総務省は、無線局の運用を妨害したり、放送の受信に障害を与えたりする不法無線局等を探知することを目的として、電波監視システムを整備している。同システムは、電波を受信して発射源の方位等を測定する設備を備えたセンサ局と、これらのセンサ局で受信した電波の発射源の位置を特定する設備等を備えたセンタ局から構成されており、センサ局は主要都市及びその周辺の鉄塔やビルの屋上等に、センタ局は全国11か所の総合通信局等の庁舎内に設置されている。
そして、総務省は、人命又は財産の保護、治安の維持等に係る無線通信(以下「重要無線通信」という。)に対する妨害が発生した場合に備え、電波監視システムにより迅速に電波の発射源の特定に努めるなどの監視体制を常時維持している。
総務省は、首都直下地震対策大綱(平成17年9月中央防災会議決定)において発災後の3日間が応急対策の目安と位置付けられていること、大規模災害の発生直後から、被災地域を中心に人命に関わる緊急対応で重要無線通信が多用されることなどから、電波監視システムによる重要無線通信妨害の対処業務を発災後3日間は昼夜を問わず継続することにしている。
総務省は、各総合通信局等に設置されているセンタ局が非常時に機能停止しても、ルータ、ハブ等の通信回線用機器が使用可能であれば、他の総合通信局等から被災地域のセンサ局が受信した電波を監視することができるよう、センタ局を広域ネットワークで接続している。
そして、総務省は、非常時においてセンタ局の通信回線用機器への電力の供給を確保するために、平成20年度までに、無停電電源装置1台と長時間の電力の供給を可能にする拡張バッテリパック4台(以下、無停電電源装置及び拡張バッテリパックを合わせて「UPS」という。)を全国11か所の総合通信局等に設置して、48時間の電源確保を実施している。また、前記のとおり、首都直下地震対策大綱において発災後の3日間が応急対策の目安と位置付けられていること及び東日本大震災の発災後に重要無線通信が多用されたことを受けて、24年度から26年度までの間に、北海道、東北、信越、北陸、東海、九州及び沖縄の各総合通信局等(以下「整備済7総合通信局」という。)に、拡張バッテリパック6台を追加で設置して計10台とすることにより、72時間の電源確保(以下「72時間化」という。)を実施している。さらに、今後、関東、近畿、中国及び四国の各総合通信局(以下「未整備4総合通信局」という。)においても順次、72時間化を図ることにしている。
また、UPSに内蔵されているバッテリカートリッジは、設置後2年から3年ごとに交換する必要があるとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、UPSの設置及びバッテリカートリッジの交換は適切なものとなっているかなどに着眼して、22年度から26年度までの間に全国11か所の総合通信局等に設置されたUPS等(設置等に要した経費計9912万余円)を対象として検査した。検査に当たっては、全ての総合通信局等のUPSの設置等について一括して契約を締結するなどしている総務本省において、契約書等の関係書類を確認するとともに、6総合通信局(注)において、UPSの設置状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
2総合通信局 設置に要した経費計2431万余円
総務本省は、72時間化を実施していくことを方針として決定していて、各総合通信局等における非常時の電波監視システムへの電力の供給体制を十分に確認していなかった。また、整備済7総合通信局のうちの北陸、東海及び九州の3総合通信局においては、UPSにより72時間化が実施されていた。一方、これらの3総合通信局では、非常時における業務継続のための対策を総合的かつ計画的に推進するために策定された業務継続計画において、入居している合同庁舎に設置された自家発電設備から、非常時に電波監視システムへ電力の供給を受けることと定められていた。そして、北陸及び九州の2総合通信局においては、自家発電設備が設置された後に72時間化が実施されていた。
したがって、北陸及び九州の2総合通信局においては、72時間化(設置に要した経費計2431万余円)を実施する必要はなかった。
また、未整備4総合通信局のうちの関東、近畿及び中国の3総合通信局においては、入居している合同庁舎等に、既に自家発電設備が設置されていて、このうちの関東及び近畿の2総合通信局では、業務継続計画において、非常時に自家発電設備から電波監視システムへ電力の供給を受けることと定められていた。また、中国総合通信局においては、業務継続計画には明確な記載はないものの、電波監視システムは非常時に自家発電設備から72時間以上の電力の供給を受けることになっていた。したがって、これらの3総合通信局においては、今後、72時間化を図る必要はないと認められた。
なお、電波監視システムには、停電時等にサーバ等へ短時間、電力を供給するための無停電電源装置も、前記のUPSとは別に設置されている。
4総合通信局 交換に要した経費計425万余円
前記のとおり、関東、北陸、東海、近畿、中国及び九州の6総合通信局においては、合同庁舎等に設置された自家発電設備から、非常時に電波監視システムへ72時間以上の電力の供給を受けることになっていた。このため、これらの6総合通信局に設置されたUPSについては継続して設置する必要性がないものであった。
したがって、合同庁舎に自家発電設備が設置された後にUPSに内蔵されているバッテリカートリッジの交換が行われていた関東、北陸、近畿及び九州の4総合通信局においては、22、23、25各年度に行われた計5回のバッテリカートリッジの交換(交換に要した経費計425万余円)は必要がなかった。
上記のとおり、各総合通信局等における非常時の電波監視システムへの電力の供給体制を十分に確認することなく、72時間化を実施したり、バッテリカートリッジを交換したりしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、総務省において、72時間化やバッテリカートリッジの交換に当たり、その必要性を判断するための設置基準を明確に定めていなかったこと、各総合通信局等における非常時の電波監視システムへの電力の供給体制を十分に確認していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、総務省は、27年8月に、UPSの設置基準を明確に定めるとともに、各総合通信局等に対して事務連絡を発して、UPSの設置及びバッテリカートリッジの交換が適切に実施されるよう、次のような処置を講じた。
ア UPSの設置に当たっては、通信回線用機器への電力の供給体制を各総合通信局等から聴取し、合同庁舎等に設置されている自家発電設備から、非常時に電波監視システムへ72時間以上の電力の供給を受けられる場合は、追加の設置を行わないなど必要な範囲で実施することとした。
イ バッテリカートリッジの交換に当たっては、通信回線用機器への電力の供給体制を各総合通信局等から聴取し、UPSを継続して設置する必要性を確認した上で実施することとした。