1兆1480億円
【改善の処置を要求し及び意見を表示したものの全文】
国庫補助事業により整備された学校施設の維持管理について
(平成27年10月26日付け 文部科学大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求し及び意見を表示する。
記
国庫補助事業により整備された市町村立の小学校及び中学校(以下「公立小中学校」という。)の校舎等(以下「学校施設」という。)は、建築後25年以上を経過して改修を要するものがその保有面積の約7割を占めるなど、老朽化が深刻な状況となっている。このような状況を踏まえて、貴省に設置されている有識者会議が平成25年3月に取りまとめた「学校施設の老朽化対策について」(以下「報告書」という。)によれば、学校施設は、経年劣化により、外壁、窓等の落下や、鉄筋の腐食等による構造体としての強度の低下等の安全面での不具合のみならず、雨漏りなどによる設備機器の破損等の機能面での不具合が生ずることにより児童生徒の学校生活に支障を来すおそれがあるとされている。また、公立小中学校の約9割が地域の応急避難場所となっており、地域の防災機能強化の点からも早急な老朽化対策等が必要であるとされている。このため、学校施設の管理者である市町村(一部事務組合及び広域連合を含む。)は、学校施設の劣化状況等を適切に把握するとともに計画的に整備する必要があり、その際には、より効率的に整備を進める観点から、個々の学校施設ごとに劣化等の情報を管理するだけではなく、域内の学校施設について、一元的に管理することが有効であるとされている。
そして、貴省は、同月に各都道府県教育委員会等に対して通知を発して、市町村において報告書を活用して、学校施設の老朽化対策等に取り組むことを要請している。
学校施設の管理者である市町村は、次のとおり、建築基準法(昭和25年法律第201号)及び消防法(昭和23年法律第186号)に基づく点検を行うこととなっている。
建築基準法第8条第1項の規定に基づき、学校施設の管理者である全ての市町村は、学校施設の敷地、構造等を常時適法な状態に維持するように努めなければならないこととなっている。また、学校施設の点検等については、同法第12条第1項又は第2項の規定に基づき、次のとおり行うこととなっている。
① 建築主事を置く市町村は、学校施設の管理者として、学校施設の敷地及び構造について、定期に、一級建築士の資格を有する者等(以下「有資格者」という。)にその損傷、腐食その他の劣化の状況の点検をさせなければならない。
② 建築主事を置かない市町村であっても、都道府県知事が指定する学校施設を管理する市町村は、その指定された学校施設の敷地、構造及び建築設備について、定期に、有資格者にその損傷、腐食、その他の劣化の状況等の調査をさせなければならない(以下、①の点検又は②の調査を「建築点検」といい、①及び②の市町村を合わせて「建築点検の義務がある市町村」という。)。
建築点検の義務がある市町村は、同法等に基づき、原則として3年以内ごとに、「建築物の定期調査報告における調査及び定期点検における点検の項目、方法並びに結果の判定基準並びに調査結果表を定める件」(平成20年国土交通省告示第282号。以下「国土交通省告示」という。)に定められた項目について、建築点検をさせなければならないこととなっている。そして、建築点検の結果、国土交通省告示に定められた各項目の判定基準に従って是正が必要と判定された事項がある場合は、これを是正するなどして、学校施設の敷地、構造等を常時適法な状態に維持するよう努めなければならないこととなっている。
そして、貴省は、22年4月に校舎において施設の劣化による事故が発生したことなどを踏まえて、同月に各都道府県教育委員会等に対して通知を発して、建築点検の義務がある市町村による建築点検の適切な実施及び学校施設を管理する全ての市町村による学校施設の適正な維持管理に努めるよう要請している。
消防法第17条第1項の規定に基づき、防火対象物である学校施設の管理者である市町村は、消火設備、避難設備等を、消防法施行令(昭和36年政令第37号)に定める技術上の基準に従って設置し、維持しなければならないこととなっている。また、同法第17条の3の3等の規定に基づき、学校施設の管理者である市町村は、学校施設における消火設備等について、「消防法施行規則の規定に基づき、消防用設備等又は特殊消防用設備等の種類及び点検内容に応じて行う点検の期間、点検の方法並びに点検の結果についての報告書の様式を定める件について」(平成16年消防庁告示第9号)等に定められた方法に従って、6か月又は1年ごとに、消火設備等を作動させるなどして確認する点検(以下「消防点検」という。)を実施しなければならないこととなっている。そして、消防点検の結果、同告示等に定められた各項目の基準に従って不良と判定された事項がある場合は、これを是正しなければならないこととなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、効率性、有効性等の観点から、国庫補助事業により整備された学校施設の維持管理が適切に行われ、もって児童生徒の安全確保等が図られているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、26年4月時点で、20府県(注1)の616市町村が管理している公立小中学校12,537校から抽出した8,408校(建築費(注2)計4兆0847億余円、国庫補助金相当額(注2)計2兆0423億余円)を対象として、建築点検及び消防点検は適切に実施されているか、建築点検により是正が必要と判定された事項又は消防点検により不良と判定された事項は是正されているか、建築点検の義務がある市町村以外の市町村(以下「建築点検の義務がない市町村」という。)において学校施設の維持管理の一環として点検が適切に実施されているかなどについて、建築点検及び消防点検の実施状況等に係る調書を徴してその内容を分析するとともに、現地の状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
検査の対象とした20府県の616市町村(8,408校)について、21年度から24年度までの間の建築点検及び消防点検の実施状況をみたところ、次のとおりとなっていた。
建築点検は、建築点検の義務がある市町村336市町村(建築点検の対象となる公立小中学校5,267校)のうち、建築点検の対象となる全ての公立小中学校について実施していたものが291市町村(4,511校)となっていた。一方、建築点検の義務があるのに、建築点検の対象となる一部の公立小中学校について実施していなかったものが9市町(建築点検の対象となる公立小中学校218校のうち156校)、全ての公立小中学校について実施していなかったものが36市町村(538校)、計45市町村(建築点検の義務がある市町村数全体に対する割合13.3%。694校(建築費計3471億余円、国庫補助金相当額計1735億余円))となっていた(表1参照)。
府県名 | 検査の対象としたもの | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
建築点検の義務があるもの | ||||||||||
一部の公立小中学校について建築点検を実施していなかったもの | 全ての公立小中学校について建築点検を実施していなかったもの | 建築点検を適切に実施していなかったもの | ||||||||
市町村数 | 公立小中学校数 | 市町村数 | 公立小中学校数 | 市町村数 | 公立小中学校数 | 市町村数 | 公立小中学校数 | 市町村数計 | 公立小中校学数計 | |
(A) | (a) | (B) | (b) | (C) | (c) | (E)=(B)+(C) | (e)=(b)+(c) | |||
秋田県 | 25 | 289 | 25 | 289 | 0 | 0 | 2 | 35 | 2 | 35 |
山形県 | 35 | 342 | 35 | 341 | 0 | 0 | 1 | 33 | 1 | 33 |
茨城県 | 44 | 613 | 44 | 613 | 2 | 11 | 4 | 62 | 6 | 73 |
群馬県 | 35 | 354 | 35 | 353 | 0 | 0 | 2 | 20 | 2 | 20 |
千葉県 | 55 | 844 | 54 | 837 | 1 | 9 | 3 | 29 | 4 | 38 |
神奈川県 | 33 | 515 | 12 | 360 | 0 | 0 | 3 | 66 | 3 | 66 |
富山県 | 15 | 208 | 2 | 64 | 0 | 0 | 1 | 19 | 1 | 19 |
福井県 | 17 | 225 | 17 | 225 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
愛知県 | 54 | 923 | 6 | 268 | 1 | 28 | 0 | 0 | 1 | 28 |
京都府 | 25 | 362 | 2 | 77 | 0 | 0 | 1 | 16 | 1 | 16 |
大阪府 | 43 | 733 | 43 | 733 | 0 | 0 | 7 | 104 | 7 | 104 |
岡山県 | 28 | 360 | 7 | 139 | 0 | 0 | 5 | 77 | 5 | 77 |
広島県 | 23 | 426 | 22 | 407 | 3 | 74 | 2 | 17 | 5 | 91 |
徳島県 | 24 | 238 | 1 | 23 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
香川県 | 18 | 209 | 18 | 198 | 0 | 0 | 3 | 30 | 3 | 30 |
高知県 | 35 | 270 | 1 | 30 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
佐賀県 | 20 | 221 | 1 | 26 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
大分県 | 18 | 293 | 6 | 132 | 1 | 8 | 0 | 0 | 1 | 8 |
宮崎県 | 26 | 272 | 4 | 93 | 1 | 26 | 2 | 30 | 3 | 56 |
鹿児島県 | 43 | 711 | 1 | 59 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
計 | 616 | 8,408 | 336 | 5,267 | 9 | 156 | 36 | 538 | 45 | 694 |
割合 | / | / | / | / | / | / | / | / | 13.3%(E/A) | 13.1%(e/a) |
また、消防点検は、616市町村の全ての公立小中学校について実施されていた。
建築点検により是正が必要と判定された事項のうち、過去に老朽化等に起因する事故が報告されるなどしている校舎外壁の劣化及び損傷、防火設備の不作動等の事項、又は消防点検により不良と判定された自動火災報知設備の不作動、避難器具の損傷等の事項(以下、これらを「要是正事項」という。)について、その件数及び是正状況をみたところ、次のとおりとなっていた。
建築点検の対象となる全ての公立小中学校について建築点検を実施していた291市町村4,511校、一部の公立小中学校について建築点検を実施していた9市町62校、計300市町村4,573校における要是正事項の件数は、230市町村2,438校の延べ27,118件となっていた。そして、要是正事項として、外壁、屋上、天井等の劣化及び損傷、防火設備の閉鎖又は作動の不備等が見受けられるのに、26年4月時点で是正されていない件数は192市町村2,052校(建築費計1兆1190億余円、国庫補助金相当額計5595億余円)の延べ21,871件(要是正事項件数全体に対する割合80.6%)となっており、このうち3年以上の間是正されていない件数は延べ10,106件(同37.2%)となっていた(表2参照)。
府県名 | 建築点検を実施していたもの | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
要是正事項があったもの | |||||||||
要是正事項が是正されていなかったもの | |||||||||
市町村数 | 公立小中学校数 | 市町村数 | 公立小中学校数 | 延べ件数 | 市町村数 | 公立小中学校数 | 延べ件数 | 3年以上の間要是正事項が是正されていなかった延べ件数 | |
(A) | (B) | (C) | |||||||
秋田県 | 23 | 254 | 17 | 160 | 1,772 | 13 | 136 | 1,473 | 708 |
山形県 | 34 | 308 | 28 | 146 | 512 | 26 | 109 | 410 | 5 |
茨城県 | 40 | 540 | 29 | 200 | 4,063 | 24 | 187 | 3,097 | 836 |
群馬県 | 33 | 333 | 29 | 253 | 1,823 | 17 | 158 | 1,432 | 719 |
千葉県 | 51 | 799 | 42 | 565 | 4,579 | 36 | 460 | 3,718 | 570 |
神奈川県 | 9 | 294 | 8 | 180 | 1,328 | 8 | 133 | 1,039 | 403 |
富山県 | 1 | 45 | 1 | 33 | 444 | 1 | 33 | 397 | 52 |
福井県 | 17 | 225 | 15 | 125 | 849 | 15 | 113 | 505 | 245 |
愛知県 | 6 | 240 | 6 | 207 | 2,583 | 5 | 197 | 2,408 | 1,410 |
京都府 | 1 | 61 | 1 | 34 | 544 | 1 | 33 | 536 | 444 |
大阪府 | 36 | 629 | 24 | 274 | 5,997 | 16 | 239 | 4,926 | 3,570 |
岡山県 | 2 | 62 | 2 | 14 | 27 | 2 | 14 | 21 | 9 |
広島県 | 20 | 316 | 8 | 74 | 957 | 8 | 72 | 738 | 458 |
徳島県 | 1 | 23 | 1 | 22 | 294 | 1 | 22 | 255 | 255 |
香川県 | 15 | 168 | 10 | 70 | 450 | 10 | 68 | 256 | 25 |
高知県 | 1 | 30 | 1 | 30 | 330 | 1 | 30 | 295 | 267 |
佐賀県 | 1 | 26 | 1 | 12 | 128 | 1 | 12 | 126 | 0 |
大分県 | 6 | 124 | 4 | 19 | 279 | 4 | 16 | 109 | 96 |
宮崎県 | 2 | 37 | 2 | 18 | 140 | 2 | 18 | 126 | 34 |
鹿児島県 | 1 | 59 | 1 | 2 | 19 | 1 | 2 | 4 | 0 |
計 | 300 | 4,573 | 230 | 2,438 | 27,118 | 192 | 2,052 | 21,871 | 10,106 |
割合 | / | / | / | / | / | / | / | 80.6%(B/A) | 37.2%(C/A) |
また、消防点検を実施していた616市町村8,408校における要是正事項の件数は、533市町村6,470校の延べ48,270件となっていた。そして、要是正事項として、屋内消火栓設備の劣化、自動火災報知設備の不作動等が見受けられるのに、26年4月時点で是正されていない件数は353市町村3,392校(建築費計1兆7844億余円、国庫補助金相当額計8922億余円)の延べ17,904件(同37.0%)となっており、このうち3年以上の間是正されていない件数は延べ6,670件(同13.8%)となっていた(表3参照)。
府県名 | 消防点検を実施していたもの | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
要是正事項があったもの | |||||||||
要是正事項が是正されていなかったもの | |||||||||
市町村数 | 公立小中学校数 | 市町村数 | 公立小中学校数 | 延べ件数 | 市町村数 | 公立小中学校数 | 延べ件数 | 3年以上の間要是正事項が是正されていなかった延べ件数 | |
(A) | (B) | (C) | |||||||
秋田県 | 25 | 289 | 22 | 229 | 1,187 | 14 | 103 | 481 | 273 |
山形県 | 35 | 342 | 30 | 256 | 1,576 | 18 | 104 | 467 | 234 |
茨城県 | 44 | 613 | 43 | 551 | 4,697 | 35 | 373 | 1,613 | 501 |
群馬県 | 35 | 354 | 27 | 310 | 2,214 | 13 | 105 | 799 | 339 |
千葉県 | 55 | 844 | 52 | 732 | 7,541 | 33 | 460 | 3,919 | 1,456 |
神奈川県 | 33 | 515 | 32 | 405 | 3,601 | 22 | 275 | 1,270 | 399 |
富山県 | 15 | 208 | 14 | 150 | 1,243 | 10 | 53 | 183 | 82 |
福井県 | 17 | 225 | 17 | 224 | 1,565 | 17 | 216 | 566 | 238 |
愛知県 | 54 | 923 | 51 | 728 | 5,404 | 43 | 343 | 1,120 | 396 |
京都府 | 25 | 362 | 22 | 301 | 1,948 | 17 | 184 | 701 | 238 |
大阪府 | 43 | 733 | 41 | 664 | 6,378 | 27 | 418 | 3,623 | 1,164 |
岡山県 | 28 | 360 | 21 | 223 | 1,140 | 12 | 78 | 219 | 64 |
広島県 | 23 | 426 | 20 | 287 | 1,374 | 14 | 129 | 273 | 110 |
徳島県 | 24 | 238 | 18 | 170 | 362 | 12 | 92 | 137 | 49 |
香川県 | 18 | 209 | 16 | 180 | 1,572 | 11 | 120 | 1,116 | 507 |
高知県 | 35 | 270 | 27 | 196 | 1,232 | 11 | 83 | 291 | 121 |
佐賀県 | 20 | 221 | 15 | 106 | 1,243 | 9 | 73 | 414 | 193 |
大分県 | 18 | 293 | 15 | 215 | 1,257 | 12 | 80 | 316 | 146 |
宮崎県 | 26 | 272 | 20 | 211 | 1,022 | 9 | 36 | 160 | 56 |
鹿児島県 | 43 | 711 | 30 | 332 | 1,714 | 14 | 67 | 236 | 104 |
計 | 616 | 8,408 | 533 | 6,470 | 48,270 | 353 | 3,392 | 17,904 | 6,670 |
割合 | / | / | / | / | / | / | / | 37.0% (B/A) |
13.8% (C/A) |
上記の事態について事例を示すと、次のとおりである。
<事例>
茨城県水戸市は、平成21年度から24年度までの各年度に、検査の対象とした管内の公立小中学校24校について消防点検を実施しており、その結果、要是正事項は延べ187件となっていた。そして、この中には、公立小中学校に設置されている自動火災報知設備が経年劣化や配線不良のため作動しなかったり、避難器具がフェンスなどの支障物があるため、避難時に使用できなかったりするなどしていたものが含まれていた。しかし、同市は、日常的に使用する施設設備の改修等を優先的に実施しているなどとしていて、上記の24校における要是正事項187件のうち20校の86件(要是正事項件数全体に対する割合45.9%)について是正しておらず、このうち、61件(同32.6%)については3年以上の間是正していなかった。
市町村は、要是正事項が是正されていないことについて、財政状況が厳しいことにも一因があるなどとしているものの、上記の事態については、非常時の避難行動や日常の学校生活に支障を来すおそれがあることから、児童生徒の安全確保及び学校施設の機能保全のために要是正事項を早期に是正する必要があると認められる。
なお、建築点検又は消防点検における要是正事項が早期に是正されていない市町村は、重複分を除くと407市町村(4,338校(建築費計2兆2961億余円、国庫補助金相当額計1兆1480億余円))となっていた。
前記のとおり、貴省は、各都道府県教育委員会等を通じて、市町村において報告書を活用して、学校施設の老朽化対策等に取り組むことなどを要請しており、報告書によれば、学校施設の劣化状況等を踏まえた計画的な整備に当たっては、域内の学校施設の劣化等の情報を一元的に管理することが有効であるとされている。
そこで、要是正事項が早期に是正されていない407市町村について、要是正事項等に係る情報の管理状況をみたところ、要是正事項等を計画的に是正することなどを目的として、要是正事項等に係る情報をデータベース化したり、是正の優先順位を設けるなどした一覧表を作成したりするなどして一元的に管理していた市町村は26市町にとどまっており、残りの381市町村は、これらの情報を一元的に管理していなかった。
しかし、適切に優先順位を設けて計画的に要是正事項を是正するためには、これらの情報の一元的な管理を推進することが重要であると認められる。
前記のとおり、建築基準法第8条第1項の規定に基づき、学校施設の管理者である全ての市町村は、学校施設の敷地、構造等を常時適法な状態に維持するよう努めなければならないこととなっており、この点について、貴省は、22年4月に発した前記の通知により各都道府県教育委員会等に要請しているところである。
そこで、建築点検の義務がない280市町村(3,112校)において、21年度から24年度までの間に維持管理の一環として学校施設の点検を実施しているかについてみたところ、108市町村は、一部又は全ての公立小中学校について、有資格者が点検を行ったり、国土交通省告示を参考として点検を行ったりするなどして、市町村教育委員会が主体となって行う専門的な点検(以下「教育委員会点検」という。)を実施していた。そして、このうち42市町村は、教育委員会点検の結果、校舎外壁の剥落、防火設備の不作動等の児童生徒の安全確保等のために是正の必要がある事項が生じていることを把握していた。しかし、残りの172市町村(建築点検の義務がない市町村数全体に対する割合61.4%。1,834校(建築費計8037億余円、国庫補助金相当額計4018億余円))は、教育委員会点検を実施していなかった(表4参照)。
府県名 | 建築点検の義務がないもの | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
教育委員会点検を実施していた市町村数 | 教育委員会点検を実施していなかったもの | |||||
市町村数 | 公立小中学校数 | 是正の必要がある事項を把握していた市町村数 | 市町村数 | 公立小中学校数 | ||
(A)=(C)+(D) | (B) | (C) | (D) | (E) | ||
千葉県 | 1 | 3 | 0 | 0 | 1 | 3 |
神奈川県 | 21 | 155 | 9 | 7 | 12 | 50 |
富山県 | 13 | 144 | 8 | 3 | 5 | 58 |
愛知県 | 48 | 655 | 9 | 3 | 39 | 515 |
京都府 | 23 | 285 | 9 | 5 | 14 | 184 |
岡山県 | 21 | 221 | 4 | 1 | 17 | 178 |
広島県 | 1 | 7 | 1 | 0 | 0 | 0 |
徳島県 | 23 | 215 | 9 | 2 | 14 | 121 |
高知県 | 34 | 240 | 16 | 5 | 18 | 101 |
佐賀県 | 19 | 195 | 8 | 3 | 11 | 107 |
大分県 | 12 | 161 | 2 | 1 | 10 | 147 |
宮崎県 | 22 | 179 | 10 | 2 | 12 | 111 |
鹿児島県 | 42 | 652 | 23 | 10 | 19 | 259 |
計 | 280 | 3,112 | 108 | 42 | 172 | 1,834 |
割合 | / | / | / | / | 61.4% (D/A) |
58.9% (E/B) |
教育委員会点検を実施していた事例を参考に示すと、次のとおりである。
<参考事例>
神奈川県綾瀬市は、学校施設の維持保全を目的として、平成18年度から毎年度、管内の公立小中学校15校全てについて、同市が設定した点検項目により一級建築士の資格を有する職員等が点検を実施している。そして、21年度から24年度までの間に実施した点検の結果、同市は、11校47か所において、施設の劣化に伴う校舎外壁のひび割れ、空調ダクトの破損等の児童生徒の安全確保等のために是正の必要がある事項が生じていることを把握しており、当該事項に係る是正のための措置を進めていた。
教育委員会点検を実施していない市町村においても、学校施設の老朽化に伴い、是正の必要がある事項が相当程度生じていると考えられるため、教育委員会点検を適切に実施することにより是正の必要がある事項の有無やその内容を把握する必要があると認められる。
(1)から(3)までのとおり、20府県502市町村が管理する公立小中学校5,992校(各事態の重複分を除く。)の建築費計2兆9968億余円(国庫補助金相当額計1兆4984億余円)について、建築点検が適切に実施されていないなどしていて、児童生徒の安全確保等を図るための学校施設の維持管理が適切に行われていない状況となっていた。
(1)から(3)までの事態に係る市町村数及び市町村名を示すと表5のとおりである。
検査の結果 | 市町村数 | 府県名 | 市町村名 | |
(1)建築点検及び消防点検の実施状況 | 45 | 秋田県 | 秋田市、南秋田郡井川町 | |
建築点検が適切に実施されていなかったもの | 山形県 | 酒田市 | ||
茨城県 | 水戸、古河、北茨城、取手、ひたちなか各市、結城郡八千代町 | |||
群馬県 | 伊勢崎市、利根郡片品村 | |||
千葉県 | 東金、八千代、白井各市、長生郡白子町 | |||
神奈川県 | 横須賀、平塚、秦野各市 | |||
富山県 | 高岡市 | |||
愛知県 | 一宮市 | |||
京都府 | 宇治市 | |||
大阪府 | 岸和田、守口、茨木、寝屋川、和泉、箕面、羽曳野各市 | |||
岡山県 | 岡山、玉野、笠岡、総社、新見各市 | |||
広島県 | 呉、三原、福山、東広島各市、山県郡北広島町 | |||
香川県 | 三豊市、小豆郡土庄町、三豊市観音寺市学校組合 | |||
大分県 | 宇佐市 | |||
宮崎県 | 都城、延岡、日向各市 | |||
(2)建築点検及び消防点検における要是正事項の是正状況 | 192 | 秋田県 | 能代、横手、大館、男鹿、湯沢、鹿角、由利本荘、潟上、大仙、北秋田、にかほ、仙北各市、雄勝郡羽後町 |
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建築点検における要是正事項が早期に是正されていなかったもの | 山形県 | 山形、米沢、鶴岡、新庄、寒河江、上山、村山、長井、天童、東根、尾花沢、南陽各市、東村山郡山辺、西村山郡河北、西川、北村山郡大石田、最上郡最上、東置賜郡高畠、川西、西置賜郡小国、白鷹、東田川郡三川、庄内、飽海郡遊佐各町、最上郡鮭川、戸沢両村 |
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茨城県 | 土浦、石岡、結城、龍ケ崎、常総、常陸太田、笠間、取手、牛久、つくば、鹿嶋、潮来、守谷、常陸大宮、那珂、筑西、稲敷、神栖各市、久慈郡大子、稲敷郡阿見、結城郡八千代、北相馬郡利根各町、那珂郡東海、稲敷郡美浦両村 | |||
群馬県 | 前橋、高崎、桐生、太田、沼田、館林、渋川、みどり各市、北群馬郡吉岡、多野郡神流、甘楽郡甘楽、吾妻郡草津、利根郡みなかみ、邑楽郡明和、千代田各町、吾妻郡高山、利根郡昭和両村 | |||
千葉県 | 千葉、銚子、市川、船橋、館山、松戸、野田、茂原、成田、佐倉、旭、習志野、我孫子、鴨川、鎌ケ谷、君津、富津、浦安、袖ケ浦、八街、印西、富里、南房総、匝瑳、香取、山武、いすみ各市、印旛郡酒々井、香取郡神崎、多古、東庄、山武郡芝山、横芝光、長生郡一宮、睦沢、夷隅郡大多喜各町 | |||
神奈川県 | 横浜、川崎、相模原、鎌倉、藤沢、茅ヶ崎、厚木、大和各市 | |||
富山県 | 富山市 | |||
福井県 | 福井、小浜、大野、勝山、鯖江、あわら、越前、坂井各市、吉田郡永平寺、今立郡池田、南条郡南越前、丹生郡越前、大飯郡高浜、おおい、三方上中郡若狭各町 | |||
愛知県 | 名古屋、豊橋、岡崎、春日井、豊田各市 | |||
京都府 | 京都市 | |||
大阪府 | 堺、吹田、泉大津、高槻、貝塚、河内長野、松原、大東、柏原、高石、藤井寺、東大阪、四條畷、交野各市、泉南郡熊取、岬両町 | |||
岡山県 | 倉敷、津山両市 | |||
広島県 | 広島、呉、尾道、福山、庄原、大竹、東広島、廿日市各市 | |||
徳島県 | 徳島市 | |||
香川県 | 高松、丸亀、坂出、善通寺、観音寺、さぬき各市、小豆郡小豆島、木田郡三木、綾歌郡綾川、仲多度郡琴平各町 | |||
高知県 | 高知市 | |||
佐賀県 | 佐賀市 | |||
大分県 | 中津、日田、佐伯、宇佐各市 | |||
宮崎県 | 宮崎、都城両市 | |||
鹿児島県 | 鹿児島市 | |||
消防点検における要是正事項が早期に是正されていなかったもの | 353 | 秋田県 | 秋田、男鹿、湯沢、鹿角、由利本荘、潟上、北秋田、にかほ、仙北各市、山本郡三種、八峰、南秋田郡八郎潟、仙北郡美郷、雄勝郡羽後各町 | |
山形県 | 山形、米沢、酒田、新庄、上山、長井、天童、東根、尾花沢、南陽各市、東村山郡山辺、西村山郡河北、西川、大江、北村山郡大石田、東置賜郡高畠、西置賜郡小国、白鷹各町 | |||
茨城県 | 水戸、日立、土浦、古河、石岡、龍ケ崎、下妻、常総、高萩、取手、牛久、つくば、ひたちなか、鹿嶋、潮来、守谷、常陸大宮、那珂、筑西、坂東、稲敷、かすみがうら、桜川、神栖、行方、鉾田、つくばみらい、小美玉各市、東茨城郡茨城、大洗、久慈郡大子、稲敷郡阿見、河内、猿島郡五霞各町、那珂郡東海村 | |||
群馬県 | 前橋、高崎、桐生、伊勢崎、太田、沼田、館林、渋川、藤岡各市、甘楽郡甘楽、吾妻郡中之条、草津各町、吾妻郡嬬恋村 | |||
千葉県 | 千葉、銚子、市川、船橋、松戸、野田、茂原、成田、佐倉、東金、旭、習志野、柏、勝浦、市原、流山、八千代、我孫子、鎌ケ谷、君津、富津、浦安、四街道、袖ケ浦、八街、印西、白井、南房総、匝瑳、香取、山武、いすみ各市、印旛郡酒々井町 | |||
神奈川県 | 横浜、川崎、横須賀、平塚、藤沢、小田原、三浦、秦野、厚木、大和、伊勢原、座間、南足柄各市、三浦郡葉山、高座郡寒川、中郡大磯、足柄上郡大井、松田、開成、足柄下郡箱根、湯河原、愛甲郡愛川各町 |
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富山県 | 高岡、魚津、氷見、黒部、砺波、南砺、射水各市、中新川郡上市、立山、下新川郡朝日各町 | |||
福井県 | 福井、敦賀、小浜、大野、勝山、鯖江、あわら、越前、坂井各市、吉田郡永平寺、今立郡池田、南条郡南越前、丹生郡越前、三方郡美浜、大飯郡高浜、おおい、三方上中郡若狭各町 | |||
愛知県 | 名古屋、豊橋、岡崎、一宮、瀬戸、半田、春日井、豊川、津島、碧南、刈谷、豊田、安城、西尾、蒲郡、犬山、常滑、江南、小牧、稲沢、新城、知立、高浜、豊明、日進、田原、愛西、北名古屋、弥富、みよし、あま、長久手各市、愛知郡東郷、西春日井郡豊山、丹羽郡大口、扶桑、海部郡大治、蟹江、知多郡阿久比、東浦、南知多、美浜、武豊各町 | |||
京都府 | 京都、福知山、舞鶴、綾部、亀岡、向日、長岡京、八幡、京田辺、京丹後、南丹、木津川各市、乙訓郡大山崎、久世郡久御山、綴喜郡井手、船井郡京丹波各町、相楽東部広域連合 | |||
大阪府 | 大阪、堺、豊中、池田、高槻、貝塚、守口、茨木、八尾、泉佐野、富田林、寝屋川、松原、大東、和泉、箕面、羽曳野、高石、藤井寺、東大阪、四條畷、交野、大阪狭山各市、豊能郡豊能、泉北郡忠岡、泉南郡熊取各町、南河内郡千早赤阪村 | |||
岡山県 | 岡山、津山、玉野、笠岡、井原、総社、瀬戸内、真庭各市、小田郡矢掛、苫田郡鏡野、久米郡美咲各町、笠岡市矢掛町中学校組合 | |||
広島県 | 広島、呉、三原、尾道、福山、三次、大竹、東広島、廿日市、安芸高田各市、安芸郡府中、海田、熊野、山県郡北広島各町 | |||
徳島県 | 徳島、鳴門、小松島、阿南、吉野川、阿波、美馬、三好各市、名西郡石井、神山、板野郡藍住、上板各町 | |||
香川県 | 高松、丸亀、坂出、善通寺、観音寺、さぬき、三豊各市、小豆郡小豆島、香川郡直島、仲多度郡まんのう各町、三豊市観音寺市学校組合 | |||
高知県 | 高知、室戸、南国、須崎、宿毛、四万十、香南、香美各市、安芸郡安田、土佐郡土佐両町、安芸郡芸西村 | |||
佐賀県 | 佐賀、唐津、鳥栖、多久、伊万里、武雄、小城各市、三養基郡みやき、東松浦郡玄海両町 | |||
大分県 | 大分、別府、中津、日田、佐伯、臼杵、豊後高田、宇佐、豊後大野、由布、国東各市、玖珠郡九重町 | |||
宮崎県 | 都城、延岡、串間、西都、えびの各市、北諸県郡三股、児湯郡都農、東臼杵郡美郷、西臼杵郡高千穂各町 | |||
鹿児島県 | 鹿児島、阿久根、薩摩川内、いちき串木野、南さつま、奄美、伊佐各市、薩摩郡さつま、肝属郡東串良、錦江、熊毛郡屋久島、大島郡瀬戸内、徳之島、伊仙各町 | |||
(3)建築点検の義務がない市町村における点検の実施状況 | 172 | 千葉県 | 長生郡長柄町 | |
教育委員会点検が実施されていなかったもの | 神奈川県 | 逗子市、高座郡寒川、中郡大磯、足柄上郡中井、大井、松田、山北、開成、足柄下郡箱根、真鶴、湯河原各町、愛甲郡清川村 | ||
富山県 | 黒部、砺波、射水各市、中新川郡上市、下新川郡朝日両町 | |||
愛知県 | 瀬戸、半田、豊川、津島、碧南、刈谷、安城、西尾、蒲郡、犬山、常滑、稲沢、新城、東海、大府、知多、知立、尾張旭、高浜、岩倉、豊明、清須、北名古屋、弥富、長久手各市、愛知郡東郷、西春日井郡豊山、丹羽郡大口、扶桑、海部郡大治、蟹江、知多郡阿久比、東浦、南知多、額田郡幸田、北設楽郡設楽、東栄各町、海部郡飛鳥、北設楽郡豊根両村 | |||
京都府 | 福知山、宮津、亀岡、城陽、長岡京、八幡、京丹後、木津川各市、乙訓郡大山崎、久世郡久御山、船井郡京丹波、与謝郡伊根、与謝野各町、与謝野町宮津市中学校組合 | |||
岡山県 | 井原、備前、瀬戸内、真庭、美作、浅口各市、和気郡和気、都窪郡早島、浅口郡里庄、小田郡矢掛、苫田郡鏡野、勝田郡勝央、久米郡久米南、美咲、加賀郡吉備中央各町、真庭郡新庄、英田郡西粟倉両村 | |||
徳島県 | 鳴門、吉野川、阿波、三好各市、勝浦郡勝浦、上勝、名西郡石井、神山、海部郡海陽、板野郡北島、板野、上板、美馬郡つるぎ、三好郡東みよし各町 | |||
高知県 | 室戸、南国、香南各市、安芸郡東洋、奈半利、安田、長岡郡本山、土佐郡土佐、吾川郡いの、高岡郡佐川、越知、梼原、津野、幡多郡大月、黒潮各町、安芸郡馬路、土佐郡大川両村、日高村佐川町学校組合 | |||
佐賀県 | 唐津、多久、小城、嬉野各市、神埼郡吉野ヶ里、三養基郡基山、上峰、みやき、東松浦郡玄海、西松浦郡有田、杵島郡大町各町 | |||
大分県 | 臼杵、竹田、豊後高田、杵築、豊後大野、由布、国東各市、速見郡日出、玖珠郡玖珠両町、東国東郡姫島村 | |||
宮崎県 | 日南、小林、西都各市、北諸県郡三股、西諸県郡高原、児湯郡新富、木城、川南、西臼杵郡高千穂、日之影、五ヶ瀬各町、児湯郡西米良村 | |||
鹿児島県 | 鹿屋、枕崎、阿久根、西之表、日置、南さつま、伊佐各市、出水郡長島、姶良郡湧水、曽於郡大崎、肝属郡錦江、南大隅、大島郡瀬戸内、龍郷、天城、伊仙各町、鹿児島郡三島、十島、大島郡大和各村 |
(改善を必要とする事態)
国庫補助事業により整備された学校施設の維持管理に当たって、建築点検が適切に実施されていない事態及び要是正事項が早期に是正されていない事態は適切ではなく改善を図る要があると認められる。また、建築点検の義務がない市町村において教育委員会点検が実施されていないため、是正の必要がある事項の有無やその内容が把握されていない事態は適切ではなく改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、市町村において財政状況が厳しいことにもよるが、次のことなどによると認められる。
近年、学校施設の老朽化が深刻な状況となっており、市町村の財政状況が厳しい中、学校施設の維持管理を適切に行っていくことはますます重要となってきている。
ついては、貴省において、国庫補助事業により整備された学校施設の維持管理が適切に行われ、もって児童生徒の安全確保等が図られるよう、次のとおり改善の処置を要求し及び意見を表示する。