【意見を表示したものの全文】
消防救急デジタル無線施設の整備事業に係る補助対象事業費について
(平成27年10月20日付け 消防庁長官宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
消防救急無線は、市町村(特別区及び市町村の加入する一部事務組合等を含む。以下同じ。)の消防本部、消防署等に設置された無線基地局と消防車両や救急車両に装備された車載無線機等との間で、消防・救急活動の情報伝達、指揮、連絡等を行うための無線通信網であり、全国全ての消防本部等において運用されている。この消防救急無線は、消防本部の管轄区域内における日々の消火業務、救急業務等の通常の消防救急業務の通信のために日常的に使用されているほか、大規模災害等の際には、緊急消防援助隊において、各消防本部の管轄区域を越えた広域通信基盤として使用されている。
緊急消防援助隊は、平成7年に阪神・淡路大震災の教訓を踏まえて創設され、消防組織法(昭和22年法律第226号)において、貴庁長官の求めに応じるなどして、地震、台風、水火災等の災害が発生した市町村の消防の応援又は支援を行うことを任務として、都道府県又は市町村に属する消防に関する人員及び施設により構成される部隊とされている。貴庁長官は、都道府県知事又は市町村長の申請に基づき、必要と認める人員及び施設を緊急消防援助隊として登録するものとされている。そして、総務大臣が策定した計画(以下「基本計画」という。)に基づく緊急消防援助隊の施設の整備等に要する経費については、同法第49条第2項の規定に基づき、予算の範囲内で国が補助することとなっているが、市町村の通常の消防救急業務に要する費用については、同法第8条の規定に基づき、当該市町村が負担しなければならないこととなっている。
貴庁は、消防救急無線について、電波法(昭和25年法律第131号)第26条の規定に基づく周波数割当計画の変更等により、既存のアナログ方式の使用期限とされた28年5月31日までにデジタル方式に移行することとしている。そして、貴庁は、緊急消防援助隊の部隊間等の指揮・命令の伝達等を行う通信基盤として、基地局無線設備、電源設備、消防車両に装備する車載無線機、隊員が携行する携帯無線機等で構成される消防救急デジタル無線施設を整備する市町村に対して、消防防災通信基盤整備費補助金を、23年度74億0976万円、24年度6億5671万円、計80億6647万円交付している。また、24年度以降は、既存の緊急消防援助隊設備整備費補助金の交付対象事業に消防救急デジタル無線施設の整備事業を追加して、同補助金を、24年度から26年度までに計117億1489万余円交付している。
そして、26年3月に変更された基本計画によれば、30年度末を目途に緊急消防援助隊の増強を図り、消防ポンプ自動車等の車両等の整備を推進していくこととされていることから、車載無線機を始めとする消防救急デジタル無線施設についても引き続き整備されていくことが見込まれる。
貴庁は、消防防災通信基盤整備費補助金及び緊急消防援助隊設備整備費補助金(以下、これらを合わせて「補助金」という。)の補助対象となる消防救急デジタル無線施設については、補助金に係る各交付要綱(以下「交付要綱」という。)において、大規模災害の際に異なる市町村の消防職員間での通信に使用される電波の周波数(以下「共通波」という。)に係る部分(以下「共通波部分」という。)を整備することなどの要件を満たすものとしている。また、消防防災通信基盤整備費補助金Q&A集等(以下「質疑応答集」という。)において、各市町村消防の管轄区域内における通常の消防救急業務の通信のために日常的に使用される電波の周波数(以下「活動波」という。)に係る部分(以下「活動波部分」という。)と共通波部分で共用する電源設備、車載無線機等(以下「共用施設等」という。)について、補助対象とすることを妨げないとしているが、共用施設等に係る補助対象事業費の算定に関して、交付要綱、質疑応答集等に具体的な取扱いを定めていない。なお、貴庁は、質疑応答集を23年12月に改訂して、共用施設等に係る補助対象事業費の算定方法について、共通波部分と活動波部分で案分する場合も考えられるとし、共通波と活動波の波数の合計に占める共通波の波数等の割合により整備に要した経費を案分する方法を参考として例示しているものの、必ずしもこれによる必要はないとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、消防救急デジタル無線施設の整備事業に係る補助金について、補助対象事業費の算定が適切なものとなっているかなどに着眼して、23年度から25年度までに補助金の交付を受けていた2府9県(注1)管内の65市町村が実施した補助事業(補助金交付額23年度27億3702万余円、24年度12億2606万余円、25年度1億5447万余円、計41億1755万余円)を対象として検査した。
検査に当たっては、貴庁及び2府7県(注2)管内の19市町村において、補助金に係る実績報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、1府4県(注3)管内の46市町村については、関係書類を確認するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
消防救急デジタル無線施設の整備事業の実施に当たり、前記65市町村のうち2府8県(注4)管内の32市町村は、貴庁が質疑応答集で参考として例示した方法により共用施設等の整備に要した経費を共通波部分と活動波部分で案分するなどして共通波部分の経費を補助対象事業費としていた。
一方、大阪府及び千葉、滋賀両県の管内の33市町村(注5)は、共用施設等に係る補助対象事業費の算定に関する具体的な取扱いが示されていないことなどから、共用施設等の全部又は一部の整備について、整備に要した経費を案分することなくその全額である計35億4136万余円を補助対象事業費としており、これにより、消防防災通信基盤整備費補助金計11億0797万余円、緊急消防援助隊設備整備費補助金計1億0820万余円、合計12億1617万余円の交付を受けていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
千葉市は、平成24年度に、通信基盤の高度化等により、消防本部と緊急消防援助隊との円滑な通信を確保するために、緊急消防援助隊が活用する消防救急デジタル無線施設の一部である車載無線機等の機器を2億9378万余円で購入していた。そして、千葉市は、上記の車載無線機等に共通波10波と活動波9波を実装し、緊急消防援助隊が使用する場合以外は、通常の消防救急業務において日常的に使用する共用施設等として整備していたが、上記の購入費用全額を補助対象事業費として報告し、25年4月に貴庁から消防防災通信基盤整備費補助金9792万余円の交付を受けていた。
しかし、前記のとおり、消防組織法に基づき、市町村の通常の消防に要する費用は、当該市町村が負担することとなっているところ、共用施設等に係る補助対象事業費については、市町村が負担すべき通常の消防救急業務に使用する活動波部分の経費を除外する要があると認められる。
前記33市町村の共用施設等について、仮に、貴庁が例示している共通波と活動波の波数の合計に占める共通波の波数等の割合を用いた案分により補助対象事業費を算定すると、前記の計35億4136万余円は計25億8755万余円となる。そして、これに基づいて算定される補助金相当額は、消防防災通信基盤整備費補助金計7億9852万余円及び緊急消防援助隊設備整備費補助金計9598万円となり、前記の33市町村が交付を受けた消防防災通信基盤整備費補助金計11億0797万余円及び緊急消防援助隊設備整備費補助金計1億0820万余円との差額は、それぞれ3億0945万余円、1222万余円、計3億2167万余円となる。
(改善を必要とする事態)
共用施設等に係る補助対象事業費の算定において、市町村が負担すべき通常の消防救急業務に使用する活動波部分の経費を除外することなく整備に係る経費の全額を補助対象事業費としている事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴庁において、交付要綱、質疑応答集等に共用施設等に係る補助対象事業費の算定に関する具体的な取扱いを定めていないことなどによると認められる。
貴庁は、消防救急活動の高度化等の観点から、28年5月31日までに消防救急無線のデジタル化を行うこととしているほか、前記の基本計画によれば、今後とも緊急消防援助隊設備整備費補助金による消防救急デジタル無線施設の整備が行われていくことが見込まれる。
ついては、貴庁において、今後の緊急消防援助隊設備整備費補助金の算定が適切に行われるよう、共用施設等として整備される消防救急デジタル無線施設は、市町村の通常の消防救急業務において日常的に使用されるものであることを踏まえて、消防救急デジタル無線施設のうち共用施設等に係る補助対象事業費の算定に関する具体的な取扱いを定めるよう意見を表示する。