国有財産は、国の行政目的に直接供される行政財産とそれ以外の普通財産に分類されている。このうち、普通財産は売払い、貸付けなどの対象となる財産であり、その管理及び処分は、国有財産法(昭和23年法律第73号)により原則として財務大臣が行うこととなっている。
そのため、財務省は、「財務局の普通財産の管理処分等業務における民間競争入札実施要項」及び「財務局の未利用国有地の管理等業務における民間競争入札実施要項」(以下、これらを合わせて「要項」という。)並びに「普通財産の管理処分等業務に係る業務委託取扱要領について」(平成11年蔵理第2616号)及び「未利用国有地の管理等業務に係る業務委託取扱要領について」(平成26年財理第1597号)(以下、これらを合わせて「要領」という。)に基づき、普通財産の売払い、貸付けなどに係る申請等書類の徴求及び審査、決議書の作成等の業務や、普通財産の売払いなどの処分に当たり必要となる測量等の物件調査、草刈りや柵設置等の管理等の業務を、それぞれ民間事業者に委託して実施している。また、財務省は、特別会計に所属する普通財産の処分等事務について、特別会計を所管する各省各庁からの委任を受けて、本件業務委託の中で実施している。
国の競争契約においては、会計法(昭和22年法律第35号)第29条の6第1項の規定に基づき、国にとって最も有利な価格をもって申込みをした者を契約の相手方とすることとなっている一方、契約の性質又は目的から、価格のみで契約の相手方を決定し難い場合には、同条第2項の規定に基づき、価格及びその他の条件が国にとって最も有利なものをもって申込みをした者を契約の相手方とすることができることとなっている。そして、同条第2項の趣旨は、価格以外の条件も含めて落札者を決定し、国にとって最も有利な内容で契約を締結しようとするものとされている。
要項及び要領によれば、本件業務委託に当たっては、民間事業者の創意と工夫を適切に反映させることにより、より良質かつ低廉な公共サービスを実現するために、会計法第29条の6第2項の規定に基づいて、総合評価落札方式による一般競争入札を実施することとされている。そして、財務(支)局等は、平成23年度から25年度までの間に実施する業務及び26年度から28年度までの間に実施する業務について、それぞれ対象地域ごとに総合評価落札方式による一般競争入札を実施して、23年度及び26年度に国庫債務負担行為に基づいて複数年度契約を締結している。
要項及び要領によると、総合評価落札方式による落札者の決定等は、次の手順によることとなっている。
① 入札参加者は、具体的な業務の実施方法、業務の実施方針に係る改善提案等を記載した提案書を財務(支)局等に提出する。
② 財務(支)局等は、提案書の内容が業務の目的・趣旨に沿って実行可能なものであるかについての項目(以下「必須評価項目」という。)7項目と、提案書の内容が効果的なものであるかについての項目(以下「加点評価項目」という。)13項目について、財務本省が定めた評価の基準により評価を行う。評価に当たり、必須評価項目については、各項目の要件を満たしている場合に項目ごとに5点を付与し、また、加点評価項目については、提案書に効果的な改善提案等がある場合に項目ごとに最高で5点までの点数を付与(以下「加点評価」という。)し、これらの点数の合計点(以下「提案書の得点」という。)を算出する。
③ 入札参加資格を全て満たし、必須評価項目の要件を全て満たした者は、入札価格を記載した入札書を提出する。
④ 財務(支)局等は、入札書に記載された入札価格が予定価格の範囲内であった者のうち、提案書の得点を入札価格で除するなどして総合評価点を算定して、総合評価点が最も高い者を落札者として決定する。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、本件業務委託に係る契約手続について、会計法の趣旨に沿って、落札者の提案の内容が契約に適切に反映されているかなどに着眼して、12財務(支)局等(注)が23年度及び26年度に締結した111契約(契約金額計146億7560万余円)を対象として、財務本省及び12財務(支)局等において、契約書、仕様書、提案書、評価結果書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、12財務(支)局等は、落札者の提案書に効果的な改善提案等があったことから、上記の111契約に係る全加点評価項目計1,443項目のうち111契約に係る計1,301項目について加点評価し、落札者の総合評価点が最も高かったため、当該者を落札者として決定していた。
しかし、提案の内容の契約への反映状況についてみると、表のとおり、1契約の2項目(これらに係る加点計7点)に係る提案の内容を契約に反映しているのみであり、111契約の計1,299項目(これらに係る加点計3,524.183点)に係る提案の内容については、契約に反映されておらず、契約上、提案がなかった場合と同様に、各財務(支)局等が入札に先立って示した仕様に基づいて業務を行うものにとどまっていた。また、この点について、要領においては、財務(支)局等が加点評価した提案の内容を必ずしも契約に反映しなくてもよいかのようになっていた。
区分 | 契約件数 | 加点評価項目 | 加点された点数 |
---|---|---|---|
契約に反映されているもの | 1 | 2 | 7 |
(0.9%) | (0.2%) | (0.2%) | |
契約に反映されていないもの | 111 | 1,299 | 3,524.183 |
(100.0%) | (99.8%) | (99.8%) | |
計 | 111 | 1,301 | 3,531.183 |
(100.0%) | (100.0%) | (100.0%) |
<事例>
福岡財務支局は、平成26年2月に、福岡県の一部を対象地域とする未利用国有地の管理等業務について、総合評価落札方式による一般競争入札を実施しており、2者が入札に参加していた。入札参加者のうち落札者の提案書には、飛散石事故を防止できる草刈機の使用、不法投棄禁止看板の掲示等の仕様書記載内容に係る改善提案等があり、同支局は必須評価項目について35点、加点評価項目について47.2点を付与して提案書の得点を82.2点とし、これを落札者の入札価格2317万円で除するなどして総合評価点を354.7690点としていた。しかし、同支局が加点評価した落札者の提案の内容は契約に反映されておらず、契約上、提案がなかった場合と同様に、同支局が入札に先立って示した仕様に基づいて業務を行うものにとどまっていた。
なお、前記のとおり、加点評価した落札者の提案の内容は、契約にほとんど反映されていなかったが、仮に、全ての入札参加者について加点評価しなかったとすると、入札価格の最も低い者が最も高い総合評価点を得ていたことになる。そして、前記の111契約に係る入札価格の状況についてみると、4契約において、落札者よりも入札価格が低額であった入札参加者が1者ずつおり、これらの入札参加者の入札価格は落札者の入札価格を計2331万余円下回っていた。
このように、総合評価落札方式による一般競争入札における落札者の決定に際して加点評価した提案の内容が、契約にほとんど反映されていなかった事態は、価格以外の条件も含めて落札者を決定し、国にとって最も有利な内容で契約を締結しようとする会計法第29条の6第2項の趣旨に照らして適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、財務省において、会計法の趣旨に沿って、落札者の決定に際して加点評価した提案の内容を確実に契約に反映する必要があることについて理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、財務省は、会計法の趣旨に沿って国にとって最も有利な内容で契約を締結することとなるよう、27年9月に要領を改正して、今後締結する契約については、落札者の決定に際して加点評価した提案の内容を確実に契約に反映させることとし、その内容等について財務(支)局等に周知する処置を講じた。