【是正改善の処置を求めたものの全文】
刑事施設で生産している刑務官の制服に係る原材料の調達数量について
(平成27年10月20日付け 法務大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴省の施設等機関である刑務所及び少年刑務所(以下、これらを合わせて「刑事施設」という。)の一部は、「刑務作業の事務取扱いに関する訓令」(平成18年法務省矯成訓第3332号)、「刑務作業の事務取扱いに関する訓令の運用について」(平成18年法務省矯成第3333号。以下「通達」という。)等に基づいて、懲役受刑者等の刑務作業により、官服、被収容者用被服、畳表、サンダル、石けん等の刑事施設等の職員又は被収容者が使用する物品を生産している。
このうち官服については、通達により、麓(ふもと)刑務所等7刑事施設(注1)が生産施設に指定されており、これらの施設は、官服のうち刑務官の通常勤務服(以下「制服」という。)、警備服等を生産している。
また、制服については、男子及び女子刑務官のそれぞれについて上衣、ズボン(厚手)、ズボン(薄手)、ワイシャツ(長袖型)、ワイシャツ(半袖型)等の品目があり、「刑務官の服制及び服装に関する規則」(平成23年法務省矯成訓第1428号)により、各品目の生地の質、制服の様式等が定められている。
貴省本省は、毎年度、制服の品目ごとに刑務官の定員等を給与頻度(注2)で除するなどした数に基づいて当該制服の生産計画数量を算定している。そして、毎年度2月又は3月に、制服の生産事務の総括を行っている麓刑務所に、翌年度の制服の品目ごとの生産計画数量を通知し、制服の生産を指示している。
これを受けて、麓刑務所は、自庁を含めた生産施設ごとの生産品目、生産数量等を決定し、生産品目、生産数量、納期等を示した発注書により、自庁で生産すべき品目については自庁の生産部門に対して、麓刑務所以外の6刑事施設(以下「6刑事施設」という。)で生産すべき品目については6刑事施設に対して、それぞれ制服の生産を発注している。
各刑事施設では、発注書に基づき制服の生産を行い、発注元である麓刑務所に製作した制服を納品している。
貴省本省は、制服の生産に必要な表地、裏地、ボタン等の原材料について一括調達を行い、貴省本省から麓刑務所へ管理換を行っている。
原材料の一括調達に当たり、貴省本省は、翌年度の生産計画数量(着数)に制服1着当たりの生産に必要な表地、裏地等の原材料の使用数量を乗ずるなどして原材料品目ごとの調達数量を算定し、毎年度9月から11月に一般競争契約等により調達している。
調達した原材料については、翌年2月又は3月に麓刑務所へ管理換が行われ、麓刑務所は、これらの原材料を倉庫に保管し、翌年度の生産計画数量分を生産するために、自庁で使用するほか、6刑事施設に制服の生産を発注する都度、その発注分の生産に必要な分量を6刑事施設に送付している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性、効率性等の観点から、制服の生産に使用する原材料の調達数量が、生産施設における制服に係る原材料の在庫数量、生産状況等を考慮した適切なものとなっているかなどに着眼して、平成23、24、25、26各年度に貴省本省が一括調達した制服等に係る原材料(調達額計7億4857万余円)を対象として検査した。検査に当たっては、4刑事施設(注3)において、発注書、物品管理簿等の書類を確認したり、担当者から制服の生産状況等について聴取したりするとともに、貴省本省において、担当者から制服に係る原材料の調達数量の算定方法について聴取するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
麓刑務所において、制服の主要原材料である表地及び裏地についてみたところ、このうち上衣及びズボン(厚手)の表地(以下「服地」という。)について、26年度末現在で25,207.20mの在庫を保有していた。
麓刑務所の年度末現在の制服に係る原材料の在庫は、毎年度2月又は3月に、貴省本省から翌年度の制服の生産計画数量分の原材料の管理換が行われることから、①翌年度の生産計画数量分として、貴省本省から管理換を受けた原材料の在庫と、②当該年度までの生産計画数量の生産に使用すべき原材料の在庫とに大別される。
そこで、当該年度までの生産計画数量の生産に使用すべき服地についてみたところ、麓刑務所における23年度から26年度までの各年度末現在の在庫数量は、表のとおり、23年度92.31m、24年度1,134.50m、25年度4,353.40m、26年度11,440.70mと年々増加していた。そして、26年度末現在の服地の在庫数量11,440.70mは、男子上衣及びズボン(厚手)約3,213組分に相当するものとなっていた。
表 平成23年度から26年度までの各年度末現在の服地の在庫数量等
(単位:m)
年度 | 年度中の服地の受払数量 | 年度末(3月31日)現在の服地の在庫数量 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
年度首(4月1日)の服地の在庫数量 | 貴省本省から管理換を受けた数量 | 麓刑務所から生産施設に払出しを行った数量等 | 在庫数量 | 左のうち翌年度の生産計画数量分として、貴省本省から管理換を受けた在庫数量 | 当該年度までの生産計画数量の生産に使用すべき在庫数量 | |
(A) | (B) | (C) | (D=A+B-C) | (E) | (F=D-E) | |
平成23 | 31,185.10 | 25,055.00 | 31,092.79 | 25,147.31 | 25,055.00 | 92.31 |
24 | 25,147.31 | 25,170.00 | 24,012.81 | 26,304.50 | 25,170.00 | 1,134.50 |
25 | 26,304.50 | 24,777.00 | 21,951.10 | 29,130.40 | 24,777.00 | 4,353.40 |
26 | 29,130.40 | 13,766.50 | 17,689.70 | 25,207.20 | 13,766.50 | 11,440.70 |
一方、麓刑務所における制服の生産発注状況について、関係書類が保存されていた24、25、26各年度分についてみたところ、各年度で、制服の生産に従事する受刑者数の減少や受刑者の高齢化により生産能力が低下しているなどとして、貴省本省から生産計画数量を指示されながら、生産指示があった前年度2月又は3月から当該年度までに、各生産施設(自庁を含む。)に生産の発注をすることができなかったものが見受けられ、貴省本省から指示された生産計画数量に占める未発注数量の割合(未発注率)は、男子及び女子刑務官制服10品目の計で、24年度3.0%、25年度4.3%、26年度30.5%となっていた。
そこで、貴省本省の制服に係る原材料の調達数量の算定方法を確認したところ、貴省本省は、毎年度、麓刑務所に指示した過去の制服の生産計画数量に対する実際の生産状況を十分に確認しないまま生産計画数量を決定しており、これにより制服の生産を指示していた。そして、貴省本省は、原材料の調達数量の算定に当たっては原材料の在庫数量は考慮せず、生産計画数量に基づいて原材料を調達した上で、麓刑務所へ管理換を行っていた。
このため、麓刑務所では、制服に係る原材料のうち服地について、26年度末現在で11,440.70m(調達額3171万余円)を当面使用する見込みのない在庫として保有しているなどの状況となっていた。
(是正改善を必要とする事態)
貴省が生産施設における制服に係る原材料の在庫数量、生産状況等を考慮しないまま原材料を調達している事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省において、生産施設から制服に係る原材料の在庫数量、生産状況等の報告を受け、これらを制服の生産計画数量の算定及び制服に係る原材料の調達数量の算定に反映させることの必要性についての認識が欠けていることなどによると認められる。
近年、懲役受刑者等の刑務作業による制服の生産については、受刑者数の減少、受刑者の高齢化等により、貴省から指示された生産計画数量を指示どおりに生産することが困難な状況が続いていることなどにより、生産施設における制服に係る原材料の在庫数量は年々増加する傾向となっている。
ついては、貴省において、刑事施設で生産している刑務官の制服に係る原材料の調達数量が適切なものとなるよう、今後は、生産施設から制服に係る原材料の在庫数量、生産状況等を報告させ、生産状況を踏まえて制服の生産計画数量を算定するとともに、当該生産計画数量、生産施設における原材料の在庫数量等に基づき原材料の調達数量を算定するよう是正改善の処置を求める。