外務省は、国際機関、国際的な活動を行っている民間団体等(以下「国際機関等」という。)に対して、その活動に必要な経費に充てるために、資金を支出するなどして拠出等を行っている。国際機関等に対して支出されている資金は、義務的拠出金(分担金を含む。)、任意拠出金等に分類される。このうち任意拠出金は、国際機関等が実施する事業等のうち、我が国が重視する特定の国や地域又は特定の分野の事業等、我が国が有益と認め、支援すべきと判断した事業等に対して自発的に支出するものである。
外務省が、国際機関等に対して拠出金を拠出する場合の主な手続について、任意拠出金を拠出する場合の一例を示すと次のとおりである。
外務省は、国際機関等との事前協議を通じて事業を形成して、その事業を実施するために必要と見込まれる経費を積算して拠出を必要とする額を算定した上で、拠出金額として国際機関等に伝達する。そして、国際機関等から当該拠出金額の拠出を要請する文書(以下「要請書」という。)と外務省が当該要請を応諾する文書等とを交換した後に、外務省は拠出金を拠出する。
外国送金を伴う国際機関等への拠出金を拠出する場合、各省各庁の官署支出官は、支出官事務規程(昭和22年大蔵省令第94号)に基づき、外貨を基礎とする外国送金である場合には、外国送金が必要な外貨額を同規程に規定する外国貨幣換算率(以下「支出官レート」という。)により換算した邦貨額を支出の決定の金額とした上で、必要な外貨額を明らかにして、日本銀行に外国送金の依頼をすることとなっている。なお、支出官レートは、毎年度の予算編成に際して、過去の一定期間の外国為替相場の平均を踏まえて財務省により設定されている。
また、日本銀行は依頼を受けた外貨額を外国送金するが、その際に必要な邦貨額は実際に外国送金を行う日に適用される外国為替レート(以下「実勢レート」という。)により算出される。これに対して、当該外貨額を外国送金するために支出の決定の金額として日本銀行が国庫から交付を受ける邦貨額は、前記のとおり支出官レートで決定されるため、両者に差額が生ずることになる。そこで、日本銀行は、貨幣交換差増減整理手続(昭和8年蔵理第788号)に基づき、支出官レートにより決定された支出の決定の金額が、実勢レートにより算出される外国送金に必要な邦貨額に対して不足を生ずる場合には、国庫から補填を受け、余剰が生ずる場合には、余剰額を歳入に組み入れることとなっている。
このような外国送金の手続を経ることから、外貨を基礎とする外国送金を行う場合の国庫の実質的な負担額は、外国送金が必要な外貨額を支出官レートにより邦貨に換算した額ではなく実勢レートにより邦貨に換算した額となる。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法
外務省が行う国際機関等に対する拠出には、拠出金により実施される事業に係る主な事業費が国内で支払われることなどから、拠出を必要とする額を邦貨で算定する場合があり、国際機関等が邦貨建て口座を保有していない場合には、外国送金する際に邦貨から外貨への換算が必要になる。
そこで、本院は、経済性、有効性等の観点から、外務省が拠出を必要とする額を邦貨で算定している場合に、国際機関等に対して外国送金された額は適切であるかなどに着眼して、平成18年度から24年度までの間に、拠出を必要とする額を邦貨で算定していた拠出金12件、外国送金に要した邦貨額計354億1811万余円を対象として、外務本省等において、国際機関等からの要請書等の書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
検査の対象とした拠出金12件については、いずれもアジア大洋州地域等の青少年を我が国に招へいするなどの事業であり、それらの実施に伴う主要な経費は国際機関等から委託を受けた日本国内に所在する実施機関等により日本国内で支払われることなどから、外務省は、上記の事業を実施するために必要と見込まれる経費を積算して拠出を必要とする額を邦貨で算定していた。
そして、検査の対象とした国際機関等に対する拠出金のうち、拠出金7件、外国送金に要した邦貨額計43億3695万余円については、拠出先の国際機関等が邦貨建て口座を保有していることなどから、拠出を必要とする額が過不足なく拠出されていた。
一方、拠出金5件、外国送金に要した邦貨額計310億8115万余円については、次の①から⑥までのような拠出の手続や外国送金の手続がとられていたが、このうち、外務省において②及び③の拠出の手続がとられていたことから、国際機関等に対する拠出金額が拠出を必要とする額に対して過不足を生じていた。
① 外務省は、事業を実施するために必要と見込まれる経費を積算して拠出を必要とする額を邦貨で算定する。
② 外務省は、拠出金額を国際機関等に外貨で伝達することとしたため、実務上、支出官レートを用いて、邦貨で算定した①の拠出を必要とする額を外貨額に換算する。
③ 外務省は、②の外貨額を拠出金額として国際機関等に書面で伝達して、国際機関等から②の外貨額を拠出要請の金額として記載した要請書の送付を受ける。
④ 外務省は、③で要請を受けた外貨額を支出官事務規程に基づき、支出官レートにより邦貨額に換算して、換算後の邦貨額を支出の決定の金額とした上で、日本銀行に③で要請を受けた外貨額の外国送金を依頼する。
⑤ 日本銀行は、④で依頼された外貨額を外国送金する。その際に必要な邦貨額については、実勢レートにより算出されることとなる。
⑥ 支出官レートにより換算した④の支出の決定の金額が実勢レートにより算出した⑤の外国送金に要した邦貨額に対して不足する場合には、貨幣交換差増減整理手続に基づき、財務省が日本銀行に対して不足する額について補填を行う。一方で、余剰が生じた場合には、日本銀行が余剰額を歳入に組み入れる。具体的には、前記拠出金5件のうち4件について財務省が日本銀行に対して計23億4982万余円の補填を行い、1件については日本銀行が933万余円を歳入に組み入れている。
拠出を必要とする額は、外務省が事業を実施するために必要と見込まれる経費を積算して邦貨で算定したものであり、拠出を必要とする額と同価値の外貨額を国際機関等に拠出することが重要である。しかし、前記のとおり、外務省は、邦貨で算定した拠出を必要とする額を実務上支出官レートを用いて外貨額に換算した上、当該外貨額を国際機関等に拠出する一方で、当該外貨額を国際機関等に外国送金する際は、国庫としてはこれを実勢レートにより換算した邦貨額を実質的に負担することになるため、換算に用いる支出官レートと実勢レートとの差異により拠出を必要とする額と外国送金に要した邦貨額との間にも差額が生ずることになる。
上記について図に示すと、次のとおりである。
図 拠出を必要とする額と外国送金に要した額との間に差額が生ずる過程の概念図
このため、表1及び表2のとおり、前記拠出金5件のうち4件については、国庫は拠出を必要とする額計285億8825万余円を計23億4982万余円超過する計309億3808万余円を負担し、1件については拠出を必要とする額1億5241万余円に対して933万余円不足する1億4307万余円を負担していた。
表1 拠出を必要とする額を超過して拠出していたもの(拠出金4件)
拠出年度 | 項目 \ 拠出先の国際機関等名 |
拠出を必要とする額 | 拠出金として外国送金された外貨額 | 外貨額Bを外国送金するための国庫の実質的な負担額 | 超過額 |
---|---|---|---|---|---|
A | B | C | C-A=D | ||
平成 18 |
東南アジア諸国連合 | 217億0850万円 | 1億9557万2072米ドル | 230億9706万余円 | 13億8856万余円 |
18 | 南アジア地域協力連合 | 7億8400万円 | 706万3063米ドル | 8億3414万余円 | 5014万余円 |
24 | 東南アジア諸国連合 | 58億7975万余円 | 7258万9592米ドル | 67億6389万余円 | 8億8414万余円 |
24 | カナダ・アジア太平洋財団 | 2億1600万円 | 263万4146カナダ・ドル | 2億4297万余円 | 2697万余円 |
計 | 285億8825万余円 | 2億7522万4727米ドル 263万4146カナダ・ドル |
309億3808万余円 | 23億4982万余円 |
表2 拠出を必要とする額に対して不足して拠出していたもの(拠出金1件)
拠出年度 | 項目 \ 拠出先の国際機関等名 |
拠出を必要とする額 | 拠出金として外国送金された外貨額 | 外貨額Bを外国送金するための国庫の実質的な負担額 | 不足額 |
---|---|---|---|---|---|
A | B | C | A-C=D | ||
平成 23 |
国際連合教育科学文化機関 | 1億5241万余円 | 171万2485米ドル | 1億4307万余円 | 933万余円 |
このように、国際機関等に対する拠出金の拠出に当たり、拠出を必要とする額を超過して拠出していたり、拠出を必要とする額に対して不足して拠出していたりしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、外務省において、拠出を必要とする額を邦貨で算定した上で国際機関等に拠出金を外国送金する場合に、邦貨額で算定した拠出を必要とする額を過不足なく外国送金するために国際機関等に邦貨で拠出金額を伝達し、要請を受けることなどの必要性についての理解が十分でなく、拠出を必要とする額を過不足なく拠出するために必要となる事務手続を定めていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、外務省は、27年9月に事務手続を定めて、拠出を必要とする額を邦貨で算定した上で国際機関等に対して拠出金を拠出する場合、当該国際機関等との間で拠出金額を邦貨で伝達し、要請を受けることなどにより、拠出を必要とする額を過不足なく拠出することとする処置を講じた。