【意見を表示したものの全文】
債務救済無償資金協力で贈与した資金等の使用状況及び使途報告書の提出状況について
(平成27年10月29日付け 外務大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
我が国は、昭和53年の国際連合貿易開発会議(UNCTAD)の貿易開発理事会(TDB)決議を受けて、52年度以前に実施した円借款の返済が困難となっている国に対して債務救済措置を講ずる必要が生じたことから、原則、返済額と同額の無償資金(以下「資金」という。)を贈与すること(以下「債務救済無償資金協力」という。)による債務救済措置を採用している。そして、貴省は、53年度から平成14年度までの間に債務救済無償資金協力の対象となる国(以下「被援助国」という。)30か国に対して、計4676億余円の債務救済無償資金協力を実施している。
なお、被援助国が債務救済無償資金協力を受けるためには、円借款の返済をあらかじめ行わなければならないことが問題となっていたことなどを背景として、被援助国の負担軽減等のために、貴省は、15年度以降、円借款の債権放棄を実施することとする債務救済措置の見直しを行い、14年度末に債務救済無償資金協力を廃止した。
債務救済無償資金協力の実施に当たって、年度ごとに、被援助国ごとの円借款の返済額を確認した上で、当該被援助国との間で、資金の贈与に関する合意文書(以下「交換公文」という。)を締結したり、協議を行ったりなどして合意事項を決定している。交換公文等で合意された事項の一例を示すとおおむね次のようになっている。
① 我が国は、当該被援助国の経済の発展と国民の福祉向上に寄与するために資金の贈与を行うこと、また、贈与の対象について、被援助国は、資金をあらかじめ両国間での合意に基づき、調達の対象を列挙した一覧表に掲げられた生産物及び同生産物に付随する役務の購入に必要な支払、並びに両国が合意するその他の支払(以下、これらの支払の原因となる行為を合わせて「生産物の購入等」という。)のために使用すること
② 被援助国は、我が国の銀行(以下「邦銀」という。)に、資金の受入れ及び生産物の購入等に係る代金の支払に限定された被援助国名義の口座(以下「邦銀口座」という。)を開設すること(以下、生産物の購入等のために預金された資金及び預金に伴い発生した利子を合わせて「資金等」という。)
③ 被援助国は、贈与された資金等を合理的な期間として贈与後2年以内に使用するよう努力すること
④ 被援助国は、生産物の購入等のために資金等を全て使用した場合又は我が国から要請があった場合は、遅滞なく、当該取引についての報告書面(以下「使途報告書」という。)により行うこと
②の生産物の購入等に係る代金の支払については、交換公文ごとに被援助国と邦銀との間の取決めに基づき、邦銀が被援助国に対して信用状を発行し、被援助国は、当該信用状を用いて生産物の購入等に充て、その代金の支払は邦銀が行う方法(以下「邦銀口座払」という。)を実施している。
我が国は、(1)のとおり、昭和53年度に債務救済無償資金協力を実施するに当たって、邦銀口座払によることとしてきたが、貴省本省は、邦銀において邦銀口座払を継続することが困難である事情を受け入れて、平成26年9月に邦銀口座払を廃止している。その際、貴省本省は、被援助国との間で贈与後使用されていない資金等(以下「未使用資金」という。)の使途に関する協議を行った上で、貴省本省が承認した使途に必要な資金等を、邦銀口座から振込先となる被援助国内に所在する銀行内の被援助国名義の口座(以下「現地口座」という。)に送金した上で、当該使途の支払は被援助国が直接行う方法(以下「現地口座払」という。)に変更(以下「支払方法の変更」という。)する旨の訓令を未使用資金を保有する被援助国を管轄する在外公館(以下「在外公館」という。)に発している。
債務救済無償資金協力に関しては、本院は、12年3月に、参議院から国会法(昭和22年法律第79号)第105条の規定に基づく検査要請を受けて、同年11月に「「政府開発援助に関する決議」の実施状況に関する会計実地検査の結果について」(以下「12年報告」という。)を報告した。12年報告において、被援助国からの使途報告書が提出されておらず資金使途が明らかにされていないものが多かったことから、その検査結果に対する所見として、貴省において、資金使途の監視のための取組を今後より一層強化する必要がある旨を記述した。
また、本院は、15年に12年報告のフォローアップ検査を実施して、その状況を平成14年度決算検査報告の特定検査対象に関する検査状況(以下「14年度報告」という。)として掲記した。14年度報告において、本院は、使途報告書の提出状況は相当改善されたものとなっていた一方、資金等は、贈与後、合理的な期間として2年以内に使用するよう努力することとされているのに、被援助国19か国における未使用資金の残高計177億余円のうち贈与後2年を超えるものが計24億余円あり、この中には贈与後10年を超えるものも計1.3億余円あることなどを記述した。そして、貴省においては、今後とも、資金等の使用状況について一層留意するとともに、被援助国の経済の発展と国民の福祉向上に寄与することを企図して実施されているという債務救済無償資金協力による債務救済措置の趣旨が十分認識されるように被援助国に対して適時適切な助言を行う要がある旨を所見として記述した。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
債務救済無償資金協力については、これまでに未使用資金の残高の状況及び使途報告書の提出状況について検査を実施してきたが、直近の交換公文が締結された15年12月(注1)から11年余りが経過していることから、本院は、有効性等の観点から、長期にわたり生産物の購入等が実施されず資金等が使用されないままの状態になっているものはないか、また、支払方法の変更後においても、従前と同様、貴省本省において未使用資金の残高を十分に把握できる体制となっているか、長期にわたり使途報告書が提出されていないため資金等の使途を確認できないものはないかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、昭和53年度から平成14年度までの間に被援助国30か国(注2)に対して贈与された債務救済無償資金協力407案件(注3)、計4676億余円を対象に、貴省において、資金等の使用状況、使途報告書の提出状況等について、提出を受けた関係資料を分析したり、現地口座払の実施状況について説明を聴取したりするなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
邦銀口座における未使用資金の残高は、27年4月末時点で、10か国、19案件、計17億余円となっており、資金等の未使用期間は全て贈与後10年を超え、長期にわたり使用されていなかった。そして、14年度報告の15年4月末及び27年4月末の両時点における贈与後10年を超える未使用資金の残高をそれぞれ比較したところ、表1のとおり、計16億余円増えていた。
表1 未使用資金の残高の比較
平成14年度報告 (15年4月末)時点 (A) |
今回 (27年4月末)時点 (B) |
増 | 減 | 差引増△減 (B)-(A) |
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国数 | 残高 | 国数 | 残高 | 国数 | 残高 | 国数 | 残高 | 国数 | 残高 |
8か国 | 136 | 10か国 | 1,764 | 7か国 | 1,732 | △5か国 | △104 | 2か国 | 1,628 |
27年4月末時点における未使用資金の残高の内訳をみると、表2のとおり、贈与後20年を超えるものが3か国、8案件、計0.3億余円あり、生産物の購入等のための資金等が使用されないままの状態が長期化している状況となっていた。
表2 未使用資金の経過期間別分類(平成27年4月末時点)
未使用資金の残高計 | ||||||||
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贈与後10年超20年以内の案件 | 贈与後20年超の案件 | |||||||
国数 | 案件数 | 残高 | 国数 | 案件数 | 残高 | 国数 | 案件数 | 残高 |
10か国 | 19案件 | 1,764 | 9か国 | 11案件 | 1,733 | 3か国 | 8案件 | 31 |
前記のとおり、交換公文等での合意に基づき、被援助国は、贈与後、合理的な期間として2年以内に生産物の購入等のために資金等を使用するよう努力することとなっている。そこで、貴省における資金等の早期使用を促す取組の状況を検査したところ、貴省本省は、19年に、被援助国に対して、在外公館を通じて資金等の早期使用を申し入れるとともに、各被援助国における生産物の購入等の計画(以下「使用計画」という。)の作成の有無を確認し、作成されていない場合には、使用計画の作成及び提出を求める取組を行うことにより、実際に被援助国から具体的な資金等の使用見込みについて回答を得るなどしていた。
このような被援助国に対して使用計画の提出等を求めるなどの取組により、図のとおり、18年6月末から21年3月末までの未使用資金の残高は著しく減少していた。その一方で、貴省本省が22年12月に発した訓令によると、19年の調査時点で検討中とされていた使用計画のその後の作成状況が22年12月時点においても貴省本省に報告されていなかったり、19年の調査時点で作成されていた使用計画が27年6月時点においても実行されていないものがあったりなどして、23年4月末から27年4月末までの未使用資金の残高の減少はわずかなものとなっていて、生産物の購入等の実施を促すためのより実効性のある取組を行う必要があると認められる。
図 未使用資金の残高の推移
貴省本省は、26年9月の支払方法の変更以前には、邦銀口座が開設されていたことにより、毎月末、邦銀から任意に交換公文ごとに邦銀口座にある未使用資金の残高の報告を受けることで、各被援助国における生産物の購入等の実施状況を把握できていた。
しかし、支払方法の変更後、貴省本省は、27年4月までに2被援助国の計3589万余円相当の未使用資金を2被援助国に係る邦銀口座から現地口座へ送金することについて承認しているが、当該未使用資金が27年9月時点で使用されていないことを2被援助国の在外公館においては把握していたものの、貴省本省においては、送金した時点から27年9月時点までの間に未使用資金の残高を把握していなかった。
このことから、長期にわたり資金等が使用されないままの状態になっているにもかかわらず、貴省本省において、未使用資金の残高に応じた資金等の使用を促したり、その使用を把握した場合に使途報告書の提出を促したりするなどの的確な対応について、在外公館に対して指示することが十分に行い得ない状況となっていると認められる。
12年報告、14年度報告等を受けて、貴省は、被援助国へ交換公文に基づく使途報告書の提出の要請を行ったにもかかわらず、贈与した時点から27年6月の貴省本省会計実地検査時点までの間に、使途報告書が貴省に一度も提出されていない案件(以下「未提出案件」という。)が16か国、41案件、計186億余円あった。これら41案件は、全て贈与後10年を超え、長期にわたり未提出案件となっており、その中には、表3のとおり、贈与後20年を超える案件が10か国、24案件、計59億余円含まれていた。
そして、上記41案件の資金等の使用状況についてみると、11か国については22年4月末までに24案件に係る資金等計120億余円を全て使用していたにもかかわらず、また、残り17案件については貴省から一部使用された資金に係る使途報告書の提出の要請を過去に受けていたにもかかわらず、被援助国から使途報告書は提出されていなかった。
表3 未提出案件の経過期間別分類(平成27年6月末時点)
未提出案件の計 | ||||||||
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贈与後10年超20年以内の案件 | 贈与後20年超の案件 | |||||||
国数 | 案件数 | 金額 | 国数 | 案件数 | 金額 | 国数 | 案件数 | 金額 |
16か国 | 41案件 | 18,653 | 9か国 | 17案件 | 12,664 | 10か国 | 24案件 | 5,989 |
また、12年報告以降、貴省本省は、使途報告書の提出が遅滞している理由について在外公館に対して、報告するよう指示したところ、報告のあった13か国のうち、被援助国内で発生した政変等の影響を受けて公文書が散逸したなどとしていた8か国を除く5か国については、記録の不備や担当者の異動、書類の廃棄等を理由として提出されていなかった。これらいずれの理由も、他の被援助国においても発生し得るものとなっていて、各在外公館が個別に対応するだけではなく、各在外公館の状況を把握できる立場にある貴省本省が、把握した情報を基に、使途報告書の遅滞のない提出及び資金等の使途の確認につながる取組に関する訓令を発するなどの総合的な対策を講ずる必要があると認められる。
(改善を必要とする事態)
債務救済無償資金協力について、我が国が資金を贈与した後、長期にわたり生産物の購入等のための資金等が使用されないままの状態になっている事態、支払方法の変更後に現地口座へ送金された資金等について貴省本省が現地口座における未使用資金の残高を適時に把握しておらず、その残高に応じた適切な対応が困難となっている事態及び長期にわたり使途報告書の提出が遅滞しており、資金等の使途を確認できていない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、政府承認の問題が生じているなどの理由により被援助国への接触を我が国が控えている場合があることにもよるが、貴省本省において、次のことなどによると認められる。
ア 未使用資金を保有している被援助国に対して、資金等の早期使用に向けた実効性のある取組が十分に行える体制が整備されていないこと、また、支払方法の変更後、送金後の現地口座における未使用資金の残高等を把握する体制が十分に整備されていないこと
イ 生産物の購入等が実施済みであるのに、長期にわたり使途報告書の提出が遅滞している案件について、提出の見込みが低くなる前に、これまでに貴省本省が把握している使途報告書の提出が遅滞している理由が他の被援助国においても発生し得ることを踏まえた対策を講ずる必要があるのに、その取組が十分に行われていないこと、また、現時点で生産物の購入等が未実施である案件についても、その実施後、遅滞なく提出を受けるための取組や過去の教訓を踏まえた遅滞防止策の検討を行うなど、使途報告書の遅滞のない提出及び資金等の使途の確認につながる働きかけを十分に行える体制が整備されていないこと
債務救済無償資金協力は、我が国の債務救済措置の見直しにより14年度末で廃止されたが、交換公文等での合意に基づき、被援助国の経済の発展と国民の福祉向上に寄与することを企図して実施されたものであり、被援助国において早期に資金等を使用して援助の目的である生産物の購入等を実施することが望まれる。
ついては、貴省本省において、債務救済無償資金協力で贈与した資金等について、政府承認の問題が生じているなどの理由により被援助国への接触を我が国が控えている場合を除き、これまで得た知見を利活用するなどして、被援助国による資金等の早期使用及び使途報告書の遅滞のない提出が実施され、債務救済無償資金協力による債務救済措置の効果が十分に発現するよう、次のとおり意見を表示する。
ア 未使用資金を保有している被援助国に対して、使用計画に基づき生産物の購入等が実施済みとなっているなどの他の被援助国における生産物の購入等の実施事例を在外公館に周知したり、当該被援助国における他の政府開発援助のうち当該援助だけでは不足する資金の補完への活用を図ったりするなどにより、資金等の早期使用に向けたより実効性のある働きかけを行える体制を整備すること、また、支払方法の変更後、2被援助国の現地口座に送金された未使用資金について、被援助国の実情も踏まえつつ、必要に応じて随時その残高等に係る情報を把握する体制を整備した上で、その実施を2被援助国の在外公館に対して指示するとともに、今後、2被援助国以外の被援助国の現地口座払に備えるため、当該指示を該当する在外公館に対しても同様に周知すること
イ 生産物の購入等を実施した後、長期にわたり使途報告書の提出が遅滞している案件について、提出の見込みが低くなる前に提出されるよう、また、生産物の購入等が未実施の案件についても、その実施後、遅滞なく提出を受けることができるよう、あらかじめ使途報告書の作成に必要な書類の整備等を働きかけたり、使途報告書の報告項目や様式の記載例を示すことで取りまとめに時間を要する案件等にも対応できるようにしたりするなど、過去の教訓を踏まえた遅滞防止策を検討することにより、使途報告書の遅滞のない提出及び資金等の使途の確認につながる働きかけを行える体制を整備すること