法務省の施設等機関である刑務所、少年刑務所及び拘置所(以下、これらを合わせて「刑事施設」という。)は、被収容者が負傷し、又は疾病にかかったときなどには、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」(平成17年法律第50号)の規定に基づき、原則として刑事施設内に設けられた診療所等において当該施設の職員である医師等(医師又は歯科医師をいう。以下同じ。)により診療を行うこととなっている。また、傷病の種類又は程度等に応じて必要と認めるときは、刑事施設の職員でない医師等による診療を行うことができることとなっている。
徳島刑務所(以下「刑務所」という。)では、刑務所内の歯科診療室において、刑務所の職員である非常勤歯科医師1名及び診療契約により歯科診療を委託した外部の歯科医師1名(以下「外部歯科医師」という。)により被収容者に対する歯科診療を行っている。
刑務所は、平成21年度から26年度までの間、外部歯科医師と診療契約を締結し、刑務所内の歯科診療室における被収容者に対する歯科診療を委託している。
そして、診療契約書によれば、診療費の額は、健康保険法(大正11年法律第70号)の規定による療養の給付に要する費用の額の算定方法により算定した額とすることとされている。このため、刑務所が支払う診療費の額は、診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号。以下「厚生労働省告示」という。)等により算定した所定の診療点数に1点当たりの単価10円を乗じて算定されている。
本院は、合規性等の観点から、歯科診療に係る診療費の支払が、診療契約に従って、厚生労働省告示等に定められた算定要件に基づいて適正に算定された額により行われているかなどに着眼して、21年度から26年度までに刑務所から外部歯科医師に支払われた歯科診療費計34,672,980円を対象として検査した。
検査に当たっては、刑務所において、外部歯科医師から毎月の請求書に添付して提出された請求明細書(レセプト)の請求内容と、刑務所の医務部門に保管されている診療録(以下「カルテ」という。)に記載された診療内容とを突合するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
外部歯科医師は、厚生労働省告示等に定められた算定要件を満たしていないのに、診療行為に係る診療点数を算定し、これに1点当たりの単価10円を乗じた額を診療費として請求していた。
そして、刑務所は、診療費の支払に当たり、これらの請求を適当であると認め、計4,166,500円の診療費を支払っていた。
これらについて、その主な態様を診療費の項目の別に示すと次のとおりである。
歯科疾患管理料は、厚生労働省告示等によれば、継続的な歯科疾患の管理が必要な患者に対して、患者等の同意を得て管理計画書を作成し、その内容について説明等を行った場合に算定することとされている。
しかし、外部歯科医師は、管理計画書を作成していないなど、厚生労働省告示等に定められた算定要件を満たしていないのに歯科疾患管理料を算定し、刑務所はこれに対して、計3,110,000円の診療費を支払っていた。
義歯管理料のうち有床義歯管理料は、厚生労働省告示等によれば、新たに製作した有床義歯(注)を装着した場合等において、有床義歯の離脱、疼(とう)痛等の症状の有無に応じて検査を行い、併せて患者に対して義歯の状態を説明した上で、必要な義歯に係る管理を行った場合に算定することとされている。また、当該義歯に係る管理を行った場合は、検査の結果、調整方法、義歯に係る指導内容等の要点をカルテに記載することとされている。
しかし、外部歯科医師は、上記の要点をカルテに記載していないなど、厚生労働省告示等に定められた算定要件を満たしていないのに義歯管理料を算定し、刑務所はこれに対して、計809,600円の診療費を支払っていた。
したがって、外部歯科医師に支払った診療費計34,672,980円のうち、厚生労働省告示等に定められた算定要件を満たしていない診療費計4,166,500円が過大に支払われていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、外部歯科医師において本件歯科診療に係る診療費の適正な請求に対する認識が欠けていたことにもよるが、刑務所において診療費の請求に対する審査が十分でなかったことなどによると認められる。