【是正改善の処置を求め及び意見を表示したものの全文】
震災復興特別交付税の交付額の精算等について
(平成27年10月29日付け 総務大臣宛て)
標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求め、及び同法第36条の規定により意見を表示する。
記
貴省は、地方交付税法(昭和25年法律第211号)及び「東日本大震災に対処する等のための平成二十三年度分の地方交付税の総額の特例等に関する法律」(平成23年法律第41号)に基づき、東日本大震災(平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う原子力発電所の事故による災害をいう。以下同じ。)に係る災害復旧事業、復興事業その他の事業の実施のために特別の財政需要があることなどを考慮して道府県及び市町村に対して特別交付税(以下、この特別交付税を「震災復興特別交付税」という。)を23年度から交付している。震災復興特別交付税は、時限的な税制措置を講ずることなどにより特別に財源を確保した上で、東日本大震災の災害復旧事業等に係る道府県及び市町村の負担額等について対処するために創設された財政措置であり、震災復興特別交付税を措置するために必要な経費については、23年度は一般会計から、24年度以降は東日本大震災復興特別会計から、それぞれ交付税及び譲与税配付金特別会計へ繰り入れられている。そして、貴省は、23年度8134億4852万余円、24年度7645億3608万余円、25年度5070億7387万余円、26年度5144億4587万余円、計2兆5995億0435万余円の震災復興特別交付税を道府県及び市町村に交付している。
貴省は、道府県及び市町村に交付すべき震災復興特別交付税の額を算定するために、「地方団体に対して交付すべき平成二十三年度分の震災復興特別交付税の額の算定方法、決定時期及び決定額並びに交付時期及び交付額の特例等に関する省令」(平成23年総務省令第155号)等を23年度以降制定して、各年度における特別の財政需要として算定の対象となる事項(以下「算定事項」という。)を定めている(以下、23年度から27年度まで各年度に制定している各省令を総称して「復興特交省令」という。)。
震災復興特別交付税の主な算定事項には次のようなものがある。
ア 国の補助金等(復興特交省令の別表に定められた補助金等)を受けて施行する事業に要する経費のうち道府県及び市町村が負担する額として総務大臣が調査した額(以下「補助事業等に係る地方負担額」という。)
イ 国の補助金等を受けて施行する公営企業等に係る施設の災害復旧事業に要する経費のうち道府県及び市町村の一般会計における負担額として総務大臣が調査した額又は復興特交省令の算式によって算定した額のいずれか少ない額(以下「公営企業への一般会計繰出額」という。)
ウ 国の補助金等を受けないで施行する災害復旧事業等に要する経費について、地方財政法(昭和23年法律第109号)第5条第4号の規定により地方債をもってその財源とすることができる額として総務大臣が調査した額(以下「一般単独災害復旧経費」という。)
貴省は、算定事項に関して貴省に提出させる財政需要に関する基礎資料(以下「算定資料」という。)の様式や補助事業等に係る地方負担額について貴省が国庫補助事業等の実施状況等に対応した必要な事項を各府省に確認した資料(以下「確認表」という。)等を都道府県及び市町村に送付している。
そして、貴省は、地方交付税法等に基づき関係する地方公共団体から提出などされた算定資料等に基づき、前記の主な算定事項等に関して、復興特交省令により、新たに生じる災害復旧事業等に必要な経費等の合計額(以下「交付基礎額」という。)を算定するなどして震災復興特別交付税の額を決定して交付しており、その決定等の時期は、23年度については24年3月、24年度以降については各年度の9月及び3月となっている。
算定資料の作成に当たっては、道府県及び市町村においては、震災復興特別交付税の担当部局が災害復旧事業等の担当部局から算定対象となる災害復旧事業等に係る経費等の情報の提供を受けたり、貴省から配布される確認表を活用したりするなどして貴省が定める様式等に従い算定資料を作成している。また、都道府県においては、市町村から提出を受けた算定資料等の審査に当たり、審査を担当する部局が必要に応じて市町村の震災復興特別交付税の担当部局に算定対象となる経費の根拠資料を提出させるなどして確認している。
震災復興特別交付税の額の算定に際しては、復興特交省令等によれば、事業の実施状況に合わせて必要な経費の実績額又はその見込額を用いることなどにより算定することとされており、見込額を用いた場合には、実績額が確定した後に、実績額に基づき算定した額との差額について、実績額が確定した年度の3月分の震災復興特別交付税の算定において精算することとされている。
復興特交省令によれば、過年度に算定した震災復興特別交付税の額について、必要な経費の見込額等により算定した額が実際に要した経費を上回り、又は下回ることなどにより震災復興特別交付税の額が過大又は過少に算定されたと認められるときは、当該過大算定額又は過少算定額に相当する額(以下「過大過少算定額」という。)を当該年度の3月分の交付基礎額から減額し、又は当該額に加算することなどとされている。そして、交付基礎額から減額するなどした後の3月分の震災復興特別交付税の額が負数となるときは、当該額を零とすることとされ、このとき当該年度の3月分の震災復興特別交付税の額から減額することができない額(以下「要調整額」という。)については、翌年度の9月分及び3月分の交付基礎額から減額して調整することとされており、この調整は25年9月分の算定から行われている。
上記のことから、減額の調整により要調整額が解消されるためには、翌年度以降の震災復興特別交付税の算定において、要調整額を上回る交付基礎額が算定されることなどが必要となる。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、震災復興特別交付税の算定事項のうち補助事業等に係る地方負担額等について、震災復興特別交付税が適切に精算されているか、減額の調整により要調整額が解消されているかなどに着眼して、5県(注)及び管内の28市町に交付された震災復興特別交付税23年度3876億4940万余円、24年度3060億7422万余円、25年度1816億6789万余円、26年度1640億7280万余円、計1兆0394億6432万余円及び26年度末時点で生じている2県281市町村の要調整額64億5967万余円を対象として、上記の5県及び管内の28市町において震災復興特別交付税の算定資料等により会計実地検査を行うとともに、貴省において震災復興特別交付税の精算手続や要調整額の発生状況等について確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
3県10市4町 過大に交付されていた震災復興特別交付税の額 28億5359万余円
3県9市4町は、見込額を用いて算定を行った災害復旧事業等に要する経費等について、23年度から26年度までの間に、補助事業等に係る地方負担額計36億0031万余円、公営企業への一般会計繰出額計4億4130万余円、一般単独災害復旧経費計16億2134万余円、合計56億6296万余円を算定対象として貴省に報告するなどしており、同額の震災復興特別交付税の交付を受けていた。
しかし、3県9市4町においては、見込額を用いて算定された上記の経費等について、事業が完了するなどして補助事業等に係る地方負担額計16億7058万余円、公営企業への一般会計繰出額計3億4172万余円、一般単独災害復旧経費計9億3853万余円、合計29億5084万余円の実績額が確定したにもかかわらず、震災復興特別交付税の算定資料の作成に当たり、事業に要した経費を見込額から実績額とすべきところ見込額のままとしていたり、同一事業の経費について誤って見込額と実績額を二重に計上していたりするなどしていて、表1のとおり、震災復興特別交付税計27億1211万余円が過大に交付されていた。
また、2県2市は、災害復旧事業等に要する経費について、23、24両年度及び26年度に、補助事業等に係る地方負担額計1億4148万余円を算定対象として貴省に報告するなどして、同額の震災復興特別交付税の交付を受けていたが、算定資料の作成に当たり、確認表に記載されていた震災復興特別交付税の算定対象とならない国庫補助事業に係る経費を誤ってそのまま計上するなどしていたため、表1のとおり、震災復興特別交付税計1億4148万余円が過大に交付されていた。
表1 3県10市4町において過大に交付されていた震災復興特別交付税
県名 | 県等名 | 適切に精算が行われていなかった事態 | 補助事業等に係る地方負担額に算定対象とならない経費を含めたりするなどしていた事態 | 計 | 県名 | 県等名 | 適切に精算が行われていなかった事態 | 補助事業等に係る地方負担額に算定対象とならない経費を含めたりするなどしていた事態 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
青森県 | 八戸市 | 1,374 | ― | 1,374 | 茨城県 | 稲敷市 | 16,204 | ― | 16,204 |
宮城県 | 宮城県 | 1,884,245 | 1,094 | 1,885,339 | 神栖市 | 4,449 | 5,000 | 9,449 | |
多賀城市 | 15,500 | ― | 15,500 | 鉾田市 | 4,878 | ― | 4,878 | ||
栗原市 | ― | 1,916 | 1,916 | 栃木県 | 真岡市 | 9,629 | ― | 9,629 | |
大崎市 | 42,626 | ― | 42,626 | 那須郡那須町 | 11,373 | ― | 11,373 | ||
柴田郡柴田町 | 32,896 | ― | 32,896 | 千葉県 | 千葉県 | 520,966 | ― | 520,966 | |
伊具郡丸森町 | 13,012 | ― | 13,012 | 千葉市 | 32,235 | ― | 32,235 | ||
加美郡加美町 | 4,934 | ― | 4,934 | 習志野市 | 55,970 | ― | 55,970 | ||
茨城県 | 茨城県 | 61,826 | 133,472 | 195,298 | 合計 | 2,712,117 | 141,482 | 2,853,599 |
なお、本院の指摘に基づき、これらの過大に交付されていた震災復興特別交付税について、貴省は、27年9月分の震災復興特別交付税の額の算定に当たり、「地方団体に対して交付すべき平成二十七年度分の震災復興特別交付税の額の算定方法、決定時期及び決定額並びに交付時期及び交付額等の特例に関する省令」(平成27年総務省令第45号)を改正して減額するなどしていた。
<事例1>
大崎市は、平成23年度に、国宝重要文化財等保存整備費補助金、公共土木施設災害復旧事業費国庫負担金(河川等災害復旧事業費補助)の交付決定をそれぞれ受けており、これらの補助事業等に係る地方負担額については、貴省から配布された確認表に記載された見込額に基づき390,367,000円と算定して貴省に報告して、24年3月に同額の震災復興特別交付税の交付を受けていた。
しかし、同市は、26年3月までに上記の国庫補助金等の額が確定したことに伴い、補助事業等に係る地方負担額も347,741,000円と確定したにもかかわらず、算定資料の作成に当たり、震災復興特別交付税の担当部局と災害復旧事業の担当部局との間で補助事業等に係る地方負担額についての連絡が十分に行われていなかったことなどのため、その後の震災復興特別交付税の交付時点である27年3月において精算しておらず、確認表に記載された見込額のままとしていた。
したがって、見込額に基づき算定された補助事業等に係る地方負担額390,367,000円と確定した補助事業等に係る地方負担額347,741,000円との差額42,626,000円が過大となっており、震災復興特別交付税42,626,000円が過大に交付されていた。
25市町村 短期間で解消することが困難な要調整額 13億9618万円
要調整額は、震災復興特別交付税の額の算定時に、交付基礎額から過大過少算定額を減額するなどした額が負数となる場合に生ずるものである。そして、要調整額は翌年度の震災復興特別交付税の額の算定時において減額調整されることになるが、東日本大震災に係る災害復旧事業等の進捗状況等により新たに災害復旧事業等の経費が生じないなどのため、翌年度以降の交付基礎額が要調整額に比べて少額であった場合などには、翌年度以降の震災復興特別交付税の額の算定時においても要調整額全額を減額調整することはできないため、要調整額が解消しないまま推移することになる。 24年度以降の地方公共団体における要調整額の推移についてみると、表2のとおり、24年度末時点から増加している状況となっていて、26年度末時点では、64億5967万余円となっている。
表2 要調整額の推移
時点 \ 項目 |
平成24年度末 | 25年度末 | 26年度末 |
---|---|---|---|
各年度末時点での要調整額の合計額 | 2,313,740 | 5,350,915 | 6,459,674 |
上記の要調整額が生じている県及び市町村数 | 198市町村 | 2県241市町村 | 2県281市町村 |
26年度末時点で要調整額が生じていた2県281市町村におけるこれまでの交付基礎額の状況についてみると、26年度末時点で要調整額が1000万円以上ある2県53市町村のうち、25市町村において25年度以降2年間の交付基礎額が100万円以下となっていて、その要調整額は、表3のとおり、計13億9618万円に上っていた。
表3 25市町村における短期で解消することが困難な要調整額等
道県名 | 市町村名 | 平成26年度末要調整額 | 25年度以降2年間の交付基礎額計 | 道県名 | 市町村名 | 26年度末要調整額 | 25年度以降2年間の交付基礎額計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 斜里郡斜里町 | 13,792 | 64 | 新潟県 | 新潟市 | 81,301 | 639 |
広尾郡大樹町 | 16,335 | 73 | 長岡市 | 98,326 | 624 | ||
野付郡別海町 | 14,785 | 794 | 三条市 | 402,735 | 164 | ||
秋田県 | 湯沢市 | 16,054 | 95 | 村上市 | 231,135 | 131 | |
鹿角市 | 43,782 | 279 | 富山県 | 南砺市 | 23,469 | 9 | |
潟上市 | 55,077 | 49 | 石川県 | 小松市 | 27,514 | 5 | |
山本郡三種町 | 10,530 | 43 | 長野県 | 岡谷市 | 11,049 | 2 | |
南秋田郡井川町 | 15,134 | 11 | 下伊那郡阿智村 | 32,050 | ― | ||
南秋田郡大潟村 | 13,281 | 28 | 木曽郡南木曽町 | 11,736 | ― | ||
雄勝郡東成瀬村 | 17,029 | 13 | 下高井郡野沢温泉村 | 15,353 | 792 | ||
群馬県 | 高崎市 | 44,284 | 283 | 静岡県 | 静岡市 | 26,964 | 198 |
伊勢崎市 | 120,383 | 420 | 奈良県 | 吉野郡十津川村 | 20,220 | ― | |
埼玉県 | 幸手市 | 33,862 | 38 | 合計 | 1,396,180 | / |
上記25市町村の要調整額を解消することが困難な状況となっているのは、災害復旧事業、復興事業等の進捗に伴う新規事業の減少等により、交付基礎額が要調整額に比べて少額となるなどのためであると考えられ、要調整額を翌年度以降の震災復興特別交付税の額から減額する現行制度に基づく調整では、今後とも短期間で要調整額を解消することが困難な状況が継続すると思料され、ひいては、震災復興特別交付税が過大に交付された状況が継続することとなると認められる。
<事例2>
幸手市は、災害復旧事業等に要する経費について、平成24年3月及び同年9月に、補助事業等に係る地方負担額、一般単独災害復旧経費等について、合計143,984,000円の震災復興特別交付税の交付を受けていた。そして、上記の交付額のうち、見込額等により算定した額について実績額が確定するなどしたため、33,909,000円が過大算定額となり、25年3月の交付基礎額が6,000円と少額であったことから24年度末時点の要調整額は33,903,000円となっていた。その後、同市において、25年度以降2年間に算定された交付基礎額が2,000円から15,000円までといずれも少額であったことなどから要調整額の大部分は減額することができず、26年度末時点の要調整額は33,862,000円となっていて、解消額は計41,000円にとどまっており、今後とも短期間で要調整額を解消することが困難な状況が継続すると思料される。
したがって、交付基礎額が要調整額に比べて少額となるなどのため、現行制度に基づく調整では短期間で解消することが困難な要調整額について、その解消を図る方策を検討する要があると認められる。
(是正改善及び改善を必要とする事態)
震災復興特別交付税の額の算定において、見込額を用いた算定額により交付された震災復興特別交付税について適切に精算が行われていなかったり、補助事業等に係る地方負担額に算定対象とならない経費を含めていたりするなどしていて、震災復興特別交付税が過大に交付されている事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。また、交付基礎額が要調整額に比べて少額であるなどのため短期間で要調整額を解消することが困難となっている事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省の確認や県の審査が十分でなかったり、県及び市町の精算の必要性についての理解が十分でなかったりしていることなどにもよるが、貴省において、次のようなことなどによると認められる。
ア 国庫補助金等を所管する各府省が確認を適切に行えるよう各府省に対して、確認表に記載する補助金の確定額、補助事業等に係る地方負担額等の記載方法について周知徹底していないこと
イ 算定資料に確定した実績額や算定対象となる経費が適切に計上されていることを都道府県及び市町村が確認するために必要な算定資料の様式等の検討が十分でないこと、都道府県及び市町村に対して、事業完了時に実績額を把握し、見込額との差額を精算することの必要性や適切な精算及び算定を行うための留意点について十分に周知していないこと
ウ 交付基礎額が要調整額に比べて少額であるなどのため短期間で解消することが困難となっている要調整額について、当該要調整額を解消するための方策の検討が十分でないこと
東日本大震災の災害復旧事業等に係る道府県及び市町村の負担額等については、時限的な税制措置を講ずることなどにより特別に財源を確保した上で対処することとされたことを踏まえて、震災復興特別交付税を創設して財政措置することとされたものである。そして、「平成28年度以降の復旧・復興事業について」(平成27年6月復興推進会議決定)によれば、28年3月に終了する集中復興期間に続く復興・創生期間においても、震災復興特別交付税を交付するという基本的な考えが示されている。
ついては、貴省において、見込額を用いた算定額により交付された震災復興特別交付税の精算等が適切に行われるとともに、現行制度に基づく調整では短期間で解消することが困難な要調整額についてその解消が図られるよう、次のとおり是正改善の処置を求め及び意見を表示する。
ア 各府省に対して、確認表に記載する補助金の確定額、補助事業等に係る地方負担額等の記載方法及び記載誤りの例について周知徹底すること(会計検査院法第34条による是正改善の処置を求めるもの)
イ 都道府県及び市町村が実績額への反映を行ったことや算定対象となる経費であることを確認するための点検項目欄を算定資料の様式に設けたり、都道府県及び市町村に対して、算定誤りの例を通知するなどして、事業完了時に実績額を把握し、見込額との差額を精算することの必要性や適切な精算及び算定を行うための留意点について周知徹底したりすること(同法第34条による是正改善の処置を求めるもの)
ウ 交付基礎額が要調整額に比べて少額であるなどのため解消することが困難となっている要調整額について、当該要調整額を解消するための方策を早期に検討すること(同法第36条による意見を表示するもの)