警察庁は、都道府県警察本部(以下「警察本部」という。)を中心に警察署、パトカー、白バイ等の間で通信を行うことができるAPR(注1)形警察移動通信システムを全国に設置し、運用しており、これらの通信を確保するために警察本部と警察庁が設置する無線中継所等との間を結ぶ無線多重回線(注2)網を構築している。そして、この無線多重回線網に係るアンテナ設備や多重無線設備の保守等の維持管理は、警察庁の地方機関である東京都警察情報通信部、北海道警察情報通信部(4方面情報通信部を含む。)及び7管区警察局に置かれた45情報通信部(以下、これらをそれぞれ「情報通信部」という。)が行っている。
情報通信部は、アンテナ設備や多重無線設備の更新工事を実施する際、一時的にこれらの設備が取り外されて無線多重回線が途絶することから、途絶区間を有線の事業者回線(以下「専用回線」という。)で結ぶために、警察本部等に設置されたAPR形移動通信制御装置や無線中継所に設置されたAPR形基地局制御装置(以下、これらを合わせて「APR形制御装置」という。)に専用回線用の基板(以下「基板」という。)を取り付けている。また、国内で行われる国際会議等において大規模警備等を行う際にも、臨時に設置した無線中継所と警察本部とを一時的に専用回線で結ぶために、APR形制御装置に基板を取り付けている。
そして、基板には、伝送容量等の違いに応じて六つの規格があり、更新工事等のために一時的に使用された基板は、更新工事等の終了後にAPR形制御装置から取り外されて、情報通信部等において保有され、新たに更新工事等が実施される際に、再びAPR形制御装置に取り付けて活用することが可能となっている。
警察庁は、1管区警察局及び5情報通信部(注3)において、2社と契約を締結し、平成25、26両年度に、基板を含む通信機器等を、25年度に計1519万余円(うち基板計47枚、調達額計1226万余円)、26年度に計433万余円(同計10枚、同計292万余円)、合計1953万余円(同計57枚、同計1519万余円)で調達している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性、有効性等の観点から、警察庁における基板の調達数は適切か、更新工事等の終了後に取り外されて情報通信部等が保有している基板は有効に活用されているかなどに着眼して、上記の調達契約(基板計57枚、調達額計1519万余円)を対象として、1管区警察局及び2情報通信部(注4)において、本件契約の契約書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。また、全国の情報通信部等における基板の調達、使用、保有状況等について警察庁に対して調書の作成及び提出を求めるなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
情報通信部等は、全国の情報通信部において更新工事等の際に活用可能となる基板を、25年4月1日現在で、計167枚保有しており、これらの基板は管理換により他の情報通信部も活用できるものとなっていた。これらの167枚の基板の更新工事等における使用実績は、25年度に計39枚、26年度に計16枚となっていた。また、これらの基板は、1か月から9か月にわたる更新工事等の期間中に使用された後、いずれも取り外されて再び活用できる状態で情報通信部等において保有されていた。
これに対して、前記のとおり、1管区警察局及び5情報通信部は、25、26両年度に計57枚の基板を新規に調達していたが、全国における規格ごとの活用可能な基板数の状況等をみると、表のとおり、保有していた基板(25年4月1日現在)を全て使用していた一つの規格(規格4)を除く五つの規格の基板については、25、26両年度に調達を行わなかったとしても相当数の基板を両年度にわたり常に保有していた。
表 平成25、26両年度における基板の調達数と活用が可能であった基板数との比較等
基板の規格 | 調達数 | 保有している基板数(25年4月1日現在) (a) |
25、26両年度の月当たり最大使用枚数 (b) |
左の最大使用枚数となっていた時点において活用可能な基板数 (c)=(a)-(b) |
||
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平成25年度 | 26年度 | 計 | ||||
規格1 | 14 | 2 | 16 | 47 | 14 | 33 |
規格2 | 3 | 1 | 4 | 19 | 1 | 18 |
規格3 | 0 | 2 | 2 | 13 | 2 | 11 |
規格4 | 1 | 0 | 1 | 2 | 2 | 0 |
規格5 | 23 | 4 | 27 | 64 | 12 | 52 |
規格6 | 6 | 1 | 7 | 22 | 4 | 18 |
計 | 47 | 10 | 57 | 167 | 35 | 132 |
しかし、警察庁は、基板の調達に当たり、情報通信部等が保有する基板を活用することに関して、管区警察局及び情報通信部に対して特段の指示を行っておらず、また、情報通信部に対して各基板の保有枚数を定期的に管区警察局等に報告等させて基板の保有状況に関する情報を管区警察局等の間において共有することとしていなかった。
このため、前記の1管区警察局及び5情報通信部のうち1管区警察局及び4情報通信部(注5)は、他の情報通信部等における基板の保有状況を照会することなく基板を調達していた。また、沖縄県情報通信部は、管区内の情報通信部から管理換を受けていたが、他の管区警察局等からは管理換を受けることなく不足する基板を調達していた。なお、4情報通信部(注6)においては、他の情報通信部等に照会を行い、基板の管理換を受けて、これにより更新工事を実施していた。
このように、全国の管区警察局及び情報通信部において、使用実績に比して相当数の基板を保有していながら、それらを活用することなく、毎年新規に調達していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた基板の調達数及び調達額)
25年度当初に保有していた活用可能な基板を管理換して活用することなどにより、25、26両年度に調達した基板計57枚、調達額計1519万余円は、活用可能な基板を全て使用していた一つの規格の基板1枚を除き新規に調達する必要はなく、基板計56枚、調達額計1471万余円を節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、管区警察局及び情報通信部において基板の調達に当たり、他の情報通信部等が保有する基板の活用を図ることの重要性に対する認識が欠けていたことにもよるが、警察庁において全国の情報通信部等が保有している基板の活用を図るための取扱いを定めて、これを周知していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、警察庁は、更新工事等の際に情報通信部において基板を保有していない場合は、他の情報通信部等が保有する活用可能な基板の管理換により対応することとし、27年9月に全国の管区警察局及び情報通信部に対して通達を発して、管区警察局等は管区内の基板の保有状況を把握して、管区内で基板の管理換を行うとともに、管区内で基板が不足する場合には、他の管区警察局等と調整して基板の管理換を行うことなどにより、適切な調達数を決定することとする処置を講じた。