東日本大震災における建築物被害は、25年4月時点における警察庁公表資料において、全半壊が39万戸余り、一部破損が74万戸余りと甚大かつ広範囲に及んでいる。林野庁は、復興に当たって住宅の再建は喫緊の課題であるとしており、住宅の再建に必要となる木材を供給するためには木材の増産を図るとともに、被災した製材所、合板工場等の復興を行うことなどにより、復興木材の安定供給体制を構築する必要があるとしている。
このため、林野庁は、27年度までの集中復興期間に、東日本大震災の被災地域だけでは賄いきれない復興に必要な木材を全国的に安定供給する体制を構築することで被災地の木材需要を満たすこととして、23年度第3次補正予算により45道府県に計1399億4550万円の国庫補助金を交付して、道府県において23年度から26年度までの期間、復興対策基金事業を実施している。
その後、林野庁は、被災地との関連が明確でないものについて使途を厳格化すべきではないかなどの議論を踏まえて、25年7月に使途厳格化通知を発出し、復興対策基金事業については、被災地における取組及び被災地以外において直接被災地に木材を供給する取組に使途を限定することとしたが、これまでに多額の国費を原資として実施されてきた復興対策基金事業の内容、成果、課題等を分析及び検証することは、今後の復興のための事業の計画及び実施に当たって重要であると考えられる。
そこで、会計検査院は、復興対策基金の執行状況等を確認するとともに、復興対策基金事業が実施要綱等に基づき適切に実施されているか、被災地の現状を踏まえた、復旧・復興のために効率的かつ効果的なものとなっているかなどを検査したところ、次のような状況となっていた。
ア 国庫補助金計1399億4550万円に基づき造成された復興対策基金については、被災地の造成額は計251億9000万円(基金造成額全体の18.0%)、このうち、東北3県の造成額は計99億5000万円(同7.1%)となっていた。
一方、25年度までの45道府県の基金使用額計612億0793万余円についてみると、被災地の使用額は計104億4742万余円(基金使用額全体の17.1%)、このうち東北3県の使用額は計36億7498万余円(同6.0%)となっていた。また、東北3県の基金造成額に対する25年度までの基金使用額の割合は36.9%となっており、45道府県全体の基金造成額に対する25年度末までの使用額の割合43.7%を下回っていた。
また、復興対策基金事業に係る国庫補助金については、使途厳格化通知の発出を受けて、45道府県のうち被災地を除く36道府県は、25年度中に計394億3218万余円を国庫へ返還していた。
イ 復興対策基金事業の各事業種目の実施状況については、使途厳格化通知に基づく対応が講じられることになる以前の25年度までに、「地域協議会の運営等」において木材の国内供給の増加につながらない輸出の促進に関する調査等を行っていた事態、「間伐等」において、集約化を促進していなかったり切捨間伐を実施したりしていた事態、搬出した間伐材を輸出していた事態及び「森林境界の明確化」において事業の実施後相当期間が経過しているにもかかわらず間伐等を実施していない事態が見受けられた。
ウ 24年度の復興対策基金事業の実施については、24年度から26年度までの期間を対象として作成することとされている原木安定供給プランの提出期限が24年12月末とされていたり、また、道県における承認については半数が25年2月以降となっていたりしていて、原木の供給体制を構築することで被災地の復興に貢献するという同プランの趣旨が十分生かされていなかった。
また、原木安定供給プランの提出後に新たに締結し、同プランに基づくと判断できる取引協定は全体の19.5%にすぎなかったほか、被災地以外の10県が県外の木材加工事業体等と締結した取引協定は全体の13.3%にすぎず、被災地の木材加工事業体等との取引協定はなかった。
エ 木材の流通状況について会計検査院が調査した範囲においては、被災地以外から被災地への木材の供給は極めて限定的なものにとどまっていて、全国規模での被災地への木材供給は見受けられなかった。また、被災地以外から被災地への出荷量に比べて、被災地から被災地以外への出荷量が上回っているなどの状況が見受けられた。
オ 復興対策基金事業の事業効果については、復興対策基金事業の事業効果の目標値を他の森林整備事業と合わせて設定していること、被災地の木材需要を間接的供給により満たすことによって事業効果が得られるとしていること、さらに、復興対策基金事業の8事業種目が従来実施していた基金事業の14事業種目に包含されていることなどが、道府県及び事業主体において復興対策基金事業の趣旨や背景を十分踏まえずに、事業を実施している要因となっていると思料された。また、林野庁は、木材の生産能力向上の目標値の達成状況について、被災地における木材の不足や価格の高騰を招く状況となっていないことから、事業の効果が発揮されつつあるとしており、復興対策基金事業等における木材の生産能力向上の目標値(計222万㎥)については検証することとしていなかった。
カ 使途厳格化通知後の26年度の復興対策基金事業については、被災地を除いては、「直接被災地に木材を供給する取組」等として1府3県で実施されるのみで、多くの道府県で実施されないこととなった。
東日本大震災からの復興に対する取組は、現在、国、地方公共団体等において全力を挙げて行われており、林野庁は、今後も、適切な間伐等の森林整備の実施による災害に強い森林づくり、海岸防災林の復旧・復興や山腹崩壊地等における復旧整備等の森林整備事業・治山事業等により、東日本大震災からの復旧・復興対策を実施していくこととしている。
したがって、林野庁において、今回の会計検査院の検査により明らかになった状況を踏まえ、今後の事業の実施に当たっては、次のような点に留意し、地方公共団体、事業主体等と連携しつつ、被災地の復興にとってより効果的なものとなるよう取り組む必要がある。
(ア) 被災地における取組及び被災地以外において直接被災地に木材を供給する取組を引き続き実施するなど、使途厳格化通知の趣旨に沿って適切に事業を実施するよう府県に対して周知を行うこと
(イ) 今後の復興のための事業の政策目標の設定や評価に資するよう、復興対策基金事業の効果について可能な限り評価及び検証に努めること
(ア) 被災地の現状や復興の進捗状況を常に的確に把握し、被災地の要望に対応した事業となるようにすること
(イ) 被災地以外において、必要に応じて復興のための事業を実施する場合には、事業主体が事業の趣旨や背景を十分踏まえて実施できるように留意すること
(ウ) 被災地の復興に直接かつ効果的に貢献することとなる政策目標を設定するとともに、事業効果の目標値については政策目標と整合した適切かつ測定可能なものを設定し、事業効果の評価及び検証を的確に実施すること
会計検査院としては、林野庁が実施する被災地の復興のための事業の実施状況等について、引き続き多角的な観点から検査していくこととする。