【意見を表示したものの全文】
政府開発援助の効果の発現について
(平成27年10月29日付け
外務大臣
独立行政法人国際協力機構理事長
宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
我が国は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することを目的として、政府開発援助を実施している。
そして、外務省は、援助政策の企画立案や政策全体の調整等を行っている一方、独立行政法人国際協力機構(以下「機構」という。)は、開発途上にある海外の地域(以下「開発途上地域」という。)に対する技術協力の実施、有償及び無償の資金供与による協力の実施等を行っている。このほか、各府省庁がそれぞれの所掌に係る国際協力として技術協力を実施するなどしている。
無償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、返済の義務を課さないで資金を贈与することにより行われるものである。無償資金協力は、平成20年9月までは外務省が実施し機構がその一部の実施の促進に必要な業務を行っていたが、同年10月以降は、外務省が実施する一部の無償資金協力を除き、機構が実施することとなっている。そして、外務省が実施する無償資金協力のうち、草の根・人間の安全保障無償資金協力(以下「草の根無償」という。)は、比較的小規模なプロジェクトに対して、在外公館が資金を贈与するものである。
技術協力は、開発途上地域からの技術研修員に対する技術の研修、開発途上地域に対する技術協力のための人員の派遣、機材の供与等を行うもので、機構(15年9月30日以前は国際協力事業団)や各府省庁が実施することとなっている。
有償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、資金供与の条件が開発途上地域にとって重い負担にならないように金利、償還期間等について緩やかな条件が付されている資金を供与することにより行われるもので、機構(11年9月30日以前は海外経済協力基金。同年10月1日から20年9月30日までは国際協力銀行)が実施することとなっている。
なお、政府は、27年2月に政府開発援助大綱(平成15年8月閣議決定)を改定して開発協力大綱を閣議決定し、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保により一層積極的に貢献することを目的として、開発協力の実施を推進していくとしている。
26年度におけるこれらの実績は、外務省及び機構が実施した無償資金協力1843億6381万余円、機構が実施した技術協力726億8093万余円及び有償資金協力8272億9534万余円となっている。
(検査及び現地調査の観点及び着眼点)
本院は、外務省又は機構が実施する無償資金協力、技術協力及び有償資金協力(以下、これらを合わせて「援助」という。)を対象として、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から次の点に着眼して検査及び現地調査を実施した。
① 外務省及び機構は、事前の調査、審査等において、援助の対象となる事業が、援助の相手となる国又は地域(以下「相手国」という。)の実情に適応したものであることを十分に検討しているか、また、交換公文、借款契約等に則して援助を実施しているか、さらに、援助を実施した後に、事業全体の状況を的確に把握、評価して、必要に応じて援助効果発現のために追加的な措置を執っているか。
② 援助の対象となった施設、機材等は当初計画したとおりに十分に利用されているか、また、事業は援助実施後においても相手国等によって順調に運営されているか、さらに、援助対象事業が相手国等が行う他の事業と密接に関連している場合に、その関連事業の実施に当たり、は行等が生じないよう調整されているか。
(検査及び現地調査の対象及び方法)
本院は、外務本省及び機構本部において協力準備調査報告書等により援助対象事業の説明を聴取するなどして会計実地検査を行うとともに、在外公館及び機構の在外事務所において事業の実施状況について説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。
さらに、本院は、援助の効果が十分に発現しているかなどを確認するために、27年次に11か国(注)において、無償資金協力90事業(贈与額計558億2431万余円)、技術協力31事業(経費累計額86億4404万余円)、有償資金協力27事業(貸付実行累計額4173億8756万余円)、計148事業について、外務省又は機構の職員の立会いの下に相手国等の協力が得られた範囲内で、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況を確認したりして現地調査を実施した。また、相手国等の保有している資料で調査上必要なものがある場合は、外務省又は機構を通じて入手した。
(検査及び現地調査の結果)
検査及び現地調査を実施したところ、無償資金協力3事業(贈与額計5億1925万余円)については援助の効果が十分に発現しておらず、また、無償資金協力1事業(贈与額635万余円)については援助の効果が全く発現していなかった。さらに、技術協力1事業については調達した機材の一部(調達価格計993万円)が援助の目的どおりに使用されていなかった。
この事業は、パプアニューギニア独立国(以下「PNG」という。)東セピック州ウェワク町において、PNG政府が同町ウェワク市場を利用する水産物小売人の小売活動の促進及び水産物の鮮度を維持し流通の改善を図ることなどを目的に、水産施設の再整備として、市場棟、管理事務所棟等の市場施設の建設、桟橋の架け替え、角氷製氷機、貯氷庫等の製氷施設の整備等を行うものである。
外務省は、20年10月にPNG政府との間で取り交わした交換公文に基づき、この事業に必要な資金として20年度2720万円、21年度4億7460万円、計5億0180万円をPNG政府に贈与している。
この事業の実施に先立って、機構は、20年5月に基本設計調査を実施していて、製氷施設の能力の設計に当たっては、同町内における鮮魚の流通量を算定した上で、水産物の鮮度を確保するなどのために必要な角氷の所要量の需要予測を行い、従来は必要に応じて民間の氷販売業者から氷を購入していた漁民を含む住民の全員が、製氷施設の整備後には当該製氷施設で生産された角氷を購入するようになると想定して、角氷製氷機については、1日当たり500㎏(12時間当たり250㎏を1日2回)と、貯氷庫については、最大で1,771㎏としている。その後、事業実施機関である国家漁業公社が、市場施設の建設、桟橋の架け替え、製氷施設の整備等を行い、22年3月にこの事業を完了している。
検査及び現地調査を実施したところ、製氷施設の使用実績は、角氷製氷機については、設計で1日当たり2回使用するとされているのに、1日当たり1回の使用となっていた。また、PNG政府は、角氷製氷機で生産した角氷を貯氷するために、製氷施設内に別途小型の冷凍庫を設置していて、この事業により整備された貯氷庫については、ほとんど使用されていなかった。
そして、機構が実施した前記の製氷施設の能力の設計における角氷の所要量の需要予測において、漁民を含む住民の全員が、この事業で整備される製氷施設で生産される角氷を購入するようになるとの想定について、機構は、当該想定を裏付ける調査を全く行っていなかった。
a 事業の概要
この事業は、カンボジア王国(以下「カンボジア」という。)コンポンチャム州の西部において、コンポンチャム州チューンプレイ病院(以下「チューンプレイ病院」という。)に搬送される緊急患者及び妊産婦が適切な緊急処置及び手術を受けることにより、その死亡率の低下を図ることなどを目的として、チューンプレイ病院に対して、緊急処置及び手術に必要な機材の整備等を行うものである。
在カンボジア日本国大使館(以下「カンボジア大使館」という。)は、この事業の事業実施機関であるコンポンチャム州チューンプレイ・バティエイ保健行政区との間で24年3月に贈与契約を締結して、同月にチューンプレイ病院に麻酔器等の手術機材及び手術用ハサミ、吸引管等の手術器具を整備等するための資金として92,290米ドル(邦貨換算額821万余円)を贈与している。
なお、カンボジア国内の病院は、カンボジア保健省が定めるガイドラインにより、職員数、病床数、医療機器及び医療内容を基準として区分けされており、病院ごとに医療レベルが設定され、そのレベルごとに提供可能な医療サービスの内容に制限が課されている。
b 検査及び現地調査の結果
検査及び現地調査を実施したところ、事業実施機関は、24年8月にチューンプレイ病院の手術室に手術機材及び手術器具の整備等を行い、同年12月に事業を完了していた。
しかし、チューンプレイ病院では、提供可能な医療サービス内容の制限により、麻酔器を使用する盲腸の切除や帝王切開等の手術等を行うことができないため、このような手術等を必要とする緊急患者及び妊産婦が搬送等されても、この事業により整備された手術機材等を使用した手術等は行われていなかった。また、整備された手術機材等について、ヘルニア及びけがの処置等の手術等に使用されていたものの、一部の手術機材等については、使用することのできる医療技術を習得した医師が同病院に配置されていなかったため、不整脈の治療等に使用される手術機材である除細動器については外部の医師が一度使用したのみであったり、手術器具によっては全く使用されていなかったりしていた。
a 事業の概要
この事業は、モザンビーク共和国(以下「モザンビーク」という。)マプト州ボアネ郡において、安全で快適な教育環境を周辺の児童に提供するために、マバンジャ小学校の教室の修繕、机・椅子の調達、教室、トイレ等の清掃管理方法等の研修を行う衛生・健康トレーニングプログラムの実施等を行うものである。在モザンビーク日本国大使館(以下「モザンビーク大使館」という。)は、この事業の事業実施機関であるモザンビーク青少年支援協会との間で25年3月に贈与契約を締結して、同月に教室の修繕等のための資金として114,147米ドル(邦貨換算額924万余円)を贈与している。
b 検査及び現地調査の結果
検査及び現地調査を実施したところ、事業実施機関は、マバンジャ小学校の教室、事務室等の修繕については完了させていたものの、机・椅子の調達については138組中117組の調達を行っておらず、衛生・健康トレーニングプログラム等については全く実施していなかった。そして、事業実施機関の代表者は所在不明であり、モザンビーク大使館は、事業実施機関との連絡が取れない状況となっていた。
また、モザンビーク大使館は、過去に実施した草の根無償による小学校建設等のこの事業と類似の事業においても、この事業と同様の事態が発生していたことから、事業実施機関の信頼性等に関する情報を確認するなどの再発防止策を検討して実施することとしていたが、モザンビーク政府に適切な情報提供を求めていなかったなど、当該再発防止策を適切に実施していなかった。
この事業は、カンボジアのプノンペン都において、安全で快適な保育環境を提供するなどのために、コミュニティーセンターを併設する託児所を建設するものである。
カンボジア大使館は、この事業の事業実施機関であるプノンペン都コークローカー町行政局との間で25年2月に贈与契約を締結して、同月に託児所を建設するための資金として78,430米ドル(邦貨換算額635万余円)を贈与している。
草の根無償の贈与契約においては、事業実施機関は、贈与資金を適正に、かつ、専ら贈与契約に定めている事業に必要な資機材・役務の購入にのみ使用することが定められている。また、外務省が定める「草の根・人間の安全保障無償資金協力ガイドライン(平成24年5月改訂)」によれば、在外公館は、事業の進捗の把握及び問題の早期発見・対応を目的として、事業の進捗状況及び調達した資機材の会計書類等を確認するモニタリングを実施することが定められている。
検査及び現地調査を実施したところ、贈与資金は25年2月に事業実施機関に支払われたものの、本院の現地調査実施時(27年5月)においても、事業は実施されていなかった。事業実施機関は、過去に草の根無償による事業を実施した実績はなく、本来、託児所の建設について建設業者と工事契約を締結した上で、贈与資金から建設費用を建設業者に支払うべきところ、25年3月に贈与資金の全額を工事契約とは関わりのないNGOに正当な理由なく支払っていた。カンボジア大使館は、この事業のモニタリングを試みたものの、事業実施機関から十分な協力が得られなかったこともあり、カンボジア大使館が事業実施機関による贈与資金の不適正な支払の事実を把握したのは、資金を贈与してから10か月以上を経過した26年1月であった。その後、同年7月に事業実施機関は、事業の中止を決定し、同月にカンボジア大使館に対し贈与資金を返還する旨の文書を提出したものの、贈与資金については、現地調査実施時(27年5月)においても事業実施機関から返還されていなかった。
この事業は、タンザニア連合共和国(以下「タンザニア」という。)ダルエスサラーム市内において、電力供給を行っているタンザニア電力供給公社(以下「公社」という。)が管理運営する送配電施設のうち基幹変電所であるイララ変電所において、過去に我が国の無償資金協力等を通じて設置された施設及び機材の機能回復を支援するなどのフォローアップ協力として、9、10両年度の我が国の無償資金協力「ダルエスサラーム電力供給拡充計画」により設置された既存の11kV遮断器3台(以下「既存遮断器」という。)等の更新等を行うものである。機構は、24、25両年度に6384万余円を支出して調達した機材を、25年7月に事業実施機関である公社に供与している。
検査及び現地調査を実施したところ、公社は、新遮断器3台(調達価格計993万円)の供与を受けた直後から、新遮断器を既存遮断器とは別の送電経路に設置して使用していた。そして、その後、新遮断器3台を設置した送電経路による送電が停止されたため、25年10月から27年8月までの間、供与された新遮断器3台は全く使用されていなかった。一方、公社は、既存遮断器については手動による制御により引き続き使用していた。このため、イララ変電所の機能の回復のために供与された機材は、その目的どおりに使用されていない状況となっていた。
また、機構は、既存遮断器の更新及び新遮断器の設置については公社が行うこととされていたことから、当該更新及び設置が確実に行われることの確認を行っていなかった。
(改善を必要とする事態)
援助の効果が十分に発現していない事態、援助の効果が全く発現していない事態及び調達した機材の一部が援助の目的どおりに使用されていない事態は適切ではなく、外務省及び機構において必要な措置を講じて効果の発現に努めるなどの改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア ウェワク市場及び桟橋建設計画については、機構において、製氷施設の能力の設計に当たって、角氷の所要量の需要予測を裏付ける調査を十分に行っておらず、当該需要予測の妥当性の検討が十分でなかったこと
イ コンポンチャム州チューンプレイ病院整備計画については、外務省において、チューンプレイ病院における医療レベルの状況や、同病院に配置されている医師の医療技術の習得状況について、事前の確認が十分でなかったこと
ウ マプト州ボアネ郡マバンジャ小学校改装計画については、外務省において、類似事業で生じていた事態の原因分析の結果、実施することとしていた再発防止策を実施することの重要性についての理解が十分でなかったこと
エ プノンペン都コークローカー町コミュニティーセンター併設託児所建設計画については、外務省において、過去に草の根無償による事業実績を有していない事業実施機関に対する贈与資金の使用及びモニタリングへの協力についての指導が十分でなかったこと
オ ダルエスサラーム電力供給拡充計画フォローアップ協力については、機構において、フォローアップ協力の実施に当たり、既存遮断器の更新が確実に行われることを確認することとはしていなかったこと
援助の効果が十分に発現するよう、次のとおり意見を表示する。
ア ウェワク市場及び桟橋建設計画の事態を踏まえて、機構において、今後、無償資金協力を実施するに当たって、水産施設として製氷施設を整備し、需要予測に基づき製氷施設の能力を設計する場合、協力準備調査等において、当該需要予測を裏付ける調査を十分に実施し、当該調査の結果に基づき需要予測の妥当性を検討して製氷施設の能力の設計に適切に反映させること
イ コンポンチャム州チューンプレイ病院整備計画については、外務省において、事業実施機関に対し、チューンプレイ病院に配置された医師が整備された手術機材等を使用するための医療技術を習得する機会を得られるよう働きかけを行うとともに、今後、草の根無償を実施するに当たって、相手国内の医療制度等により、病院ごとに提供可能な医療サービスの内容に制限が課されている中で、病院への医療機材等を整備する場合、当該病院が提供可能な医療サービスの状況や、配置されている医師の医療技術の習得状況について、十分に確認すること
ウ マプト州ボアネ郡マバンジャ小学校改装計画については、外務省において、未調達となっている机・椅子、未実施となっている衛生・健康トレーニングプログラム等が行われるよう引き続きモザンビーク政府に事業実施機関の代表者の所在を把握するなどのための協力を得るようにするとともに、今後、草の根無償を実施するに当たって、相手国において類似事業の援助の効果が十分に発現しない事態について再発防止策がある場合、在外公館に対して当該再発防止策を確実に実施するよう指導すること
エ プノンペン都コークローカー町コミュニティーセンター併設託児所建設計画については、外務省において、贈与資金の早期の返還について事業実施機関に対して引き続き働きかけるとともに、今後、草の根無償による事業を実施するに当たって、過去に草の根無償による事業実績を有していない事業実施機関と贈与契約を締結する場合、当該事業実施機関に対して贈与資金を適正に、かつ、贈与契約に定めている事業に必要な資機材・役務の購入にのみ使用すること及び在外公館が実施するモニタリングに協力することについての指導を十分に行うこと
オ ダルエスサラーム電力供給拡充計画フォローアップ協力の事態を踏まえて、機構において、今後、過去の無償資金協力等を通じて設置した施設及び機材の更新を内容とするフォローアップ協力を実施するに当たって、相手国等が既存の機材の撤去作業及び供与した機材の設置作業を行う場合、現地確認を行ったり事業実施機関に報告させたりするなどして機材の更新が確実に行われるか確認を行うこと