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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

国庫補助事業により整備された学校施設の維持管理が適切に行われ、児童生徒の安全確保等が図られるよう、建築点検を適切に実施したり要是正事項を早期に是正したりすることの必要性や、要是正事項等に係る情報を一元的に管理して計画的に是正を進めていくことの重要性を周知等するよう改善の処置を要求し、及び教育委員会点検を適切に実施するための具体的な方策を検討して示すなどするよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)文部科学本省 (項)公立文教施設整備費
(平成11年度以前は、(組織)文部本省 (項)公立文教施設整備費)
部局等
文部科学本省(平成13年1月5日以前は文部本省)
補助の根拠
義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律(昭和33年法律第81号。平成18年3月31日以前は義務教育諸学校施設費国庫負担法)
補助事業の概要
公立の小学校、中学校等の学校施設の整備を行う市町村に対してその経費の一部を補助するもの
検査の対象とした市町村、公立小中学校及びその建築費
616市町村 8,408校 4兆0847億余円
上記に対する国庫補助金相当額
2兆0423億余円
建築点検が適切に実施されていない市町村、公立小中学校及びその建築費
45市町村 694校 3471億余円
上記に対する国庫補助金相当額(1)
1735億円
建築点検又は消防点検における要是正事項が早期に是正されていない市町村、公立小中学校及びその建築費
407市町村 4,338校 2兆2961億余円
上記に対する国庫補助金相当額(2)

1兆1480億円

教育委員会点検が実施されていない市町村、公立小中学校及びその建築費
172市町村 1,834校 8037億余円
上記に対する国庫補助金相当額(3)
4018億円
(1)から(3)までの純計
502市町村 5,992校 1兆4984億円(背景金額)

【改善の処置を要求し及び意見を表示したものの全文】

国庫補助事業により整備された学校施設の維持管理について

(平成27年10月26日付け 文部科学大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求し及び意見を表示する。

1 学校施設の維持管理の概要

(1)学校施設の老朽化の現状

国庫補助事業により整備された市町村立の小学校及び中学校(以下「公立小中学校」という。)の校舎等(以下「学校施設」という。)は、建築後25年以上を経過して改修を要するものがその保有面積の約7割を占めるなど、老朽化が深刻な状況となっている。このような状況を踏まえて、貴省に設置されている有識者会議が平成25年3月に取りまとめた「学校施設の老朽化対策について」(以下「報告書」という。)によれば、学校施設は、経年劣化により、外壁、窓等の落下や、鉄筋の腐食等による構造体としての強度の低下等の安全面での不具合のみならず、雨漏りなどによる設備機器の破損等の機能面での不具合が生ずることにより児童生徒の学校生活に支障を来すおそれがあるとされている。また、公立小中学校の約9割が地域の応急避難場所となっており、地域の防災機能強化の点からも早急な老朽化対策等が必要であるとされている。このため、学校施設の管理者である市町村(一部事務組合及び広域連合を含む。)は、学校施設の劣化状況等を適切に把握するとともに計画的に整備する必要があり、その際には、より効率的に整備を進める観点から、個々の学校施設ごとに劣化等の情報を管理するだけではなく、域内の学校施設について、一元的に管理することが有効であるとされている。

そして、貴省は、同月に各都道府県教育委員会等に対して通知を発して、市町村において報告書を活用して、学校施設の老朽化対策等に取り組むことを要請している。

(2)学校施設の点検の概要

学校施設の管理者である市町村は、次のとおり、建築基準法(昭和25年法律第201号)及び消防法(昭和23年法律第186号)に基づく点検を行うこととなっている。

ア 建築基準法に基づく点検

建築基準法第8条第1項の規定に基づき、学校施設の管理者である全ての市町村は、学校施設の敷地、構造等を常時適法な状態に維持するように努めなければならないこととなっている。また、学校施設の点検等については、同法第12条第1項又は第2項の規定に基づき、次のとおり行うこととなっている。

① 建築主事を置く市町村は、学校施設の管理者として、学校施設の敷地及び構造について、定期に、一級建築士の資格を有する者等(以下「有資格者」という。)にその損傷、腐食その他の劣化の状況の点検をさせなければならない。

② 建築主事を置かない市町村であっても、都道府県知事が指定する学校施設を管理する市町村は、その指定された学校施設の敷地、構造及び建築設備について、定期に、有資格者にその損傷、腐食、その他の劣化の状況等の調査をさせなければならない(以下、①の点検又は②の調査を「建築点検」といい、①及び②の市町村を合わせて「建築点検の義務がある市町村」という。)。

建築点検の義務がある市町村は、同法等に基づき、原則として3年以内ごとに、「建築物の定期調査報告における調査及び定期点検における点検の項目、方法並びに結果の判定基準並びに調査結果表を定める件」(平成20年国土交通省告示第282号。以下「国土交通省告示」という。)に定められた項目について、建築点検をさせなければならないこととなっている。そして、建築点検の結果、国土交通省告示に定められた各項目の判定基準に従って是正が必要と判定された事項がある場合は、これを是正するなどして、学校施設の敷地、構造等を常時適法な状態に維持するよう努めなければならないこととなっている。

そして、貴省は、22年4月に校舎において施設の劣化による事故が発生したことなどを踏まえて、同月に各都道府県教育委員会等に対して通知を発して、建築点検の義務がある市町村による建築点検の適切な実施及び学校施設を管理する全ての市町村による学校施設の適正な維持管理に努めるよう要請している。

イ 消防法に基づく点検

消防法第17条第1項の規定に基づき、防火対象物である学校施設の管理者である市町村は、消火設備、避難設備等を、消防法施行令(昭和36年政令第37号)に定める技術上の基準に従って設置し、維持しなければならないこととなっている。また、同法第17条の3の3等の規定に基づき、学校施設の管理者である市町村は、学校施設における消火設備等について、「消防法施行規則の規定に基づき、消防用設備等又は特殊消防用設備等の種類及び点検内容に応じて行う点検の期間、点検の方法並びに点検の結果についての報告書の様式を定める件について」(平成16年消防庁告示第9号)等に定められた方法に従って、6か月又は1年ごとに、消火設備等を作動させるなどして確認する点検(以下「消防点検」という。)を実施しなければならないこととなっている。そして、消防点検の結果、同告示等に定められた各項目の基準に従って不良と判定された事項がある場合は、これを是正しなければならないこととなっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、効率性、有効性等の観点から、国庫補助事業により整備された学校施設の維持管理が適切に行われ、もって児童生徒の安全確保等が図られているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、26年4月時点で、20府県(注1)の616市町村が管理している公立小中学校12,537校から抽出した8,408校(建築費(注2)計4兆0847億余円、国庫補助金相当額(注2)計2兆0423億余円)を対象として、建築点検及び消防点検は適切に実施されているか、建築点検により是正が必要と判定された事項又は消防点検により不良と判定された事項は是正されているか、建築点検の義務がある市町村以外の市町村(以下「建築点検の義務がない市町村」という。)において学校施設の維持管理の一環として点検が適切に実施されているかなどについて、建築点検及び消防点検の実施状況等に係る調書を徴してその内容を分析するとともに、現地の状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

(注1)
20府県 京都、大阪両府、秋田、山形、茨城、群馬、千葉、神奈川、富山、福井、愛知、岡山、広島、徳島、香川、高知、佐賀、大分、宮崎、鹿児島各県
(注2)
建築費、国庫補助金相当額 建物面積に、公立学校建物の建築に要する経費に係る負担金等の配分基礎額の算定基準として文部科学大臣が財務大臣と協議して定めた建築単価を乗じて得た額を建築費とし、建築費に補助率1/2を乗じて得た額を国庫補助金相当額として推計したもの

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)建築点検及び消防点検の実施状況

検査の対象とした20府県の616市町村(8,408校)について、21年度から24年度までの間の建築点検及び消防点検の実施状況をみたところ、次のとおりとなっていた。

建築点検は、建築点検の義務がある市町村336市町村(建築点検の対象となる公立小中学校5,267校)のうち、建築点検の対象となる全ての公立小中学校について実施していたものが291市町村(4,511校)となっていた。一方、建築点検の義務があるのに、建築点検の対象となる一部の公立小中学校について実施していなかったものが9市町(建築点検の対象となる公立小中学校218校のうち156校)、全ての公立小中学校について実施していなかったものが36市町村(538校)、計45市町村(建築点検の義務がある市町村数全体に対する割合13.3%。694校(建築費計3471億余円、国庫補助金相当額計1735億余円))となっていた(表1参照)。

表1 建築点検を適切に実施していなかった市町村の状況

府県名 検査の対象としたもの  
建築点検の義務があるもの  
一部の公立小中学校について建築点検を実施していなかったもの 全ての公立小中学校について建築点検を実施していなかったもの 建築点検を適切に実施していなかったもの
市町村数 公立小中学校数 市町村数 公立小中学校数 市町村数 公立小中学校数 市町村数 公立小中学校数 市町村数計 公立小中校学数計
    (A) (a) (B) (b) (C) (c) (E)=(B)+(C) (e)=(b)+(c)
秋田県 25 289 25 289 0 0 2 35 2 35
山形県 35 342 35 341 0 0 1 33 1 33
茨城県 44 613 44 613 2 11 4 62 6 73
群馬県 35 354 35 353 0 0 2 20 2 20
千葉県 55 844 54 837 1 9 3 29 4 38
神奈川県 33 515 12 360 0 0 3 66 3 66
富山県 15 208 2 64 0 0 1 19 1 19
福井県 17 225 17 225 0 0 0 0 0 0
愛知県 54 923 6 268 1 28 0 0 1 28
京都府 25 362 2 77 0 0 1 16 1 16
大阪府 43 733 43 733 0 0 7 104 7 104
岡山県 28 360 7 139 0 0 5 77 5 77
広島県 23 426 22 407 3 74 2 17 5 91
徳島県 24 238 1 23 0 0 0 0 0 0
香川県 18 209 18 198 0 0 3 30 3 30
高知県 35 270 1 30 0 0 0 0 0 0
佐賀県 20 221 1 26 0 0 0 0 0 0
大分県 18 293 6 132 1 8 0 0 1 8
宮崎県 26 272 4 93 1 26 2 30 3 56
鹿児島県 43 711 1 59 0 0 0 0 0 0
616 8,408 336 5,267 9 156 36 538 45 694
割合 13.3%(E/A) 13.1%(e/a)

また、消防点検は、616市町村の全ての公立小中学校について実施されていた。

(2)建築点検及び消防点検の点検結果並びに点検結果に対する対応の状況

ア 建築点検及び消防点検の点検結果並びに要是正事項の是正状況

建築点検により是正が必要と判定された事項のうち、過去に老朽化等に起因する事故が報告されるなどしている校舎外壁の劣化及び損傷、防火設備の不作動等の事項、又は消防点検により不良と判定された自動火災報知設備の不作動、避難器具の損傷等の事項(以下、これらを「要是正事項」という。)について、その件数及び是正状況をみたところ、次のとおりとなっていた。

建築点検の対象となる全ての公立小中学校について建築点検を実施していた291市町村4,511校、一部の公立小中学校について建築点検を実施していた9市町62校、計300市町村4,573校における要是正事項の件数は、230市町村2,438校の延べ27,118件となっていた。そして、要是正事項として、外壁、屋上、天井等の劣化及び損傷、防火設備の閉鎖又は作動の不備等が見受けられるのに、26年4月時点で是正されていない件数は192市町村2,052校(建築費計1兆1190億余円、国庫補助金相当額計5595億余円)の延べ21,871件(要是正事項件数全体に対する割合80.6%)となっており、このうち3年以上の間是正されていない件数は延べ10,106件(同37.2%)となっていた(表2参照)。

表2 建築点検における要是正事項の是正状況

府県名 建築点検を実施していたもの  
要是正事項があったもの  
要是正事項が是正されていなかったもの
市町村数 公立小中学校数 市町村数 公立小中学校数 延べ件数 市町村数 公立小中学校数 延べ件数 3年以上の間要是正事項が是正されていなかった延べ件数
        (A)     (B) (C)
秋田県 23 254 17 160 1,772 13 136 1,473 708
山形県 34 308 28 146 512 26 109 410 5
茨城県 40 540 29 200 4,063 24 187 3,097 836
群馬県 33 333 29 253 1,823 17 158 1,432 719
千葉県 51 799 42 565 4,579 36 460 3,718 570
神奈川県 9 294 8 180 1,328 8 133 1,039 403
富山県 1 45 1 33 444 1 33 397 52
福井県 17 225 15 125 849 15 113 505 245
愛知県 6 240 6 207 2,583 5 197 2,408 1,410
京都府 1 61 1 34 544 1 33 536 444
大阪府 36 629 24 274 5,997 16 239 4,926 3,570
岡山県 2 62 2 14 27 2 14 21 9
広島県 20 316 8 74 957 8 72 738 458
徳島県 1 23 1 22 294 1 22 255 255
香川県 15 168 10 70 450 10 68 256 25
高知県 1 30 1 30 330 1 30 295 267
佐賀県 1 26 1 12 128 1 12 126 0
大分県 6 124 4 19 279 4 16 109 96
宮崎県 2 37 2 18 140 2 18 126 34
鹿児島県 1 59 1 2 19 1 2 4 0
300 4,573 230 2,438 27,118 192 2,052 21,871 10,106
割合 80.6%(B/A) 37.2%(C/A)

また、消防点検を実施していた616市町村8,408校における要是正事項の件数は、533市町村6,470校の延べ48,270件となっていた。そして、要是正事項として、屋内消火栓設備の劣化、自動火災報知設備の不作動等が見受けられるのに、26年4月時点で是正されていない件数は353市町村3,392校(建築費計1兆7844億余円、国庫補助金相当額計8922億余円)の延べ17,904件(同37.0%)となっており、このうち3年以上の間是正されていない件数は延べ6,670件(同13.8%)となっていた(表3参照)。

表3 消防点検における要是正事項の是正状況

府県名 消防点検を実施していたもの  
要是正事項があったもの  
要是正事項が是正されていなかったもの
市町村数 公立小中学校数 市町村数 公立小中学校数 延べ件数 市町村数 公立小中学校数 延べ件数 3年以上の間要是正事項が是正されていなかった延べ件数
        (A)     (B) (C)
秋田県 25 289 22 229 1,187 14 103 481 273
山形県 35 342 30 256 1,576 18 104 467 234
茨城県 44 613 43 551 4,697 35 373 1,613 501
群馬県 35 354 27 310 2,214 13 105 799 339
千葉県 55 844 52 732 7,541 33 460 3,919 1,456
神奈川県 33 515 32 405 3,601 22 275 1,270 399
富山県 15 208 14 150 1,243 10 53 183 82
福井県 17 225 17 224 1,565 17 216 566 238
愛知県 54 923 51 728 5,404 43 343 1,120 396
京都府 25 362 22 301 1,948 17 184 701 238
大阪府 43 733 41 664 6,378 27 418 3,623 1,164
岡山県 28 360 21 223 1,140 12 78 219 64
広島県 23 426 20 287 1,374 14 129 273 110
徳島県 24 238 18 170 362 12 92 137 49
香川県 18 209 16 180 1,572 11 120 1,116 507
高知県 35 270 27 196 1,232 11 83 291 121
佐賀県 20 221 15 106 1,243 9 73 414 193
大分県 18 293 15 215 1,257 12 80 316 146
宮崎県 26 272 20 211 1,022 9 36 160 56
鹿児島県 43 711 30 332 1,714 14 67 236 104
616 8,408 533 6,470 48,270 353 3,392 17,904 6,670
割合 37.0%
(B/A)
13.8%
(C/A)

上記の事態について事例を示すと、次のとおりである。

<事例>

茨城県水戸市は、平成21年度から24年度までの各年度に、検査の対象とした管内の公立小中学校24校について消防点検を実施しており、その結果、要是正事項は延べ187件となっていた。そして、この中には、公立小中学校に設置されている自動火災報知設備が経年劣化や配線不良のため作動しなかったり、避難器具がフェンスなどの支障物があるため、避難時に使用できなかったりするなどしていたものが含まれていた。しかし、同市は、日常的に使用する施設設備の改修等を優先的に実施しているなどとしていて、上記の24校における要是正事項187件のうち20校の86件(要是正事項件数全体に対する割合45.9%)について是正しておらず、このうち、61件(同32.6%)については3年以上の間是正していなかった。

市町村は、要是正事項が是正されていないことについて、財政状況が厳しいことにも一因があるなどとしているものの、上記の事態については、非常時の避難行動や日常の学校生活に支障を来すおそれがあることから、児童生徒の安全確保及び学校施設の機能保全のために要是正事項を早期に是正する必要があると認められる。

なお、建築点検又は消防点検における要是正事項が早期に是正されていない市町村は、重複分を除くと407市町村(4,338校(建築費計2兆2961億余円、国庫補助金相当額計1兆1480億余円))となっていた。

イ 学校施設の劣化等の情報の管理状況

前記のとおり、貴省は、各都道府県教育委員会等を通じて、市町村において報告書を活用して、学校施設の老朽化対策等に取り組むことなどを要請しており、報告書によれば、学校施設の劣化状況等を踏まえた計画的な整備に当たっては、域内の学校施設の劣化等の情報を一元的に管理することが有効であるとされている。

そこで、要是正事項が早期に是正されていない407市町村について、要是正事項等に係る情報の管理状況をみたところ、要是正事項等を計画的に是正することなどを目的として、要是正事項等に係る情報をデータベース化したり、是正の優先順位を設けるなどした一覧表を作成したりするなどして一元的に管理していた市町村は26市町にとどまっており、残りの381市町村は、これらの情報を一元的に管理していなかった。

しかし、適切に優先順位を設けて計画的に要是正事項を是正するためには、これらの情報の一元的な管理を推進することが重要であると認められる。

(3)建築点検の義務がない市町村における点検の実施状況

前記のとおり、建築基準法第8条第1項の規定に基づき、学校施設の管理者である全ての市町村は、学校施設の敷地、構造等を常時適法な状態に維持するよう努めなければならないこととなっており、この点について、貴省は、22年4月に発した前記の通知により各都道府県教育委員会等に要請しているところである。

そこで、建築点検の義務がない280市町村(3,112校)において、21年度から24年度までの間に維持管理の一環として学校施設の点検を実施しているかについてみたところ、108市町村は、一部又は全ての公立小中学校について、有資格者が点検を行ったり、国土交通省告示を参考として点検を行ったりするなどして、市町村教育委員会が主体となって行う専門的な点検(以下「教育委員会点検」という。)を実施していた。そして、このうち42市町村は、教育委員会点検の結果、校舎外壁の剥落、防火設備の不作動等の児童生徒の安全確保等のために是正の必要がある事項が生じていることを把握していた。しかし、残りの172市町村(建築点検の義務がない市町村数全体に対する割合61.4%。1,834校(建築費計8037億余円、国庫補助金相当額計4018億余円))は、教育委員会点検を実施していなかった(表4参照)。

表4 教育委員会点検の実施状況

府県名 建築点検の義務がないもの  
教育委員会点検を実施していた市町村数   教育委員会点検を実施していなかったもの
市町村数 公立小中学校数 是正の必要がある事項を把握していた市町村数 市町村数 公立小中学校数
(A)=(C)+(D) (B) (C) (D) (E)
千葉県 1 3 0 0 1 3
神奈川県 21 155 9 7 12 50
富山県 13 144 8 3 5 58
愛知県 48 655 9 3 39 515
京都府 23 285 9 5 14 184
岡山県 21 221 4 1 17 178
広島県 1 7 1 0 0 0
徳島県 23 215 9 2 14 121
高知県 34 240 16 5 18 101
佐賀県 19 195 8 3 11 107
大分県 12 161 2 1 10 147
宮崎県 22 179 10 2 12 111
鹿児島県 42 652 23 10 19 259
280 3,112 108 42 172 1,834
割合 61.4%
(D/A)
58.9%
(E/B)

教育委員会点検を実施していた事例を参考に示すと、次のとおりである。

<参考事例>

神奈川県綾瀬市は、学校施設の維持保全を目的として、平成18年度から毎年度、管内の公立小中学校15校全てについて、同市が設定した点検項目により一級建築士の資格を有する職員等が点検を実施している。そして、21年度から24年度までの間に実施した点検の結果、同市は、11校47か所において、施設の劣化に伴う校舎外壁のひび割れ、空調ダクトの破損等の児童生徒の安全確保等のために是正の必要がある事項が生じていることを把握しており、当該事項に係る是正のための措置を進めていた。

教育委員会点検を実施していない市町村においても、学校施設の老朽化に伴い、是正の必要がある事項が相当程度生じていると考えられるため、教育委員会点検を適切に実施することにより是正の必要がある事項の有無やその内容を把握する必要があると認められる。

(1)から(3)までのとおり、20府県502市町村が管理する公立小中学校5,992校(各事態の重複分を除く。)の建築費計2兆9968億余円(国庫補助金相当額計1兆4984億余円)について、建築点検が適切に実施されていないなどしていて、児童生徒の安全確保等を図るための学校施設の維持管理が適切に行われていない状況となっていた。

(1)から(3)までの事態に係る市町村数及び市町村名を示すと表5のとおりである。

表5 (1)から(3)までの事態に係る市町村数及び市町村名

検査の結果 市町村数 府県名 市町村名
(1)建築点検及び消防点検の実施状況 45 秋田県 秋田市、南秋田郡井川町
  建築点検が適切に実施されていなかったもの 山形県 酒田市
茨城県 水戸、古河、北茨城、取手、ひたちなか各市、結城郡八千代町
群馬県 伊勢崎市、利根郡片品村
千葉県 東金、八千代、白井各市、長生郡白子町
神奈川県 横須賀、平塚、秦野各市
富山県 高岡市
愛知県 一宮市
京都府 宇治市
大阪府 岸和田、守口、茨木、寝屋川、和泉、箕面、羽曳野各市
岡山県 岡山、玉野、笠岡、総社、新見各市
広島県 呉、三原、福山、東広島各市、山県郡北広島町
香川県 三豊市、小豆郡土庄町、三豊市観音寺市学校組合
大分県 宇佐市
宮崎県 都城、延岡、日向各市
(2)建築点検及び消防点検における要是正事項の是正状況 192 秋田県 能代横手大館男鹿湯沢鹿角由利本荘潟上大仙北秋田にかほ仙北各市雄勝郡羽後町
  建築点検における要是正事項が早期に是正されていなかったもの 山形県 山形米沢鶴岡新庄寒河江上山村山長井天童東根尾花沢南陽各市東村山郡山辺西村山郡河北西川北村山郡大石田最上郡最上東置賜郡高畠川西西置賜郡小国白鷹東田川郡三川庄内飽海郡遊佐各町最上郡鮭川戸沢両村
茨城県 土浦石岡結城龍ケ崎常総常陸太田笠間、取手、牛久つくば鹿嶋潮来守谷常陸大宮那珂筑西稲敷神栖各市久慈郡大子稲敷郡阿見結城郡八千代北相馬郡利根各町那珂郡東海稲敷郡美浦両村
群馬県 前橋高崎桐生、太田、沼田館林渋川みどり各市北群馬郡吉岡多野郡神流甘楽郡甘楽吾妻郡草津利根郡みなかみ邑楽郡明和千代田各町吾妻郡高山利根郡昭和両村
千葉県 千葉銚子市川船橋館山松戸野田茂原成田佐倉、習志野、我孫子鴨川鎌ケ谷君津富津浦安袖ケ浦八街印西、富里、南房総匝瑳香取、山武、いすみ各市印旛郡酒々井香取郡神崎多古東庄山武郡芝山横芝光長生郡一宮睦沢夷隅郡大多喜各町
神奈川県 横浜川崎相模原鎌倉藤沢茅ヶ崎厚木大和各市
富山県 富山市
福井県 福井小浜大野勝山鯖江あわら越前坂井各市吉田郡永平寺今立郡池田南条郡南越前丹生郡越前大飯郡高浜おおい三方上中郡若狭各町
愛知県 名古屋、豊橋、岡崎春日井豊田各市
京都府 京都市
大阪府 吹田泉大津高槻貝塚河内長野松原大東柏原高石藤井寺東大阪四條畷交野各市泉南郡熊取岬両町
岡山県 倉敷、津山両市
広島県 広島、尾道福山、庄原、大竹東広島廿日市各市
徳島県 徳島市
香川県 高松丸亀坂出善通寺観音寺さぬき各市小豆郡小豆島木田郡三木綾歌郡綾川仲多度郡琴平各町
高知県 高知市
佐賀県 佐賀市
大分県 中津日田佐伯宇佐各市
宮崎県 宮崎、都城両市
鹿児島県 鹿児島市
  消防点検における要是正事項が早期に是正されていなかったもの 353 秋田県 秋田男鹿湯沢鹿角由利本荘潟上北秋田にかほ仙北各市山本郡三種八峰南秋田郡八郎潟仙北郡美郷雄勝郡羽後各町
山形県 山形米沢酒田新庄上山長井天童東根尾花沢南陽各市東村山郡山辺西村山郡河北西川大江北村山郡大石田東置賜郡高畠西置賜郡小国白鷹各町
茨城県 水戸日立土浦古河石岡龍ケ崎下妻常総高萩取手牛久つくばひたちなか鹿嶋潮来守谷常陸大宮那珂筑西坂東稲敷かすみがうら桜川神栖行方鉾田つくばみらい小美玉各市東茨城郡茨城大洗久慈郡大子稲敷郡阿見河内猿島郡五霞各町那珂郡東海村
群馬県 前橋高崎桐生伊勢崎太田沼田館林渋川藤岡各市甘楽郡甘楽吾妻郡中之条草津各町吾妻郡嬬恋村
千葉県 千葉、銚子市川船橋松戸野田茂原成田佐倉東金習志野、柏、勝浦市原流山八千代我孫子鎌ケ谷君津富津浦安四街道袖ケ浦八街印西白井南房総匝瑳香取、山武、いすみ各市印旛郡酒々井町
神奈川県 横浜川崎、横須賀、平塚藤沢小田原三浦秦野厚木大和伊勢原座間南足柄各市三浦郡葉山高座郡寒川中郡大磯足柄上郡大井松田開成足柄下郡箱根湯河原愛甲郡愛川各町
富山県 高岡魚津氷見、黒部、砺波南砺、射水各市、中新川郡上市立山下新川郡朝日各町
福井県 福井敦賀小浜大野勝山鯖江あわら越前、坂井各市、吉田郡永平寺今立郡池田南条郡南越前丹生郡越前三方郡美浜大飯郡高浜おおい三方上中郡若狭各町
愛知県 名古屋、豊橋、岡崎一宮瀬戸半田春日井豊川津島碧南刈谷豊田安城西尾蒲郡犬山常滑江南小牧、稲沢、新城知立高浜豊明日進田原愛西北名古屋弥富みよしあま長久手各市愛知郡東郷西春日井郡豊山丹羽郡大口、扶桑、海部郡大治蟹江知多郡阿久比東浦南知多美浜武豊各町
京都府 京都福知山舞鶴綾部亀岡向日長岡京八幡京田辺京丹後南丹木津川各市乙訓郡大山崎久世郡久御山綴喜郡井手船井郡京丹波各町相楽東部広域連合
大阪府 大阪、、豊中、池田高槻貝塚守口茨木八尾泉佐野富田林寝屋川松原大東、和泉、箕面羽曳野高石藤井寺東大阪四條畷交野大阪狭山各市豊能郡豊能泉北郡忠岡泉南郡熊取各町南河内郡千早赤阪
岡山県 岡山、津山、玉野笠岡井原総社瀬戸内真庭各市小田郡矢掛苫田郡鏡野久米郡美咲各町笠岡市矢掛町中学校組合
広島県 広島、三原、尾道福山三次大竹東広島廿日市安芸高田各市、安芸郡府中、海田熊野山県郡北広島各町
徳島県 徳島鳴門小松島阿南吉野川阿波美馬三好各市名西郡石井神山板野郡藍住上板各町
香川県 高松丸亀坂出善通寺観音寺さぬき三豊各市小豆郡小豆島香川郡直島仲多度郡まんのう各町三豊市観音寺市学校組合
高知県 高知室戸南国、須崎、宿毛四万十香南香美各市安芸郡安田、土佐郡土佐両町、安芸郡芸西村
佐賀県 佐賀唐津鳥栖多久伊万里武雄小城各市三養基郡みやき東松浦郡玄海両町
大分県 大分別府中津日田佐伯臼杵豊後高田宇佐豊後大野由布国東各市玖珠郡九重町
宮崎県 都城延岡串間西都えびの各市北諸県郡三股児湯郡都農東臼杵郡美郷、西臼杵郡高千穂各町
鹿児島県 鹿児島阿久根薩摩川内いちき串木野南さつま奄美伊佐各市薩摩郡さつま肝属郡東串良錦江熊毛郡屋久島大島郡瀬戸内徳之島伊仙各町
(3)建築点検の義務がない市町村における点検の実施状況 172 千葉県 長生郡長柄町
  教育委員会点検が実施されていなかったもの 神奈川県 逗子市、高座郡寒川、中郡大磯、足柄上郡中井、大井、松田、山北、開成、足柄下郡箱根、真鶴、湯河原各町、愛甲郡清川村
富山県 黒部、砺波、射水各市、中新川郡上市、下新川郡朝日両町
愛知県 瀬戸、半田、豊川、津島、碧南、刈谷、安城、西尾、蒲郡、犬山、常滑、稲沢、新城、東海、大府、知多、知立、尾張旭、高浜、岩倉、豊明、清須、北名古屋、弥富、長久手各市、愛知郡東郷、西春日井郡豊山、丹羽郡大口、扶桑、海部郡大治、蟹江、知多郡阿久比、東浦、南知多、額田郡幸田、北設楽郡設楽、東栄各町、海部郡飛鳥、北設楽郡豊根両村
京都府 福知山、宮津、亀岡、城陽、長岡京、八幡、京丹後、木津川各市、乙訓郡大山崎、久世郡久御山、船井郡京丹波、与謝郡伊根、与謝野各町、与謝野町宮津市中学校組合
岡山県 井原、備前、瀬戸内、真庭、美作、浅口各市、和気郡和気、都窪郡早島、浅口郡里庄、小田郡矢掛、苫田郡鏡野、勝田郡勝央、久米郡久米南、美咲、加賀郡吉備中央各町、真庭郡新庄、英田郡西粟倉両村
徳島県 鳴門、吉野川、阿波、三好各市、勝浦郡勝浦、上勝、名西郡石井、神山、海部郡海陽、板野郡北島、板野、上板、美馬郡つるぎ、三好郡東みよし各町
高知県 室戸、南国、香南各市、安芸郡東洋、奈半利、安田、長岡郡本山、土佐郡土佐、吾川郡いの、高岡郡佐川、越知、梼原、津野、幡多郡大月、黒潮各町、安芸郡馬路、土佐郡大川両村、日高村佐川町学校組合
佐賀県 唐津、多久、小城、嬉野各市、神埼郡吉野ヶ里、三養基郡基山、上峰、みやき、東松浦郡玄海、西松浦郡有田、杵島郡大町各町
大分県 臼杵、竹田、豊後高田、杵築、豊後大野、由布、国東各市、速見郡日出、玖珠郡玖珠両町、東国東郡姫島村
宮崎県 日南、小林、西都各市、北諸県郡三股、西諸県郡高原、児湯郡新富、木城、川南、西臼杵郡高千穂、日之影、五ヶ瀬各町、児湯郡西米良村
鹿児島県 鹿屋、枕崎、阿久根、西之表、日置、南さつま、伊佐各市、出水郡長島、姶良郡湧水、曽於郡大崎、肝属郡錦江、南大隅、大島郡瀬戸内、龍郷、天城、伊仙各町、鹿児島郡三島、十島、大島郡大和各村
(注)
下線部は、表中(2)の純計407市町村のうち、要是正事項等に係る情報が一元的に管理されていなかった381市町村である。

(改善を必要とする事態)

国庫補助事業により整備された学校施設の維持管理に当たって、建築点検が適切に実施されていない事態及び要是正事項が早期に是正されていない事態は適切ではなく改善を図る要があると認められる。また、建築点検の義務がない市町村において教育委員会点検が実施されていないため、是正の必要がある事項の有無やその内容が把握されていない事態は適切ではなく改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、市町村において財政状況が厳しいことにもよるが、次のことなどによると認められる。

  • ア 建築点検の義務がある市町村において、建築点検を適切に実施することの必要性についての認識が欠けていること、貴省において、建築点検の義務がある市町村に対してその必要性を周知するなどの取組が十分でないこと
  • イ 市町村において、要是正事項を早期に是正することの必要性についての理解が十分でないこと、また、要是正事項等に係る劣化等の情報を一元的に管理して、適切に優先順位を設けて計画的に是正を進めていくことの重要性についての理解が十分でないこと、貴省において、市町村に対してその必要性等を周知するなどの取組が十分でないこと
  • ウ 建築点検の義務がない市町村において、学校施設の維持管理の一環として教育委員会点検を適切に実施することにより是正の必要がある事項を把握することの重要性についての理解が十分でないこと、貴省において、建築点検の義務がない市町村に対するその重要性の周知及び教育委員会点検を適切に実施するようにさせるための具体的な方策の検討が十分でないこと

3 本院が要求する改善の処置及び表示する意見

近年、学校施設の老朽化が深刻な状況となっており、市町村の財政状況が厳しい中、学校施設の維持管理を適切に行っていくことはますます重要となってきている。

ついては、貴省において、国庫補助事業により整備された学校施設の維持管理が適切に行われ、もって児童生徒の安全確保等が図られるよう、次のとおり改善の処置を要求し及び意見を表示する。

  • ア 建築点検の義務がある市町村に対して、建築点検を実施して維持管理を適切に行うことの必要性やその手法等について、手引を作成するなどして一層の周知等を図ること(会計検査院法第36条による改善の処置を要求するもの)
  • イ 市町村に対して、要是正事項を早期に是正することの必要性を周知すること、また、要是正事項等に係る劣化等の情報を一元的に管理して、適切に優先順位を設けて計画的に是正を進めていくことの重要性を周知するとともに、その手法等について、具体的な事例等を示した手引を作成するなどして提供すること(同法第36条による改善の処置を要求するもの)
  • ウ 建築点検の義務がない市町村に対して、学校施設の維持管理の一環として教育委員会点検を適切に実施するための具体的な方策を検討して示すとともに、教育委員会点検を実施することにより是正の必要がある事項を把握することの重要性を周知すること(同法第36条による意見を表示するもの)