とは一致しない。)。

(2) 日本銀行の損益、当期剰余金の処分等の状況

ア 日本銀行の損益の推移

日本銀行の経常収益の主なものは、金融調節等を通じて取得した長期国債、短期国債、貸出金等、CP等、社債及び外貨建資産の金融資産から生ずる利息等(以下「国債利息等収益」という。)となっている。日本銀行の20年度から25年度までの損益の推移をみると、表5のとおり、国債利息等収益の中で最も多くを占める長期国債利息は、20年度以降増加傾向で推移しており、20年度に5370億円であったものが、25年度に7761億円になっている。また、外貨建資産から生ずる為替差益又は為替差損(年度末の為替レートによる本邦通貨への換算等に伴って生ずる損益。以下「外国為替関係損益」という。)についてみると、20年度から23年度までは、年度中の為替レートが円高側に変動したことにより為替差損を計上しており、24、25両年度は、その反対に為替レートが円安側に変動したことにより為替差益を計上している。そして、外国為替関係損益は、23年度を除いて、経常収益又は経常費用の39.2%から66.8%を占めており、各年度の経常利益の額に与える影響も大きくなっている。

表5 日本銀行の損益の推移

(単位:億円、%)
区分 平成20年度 21年度 22年度 23年度 24年度 25年度
経常収益 1兆2745 8324 7740 8728 1兆3982 1兆5793
  国債利息等収益 1兆1815 7642 7276 8275 7349 8468
  長期国債利息 5370 5468 5948 5979 6005 7761
短期国債利息 1113 526 275 219 220 295
貸出金等利息 1648 491 399 437 332 256
CP等利息 22 7 0 17 18 18
社債利息 0 16 1 10 65 53
外貨債券収益 2836 1003 648 1589 700 57
外貨預け金等利息 824 128 1 21 6 25
為替差益
(経常収益に占める割合)
6036
(43.2)
6194
(39.2)
その他の収益 929 681 464 452 597 1130
  うちETF運用益 0 58 214 375
うちJ―REIT運用益 1 23 51 66
経常費用 8355 4658 7198 3367 2665 2987
  為替差損
(経常費用に占める割合)
4165
(49.9)
2185
(46.9)
4810
(66.8)
606
(18.0)
経費 2273 1922 1947 1916 1899 1908
その他の費用 1915 550 440 845 766 1079
経常利益 4390 3665 542 5360 1兆1316 1兆2805
特別利益 2 11 44 94 69 110
特別損失 4 5 28 2 3019 3099
税引前当期剰余金 4388 3671 558 5453 8366 9816
法人税、住民税及び事業税 1385 0 36 162 2606 2573
当期剰余金 3002 3671 521 5290 5760 7242
(注)
日本銀行の損益計算書及び決算説明資料から作成した。

イ 長期国債の利回りなどの推移

前記のとおり、日本銀行が保有する長期国債の25年度末の残高は、20年度末に比べて約3.6倍にまで増加しており、この間の長期国債利息は、増加傾向で推移している。一方、20年度から25年度までの長期国債の利回りなどの推移をみると、表6のとおり、各年度とも、長期国債の平均保有残高の増加率に比べて長期国債利息の増加率は小さくなっており、長期国債の利回りは、20年度以降、低下傾向で推移している。

表6 長期国債の利回りなどの推移

(単位:億円、%)
区分 平成20年度 21年度 22年度 23年度 24年度 25年度
長期国債利息(a) 5370 5468
(1.8)
5948
(8.8)
5979
(0.5)
6005
(0.4)
7761
(29.2)
長期国債平均保有残高(b) 44兆3608 47兆6920
(7.5)
56兆1535
(17.7)
64兆3181
(14.5)
83兆5174
(29.9)
126兆5665
(51.5)
長期国債利回り(a)/(b) 1.210 1.146 1.059 0.929 0.719 0.613
注(1)
日本銀行の決算説明資料から作成した。
注(2)
( )書きは対前年度増加率である。

日本銀行は、長期国債を買い入れるに当たっては、買入れ対象先の金融機関等が希望する利回りから、市場実勢相場等を勘案して銘柄(発行年限、回号等)ごとに定めた基準利回りを差し引いて得た値を入札に付し、この値が高い順に、長期国債の買入れ予定額に達するまで落札させるなどしている。このため、日本銀行が買い入れる長期国債の利回りは、買入れ時における市場金利等の影響を受けていると考えられる。

ウ 補完当座預金制度に係る支払利息の推移

日本銀行は、20年10月に、金融調節の一層の円滑化を通じて金融市場の安定確保を図るために、資金供給円滑化のための手段として、補完当座預金制度を導入している。補完当座預金制度は、準備預金制度(注2)の対象となる金融機関に係る日銀当座預金等のうち日本銀行への預入れが義務付けられている金額を超える金額(以下「超過準備額」という。)及び準備預金制度の対象とならない金融機関等のうち所定の金融機関等に係る日銀当座預金(以下、超過準備額及び準備預金制度の非対象先に係る日銀当座預金を合わせて「超過準備額等」という。)について、政策委員会で決定した適用利率による利息を付すものである。そして、補完当座預金制度の導入から25年度までの間における適用利率は、年0.1%となっている。

(注2)
準備預金制度  準備預金制度に関する法律(昭和32年法律第135号)に基づき、銀行等の預金取扱金融機関について、預金等の債務に所定の準備率を乗じて算定される法定準備預金額を日本銀行に対する預け金として保有することを義務付ける制度

20年度から25年度までの超過準備額等に対する支払利息等の推移をみると、表7のとおり、超過準備額等の平均残高の増加に伴って支払利息も増加している。特に、25年度は、量的・質的金融緩和の下で長期国債を中心とする多額の金融資産の買入れが行われたことなどに伴い、超過準備額等の平均残高が86兆7205億円と24年度の約2.7倍に増加し、支払利息の金額も836億円と24年度の約2.7倍に増加している。

表7 補完当座預金制度に係る超過準備額等に対する支払利息等の推移

(単位:億円)
区分 平成20年度 21年度 22年度 23年度 24年度 25年度
日銀当座預金等平均残高 11兆6147 13兆7096 19兆4402 31兆3169 40兆4993 95兆0352
超過準備額等平均残高 4兆3228 6兆3055 11兆8628 23兆5916 32兆5519 86兆7205
支払利息 14 62 107 238 315 836
(注)
日銀当座預金等平均残高及び超過準備額等平均残高は、日本銀行の統計資料「業態別の日銀当座預金残高」から算出した。平成21年度から25年度までは、当年4月から翌年3月までの各月の準備預金積み期間(当月16日~翌月15日)の平均残高であり、20年度は、20年11月から21年3月までの各月の準備預金積み期間の平均残高である。

エ 当期剰余金の処分と国庫納付金

(ア) 当期剰余金の推移

日本銀行の当期剰余金は、各年度の経常利益に特別損益を加減し、法人税等を差し引いた額となっている。特別損益の主なものは、外国為替等取引損失引当金、指数連動型上場投資信託取引損失引当金、不動産投資信託取引損失引当金等の日本銀行が取得した金融資産に係る各引当金の積立て又は取崩しなどとなっている。このうち、外国為替等取引損失引当金は、日本銀行法施行令(平成9年政令第385号)に基づき、財務大臣の承認を受けて積み立てることができることとなっており、その積立額は、会計規程に基づき、外国為替関係損益の50%に相当する金額を目途として、自己資本比率(注3)の水準等を勘案して定めることとなっている。そして、財務大臣は、日本銀行法施行規則(平成10年大蔵省令第3号)に基づき、当該承認を行うときは、日本銀行の自己資本の充実の状況を勘案するものとすることとなっている。

(注3)
自己資本比率  上半期末又は年度末の資本金、法定準備金(当期剰余金の処分において積み立てられる金額を含む。)、外国為替等取引損失引当金等の合計額をその期中における日本銀行券の平均発行残高で除して得た比率

日本銀行の特別損益をみると、表8のとおり、24、25両年度においてそれぞれ3000億円近い損失が生じている。これは、両年度中の為替レートが円安側に変動したことにより、外国為替関係損益において、それぞれ6036億円及び6194億円の利益が生じたことを受け、日本銀行が、財務大臣に対して外国為替等取引損失引当金の積立てを含む財務諸表の承認申請を行い、同大臣の承認を受けて、その利益の50%に相当する3018億円及び3097億円を外国為替等取引損失引当金に繰り入れたことなどによるものである。そして、24、25両年度の当期剰余金は、経常利益から上記の特別損失を減ずるなどした結果、それぞれ5760億円及び7242億円となっている。

表8 当期剰余金の推移

(単位:億円)
区分 平成20年度 21年度 22年度 23年度 24年度 25年度
経常利益(a) 4390 3665 542 5360 1兆1316 1兆2805
特別損(△)益(b) △1 6 15 92 △2950 △2988
  うち外国為替等取引損失引当金取崩額(△繰入額) △3018 △3097
うち指数連動型上場投資信託取引損失引当金取崩額(△繰入額) △21 21
うち不動産投資信託取引損失引当金取崩額(△繰入額) △1 1
法人税、住民税及び事業税(c)(注) 1385 0 36 162 2606 2573
当期剰余金(a)+(b)-(c) 3002 3671 521 5290 5760 7242
(注)
国庫納付金の額は、法に基づき、法人税及び事業税に係る課税所得の算定上、損金の額に算入することとなっている。
(イ) 当期剰余金の処分の推移

日本銀行は、前記のとおり、原則として当期剰余金の5%に相当する金額を法定準備金として積み立てなければならないこととなっているが、特に必要があると認められるときは、財務大臣の認可を受けて当該金額を超える金額を法定準備金として積み立てることができることとなっている。

そして、当期剰余金のうち、法定準備金への積立て及び出資者への配当を行った後の残額については、国庫に納付しなければならないこととなっている。これは、日本銀行の利益の大部分は銀行券の発行と引換えに保有する金融資産から生ずる利息収入等であり、国が日本銀行に対して銀行券の発行権を独占的に与えたことから反射的に生ずるものであるため、その利益は国民に還元されるべきとの考えによるものである。

日本銀行の法定準備金の積立額は、表9のとおり、20、22、25各年度において、それぞれ当期剰余金の5%に相当する額を超える450億円、78億円及び1448億円となっている。これは、日本銀行が、財務の健全性確保の観点から、財務大臣に対して上記法定準備金の積立ての認可申請を行い、同大臣の認可を受けて積み立てたものであり、特に、25年度は、量的・質的金融緩和の実施に伴い、従来より収益の振幅が大きくなると見込まれる状況を踏まえて、20、22両年度の積立率15%を上回る、当期剰余金の額の20%に相当する金額を積み立てている。

そして、各年度の当期剰余金から法定準備金積立額及び出資者に対する配当金を控除した額が国庫に納付されており、25年度の国庫納付金は5793億円となっている。

表9 当期剰余金の処分の推移

(単位:億円、%)
区分 平成20年度 21年度 22年度 23年度 24年度 25年度
当期剰余金(a) 3002 3671 521 5290 5760 7242
法定準備金積立額(b) 450 183 78 264 288 1448
  積立率(b)/(a) 15.0 5.0 15.0 5.0 5.0 20.0
配当金(c) 0 0 0 0 0 0
国庫納付金(a)-(b)-(c) 2552 3487 443 5026 5472 5793
(注)
配当金は、出資者に対して各年度総額500万円が支払われている。
(ウ) 自己資本比率の推移

日本銀行は、自己資本比率を財務の健全性に関する指標としており、この比率が10%程度となることを目途として、おおむねその上下2%の範囲内となるように、特別損益の経理において外国為替等取引損失引当金等の積立て又は取崩しを行った後、当期剰余金の処分において法定準備金の積立てを行うこととしている。

日本銀行の20年度末から25年度末までの自己資本比率は、表10のとおり、7%台で推移しており、25年度末の自己資本比率は、外国為替等取引損失引当金への繰入れや、当期剰余金の額の20%に相当する金額について法定準備金への積立てを行うなどした結果、24年度末に比べて0.29ポイント上昇して7.74%となっている。

表10 自己資本比率の推移

(単位:億円、%)
区分 平成20年度末 21年度末 22年度末 23年度末 24年度末 25年度末
資本金勘定(a) 2兆6601 2兆6784 2兆6862 2兆7127 2兆7415 2兆8863
  資本金 1 1 1 1 1 1
法定準備金等 2兆6600 2兆6783 2兆6861 2兆7126 2兆7414 2兆8862
引当金勘定(b) 3兆0378 3兆0378 3兆0378 3兆0378 3兆3396 3兆6493
  債券取引損失引当金 2兆2433 2兆2433 2兆2433 2兆2433 2兆2433 2兆2433
外国為替等取引損失引当金 7945 7945 7945 7945 1兆0963 1兆4060
自己資本残高(a)+(b)=(c) 5兆6979 5兆7163 5兆7241 5兆7505 6兆0811 6兆5357
日本銀行券平均発行残高(d) 76兆1805 76兆4888 77兆6816 79兆6464 81兆5695 84兆4116
自己資本比率(c)/(d) 7.47 7.47 7.36 7.22 7.45 7.74
注(1)
法定準備金等は、当期剰余金の処分における法定準備金積立額及び特別準備金(1319万円)を含む。
注(2)
債券取引損失引当金は、日本銀行法施行令に基づき、外国為替等取引損失引当金と同様に、債券の売買、保有等に伴い生じた損益について積立て又は取崩しを行うものであるが、平成14年度以降、積立て又は取崩しの実績はなく、同額で推移している。

4 本院の所見

日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率で2%とする物価安定の目標の早期実現に向けて、25年4月に導入した量的・質的金融緩和の下で、金融機関等から長期国債を中心に多額の金融資産を買い入れるなどしており、その結果として、日本銀行の資産及び負債の規模は急速に拡大している。また、日本銀行は、上記物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで量的・質的金融緩和を継続するとしており、この方針の下で、長期国債のほか、ETFやJ―REITのような価格変動リスクのある資産を含む多額の金融資産の買入れを行うなどとしている。

日本銀行の主な収益は、金融調節等を通じて取得した金融資産から生ずる利息収入等となっており、日本銀行は、当該金融資産について財務大臣の承認を受けて引当てを行うとともに、当期剰余金の額の5%に相当する金額又は財務大臣の認可を受けて当該金額を超える金額を法定準備金に積み立てるなどした後、その残額を国庫に納付している。

したがって、日本銀行においては、引き続き、金融調節等を通じて取得した金融資産について適切に引当てを行うとともに、当期剰余金の5%に相当する額を超える金額を必要に応じて法定準備金に積み立てるなど、財務の健全性の確保に努めることが重要である。また、財務省においては、日本銀行から上記の引当てを含む財務諸表の承認又は上記積立ての認可の申請があった場合には、国民に還元されるべきとされている日本銀行の利益の特質等に留意しつつ、日本銀行の財務の健全性等を勘案の上、引き続き適切に承認又は認可を行っていくことが必要である。

本院としては、今後の金融経済情勢の変化を踏まえつつ、今後とも日本銀行の財務の状況について引き続き注視していくこととする。