(以下の内容は、内閣府及び総務省それぞれの検査結果に基づくものとなっているが、本項において総括的に掲記している。)
国は、平成20年度から25年度までの間に、地方公共団体が「経済危機対策」(平成21年4月「経済危機対策」に関する政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議決定)等(以下「経済危機対策等」という。)に対応した事業を円滑に実施して、地域活性化等の速やかかつ着実な実施を図ることを目的として、地方公共団体が作成した実施計画に基づく事業に要する費用のうち地方公共団体が負担する経費に充てるために、表のとおり、各年度の補正予算により八つの交付金(以下、これらの交付金を「8交付金」という。)を交付している。
表 8交付金の名称、予算計上年度及び予算額
交付金名 | 予算計上年度 | 予算額 |
---|---|---|
地域活性化・緊急安心実現総合対策交付金(以下、本文において「安心交付金」という。) | 平成20年度 一般会計第1次補正予算 |
26,000,000 |
地域活性化・生活対策臨時交付金(以下、本文において「生活交付金」という。) | 平成20年度 一般会計第2次補正予算 |
600,000,000 |
地域活性化・公共投資臨時交付金(以下、本文において「公共交付金」という。) | 平成21年度 一般会計第1次補正予算 |
1,379,000,000 |
地域活性化・経済危機対策臨時交付金(以下、本文において「経済交付金」という。) | 平成21年度 一般会計第1次補正予算 |
1,000,000,000 |
地域活性化・きめ細かな臨時交付金(以下、本文において「きめ細かな臨時交付金」という。) | 平成21年度 一般会計第2次補正予算 |
500,000,000 |
地域活性化交付金(きめ細かな交付金)(以下、本文において「きめ細かな交付金」という。) | 平成22年度 一般会計補正予算 |
250,000,000 |
地域活性化交付金(住民生活に光をそそぐ交付金) | 平成22年度 一般会計補正予算 |
100,000,000 |
地域の元気臨時交付金(地域経済活性化・雇用創出臨時交付金)(以下、本文において「元気交付金」という。) | 平成24年度 一般会計第1次補正予算 |
1,398,000,000 |
8交付金の計 | 5,253,000,000 |
8交付金の対象となる事業(以下「交付対象事業」という。)は、既存の国の補助事業の対象とはならない地方単独事業又は8交付金の各制度要綱で定められた国の補助事業となっており、地方単独事業については、各交付金の目的において示されている経済危機対策等の決定がなされた日以降に地方公共団体において予算に計上され、実施されるものなどとなっている。
内閣府は、8交付金の予算について、地方公共団体から提出を受けた実施計画を審査して、実施計画における交付対象経費の額に基づき配分計画を作成して、これにより交付行政庁となる各省に予算を移し替えている。そして、移替えを受けた各省は、その定めた交付要綱に基づき、地方公共団体が作成した実施計画に掲げる交付対象事業に要する費用に対して交付金を交付することとなっている。なお、実施計画に記載された交付対象事業が地方単独事業や複数の府省が所管する補助事業で構成されている場合は総務省が交付行政庁となることとなっている。
また、内閣府は、8交付金が創設される都度、地方公共団体に対して各制度要綱の解釈を示した事務連絡等を発して、交付対象事業のうち地方単独事業に関する留意点を周知するなどしている。
消費税法(昭和63年法律第108号)等に基づき、消費税(地方消費税を含む。以下同じ。)は、事業者が課税対象となる取引を行った場合に納税義務が生ずるが、生産及び流通の各段階の取引で重ねて課税されないように、確定申告において、課税売上げ(消費税の課税対象となる資産の譲渡等)に係る消費税額から課税仕入れ(消費税の課税対象となる資産の譲受け等)に係る消費税額を控除(以下「仕入税額控除」という。)する仕組みとなっている。
そして、事業者が地方公共団体(特別会計を設けて事業を行う場合に限る。)、消費税法の適用を受ける公共法人、公益法人等(以下「地方公営企業等」という。)である場合、消費税の確定申告において、補助金収入など資産の譲渡等の対価以外の収入(以下「特定収入」という。)の額を特定収入とそれ以外の収入の合計額で除した割合(以下「特定収入割合」という。)が100分の5以下の場合は、課税仕入れに係る消費税額から特定収入により賄われる課税仕入れに係る消費税額の控除(以下「調整」という。)を行う必要がないことから、この場合に、事業者は特定収入に係る課税仕入れの消費税額を実質的に負担していないことになる。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
前記のとおり、8交付金は地方単独事業にも充当できることから、交付対象事業の内容は多岐にわたっており、その予算額は計5兆2530億円と多額に上っている。そして、8交付金と同種の交付金として、平成26年度一般会計補正予算に地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金に係る予算(予算額4200億円)が計上されており、内閣府及び総務省が交付行政庁となっている。
そこで、本院は、経済性、有効性等の観点から、交付金事業は経済危機対策等に対応した交付金の交付の趣旨に沿って実施されているか、8交付金により整備又は改修された施設等は有効に活用されているか、交付金事業における消費税の取扱いは適切に行われているかなどに着眼して、20年度から25年度までの間に交付された8交付金に係る3,120事業(事業費計4853億8428万余円、交付金交付額計3919億2992万余円)を対象として、内閣府本府、総務本省、19府県及び286市町村において、実施計画等の書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、1県及び88市町村から調書の提出を受けるなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
8交付金が充当された交付金事業の実施状況等についてみたところ、2県1市1町(注1)は、生活交付金、経済交付金又は公共交付金を交付対象年度となる当該地方公共団体の予算に計上された地方債の償還や過年度の債務負担行為に基づき締結した契約の契約代金の支払に交付金を充当していた(事業費計21億1338万余円、交付金交付額計8億9148万余円)。
しかし、上記の償還に交付金が充当された地方債の対象となった事業や過年度の債務負担行為の対象となった事業は、各交付金の制度要綱に記載された経済危機対策等に対応して実施されたものではないことから、これらに係る地方債の償還や契約代金の支払に交付金を充当することは交付金の交付の趣旨に沿ったものとなっていなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
山口県は、平成21年度に、総務省から公共交付金の交付を受けて、漁業取締船建造事業を事業費449,500,000円(交付金交付額同額)で実施していた。同事業に関し、同県は、公共交付金の目的で示されている「経済危機対策」(平成21年4月「経済危機対策」に関する政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議決定)の策定されるより前の平成20年度一般会計補正予算に、20、21両年度の債務負担行為として本件漁業取締船建造費638,862千円を計上して、20年9月に漁業取締船建造工事の請負契約を締結し、このうちの21年度の支払分に交付金447,400,000円を充当していた。
8交付金を充当して整備又は改修された施設や設備の利用状況についてみたところ、4県7市2町1村(注2)は、27年5月末現在で、生活交付金で整備した設備を事業実施後全く利用していなかったり、生活交付金、経済交付金、きめ細かな臨時交付金又はきめ細かな交付金で整備又は改修した施設等の一部を事業実施後9か月から5年1か月までの短期間で休止していたりなどしていた。
したがって、これらの施設等(事業費計33億8550万余円、交付金相当額計1億9092万余円)は、交付金により実施された事業の効果が十分発現していなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
滋賀県は、平成21年度に、総務省から生活交付金の交付を受けて、県有施設緊急整備(奥びわスポーツの森)事業を事業費6,844,950円(交付金交付額同額)で実施していた。同事業は、同県が、公共施設の防災対策・長寿命化を図る施策の一環として、奥びわスポーツの森のプールに設置されているろ過設備の改修工事を実施したものである。しかし、当該プールは、21年12月に同県が公表した「公の施設見直し計画」において見直し対象施設となったことなどから、23年8月でプールの運営を休止していた。
総務省から8交付金が交付された地方公共団体が一般会計から公営企業会計等の特別会計へ繰り出すなどして実施した事業についてみたところ、七つの交付金(注3)の115事業(事業費計206億5405万余円、交付金交付額計192億3315万余円)において、地方公営企業等は、特定収入割合が100分の5以下となっており、事業実施年度の消費税の確定申告において、調整を行わない課税仕入れに係る消費税額により仕入税額控除していた。
しかし、総務省が定めた交付要綱には、仕入税額控除した消費税額のうち交付金により賄われる課税仕入れに係る消費税額が確定した場合、その額に係る交付金を返還することなどの規定が定められていなかったため、地方公共団体が実質的に負担していない仕入税額控除した消費税額に係る交付金相当額計1億0420万余円が地方公共団体に交付されたままとなっていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例3>
浜松市は、平成21年度に、総務省から公共交付金の交付を受けて、同市の一般会計から浜松市水道事業会計に対する繰出しに交付金44,000,000円を充当して、同事業会計において老朽化した配水管の更新工事を実施していた。そして、同事業会計の21年度の消費税の申告において、特定収入割合が100分の5以下となったことから、同事業会計は調整を行わずに仕入税額控除しており、その結果、仕入税額控除した消費税額に係る交付金相当額2,095,238円は同市に交付されたままとなっていた。
このように、経済危機対策等に対応して実施されたものではない事業に交付金を充当していたり、交付金により実施した施設等の整備又は改修事業の効果が十分発現していなかったり、仕入税額控除した消費税額に係る交付金が地方公共団体に交付されたままとなっていたりしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、内閣府及び総務省は、今後、8交付金と同種の交付金による事業を実施する際には、同様の事態が生ずることのないよう27年8月に関係部局に通知を発するとともに、地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金について、次のような処置を講じた。